天使に出会った   作:さらみす

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第2話

 イージス型部隊全八機が正面入り口から殴り込んだ。トロツキーの指示に従い気前よく、今までコソコソと戦場を這い回ってきた鬱憤を晴らすみたいにだった。守衛のガード型が木っ端みじんに千切れ飛び、イェーガー型が居そうな高所には擲弾の雨を降らせて対処する。ご自慢の光学マントも形無しだ。入り口を封鎖する防護ゲートは対ELID用無反動砲で吹き飛ばす。爆音と煙が晴れれば、大穴が開いていた。向こう側に居たらしいリッパー型やらヴェスピド型やらは、哀れにも俺たちの部隊を見ることなく、状況把握もままならないままに砕けている。

 イージス型に着弾。装甲で弾かれて、若干塗装が落ちる。直撃を貰った機体のカメラが奥にズームされる。比較的損傷が軽いガード型の銃撃。自動で反撃。文字通り壁の染みになった。

 進路上に上半身だけになり、機能停止を待つばかりとなった鉄血人形が近くに落ちたライフルを取ろうと苦戦していた。イージス達が突入。うち一機が頭を踏みつけて砕く。生体部品特有の肉々しい音が響き、循環液がぱしゃりと飛び散る。

 

「悪趣味だな」

 

 思わず言った。中継映像だが気分が悪かった。本当に肉を食わなくて正解だ。人が死ぬのは何度も見たことがある。だが人に似た存在の頭を踏みつけて砕く場面は、そうそう見たことがないし見たくもない。

 

「効率を優先してますからね。弾薬にも限りがある。あの状態なら反撃もままならないでしょうし、撃つより踏む方が経済的ですし、進路上ですからね」

「人に似ているとはいえ、たかが機械です」

 

 トロツキーはいつも通りの調子で言う。カザロフも何も感じていないようだった。

 トークスイッチを押す。

 

「敵が釣れた」

『了解。突入する』

 

 進入用レーザーカッターで非常扉を焼き切った分隊が二か所から突入する。一つは警備室を制圧しもう一方の支援。もう一つは、目標の確保、敵の護衛をなぎ倒して敵最高指揮官であるAIのボディーを捕獲することにある。

 鉄血工場の構造は事前に入手した見取り図を穴が開くほど眺めて頭に叩き込んであった。もちろんその通りだとは思っていない。改築がなされているだろう。だが、鉄血工造の暴走を引き起こした蝶事件からまだ数か月と経っていない。たったの二か月で構造がそっくり入れ替わるほどの大規模工事は不可能だと俺は判断したし、軍上層部もそう結論付けた。

 

 派手な銃声が響く反対側とは対照的に、警備室制圧部隊の側はかなり手薄だった。消音器で音が抑えられた特殊戦仕様のライフルが防衛部隊の頭を撃ち抜く。敵の銃撃は全て防弾装甲が防ぐ。

 高い兵器は誰も失いたくはないもので、こういう部隊には重装甲高火力高機動が求められる。人間に要求するような要素ではないと俺は常々考えているが、生存性を重視すればこうなるらしい。だがそれは機械に要求するべき事だろう。

 わずかな抵抗を即座に鎮圧し部隊は素早く前進する。とにかくエルダーブレインさえ確保すれば終戦を迎えられる。全体に命令を出させればいいのだ。機能を停止しろと。どんなに高性能だろうが、どんなに数が多かろうがただの鉄くずになる。直前まで自分が壊していた街を笑顔で復興させる事すら可能だ。

 

 戦況図を見れば、予想通り街へ散らばっていた部隊が続々と工場へ戻ろうとしてる。時計を見れば突入開始してからまだ一分にも満たない。時間感覚が曖昧になるのは避けたかった。俺が判断を誤れば部隊は死ぬし、場合によっては比較的安全圏にいる俺らも死ぬ。

 万が一に備えて兵員輸送用の装甲車を一台、前哨拠点近くに待機させてある。無人操縦の便利な奴だ。俺の乗る指揮車両と同じく上部には25ミリ機関砲塔が搭載してある。鉄血の運用するありとあらゆる戦術人形を粉々にできる能力がある。火力支援に出すのも良いだろうが、これは部隊の足だ。彼らの脱出を考えれば失うわけにはいかない。

 

 敵の抵抗をものともせずに突き進む彼らを横目に、俺はN-32の監視映像を見る。こちらに近寄ってくるかと思っていたが捜索部隊は街の外に向かって動いていた。やはりグリフィンの部隊が奇襲を狙っていたらしい。だが大規模攻撃が失敗し、それが無理だと分かると即座に撤退。こういう流れだろう。

 だが俺たちの監視をすり抜けた部隊がどんな連中かは気になる。ぜひとも顔を見てみたかった。

 

「やるじゃないか。グリフィンの連中も」

「ええ、ほかの企業にも頑張ってもらいたかった」

 

 カザロフ曹長はしみじみと言った。俺は頷く。鉄血と交戦した、行政委託を受けているPMCは多くある。だがどれも敗退している。戦術人形を多く採用しているグリフィンが唯一、正面から戦えている状態だ。おかげで順調に業績が上がっているらしい。ある種の鉄血特需といった具合か。俺も転職を考えた方が良いかもしれない。

 元陸軍の中尉で指揮官やっていました。うん、経歴としては申し分ないだろう。多分そうだろう。そう思いたいが、向こうも軍人上がりが多い。元中尉なんて掃いて捨てる程居ないかもしれないが、それでも即採用を決める程欲しいわけでもないだろう。

 だがグリフィン管轄の行政区から、適性がある民間人を人形部隊の指揮官として採用する計画が進んでいるとも聞いている。民間人が選ばれるくらいなら、俺だって、と思わないでもない。

 だがこの作戦が終わらない事にはいくら考えても無駄だ。

 

 

 一階部分の制圧は完了したようだった。工場兼鉄血司令部の重要区画は上ではなく下に広がっている。イージスの半数はこのまま一階部分を確保し、上からやって来るだろう敵部隊を抑える。あとの半数は地下へと向かう。

 正直この段階に至ってしまえば、あとはトロツキーや前線の分隊の仕事だ。俺がやれることはそう多くはない。画面と戦況図。あとは索敵機から得られる各種データをもとに、撤退するか続行するかの指示を出す程度だ。

 タランチュラが先行して地下一階へ侵入する。エレベーターの電源は落とされており、機能しない。何が仕掛けられているか分かったものではない為こちらも元から使うつもりはない。素直に階段から行く。だがイージス二機はエレベーターシャフトから突入させる。派手に扉を爆破してだ。

 警備室は地下一階にある。ここさえ抑えれば司令部の防衛機能をダウンさせられるし、監視装置から敵の動きが把握できる。防衛機構をこちらか活用する事すら可能だろう。

 

 地下一階は寒々しかった。世話をする人もいなく、枯れた観葉植物が飾り気のない通路に点在している。通路は所々が隔壁で封鎖されている。

 タランチュラに気が付いた敵が銃撃を浴びせるが、持ち前の高い機動力で動き回って回避し、逆に搭載された自衛火器、サブマシンガン程度の火力で反撃する。だが機体サイズの都合上、多くの弾薬は搭載できない。

 敵が物陰に隠れたタイミングでダクトに潜り込み別の場所へ移動。偵察によって得られた敵の編成や施設の構造は即座にマッピングされ、分隊に反映される。

 タランチュラが視界に収めればどう待ち伏せしようとも、こちらは悠々と反撃できる。場合によっては裏に回って背後から攻撃もできるだろう。

 エレベーターシャフトから飛び降りたイージスがかご室の天井を破った。勢いのまま内部に侵入する。仕掛けられていた爆薬が反応。エレベーターの扉を吹き飛ばすほどの爆発が起きる。爆音はフィルターでカットされるが映像が大きく揺れる。現代戦の兵士に必須の技能の一つに、三半規管が丈夫であることがある。こういう激しく動く映像ばかり見るのだから、一々画面酔いしていたら話にならない。

 機関銃を搭載したストライカー型を中核とした敵防衛部隊がイージス二機に集中砲火。カメラ部を片手で防ぐ。フィルターで抑えられた着弾音がヘッドセットから鼓膜を震わせる。

 イージスが弾幕を張りながら前進。遮蔽物で銃撃を防ぐ事はしない。

 相手は暴走した機械群という、使い古されたSF小説のネタに出てくる敵だとは言え、所詮は民間機だ。単なる民間機が軍用機に勝てるはずもなく、そもそも軍用機を撃破できるだけの火器の製造は厳しく制限、監視されていた。鉄血側の主力武装は国防省、つまり国防軍が認可を出した武装の派生だ。この程度の攻撃では正規品のイージスはびくともしない。

 

 敵は物陰に隠れる。中継映像の機体は若干動きが遅い。どうやら爆発で脚部を損傷したようだ。機体状況をタブレットに呼び出す。損傷と言えども軽微。作戦続行可能。この程度の損害は想定内だ。そもそも損害ともいえない。

 イージスがもうそろそろ敵を射線にとらえる位置まで来たタイミングで、ブルート型が四機飛び出す。動きが早く、両手にナイフを持った機体だ。どの機体もこちらの関節部を狙っているらしい。

 片手で敵を掴んで盾にする。イージス二機は全く同じ行動をとった。ブルートに同士討ちをさせる。

 疑似感情がないはずのブルートが狼狽えたように見えたのは俺の錯覚だろうか。ざっくりと刺さったナイフを敵が抜く前に至近距離から発砲。盾を貫通した弾丸はプルートの中枢を粉々に破壊する。

 不意に物陰からプルート一機が斬りつけた。先の四機を囮にしたのだろう。センサーで敵の動きを感知していたイージスはややのけぞってこれを回避。反応が早い。機械ならではの強みだ。敵の頭を掴み、そのまま握りつぶす。循環液がカメラに付着。

 

 後退していた敵に発砲を再開。

 

「おい、トロツキー。この悪趣味な戦闘方法は変えられないのか?」

 

 たまらず言った。

 

「僕だって思う所がないと言えば嘘になりますよ。ですが隊長。効率を最優先すればこうなるんです。最速で最大の成果を出す。別の行動プロトコルに切り替えたら時間が余計にかかりますよ?」

 

 画面を眺めながらトロツキーは言う。俺に視線を合わせようともしないが、それは職務上の事だ。

 

「中尉、相手は人間ではないんです。軍人で敵の兵器を破壊することを躊躇う人がどこに居りますか? どんな方法を用いてでも、敵を撃破することを優先すべきです。敵は機械だ。人道上の問題などどこにもありません」

 カザロフ曹長も言う。

 

「……人が、おもちゃの人形の頭を握り潰すのを見ていい顔する奴はいない」

 

 カザロフ曹長は俺の発言に、少し言葉を選ぶ様子だった。

 

「その人形が、襲ってくるなら話は別ですよ。そんなホラー映画が数えきれない程あります。どれも最後には燃やされていた」

「分かった。悪かった。今のままでいい」

「ご理解いただき感謝いたします。本当に僕だって嫌なんですよ」

 

 黙っていたトロツキーは息を吐きながら言った。俺も一つ息を吐いた。

 

 階段だろうがエレベーターだろうが、下へ行くには必ず警備室前を通過しなければならない構造になっている。イージスが突入したエレベーターで行けるのは1FとB1Fだけだ。

 要所要所の防護隔壁を突入用の軍用爆薬で爆破して処理する。

 

 階段から降りた部隊とイージス二機が合流。警備室制圧部隊含め、ほぼ現在動かせる最大戦力になる。ここまでで二分程度の所要時間だった。警備室を確保できればここから先はフリーパス。敵中枢の地下十階まで一気に行けるだろう。

 カメラの先で部隊員が突入準備を整える。タランチュラの偵察から警備室には鉄血指揮官機が二機居ると分かっていた。SP-721、通称ハンター型及びSP-88のエクスキューショナー型だ。この二機はよく同じ戦域で確認される。接近戦が得意な設計であり、閉所への適正は高い。

 だが敵の動きからして、おそらくはダミーであると推測されている。メインフレームは中枢部にいるのだろう。

 爆薬をセットした隊員が隊長に頷く。隊長が一瞬カメラ越しにこちらを見た後、突入の合図を出す。爆破。


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