霧切'sVISION 苗木という生徒
私が彼と初めて会ったのはいつまで経っても来ない生徒を探して教室に入った時だった。
目覚めたとき、私はすでに記憶を失っていた。この学園の前をくぐったことを覚えている。しかしその後とその前を思い出せない。
家族も自分の才能も思い出、…………忘れてはいけない大切な
「体育館に集合」とあの落書きにそう書いてあったのでとにかく手掛かりを探そうと向かった。
幾らか時を待つと一人、二人、三人と増えていき、総員14人が集まってきた。
だがしかしそれで全員ではないという。しばらく待っていると壇上から変な白黒のぬいぐるみが出てきて「まだ一人来てないから入学式が始められません!」ときた。
ぬいぐるみ、モノクマは私達にその一人「苗木誠」を探せと命令してきた。
超高校級の御曹司。十神白夜はふざけたぬいぐるみに命令されたことに怒りを見せたがこのままでは私の知りたいことが知れないので真っ先に体育館から出てその苗木誠という人を探すことにした。
案の定彼はすぐに見つかった。ある一つの教室の机に彼は体を丸め座って寝ているようだった。
近くに寄り、彼が「苗木誠」かを確かめた。
「……あなたかしら? 最後の入学生は」
と声をかけた。
少々の間があって、
「あ、おはようございます。苗木誠です」
と彼から返答が来た。
何故か、愛しさと懐かしさを感じた。
体育館に戻る前に彼と少しばかり状況の確認ということで話をしてみた。
変な人だと思った。
まず、私が話しかけないと彼はただ何も口を開かず、ただうなずき、「へぇ」や「なるほど」などと相槌を返すだけ。
初めて向こうから話してきたときは、「ねぇ、霧切ひゃん」と思い切り私の名をかんだ。
顔が真っ赤になっていたから恥ずかしくなったのだろう。
「何かしら、苗木君」
見かねたので助け舟を出すことにした。
そこで自分が記憶を失っていること、記憶喪失だということを彼に話した。
何故、彼に話したのか。
分からない。彼に言わねばならないと勝手に口が動いていた。
案の定、彼は少し戸惑っているようだった。
初対面でいきなり自分の事情を話す者がどこにいるだろう。
私は久しぶりに自分の会話能力の欠如に劣等を抱いた。
久しぶりがどの位か分からないが。
彼が私の才能を探偵と言った時、酷く心に、心臓にしんみりと来た。
記憶が無くても体が覚えているのだろうか。心臓の鼓動が落ち着く程にその言葉は馴染み深かったのだろうか。
私は彼に対し、少しありがたみの感情を抱いた。
私を教えてくれてありがとう。
口には出さないが心の中で静かに礼を言った。
数刻後、彼がモノクマに木刀を投げつけ、罵倒の言葉をあびせたことでまた変な人だと思った。
二面性があるのかと推理したがどうもその方面とは思えない。