魔法科高校の劣等生 Missing_number 作:イオハ
モチベーションの維持が目下の目標です。
今回はプチ四々舞家解説回です。
「今回は不問にします。以後このようなことの無いように。」
姿勢を正し、互いに相容れないながらも一斉に頭を下げる一同。達也と深雪、そして兼は慌てることなく頭を下げる。
あとは役員の二人が場を去れば一段落だというところであったが……。
「君の名は?」
摩利は足を止め振り返りつつ達也にそう問いかけた。
「1年E組、司波達也です。」
「覚えておこう。……後ろの君は?」
達也だけに問いかけたのかと思いきや兼にまで名を問いかけてきた。
「……同じく1年E組、四々舞兼です。」
なぜ自分の名を聞かれたのか全く理解ができない兼であるが、名乗らないという選択肢はないため名乗る。
「四々舞……なるほど。君の名も覚えておこう。悪い意味でな。」
そう言って、今度こそ去っていく摩利。騒動はこれにて収束した。
◇ ◇ ◇
「……借りだなんて思わないからな。」
役員の姿が校舎に消えたのを見届けて、最初に手を出した、つまり達也に庇われた形になったA組の男子生徒が、棘のある視線と口調でそう言い放つ。
達也は呆れた顔をし、近くにいた兼もそれが聞こえていたが無表情でいた。気を緩めたら笑いそうになるからである。何故かは察してほしい。
「貸しだなんて思わないから安心しろ。決め手になったのは深雪の誠意と生徒会長の寛大な温情だからな。」
「お兄様は、言い負かすのは得意でも、説得するのは苦手なのですから。」
深雪のわざとらしい非難の眼差しに対し、達也は苦笑で返す。
「……僕の名前は森崎駿。お前が見抜いた通り、森崎の本家に連なる者だ。」
「見抜くも何も……模範実技の映像資料を見たことがあるだけだ。」
恰好がつかず顔を赤くする森崎。すぐに赤みは引き、達也を一層強くにらみつける。
「僕は認めないぞ、司波達也。司波さん、僕たちと一緒にいるべきなんだ。」
森崎はそう捨て台詞を吐き、達也の返事を待たずに背を向けた。
そのまま立ち去るのかと思いきや、今度は達也の後ろにいる兼に顔だけ向ける。
「お前もだ、四々舞兼。百家の面汚しめ……。」
達也に対する感情とは別のものだが兼にも悪態をつき、その場から去っていった。
「……やれやれ。達也のことはフルネームで呼び捨て。俺に関しては百家の汚点と来ましたか。」
「俺はともかく、兼は仕方がないんじゃないか? 四々舞の次男がドラ息子だというのは、百家内では比較的有名な話だろう。」
「その百家内では比較的有名な話を、百家じゃない達也が知っていることはこの際置いておくとして……その言い草は酷くね?」
「事実だ、諦めろ。」
達也の容赦のない言葉に兼は項垂れる。
そういえば達也は歯に衣着せぬ発言ばかりだったなと思い出す。
傷つきもするが、本心であるがゆえに清々しくもある。
お偉い方の腹の探り合いや張り付けたような笑顔よりも達也の態度のほうが何倍もマシだ。
「……取り敢えずいざこざは終わったんだし、帰ろうぜ。」
達也に口で勝てないと判断し、話題を変える兼。
実際にもめ事は終わり、学校でやる事ももうないので帰ろうという提案自体は自然だ。
「そうだな。深雪、レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう。」
達也が一応この場では兼の提案に乗り、他のメンバーに声をかけ帰路に就こうとするが、行く手を遮るように女子生徒が二人立っていた。
一人は生徒会長に起動式を砕かれて魔法を発動できなかったA組の女子生徒で、もう一人の女子は彼女の隣にいた小柄な少女だ。
達也はこれ以上の面倒ごととは関わりたくないと思っていた。
達也は深雪に目配せし、深雪は兄の意を汲み、また明日、と挨拶して過ぎ去ろうとしたが、それよりも先に相手が口を開いた。
「光井ほのかです。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。」
森崎のように悪態をつくのかと思いきや、いきなり頭を下げられて、達也は面食らっていた。
「庇ってくれて、ありがとうございます。森崎君はああ言いましたけど、大事にならなかったのはお兄さんのおかげです。」
「……どういたしまして。でも、お兄さんは止めてくれ。これでも一年生だ。」
ここで軽く自己紹介等が行われる。
光井ほのかと隣の少女――北山雫と言うそうだ――が駅までご一緒しても良いかと聞いてくる。
先ほどまでのエリート意識を隠しきれていなかった態度から打って変わって大人しい態度になっている。こちらが素なのだろう。
断る理由もないので、二人を加えた計八人の大所帯での帰宅と相成った。六人でも十分、大所帯ではあるが。
◇ ◇ ◇
駅までの帰り道は、微妙な空気になると思われていたが、兼が率先して話題を振ったり提供する形ではあるが存外に朗らかだった。
「あの時、なんで俺まで名前を聞かれたのかずっと疑問でさ。しかも悪い意味で覚えておこうって……」
「それは確かに気になるな。ってか兼って、結構な有名人なのか?」
先ほどの一件を話題に持ち出し、軽い愚痴を零している。それに対しレオが食いついた。
いくら朗らかな雰囲気とはいえ男女比が明らかに女子寄りなこの場で、無言でいるのは居心地が悪い。
それにあの時に達也の後ろで何もしていなかったであろう兼に摩利が興味を示したのも気になるのだろう。
「理由は簡単だよレオ。兼はあの状況で一人だけ気を緩めていた。場違いなほどにね。」
「それに四々舞君は、あの状況下でずっとにやけていましたものね。目立っても仕方がないかと思います。」
達也と深雪の指摘に、兼と司波兄妹を除く五人の視線が兼に刺さる。いたたまれない。助けて。
「いやぁ……あんな状況に身を置かれたことがなくてな。すまん。」
「限度があるだろう。そんなだから素行が良くなったであろう今でもドラ息子の悪名が収まらないんじゃないか?」
達也のおっしゃる通りです。事故に遭って以降、兼は真面目に勉学に励み鍛錬を積んだことにより、ドラ息子の悪名は一旦収まった。
がしかし、前世に比べて発展している世界に興奮し、時折不自然な行動を取っていたために悪名が完全に消えずに残っているわけである。自業自得でもあるが。
「……兼君の苗字は四々舞って聞いたけど、もしかして四葉の関係者……だったりするのですか?」
何気ないがとても突っ込んだ質問を、ほのかが訪ねてきた。四葉は魔法師界隈では恐怖の対象だ。無理もない。
「あー……答えはノーだ。よく聞かれるが四葉家とは無関係だ。」
「そうですよね。同じ数字だからって関係があるとは限らないですもんね。」
実際は関係者どころか分家だが、教えることができるわけがない。
嘘をつくことになるが背に腹は代えられない。
「レオが聞きたがっている兼が有名か否かだが、悪い意味で有名人だぞ。」
「悪い意味? さっきもドラ息子がどうとか言っていたが、それが関係しているのか?」
レオの無邪気の一撃。兼はダメージを受けた。
「ああ。理解を深めるためにはまず四々舞家の話をする必要がある。四々舞家は兼の父親、三代目当主四々舞
兼の悪名のスケールを理解してもらうために四々舞家のあれこれから語り始める達也。
「武雄氏には三人の子供がいる。長男の四々舞家
「おう、俺だぜ。」
「……長男と長女は双子で一高の卒業生だ。九校戦でも活躍している。父親の活躍や長男長女が世間で褒め称えられる中、兼は四々舞家の汚点と言っていいレベルで堕落していたんだ。」
話の途中で茶々を入れたのが悪かったのだろう。達也の俺に対する口撃(誤字に非ず)がえげつないです。
このままじゃマズいと判断し、兼は弁明する。
「た、確かに俺はろくでなしで人でなしだった。が、それも三年前までの話だったんだよ。」
「三年前……何か変わるようなきっかけになる出来事があったのか?」
「いや、ただ交通事故で生死を彷徨っただけだよ。」
軽いノリで気楽に話したがそれでも少し空気が重くなってしまった。
この空気を壊して達也さん! と言わんばかりに兼は視線を向ける。
「兼は交通事故から退院した後から、変わったとよく言われている。一時は記憶喪失になったのではと言われたくらいだよ。」
「記憶喪失なんてなってたら生活できないっつーの。拾った命を無駄にしないように悔いなく生きようと思っただけだ。」
達也の辛辣なコメントに批判交じりに反論する。
まぁ、本人あそこで死んでるんですけどね!
「とまぁ、事故ってから今に至るまでは真面目に勉学に励んで魔法もしっかり覚えて、晴れて今ここにいるってわけさ。一科生になれなかったのは残念だったが、レオや達也たち友人に恵まれたから二科生でも悪くなかったと思ってるぜ。」
「話がずれているぞ。その事故を区切りに過去の悪名は薄くはなったが、時折不自然な行動をするため未だに四々舞家のドラ息子の肩書が消えていないというわけだ。」
いい話風に纏めようとしたが達也に阻止された。解せぬ。
「というわけで、昔と違って素行は悪くないが偶に奇行に走るからまだ悪名が残ってるわけだ。しかも厄介なことに真面目になる前の悪名が今なお語り継がれているというね。」
三年も経てば情報が更新されててもいいと思うんだけどなぁ。と遠い目をする兼。
「えーっと……つまり兼はその噂と違って真面目だが偶に変なことをするから悪名が消えず、まだ悪い意味での有名人ってことでいいんだな?」
「ああ。概ねその認識で間違いない。」
レオのざっくりとした要約に達也が肯定する。
ざっくりしすぎて女子組が苦笑するレベルだ。
そんなこんなで兼の悪名の由来を語っていたらあっという間に駅に着いた。
ここで皆解散し、各々の帰路へと付くのだった。
◇ ◇ ◇
その日の夜。兼は自室にて考え事をしていた。
明日以降の出来事に対する干渉の有無だ。
達也の風紀委員入りの話に友人らは混じることはない。そもそも干渉していい部分なのか……。
ある意味ではこれは今後の動きを大きく左右する出来事だろう。
そこにただの二科生でしかも達也とは別の意味で悪目立ちしている兼が茶々を入れようものなら話が余計こじれる気がしてならない。
「だぁー! 考えがまとまらん! 寝る!」
兼は考えるのをやめた。話の流れは完璧に覚えているからその時その時で対処すればいいだろうと開き直ったのである。
布団に潜った兼はすぐに眠りについた。
兼が動かずとも周りが勝手に兼を巻き込むこともあるということを、兼は選択肢の中から除外していた。
自分はイレギュラーな存在だからとその可能性を排除していたためである。
翌日、その考えが否定されることになるとは夢にも思わないだろう。
読んでいただきありがとうございます。
あと、投稿が伸びてしまい申し訳ありません。
四話目にしてあとがきのネタが切れそうです。
元々面白いあとがきなんて書いていませんでしたが……。
最低でも月一投稿目指します。