転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

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- プリンセス・ストライク

俺は今、日本の滋賀県██市の役所にいる。

ピンポーンという音がよく響いて、中々にぎやかだった。

整理番号が更新されて、人の列が増えたり減ったりしている。

仕事が“永遠に終わらない”ような異常さは感じられないので少し安心した。

俺はそれらの営みを見ながら、空いたPCを使ってある母子家庭の個人情報を調べていた。

日本の役所でお目当ての情報を手に入れることはそう難しくない事だ。

市民に開かれている場所だから、まず侵入すること自体が容易だ。

住民票でも取りに来たという顔で、ただ入ってしまえばいい。

FBIやATFのように、複雑かつ様々な認証に戸惑うことがない。

おまけにアッチだと溶け込むためには様々なことを『意識』しないといけなかった。

その点からも楽だった。俺は多分まだ一般的アジア人だ。

少なくとも自分にとって確定している自己要素の一つが活かせた。

役所の場合、俺はただの職員として紛れ込んでいるだけだ。

適当な空いてる席を見つけて調べるだけだった。

認証などは他の人にやってもらえば事足りる。

日本語が読みやすいことに感動すら覚えた。

そうしている内に俺が知りたかった相手はとても簡単に見つかった。

なんせ名前がわかるんだから、手がかりとしてはそれは非常に大きい。

母子家庭だということも、いい特定条件だった。

そして彼女らがまだ生きているということは、事案の発生を阻止できる。

なにもかも自分のために、いつも浅ましいと思ってる。

表面塗装が剥げてきた学生手帳に見つけた住所を書き込んで、俺は席を立った。

登校してないけれども、まだ俺はそれを未練たらしく使っていた。

きっと同級生たちは記憶処理されているだろう、いいことだ。

さよならする手間が省けたんだと思えば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして前に指名手配されてた奴かな、再配布とか何やらかしたんだろ」

「きっと碌でもない事でしょ?」

 

運転席にいる先輩の三輪さんはボーッと外を眺めながら言った。それもそうだ。

現実改変者ならきっと……口に出したくないような事でもやったんだろう。

私は助手席で、朝のブリーフィング中に配布された顔写真込の資料を改めて読む。

資料の内容をざっくりと要約するなら、こうだ。

危険な現実改変者が逃げてるから、見かけたら下手なことせずに最寄りサイトに通報してね!

読んだ感じ、情報を素直に下ろしてくれてないのがわかって胸騒ぎがする。

ココは“そういう”所ではあるけど、つくづく本物のブラックだなぁって思う。

異常現象遺児として財団の施設に拾われて育って、何となくでエージェントになったけれども。

やることなすこと全部闇にしまい込むわけだから仕方ない。

ため息をつきながら三輪さんに話しかけようと思ったら、彼女の目が何時になく真剣になっている事に気づいた。

胸騒ぎが、大きくなる。

 

「ねぇ、矢津ちゃん……」

「どーしました?」

 

三輪さんが本当に何でもない様に話を振ってくる。

外を見つめていたはずの目は、車内のメーターを睨んでいて怖い。

それが逆に不安にさせた、一言一句聞き逃さないように私は固まる。

 

「雑談してるように……消火栓の所にいる人を見て」

「えっ、はい」

 

視線だけ恐る恐る資料から逸らして、外を見る。

普通の街並み、麗らかな日差しの元、犬を散歩するおばさん、手押し車にもたれかかるように歩いているおばあちゃん。

そして消火栓の所にいるのは……異常性を感じられない普通のサラリーマンだった。

手帳に何か書き込んでいる? 気になる点と言えばそれぐらいだ。

私の認識はそれだけしか感じ取れない、けれども三輪さんは違う。

彼女には、そういった事に特別強い抵抗ができるようだった。

ペアの事を知れ、二人行動の鉄則だったけど不安が増幅されただけだった。

 

「どんな人がいる?」

「普通のサラリーマンだと思います、若い男性、手帳に何かを書き込んでいました」

「そうやって見えるんですね」

 

誰も乗っていないはずの後部座席から、男の声が聞こえてきた瞬間だった。

 

「逃げろ矢津っ!」

 

命令する声。三輪さんは後部に向けていつの間にか抜いていた消音拳銃を撃った。

銃声は三発。私はドアを開けようとするが、どうしても開かない。

ロックが解除できない、いや、私はドアロック解除の仕方が“わからなくなっている”。

静かな絶望感が手を痺れさせた、私達はこの車に閉じ込められてしまった。

 

「驚かせてすいません、お邪魔してました、“見てくれて”助かりました」

 

心臓がキュッとした。後ろにいるのはきっと資料に書かれていた現実改変者だ。

絶対にそんな気がする。銃弾は間違いなく命中したはずなのに、平然としているのがその証拠。

対現実改変者オリエンテーションを思い出す。

――気づかれている段階で、全ては失敗している。

硝煙が消えない間に車内には、私と三輪さんと誰かの呼吸音しか聞こえなくなった。

 

「……通報ボタンを押すのを、少しだけ待ってほしいんです」

「……」

「お願いがあるのです」

 

三輪さんは片手に拳銃を、片手を車に搭載されているサイトへの緊急通報ボタンへと伸ばしたまま動けない。

私もそうだった、それに動いてしまえば、反抗の意思を少しでも見せたら何をされるか解らなかった。

だけど相手の言葉の意味を理解しようと、頭だけはグルグルと動いている。

これから酷い事が起こっても絶対に情報だけでも持って帰らなきゃならない。

そんな覚悟を決めた時だった。

 

「お二方に、これを収容していただきたいのです」

 

その言葉と共に袋をガサガサと鳴らす音だけが響く。

視線を動かすと、コンソールボックスの上にはキラキラと煌くティアラがあった。

海外のお姫様が付けていそうなソレに一瞬目を奪われてしまう。

 

「要注意団体『博士』が作り出したオブジェクトです」

 

『博士』、聞いたことがあった。

米国で活動する要注意団体『ワンダーテインメント博士』、その悪辣な模倣犯。

子供を対象にして、明らかに害意のある玩具を模したオブジェクトをばら撒く悪魔。

だけど、なぜ、それを現実改変者が持っているんだろうか、まさか――。

 

「表情が素直な人なんですね、違いますよ、違います、私はただ回収しただけです、それに……こんなの、自分には……絶対に作れない……」

 

三輪さんから少しだけ睨まれてしまった、余計な刺激を与えるなと言う意味だ。

けれど少しだけ気になった。

現実改変者は明らかに気落ちしたような声を出していたことが。

 

「パッケージも置いていきます、発見の経緯、特別収容プロトコル、説明は同封されているメモを参考にしてください、信じてくれないとは思いますが……それと決してこれを3歳から17歳までの女性に近づけないでください、それだけは守ってくださいお願いします」

 

それは報告書のフォーマットだ、なんでそれを知っているのか。

聞きたくなって仕方なかった。

現実改変者は概ね敵である財団を知っている様に振る舞うと聞いたことがある。

それかもしれない。衣擦れの音がしたのはその時だ。

その現実改変者が頭を下げているのが見えて、一気にシュールな気持ちになった。

 

「こちらを置いていきますのでお願いします、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした、もう動いて大丈夫です」

 

後部座席のドアが開く音。それと同時に体の拘束が解かれる。

私と三輪さんは即座に車から飛び出して辺りを見回すが、それらしい人物は何処にもいなかった。

しばらく警戒した後、車をその場から動かすことなくサイトへの通報と報告を行い、私達は別途帰還することになった。

 

サイトに帰還できたときにやっと私は自分が生きてる事に気づいて、涙を拭うことになった。

けれども、本当に大変なのはそれからだった。

私と三輪さんは厳重なメンタル、メディカルチェックと聴取の嵐に晒された。

二人共何もされていなかったし、何の精神影響もなかったのは幸いだった。

堪えたのは聴取だ。あれは指名手配されていた現実改変者だった。

おまけにオブジェクトは、実際に本物だった。

現実改変者が何を考えて、私達にあんな物を託したのか解らなかった。

たぶん、きっと、アレをどうすればいいのか解らなかったんだと思う。

お子様神様……現実改変者についての講義でそんな俗称があった。

あの資料に写っていたのは、まだ学生の子供だった。

子供が、そのまま力を持ったら……行きつく先は一体何処になるのだろう。

サイト医務区画のベンチでそんな事を考えながらボーッとしていると、同じく解放された三輪さんが肩を叩いて互いにおはようと言い合った、あれからもう一日経っている。

率直に思ったことを伝えよう、彼女にはそうしたくなる魅力があって好きだった。

 

「先輩、私……エージェントやめていいですか?」

「矢津ちゃん……それ記憶と経歴が丸々消えた無職が生まれるけどいい? 矢津ちゃん再就職できる?」

「…………勤め続けます」

「よろしい……あー、ふたりとも生き残れてよかったね」

 

頷く。生きた心地がしなかったが、今から思うと不思議な記憶になっていた。

妙な現実改変者は、あの資料ほどに危険な存在ではあったけれども。

……そういえば。

 

「先輩?」

「んーどした?」

 

三輪さんは、患者衣を妙にうまく着こなしながら私に顔を向けた。

美人だ……いや違う、ずっと気になっていたことがあった。

 

「先輩には消火栓に居たサラリーマン、どう見えてたんですか?」

 

三輪さんは私の言葉を聞いた後、少しだけ考えて、こう答えた。

 

 

 

 

 

「なにそれ、そんな事あった……?」

 




出典元、元ネタ
SCP財団日本支部 http://ja.scp-wiki.net/

作者itinomiyaP様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-725-jp

作者hannyahara様 http://scp-jp.wikidot.com/hannyahara-3

>仕事が”永遠に終わらない
作者ukit様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-502-jp

>プリンセス・ストライク
佐藤大輔著 レッドサンブラッククロス インディアン・ストライク

誤字脱字報告感謝。
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