ある女子のみの高校の、生徒会長は周りから尊敬の眼差しを向けられ、毎朝誰よりも早く出席し、雑務をこなし校門前で生徒みなの顔と服装をチェックする。
全生徒会長以上の働きを事細かに行っていく内に学校内部の風紀乱れも減り、欠席率も昨年より大幅に減少し、学校に大きな影響を与えた存在と先生からも評価が高い。
しかし、その生徒会長『
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降り積もる雪の中を、肌の露出をなるべく控えた格好で校門を抜けていく生徒達に、口角だけを上げた挨拶を何度も繰り返す人物が生徒会長の『玲那』。
肩に少しかかるサラサラな黒髪が冷たい風で揺れ、首に巻いていたマフラーを締め直す。 その間も視線は生徒達の身だしなみを見逃さない。
時には厳しく、それを正したなら褒める。 いわゆるアメとムチを使う。
手を振られ、ぎこちなく振り返したりしていると、すぐ横からクスクスと笑う声が聞こえた。 身体を横に向けるといつから立っていたのか分からないが、首を少し下げる。
「元気よく返さないと、ファンの皆さんが落ち込んじゃいますよ~?」
「それよりもまずは?」
「失礼しました~。 おはようございます。 玲那さん」
両手でスカートの裾をつまみ深々とお辞儀する姿は、気品さを感じさせる。 お嬢様扱いされるのは好まないが、彼女からなら貶された気もせず受け入れる。
彼女の名前は『
…………昔こんな愛くるしい妹が欲しいと親にねだった時も合ったと今でも覚えている。
顔を上げ薄目で微笑み、いつも見なれた丸く大きな瞳になりドキッとする。
(可愛い…桜色ツインテールに小柄な身体。 まだ赤みが抜けない頬っぺた…可愛い可愛い)
可愛いものに目が無い性格を隠しこれまで過ごしてきたが、彼女が目の前にいるとそれが表に出そうになる。
自らの腰を力強くつまみ邪念を払う。 顔がニヤけていなかったか、手は出てないかの順番で三秒で振り返り冷静を装った声で質問する。
「今年入学して残り数ヶ月で一年生が終わりそうだけど、困った事はないかしら。 教室の備品が不足してるとか」
「無いですよ~。 あっ。 ありました」
ゆっくりとした口調で指を立てそのまま指される。
「華が欲しいですね~玲那さんみたいな美人さんというお華が~」
寧ろ生徒会室に癒しの存在である貴女が欲しいわよ!
「馬鹿な発言してないで、ほら教室に行きなさい。 ……左の首元どうしたの?」
絆創膏が三枚貼ってあり気にかける。
「え~とお恥ずかしいのですが~蚊さんに血をあげました~」
「吸われたんでしょ。 ぷっ。 この真冬に刺されるなんて災難ね」
「今笑いましたね~? ぷんぷん!」
「(私も血をあげそうになるわ)」
鼻を押え空を向きながら、コートもマフラーも身につけていなかった美夜は小さくクシャミする。
「クッシュンっ」
二度もし、言わんこっちゃないと首に身につけていたマフラーを美夜に巻いてあげる。 ついでに赤くなった鼻もティッシュで拭いてあげた。
「これ~いいんですか~?」
「困っている人がいたら迷わず手を差し伸べる。 私なりの座右の銘だから気にしないでいいわ」
「わ~い! 自慢しますね~」
「不要になったら返しなさいよ」
嬉しそうにその場でクルクル回る美夜を表面上は呆れ顔で見つめ、スカートにポケットティッシュをしまいながら、スマートフォンのカメラが搭載された部分を露出させる。
……これが誰にも言えない秘密の"盗撮"である。 こんなにも声を掛けてくれるのだから、正直に写真を撮りたいと言えば、了承は貰えるはずだが、周りのイメージからかけ離れた、可愛い物好きがバレた時の緊迫感が怖く、こんな行為を何度もしてきた。
駄目だと分かっていても繰り返していく内に満たされていく高揚感。 ……後戻り出来ないラインまで足を踏み入れたかもしれない。
そしてこの足はもう掴まれてしまっていたのにも、気づかず私は上手く写真が撮れたかワクワクしながら美夜を見送り他の生徒達も、さっきよりは嬉々に手を振る。
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「今日はクリスマスイブなのね。 皆それぞれ家族や友人の予定があるでしょうから、早めに下校して大事な時間を過ごして下さい。 雑務は私が適度にこなしておくわ」
生徒会室に集まった六名にそう告げいつもより早く、解散させ、一人残った私は窓のカーテンを閉め書類の束を机にドスンと置く。
部活からの備品新調から、部員不足解消案、来年の行事関係から色々な物がありため息を吐かず、すぐさま取り掛かる。
「と、その前に……ふふっ。 上手く撮れたかしら…」
机の上に肘を置きニヤニヤしながらアルバムのフォルダーを眺める。
身体を回していた拍子に僅かに横目でカメラ目線ぽくなっているのがあり鼻息が荒くなる。
ベストショットがあれば、五分以上見つめ今すぐにでも抱きしめたい感情に駆られる。
(可愛い可愛い可愛い! 家にあるコスプレお洋服を着せて更には一緒にお出かけしたいわ!!!)
私の実家は世間で言うお金持ちの家で、色々な洋服があるが、母の趣味で大半を占めている。 幼い頃は着たがこの歳になり恥じらいから着る機会はない。
でも、母の趣味がこの年齢になりわかった気がする。 愛らしさと可愛い洋服が合わされば、それは宝石以上の輝きを放つ。
「やっぱり今朝のマフラーを嬉しそうに巻いていた写真が最高ね」
液晶の明かりが時間経過で消えない設定にし何時でも視界に入る位置に置き、鼻歌交じりに書類に手をかける。
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残り三枚となった所で、身体を伸ばしがてらカーテンの隙間から外を覗くと街明かりが一面に広がっていた。
少し張り切り過ぎ、夜の七時を迎えていた。 目を通した書類をまとめながら、五分おきに眺めていた美夜の写真に和む。
校内にいるのは先生だけと思い込みスマートフォンを置いたまま、手洗いを済ませ帰宅しようと、廊下に出る扉の前に立つと向こうからドアノブが回され驚く。
「わあ~玲那さん~こんばんわ~」
「美夜! こ、こんな時間にどうしたのかしら」
「それは勿論、お借りしていたマフラーを返そうと思いまして~。 一回家に帰りましたよ~」
綺麗に折りたたんだマフラーを手渡しされ受け取る。
「今巻いてるのはアナタのかしら? 持っているなら冬の間身につけたら?」
「う~ん、でも今日みたいに玲那さんからのサプライズに期待したいので~」
「お馬鹿。 風邪を引いたら会えないじゃない。 ……あっ」
つい感情のまま口走ってしまい手で口元を隠す。
「? 完璧主義者ですからね~それじゃ私は帰りますね~」
「あ、待ちなさい。 外は寒かったでしょうからお茶だけ飲んでいきなさい。 でもその前に汚れた手を洗ってくるわ」
眩しい笑顔でまたクルクル回る姿に鼻血が出そうになる。
玲那が背中を見せ手洗い場に行くのを見届け、美夜は薄笑いする。
「ふふっ…この行動にどうでるかな~」
机に置き忘れたスマートフォンに近づき手に取り、ロックも掛けない不用心な玲那がチョロく隙だらけと微笑む。
「盗撮してるのがバレてないなんて思い込んでる玲那さんの表情は面白くて可愛かったなぁ~。 でも、絶望した顔もみたいし~今日仕掛けちゃお」
背中を通して音を立てて戻ってきた玲那はいつも通りの声で報告する。
「三分十四秒待たせたわね。 今準備するわ」
「覚悟の準備ですか~? ふふっ~」
「?? 何言ってるの」
今朝撮った美夜の写真が写りこんだスマートフォンを見せつけられ、みるみる内に顔が青ざめていく玲那を愉しげに眺める。
「こ・れ。 今朝マフラーを貸してもらってすぐの動きですよね~? どーして生徒会長さんが写真に収めてるんですか~? 目線もカメラを向いてないですし」
喉を鳴らし、口を籠もる玲那に更に追い打ちをかける。
「怖くなってアルバム覗いたら、ぜーんぶわたしわたしわたし、じゃないですか。 これは生徒会長…いや人として恥ずべき行為ですよ~」
冷や汗まで流し、きっと頭の中はぐちゃぐちゃになっているはず。 思いっきり笑い虐めたくなる表情で背筋がゾワゾワする。
一分黙っていると涙目になり、地に頭をつけ謝りだした。
「ごめんなさい! アナタが……愛らしくて……最低の行為をしたわ! 本当にごめんなさい!!」
「謝罪になってない上、今人間として最低の言葉並べてる自覚ありますか~? ……これ大人も関わる重要な問題ですよ?」
更に擦り付けおでこが赤くなりながらも顔を上げ、謝罪する。
「失礼は承知してる!」
「し・て・る?」
薄目で眉を吊り上げた顔に怯え更に身体が震える。
「!……し、しております…! だから許して下さい!! 美夜様がお気に召すまで…! なんでも致します!!」
この言葉を待っていたと言わんばかりに膝を折り、気が緩むまで頭を優しく撫でる。
ほっとした直後、前髪を掴みあげ鼻先が密着する距離までつめ口角をあげる。
「それじゃ今日から玲那は私専用の犬よ」
「え…」
頬を強くつまみ苦痛の顔になり、独占欲が増加する。
「ワン。 でしょ」
「そ、そんな……それは…出来な…………」
今度は頬強く叩き身体が横に倒れる。
「それじゃまずは足を舐めてもらおうかな。 玲那」
困惑しその場から起き上がれず、最後には涙を流し始めすすり泣く。
「地面を汚せなんて言ってないよ~。 このスマホ大人の人達に見られたくなかったら従いなさいよっ」
上履きを脱ぎ、ストッキングのまま頬に押し付け悲観する姿に幸福感が身を包む。
…………元々玲那さんは、小学の時にこの街に引越してきてすぐに出会っていた。 しかし、その時の私は他の人から虐められ毎日傷だらけになっていた。
すぐに両親の都合で転校したが、高校になりまたこの町に戻ってきた。 そして、玲那さんは持ち前のカリスマ性を変わらず発揮していた。
今日の朝首元に絆創膏を貼っていたのは、虫に刺された訳じゃなく、昔同じ場所に貼っていた時に、玲那さんがイジメている人から庇ってくれた時を再現した。
盗撮されてるのも入学してから知っていた。 寧ろ彼女の事は本人以上に知り尽くしこの高校に入った。 だから彼女だけが目を奪われる、仕草格好をし接近していた。
玲那さんの背中は頼れる人と一般の人ならそう受け取るかもしれない。しかし、それを越えて、こんな強い人を手中に収められたら、どんな反応をするかと疼きが収まらなかった。
そして、今目の前で私を守ったヒーローが、目を赤くし震える手で足に指が触れ…………………。
おわり