「ただでさえ甘い紅茶に沢山のお砂糖入れて満足してる、お嬢様最高」
ある立派なお屋敷でメイド服で身を包み、毛先が外にハネたミディアムヘアーで、まつ毛が長く、大人の顔立ちをした白髪の女性は椅子に座り紅茶を飲む小学生位の小柄な少女に報告する。
「しゅくじょのわたしは甘くしていいの! べー」
サラサラの金色の髪をかきあげベロを出し子供らしさ全開だ。
子供ぽいのに大人ぶるところが可愛い。 と満足し親指を立て『シロ』は鼻血を流し始める。
「ちょっとー、クロー! アンタの姉がひんけつでまたたおれそうだから、連れていきなさーい!」
扉の向こうから駆け足で現れた、『クロ』は名前の通り、目の色と髪色が黒で染まってる。 少し『シロ』に比べ、幼く見える。
慌ただしく入室し、一礼して廊下へ引っ張る。
扉を閉め安堵の息をこぼし、「またですか…」と呆れた顔をしながらハンカチを差し出す。
「もう姉さん、お嬢様の前に行くといつも興奮して…たまには完璧な素振りで、振舞ってくださいよ」
今度は怒った様な顔で、頬っぺたを片方膨らませていたので、シロが人差し指で押すと空気が抜ける。
「プシュー…じゃなくてですね! 聞いてますか!?」
「忙しいわねクロ。 息抜きが必要よ。 私の秘蔵写真ナンバー315。 お嬢様の寝顔見せるわ。 あげないわよ」
鼻をハンカチで覆いながら胸元から一枚の明かりが無い暗い写真を見せられる。 どうやらお嬢様が就寝している時のぽい。
「わ~可愛いですね~。 真っ暗な状態なのにしっかりお顔が見えて……ってこれ盗撮じゃないですか!」
「(インターネットには)上げないわよ?」
「イントネーション変えて言っても盗撮は盗撮です! そもそも……はぁ……鼻血でハンカチが染まってるじゃないですか」
写真をすぐに仕舞わせ、新しいハンカチで鼻を拭いてあげる。
(これじゃどちらが妹か分からないじゃないですか…)
「やっぱりクロは最高の妹よ。 こうして私をすぐに心配してくれる素敵な妹」
「姉さん……。 ありが…ん? 私のエプロンのポケットに今なにか入れませんでしたか?」
「寝る前に鑑賞できるお嬢様のあっかんべー顔の写真。 先程撮ったばかりだから暖かくていいわよ。 朝返してね。 あっ、チューしたりはNGよ」
「早口でヤバい言葉ばかり並べて…警察が来た時は全て肯定で答えますからね……」
元々寡黙な姉のシロは表面に変化は無くとも、心の中ではきっと反省している。 はず。 と妹のクロは信じながら、ハンカチを仕舞う。 写真は返した。
「お嬢様最高! お嬢様最高!」
「もう! ロボットじゃないんだからそれ以外も言ってください!! お嬢様は姉さんの変態行動を見兼ねて、最新ロボット購入検討しているんですからね!」
告げるといきなりガタガタ震え、左右に動き回り、ロボットダンスぽくなる。
「おおおおおお嬢様に、かぎってそそ、それはない……。 無いっ!!」
声を張り上げ裏声になりつつ否定していたが、視線が扉へ向き釣られて横目で見ると隙間から、様子を伺う様に今話していた人が頭を出し覗き込んでいた。
「話がおわったなら、こうちゃを注げ」
風が通り過ぎた如く、お嬢様と同じ目線に合わせ膝を折り口角だけを上げた顔を見せる。
「その扉の隙間から覗くお姿か、かわいいのでお菓子いっぱいあげます」
エプロンスカートの内側から飴とクッキーの袋詰めを差し出そうとしたので制止する。
「駄目ですよ姉さん! お菓子はもうお出ししてる分でおしまいです! お嬢様からも一言お願いします!」
「うむ! さすがシロはゆうのーでゆうしゅーだな! それはもらい受けよう!」
褒められた事で更にエンジンがかかり、まだまだ沢山あると言わんばかりに、ぽん、ぽんと手渡す。
二人の間に割り込むのは日常茶飯事でクロは労働以外の疲れに襲われていた。
──────────
昼下がりから夕食、そして就寝時間前になり、お嬢様の部屋で三人集まり雑談していた。
一人は落ち着かずマグカップを口につけても手の震えが止まらずエプロンを汚す。
目もくれず砂糖いっぱいの紅茶を飲み干したお嬢様は、すぐに注ぐよう指で合図するが夜も遅いので駄目と言われへそを曲げる。
「お嬢様最高なので写真いいですか? パシャ」
「許可もなくとるな! それと口でパシャはいらないでしょ」
「それでは動画失礼します。 ウィーガシャジィー」
訳が分からないと本人以外が顔を見合わせる。
と、悪知恵が働いたのか指を立て、スマートフォン越しに鼻血を垂らすシロに指示する。
「そのしゃしんは許す! だから紅茶をもう一杯よこせ!」
「承知致しました」
「……。 ちょっとまて。 おまえエプロン脱いでスカートをなんで上げようとしている」
「え?」
「へ?」
「ダメだこれ。 ご無礼をお許し下さいお嬢様。 姉さんの無礼分紅茶を注ぎます」
「う、うむ」
謎の行動が気になりながらも注がれた紅茶を飲む。 眉を寄せ、やはり角砂糖をドバドバ入れる。
シロはエプロンを身につけながら囁くように喋り出す。
「言い忘れていたのですが、この部屋昨日から天井に変なシミが浮き始めてるんですよね。 ほらこの上にあるのですが、人の目が二つ。 明日掃除しますが」
「ぶっー!! げほっ、げほ!」
シロに向けて吹き出した筈なのに、水滴が一滴も零れていない。 口をモゴモゴさせるシロに、五秒だけジト目になり無視しマグカップを下げるクロ。
「ほらほら、私の真上」
腕を伸ばし全然届かない天井を見上げる姉妹と視線を逸らすお嬢様。
「そそそそ、それがどうしたのだ! わたしに近づく事もできない、おくびょーなゆうれいなのだろう!?」
明らかに動揺している人。
「いえただのシミです。 …もーしかして幽霊がお嫌いで?」
それを心の中で明らかに喜んで観察してる人。
「弱すぎて百戦百勝! けちょんけちょんにしてやったわよ!」
「はは。 クロ聞いた? お嬢様はやはりさいきょーのお方よ私もいつかお手合わせ願いたいわ、夜限定で是非是非」
乾いた笑いの後早口で言葉を並べる姉。 何処で覚えたのか普段聞くことの無い言葉が出て背中を見せ笑いを堪え震える妹。
「そもそもそうじサボるなー!」
「お嬢様なら天井に届く位のジャンプ力があると思って残しておりました。 なんて言ったって地球外までひとっ飛び出ますからね」
「ふん! よゆーよよゆー!」
ブンブンと腕を振り調子が上がった所で、シロは近づき脇の下に手を入れ、細い腕だが軽々と持ち上げる。
「わっわっ、ちょっと! 降ろしなさい!」
「お嬢様もいずれ私やクロの様な身長になるのですね…今は子猫以上に可愛いのに」
「そのくちぶり、このままがいいって言いたそ…………」
「それは勿論。 こんな小さくおめめクリクリ金髪お嬢様大きくなったら、胸が痛くなります」
即答したので、いつもの罵声が来るかと思いきや。
「そんな胸どこにも無いじゃない。 クロの方があるわよ」
空気が凍りつき、無言でシミのある天井真下まで抱き抱え、高く持ち上げる。
「みせるなー!! きゃーぎゃーー!!」
「いーえ新たな人と向き合うのも淑女への一歩です。 ほらほら」
「こいつは人じゃないわーー!!」
夜遅くまでドタバタ騒ぎ、一時間後には就寝時間になり部屋は静けさを包んだ…。
──────────
朝になり、クロが起こしに部屋に入るとパジャマ姿でカーテン前で朝日を浴びながら仁王立ちするお嬢様の背中が見え一礼する。
「おはようございます。 昨晩はよく眠れたでしょうか」
「……」
「あのお嬢様…?」
「…………夢にも出てきたわ」
「? どなたがですか?」
振り返って涙目のまま天井に指を指す。
「シロを今すぐに呼びなさい! あのへんたいメイドをっ!!」
「あ、あのお嬢様。 夢だけでしたら…。 ん? …あ、お布団に……」
ベッドに目をやり乱れた毛布の隙間から天井とは別な種類のシミがある。
「姉さんを呼んだら…その…騒がしくなるのでは」
「…うむ。 それもそうだな! ならおんみつ行動でこのふとんをしょりしなさい!」
ビシッと流れで敬礼し、布団を抱え廊下を飛び出す。 ふぅとお嬢様は汗を拭った。
直後飛び込んで入ってきたシロで、冷や汗が一気に流れる。
「お、おおおお嬢様のお下着まででで、汚れていらっしゃるでしょうから、お預かり致しますっ! さぁ」
急接近し土下座しながら腕をあげ、下さいのポーズをするシロ。 顔を見上げた瞬間、凄まじいビンタの音が屋敷中に響き渡る………。
──────────
「────それで姉さん、お嬢様に叱られたのですか?」
青空の下布団を太陽の下に干し、二人は合間の休憩をとる。 シロの左頬が赤く腫れ紅葉の様な手の跡が残りながら、鼻穴にティッシュを二個詰めている。
「いえ、下着は貰えなかったわ」
「耳鼻科行きますか? 丁度両方とも異常きたしてますし」
「お嬢様から離れるのは死ぬ時だけ、なので行きませーん」
「警察でも良いですよ~。 ふふ~」
「随分怖い顔……」
少し離れた場所で外の空気を吸いながら二人のやり取りを眺めるお嬢様は、胸の前に手を置き逆八の字眉で「ふん」と小さく鼻を鳴らし屋敷の中へ戻っていった…………。
つづく…?