希望と絶望は表裏一体
絶望は希望
希望は絶望になりうることがある。
昔気に入らない爺さんに教わった言葉で唯一耳を傾けたのがこの言葉だった。
希望なんて持つから絶望する。絶望があるから、希望に無駄に期待をかける。
くそったれ。
目の前の建物に目を向ける。
くそったれ。
何もかも気に入らない。あの爺さんも。この建物も。この学園にいる奴らも。ここの学園長とかいうアイツも。
超高校級だか何だか知らねぇよ。苛つくんだよ。
自分は周りと違うと空気を振りまいているアイツ等が全部気に食わない。
あの坊ちゃま共もそうだ。自分たちの境遇が、今いる空間が気に入らないからって文句垂れやがって。
お前ら全員辞めてさっさと南極でも北極にでも行けばいいんだよ糞。文句垂れてるくらいなら、金を踏みだ押して出ていけばいいんだこんなとこ。
クソクソクソ。
くそっ。
息をするだけでもここの陰気さが肺に伝わってむせてくるようで、イライラする。
バカとクズしかいねぇのかよ。
とにかく全部が気に食わない。
なんで潰れねぇんだこんな場所。
不機嫌な茶髪の男。乾巧は希望ヶ峰学園に背を向けて歩きだした。
「それでは最後の議題に移ろう。例の件、進捗はどうなっている」
やれやれと心の中で苦労を吐く。評議委員の機嫌を取りながら話を進めていくのはいつもながら疲れると学園長、霧切仁は改めて背を伸ばす。
ただでさえ普段の業務に予備学科、色々と思惑が混じっていそうな特別入学の件もあるというのに。
だが、このプロジェクトは学園創立当時からの目的として掲げてきた悲願。泣き言は言ってられないと叱責する。
「創立から78年近くか。随分と遠回りをして来たようだな」
「しかしようやく全てが結ばれる。今年は予備学科から多くの資金が得られたからな」
「もっと早くこのような制度を設けていれば足踏みせずに済んだのにな」
全くだと仁はそう思う。プロジェクトを進めるに当たって資金不足は深刻な問題だったと思い出す。
しかしそれも解決した。
予備学科の才能のない愚か者達の寄付のおかげで前年よりプロジェクトの進みが一段と早く進むことが可能になった。
彼らには希望の踏み台になってもらわねば困る。人類の希望の為に。
「ですが申し上げにくい事に現在問題が起こっています」
だが流石に大きく目立ち過ぎてしまった。まさか外部がプロジェクトに気づくという失態を犯していたとは。
「かの
「だから、通せつってんだろ!」
「いや、だから許可が正式に出ていない以上君を本科の方に通すわけには…」
「あああ!あんたじゃ話になんねぇ!もっと上の奴呼んで来いよ!
巧は右手に持った手紙をひらつかせながら本科に繋がる通路を警備する守衛に悪態をついていた。
傍からみれば、チンピラが突っかかているようにしか見えない。巧は、予備学科の制服を着ずに黒いジャンパーとGパンという校則を無視した風貌でこの場に立っていた。
「アイツいきなり手紙を送ってきやがって希望ヶ峰に来いだけと送って来てトンズラこきやがってよ。そして、いきなり入学しろだろなんの言い残ししやがって!可笑しいだろ!」
「いや私に言われても…」
無責任な発言を守衛に吐く巧。
乾巧は性格が悪い。
彼の口調はそのことを示している。
「早くアイツを出してくれよ!天願和夫!居場所くらい知ってんだろ!この学園の学園長やってたんだろあいつ!」
「チッ。呼ばれてきてみりゃ。何だこれは」
「あぁ!?なんだお前誰だよ」
目の前に立つ色黒の男に近づきがんを飛ばす。
「っ!ブネッ!」
突然男が殴りかかり、巧は拳が掠る程度に上背になり避ける。
「アブねぇだろ!何すんだテメェ!」
「騒ぐんじゃねぇ。誰の許可があって部外者がここにいるんだ」
色黒の男、逆蔵十三は巧を見下だす。
道端に落ちているゴミでも見るような目が巧の怒りに火を注ぎ込む。
「テメェそれが人に対する態度かよ!こっちはちゃんと用があって来てんだぞ!」
「何の才能もねぇクズが希望ヶ峰に足を踏み入れてんじゃねえよ。ぶっ殺されずに済んでることに感謝するんだな」
「なんだと!オメェみたいなチンピラ警備員に言われたくねぇよ!上のやつ呼べ!上のやつ!」
「俺が、上のやつだ」
埒が明かないやりとりに苛ついた逆蔵がまた殴りかかろうとする。
「ちょっと待ってください」
そこに止めの声が上がる。
「彼は俺の知り合いです。」
人当たりの良さそうな笑顔を顔に表し、逆蔵に近づく男子生徒。
柔らかい笑みを浮かべる彼の顔は、瑞々しい。髪も多く、普通におでこが隠れるくらいの髪型だが少し茶色を染めているのが洒落めかしている点、若者らしい。
「お前、確か今年入学してきた」
「ちょっと失礼」
逆蔵の横を通り抜け、巧に近づいてくる。
「なんだよ」
「話を合わせてくれないかな」
「ハァ!?」
「静かに」
悪巧みを考えた子どものように無邪気に笑って巧に耳打ちしてくる。
(彼は自己中心的な思考だから相手にすれば面倒ごとになる)
(だから、俺に話を合わせてください)
巧も青年の説明に納得がいったか、「分かった」と不貞腐れながら頷く。
「彼はこの学園に僕が招いた客人なんです」
「あぁ?客人だぁ?」
「はい、俺が事前に学園長から許可を頂いているので問題はありません。なんなら俺が彼の見張りをするってことでここは任せてください」
見張りって失礼な奴だな。
巧は自分のことを棚に上げて目の前の男子をそう評価づける。