あるキャラクターが生きとったんかワレってなると思いますが、私のAC世界では生きてるのです。
死んでるとも言われてねーしな!
あれから2週間が経った。
首輪付きの暴走はクレイドルの撃墜と、アルテリアの七割近くが不全に陥る事態を引き起こし、パックス中心の世界はシステムの見直しと秩序の再建を余儀なくされている。
墜落したクレイドルの住民を収容するコロニーの建設や復旧可能であると判断されたアルテリアの修復作業が主な事業のようである。
だが、コジマ技術による環境汚染や居住可能エリアの縮小は元より、クレイドル体制に疑問を呈する人間も多いと聞くが……はてさて、どうなる事やら。
「防護服、チェック」
『System check……complete,All clear.』
「よし……」
そんな事よりも、引越しである。
荷造りは同僚とダブルチェック済み、諸々の手続きも終わってる、あとは自分と僅かばかりの手荷物と共に新天地へ赴くだけだ。
「ガスと電気は止めた……家賃も大丈夫……よし、忘れ物も無し」
新天地は企業連が管理する数少ないコジマに侵されていないエリア、その一つであるコロニー・ヨコハマだ。
ヘイズさんによれば、港の一角にネクスト搭載機能を持った大型ヘリの駐機場と事務所を構えたようである。
「ヨコハマかあ……中華料理……シューマイ……ラーメン……ふふふ」
今まで立ち入り禁止一歩手前な汚染地域にしか住めなかったが、やはり持つべきは友——もとい権力のある上司である。
これから向かう新天地“コロニー・ヨコハマ”は国家解体戦争とリンクス戦争で甚大なコジマ汚染に侵されたトウキョウとオオサカに代わって旧ニホンエリアを統括する大型コロニーだ。
配給制を敷く他のコロニーとは違い、嘗ての自由市場経済が敷かれた稀有なコロニーでもある。
なんでも企業支配体制下における経済管理のテストケース、その一つであるらしく管理はGA参加の有澤重工が担当し、社長でありカラードに属するリンクスでもある有澤隆文の趣味によって行楽施設が充実しているらしい。
なんでもヨコハマは嘗て有名な観光街だったらしく、旧チャイナの料理屋が軒を連ねていたのだとか。
そしてそんなコロニーであるからして、今いるコロニー・グリフォンよりはうまい飯が食えるはずだと確信していた。日本人は労働環境と給料は我慢するが、食にはうるさいともっぱらの噂なのである。
そして日本人である有澤隆文の趣味が反映されたコロニーともなれば、今まで食べたこともないような美味しい料理にありつけるに違いないのだ。
「王小龍の専オペから聞かされていた満漢全席……堪能してくれる……!!」
リュックサックとスーツケースに防護シートを被せ、5年世話になった防科学居室を後にする——満漢全席を夢見て。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
奮発してラウンジの使用権とビジネスクラスのシートを取り、優雅で快適な空の旅を満喫した私はヨコハマの空港に降り立つと、ヘイズさんとダン・モロに迎えられた、車で送ってくれるらしい。
事務所をもぬけの殻にしていいのか、と聞けば優秀な留守番がいるから大丈夫との事だ。
そして途中で適当な店に寄って昼食がてら留守番担当はお土産を買っていくらしい。
それを聞いて私は歓喜した。
コロニー・ヨコハマへ来た目的の一つ、美味しい中華料理にありつく事が出来ると思ったからだ。
しかし——
「話が……違いますよ……!!」
「何のことだ」
「ヨコハマは……特別だって……!!」
「……お前が何を勘違いしているのか知らんが、コロニー・ヨコハマは温泉が有名だ
なんでもの
現実は無情である。
よく考えてみれば分かることだった。
どこもかしこも大なり小なりコジマ汚染に晒されたこのご時世で天然モノの食材を手にすることがどれほど難しく、私のような他より少し待遇が良いだけな一般庶民が口にするには相当な苦労が必要であると分かるはずだった。
「中華料理……食べたい……!!」
「……わかったわかった予定変更だ、知っている中華屋に連れてってやる、だから泣くな、喚くな、黙れ」
「そんなに中華が食べたかったのか?俺、料理は得意なんだぜ……炒飯とか!」
慰めのつもりか、それとも素でやっているのか、的外れなダン・モロの優しさを垣間見るのも束の間、目的地に到着する。
彼曰く、嘗てこの辺りには大きなターミナルがあり、その時の名残でヨコハマの中でも人口が密集する地域なのだそうだ。
そんな街の一角に、ヘイズさんが知っているという店はあった。
「いらっしゃいアル〜!」
「(胡散臭い……)」
「久しぶりだな、
「オーゥ!セレンサン久しぶりアルヨ〜!今日は麻婆豆腐食うアルカ!?」
「食わん」
第一印象が“胡散臭い”か“子供か?”以外に見当たらないチビッ娘店主に迎えられた店であるが、外観のボロさに比して中は意外にも小綺麗であった。
店主に案内されて席に着くや、セレンさんは“味覚を無くしたくなければ麻婆豆腐は頼むな"と言う……食べた事があるのだろうか。
「見た目からして地獄の釜を開けたようなビジュアルだ、溶岩が食い物のフリをしていると言っても過言ではない
味は……そうだな、口の中でアサルトアーマーをカマされる感覚、とでも言えば分かるか」
「私このスブタっていうのにします」
「俺は醤油拉麺にするぜ」
AMS負荷で感覚を失うでもなし、三十路手前にして五感の一つを失うのはごめんである。
「良い判断だ、この先生き残るには先人の知恵を上手く使うことが肝要だと覚えておけ……私はクミン炒めだ、それとこれで二人分適当に包んでくれ、同僚の土産だ」
「アイアイ!」
ややあって、器用にも3人分の料理をお盆に乗せて運んできた店主を見送り、スブタという野菜と肉をどうにかしたであろう料理を口に運ぶ。
「……美味しい」
ふむ、“辛いもの以外ならだいたい美味しい”と言うからどんなものかと思えばなるほど、合成食材とは思えない程に美味しいではないか。
野菜はザクザク、肉は若干筋っぽい気もするが歯応えがある。
「
「喋るな口を開くなカスが飛ぶ!どっちかにしろ」
「……(モグモグモグ)」
「食うのか……」
「そりゃそうッスよ、リンクスの専オペでもないとオペレーターなんて一般人と大差ないって聞きますし」
「それはそうだが……」
いや美味しい、本当に美味しい。
コメというのも初めて食べるがこれがまたスブタに合う、甘酸っぱいスブタとホカホカのコメと相性が抜群である。
これは通おう、うん、常連になろう——そう心に誓い、スブタ定食を平らげた。
「……食事が作業じゃないって最高ですねヘイズさん、私驚きました」
「私からすれば、定食に加えて野菜炒めと焼売を追加で平らげたお前の胃袋が驚きなんだが……」
美味しいものは別腹という言葉を聞いたことがあるが、まったくもってそれは真理であると実感した。美味しいものはいくら食べても美味しいし腹に入る。
体重など知ったことか、今日の美味しいを感じる為に明日の体重を切り捨てる覚悟は完了しているのだ。
「イヤァー!新しいお客さんイッパイ食べるアルネ!ワタシ嬉しいアルヨ!
てゆうかセレンサン、トモダチ連れてくるなんて珍しいアルネ」
「私が友達のいない寂しい奴みたいな言い方はやめろ、殺すぞ」
「違うアルカ?」
「よし殺す」
「アイヤー暴力反対!勘弁アルヨ!……そういえば、ちょっと前まで
「——」
ピシリと、そんな音が鳴ったような錯覚の刹那、空気が凍った。
今まで気怠げながらも和やかに食事をしていたヘイズさんの表情は絶対零度もかくやかと冷え、その冷気が店全体にまで波及したかのようである。
「あー……店長さん、烏龍茶追加で頼めるか?」
一分にも十分にも感じられた数秒の後、冷や汗を垂らしたダン・モロが貼り付けたような笑顔で言い、その凍てついた空間は漸く瓦解した。
ハッとした店主はヘイズさんに向かって深々と頭を下げる。
「余計なところに踏み込んだみたいアルネ、ごめんアルヨ」
「いや……気にするな魃、私の勝手な悩みだ」
あの作戦の後、ダン・モロからメッセージで“穏やかに過ごしたければ首輪付きの話はしない方がいい”と釘を刺されていたので口にはしなかったが、まさかこんな所で話をすればどうなるかを知るとは思わなかった。
「というか、謝るならそのテキトーにアルアルつけてれば中国人っぽいとかいう安直な考えはやめろ、耳障りだ」
「アイヤ!?何を言うアル!ワタシこの道さんじゅ——20年のベテランな四川生まれアルヨ!」
「そういうとこだぞ100%純日本人」
「——いつから気がついてたんですか」
「最初からだ愚か者め」
それから若干の微妙な空気に気圧されつつ食事を終えた私達はいよいよガレージへと向かう。
海沿いの倉庫街には同業者の事務所兼ガレージがいくつか並んでいるがその殆どはハイエンドノーマルなようで、対コジマ防壁を備えているのはウチだけのようだが……
「なんか大きくないですか?」
見たことのあるガレージなど一つしかなく、ミセス・テレジアに仕事の後お茶会に誘われた際、少しばかり覗いたきりだ。
それでも、以前仕事の関係で見た対コジマ汚染防御ガレージよりもはるかに大きいものだった。
「3機分だからな」
「……3機?ダン・モロ以外にもリンクスが?」
「さっき優秀な留守番がいると言ったろう」
「リンクスとは言ってませんでしたよ」
驚いた事に、この事務所には二人のリンクスが所属しているらしい。
首輪付き掃討戦の後に辞めてしまったリンクスも多い中でセレンさんのお眼鏡に叶うフリーのリンクスともなれば、相応の手練れか……それとも、嘗ての首輪付きがそうであったよあに新人なのか、そのいずれかだ。
「そうだったか?まあいい、入れ」
「我が新居にようこそ!ってな」
セレンさんとダン・モロに言われるがままに扉を潜ると、中は簡素ながらもシックに纏められた事務室だった。
事務室と言っても机とパソコンが並ぶだけのものではなく、ソファーや卓袱台、テレビも備えられていて、寛ぐことも出来そうである。
事実として、ソファーにどっかりと座りながら菓子をつまんでいるサッパリとした赤毛の短髪に髭を生やした見た目三十代ほどの男性がいた。
それもただの男性ではなく、鍛え上げられた肉体に加えて
彼がセレンさんの言う留守番のようだ。
「遅かったじゃないか……腹が空いて死んじまうかと思ったぜ」
「——ん?」
聞き覚えのある声だった。
そうだ、状況の説明にかこつけてセクハラ紛いの質問をぽこじゃかぶつけてきた最低野郎である。
「ならその菓子はなんだ?私は“待て”も出来ない犬は好かん」
「悪かったって本当に腹ペコだったんだ、そのチャイナボウルをくれよ、どうせ先に食ってんだろ?」
「まったく……ほら、受け取れ、ロイ」
「……ロイ?——あ」
確かキサラギジャンクションで不明ネクストに加え、それと協同するパッチ・ザ・グッドラックの撃破。
そのミッションでオペレートを受け持った男性リンクスの名は——
「——その声、ロイ・ザーランド!?」
「ん?なんだ、その子が件の副オペちゃんか?」
「手を出すなよ、殺すぞ」
「分かってるって」
「あ、あ、あの時は、よくもぉ!」
スリーサイズに止まらず“経験済みか否か”なんてナイーブな所まで突っ込んできた挙げ句の果てに渋めの甘ったるい声で“今晩どう?”なんて言いやがったのである。
「……お前、既に唾をつけていたのか?」
「ロイさん……」
「おいおい勘違いしないでくれよ、俺はちょっとばかりからかっただけだ」
「ウィン・Dにはそれとなく報告しておく、楽しみにしておけ」
「あー!やめて!やめてくれ!それだけは勘弁してくれタダでさえこの前——」
「ほう?余罪が増えたか、いい度胸をしているな、ロイ」
トレーニングルームの書かれた扉の奥から出てきたのは背中まで伸びているであろう金髪をポニーテールに纏め、六つに割れた腹筋とたわわな胸が
頸にAMS接続プラグがあることからリンクスであるには違いないだろうが……両足にインテリオル 製の補助具を取り付けている辺り足が悪いのだろうか。
「……ウィン・D、いいか?これはよくある行き違い、勘違いってやつだ
お互い仲良く、愛想よくいこうぜ?それが夫婦円満の——」
「浮気性な男と夫婦になった覚えはない」
「痛ェー!」
振りかざされた拳骨はロイ・ザーランドの脳天に直撃し、頭を抑えて蹲った。
確かにあれは痛そうだ……しかし、そんな事よりも——
「む、紹介が遅れたな、私はウィン・D・ファンション、先生のところで世話になるリンクスだ」
「先生はやめろと言ったろうに」
「先生は先生ですので」
「……はあ、で、この馬鹿野郎が——」
「イテテ……知ってると思うがロイ・ザーランドだ
昔のことは水に流してくれると助かる」
「改めましてダン・モロだ、よろしくな」
「……ユズリハ・カーチスです、ダンさんとウィン・Dさんは兎も角、私は根に持つ方ですから」
ヨコハマコロニーに来てから驚かされてばかりである。
嘗て、オリジナルリンクスにしてインテリオルの最高戦力と謳われた霞スミカことセレン・ヘイズが構えた傭兵組織の所属リンクスとはリンクスは最近頭角を現し始めたダン・モロだけではなかった。
カラードランク最上位の独立傭兵ロイ・ザーランドに加え、首輪付きとの戦闘の影響で負傷し現役を退いたと言われていたウィン・D・ファンション、3人のリンクスを抱える大所帯だったのだ。
「さて、自己紹介も終わった所で仕事だ……ダン、ロイ、行けるな?」
「俺はいつでも!」
「この飯食ったらいつでも」
「早く食え——では、ミッションの内容を説明する」