転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

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- ある学生の死

「あの”文書”の、時空間異常なのか……」

 

機動部隊い-30(”玉網”)隊長、宗像考児は宙に浮かぶ黒球を見上げながら呟いた。

まるで空間を真円に抉り取ったかの様だ、恐らくどの角度からもそう見える。

周辺では部隊員たちが携行してきた観測機器を設置していく、慣れたものだ。

PoI-████に関する直接的な任務を扱う対策α班に組み込まれているのが、今の彼が率いる部隊であった。

部隊員共々、その中でこういった物を見るのはもう珍しい事ではなくなっていたが、それでも派遣先には必ずSCiPが存在しているというのは今までの常識が覆るようなものである。

――まず長野県██山中の洞窟内という位置情報に偽りはなかったというわけか。

宗像は思った。

きっと今回も全てはあの”文書”の通りになるのだろう、と諦観すら抱きながら。

同時に彼はPoI-████の得体のしれない動き方に恐怖感すら抱き始めていた。

奴が、何故これだけ多数の異常存在を知っているのかという疑問がどうしても解決しない。

それを財団へと知らせてくることも。

その振る舞いを製造者と疑うにはあまりにも……他人事じみているのも引っかかっている。

現実改変者でありながらも学生だったはずの人物、その何もかもがちぐはぐに感じられた。

追跡を続けていけば、その謎が解けることもあるのだろうか。

今はやるべきことをやらねばならなかったが、どうも心の凝りは消えてくれなかった。

蒐集院で実戦部隊を率いていた彼の師が言っていたことを思い出す。

常に臆病かつ、大胆であれ。異常存在に対し常に警戒を持って対峙し、処置を行え。

恐怖心が麻痺してしまうものが多いこの組織で、宗像はあえていつも何かに怯える様に過ごしていた。

だが今回はもっと別の、居心地の悪い真実が蠢いてるような気がしてならない。

まるで自分がいつも使っている枕の下に巨大な蛾の幼虫が潜んでいるような。

それが宗像の眉間にシワを寄せ続けて、部隊員が彼の不興を買ったのだろうかと存在しない不祥に思いを馳せていることに、彼自身は気づいていなかった。

 

『菅沼研究員、確認をお願い致します』

 

部隊員のアンドレイが、認識災害マスクを通した上で空間異常へとカメラを向けながら喋る。

PoI-████の脅威度が上がるに連れて巨大化していった対策β班で、古参となっている菅沼上席研究員は近隣サイトからカメラを通して黒球を見つめる。

文書にはスケッチが含まれていることもあったが、その情景と非常に似通っている事に彼女は気づく、まるで見てきたかのようなタッチだ。

だが機動部隊員たちは罠などの可能性も警戒しつつ、人が立ち入った痕跡などを調べていたがどちらも存在しない。

 

『ありがとうございます、恐らくこれが16枚目の文書の通りの物である可能性は高いと……であれば……これは……検証を始めましょう』

 

文書の通りであれば黒球は収容を行うであろう財団に対しての、悪辣な時空間トラップだった。

『警告文書』とα班、β班、双方からそれは呼称されている。

PoI-████によって財団サイトへと不定期に送りつけられる文書であり、そこにはSCiPの場所、発生日時や生息場所などが、まず記載されている。

特異な点は必ず文書にはゲームか何かの説明書のように、そのSCiPの概要がついていた事だ。

例えば今回の場合、この時空間異常があまりにも性質の悪いものだということが示唆されていた。

絶対にありとあらゆる物質を吸収させないこと、何にも増してまず海水などもってのほかだという厳重な注意文が筆圧が強めの文字で追加されてもいる。まるで、全てを知っているかのように。

そしてそれは今回の場合もどうやら正しいらしいというのが、後方業務全般担当のβ班の意見となった。

収容スペシャリストたちによって用意された幾つかの計測装置、今回の性質通りであるならと用意された時間異常を検知する機材も、文書内容の正確性を高める結果を示していた。

恐らく、これから此処には真空かつ光源のない電波暗室が建設されることになるだろう。

今までと言えばSCiPというのは多数の人命を理不尽に踏みにじった上で存在を確認され、数々の実験を以て一つずつその性質を暴き出して収容するものだった。

だが、これはなんだろう。

まるで”財団の様な正常性維持機関が残した作業を引き継ぐ”かのように、文書にはSCiPに対する明確な答えが用意されている。

宗像には、それが例えようもなく気持ち悪かった。

PoI-████は、財団を何処に導きたいというのだろうか。

黒球は観測機器に囲まれながらも、ただそこにあるだけで何も答えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー……」

 

夜、私は与えられた個室で遅れに遅れた昼食を摂っていた。

例の時空間異常の収容に追われ、現場のα班隊員たちと同じく飯抜きで分析に従事していたためだ。

見知らぬサイトの食堂に行くよりかは、個室で食したほうが気楽だった。

届けられたメニューはグローバルなもので、日本のサイトでは珍しいキッシュが美味しい。

こういう所の福利厚生は極地でない限り何処もしっかりしているのがニクいなぁと思う。

でなければすんなりやめて、毎時毎分毎秒PoI-████の事を考えなくて済む生活に戻りたかった。

それでも行儀が悪いと思いながらもミニサンドイッチをつまみ、ディスプレイの中のカーソルを動かした。

データファイル、ログ、開かれていく画像には幼稚園のお遊戯会を映したと思われるもの、級友らと笑っているPoIの顔、燃え尽きた家、監視カメラ映像の切り抜き、血まみれのSCPSあかしま、そして警告文書が映る。

PoI-████の調査は進むどころか、次から次に懸案事項が増えていく有様だった。

最初は財団日本支部だけの問題だったが、米国本部、果ては韓国支部やロシア支部、フランス支部にまで瞬く間に飛び火していった。

特にその発端となった財団日本支部では自らの所属するPoI-████対策α・β班が新設され、今も拡大を続けている。

日本に次いで目撃情報やサイトへの侵入が多い米国本部でも捜索チームが結成されたと聞く。

その米国チームとの合同追跡の協定もまだだが、いずれ結ばれるだろう。

でも、それだけだ。本人を収容、もしくは終了する目処は何処にもたってない。

その努力をあざ笑うかのごとく警告文書は送られ続けてくる。

文書の特異性から一部ではPoI-████がSCiPを製造しているという説もあるが、どうもそう思えない。

 

「本当は何がやりたいのかな」

「自己満足のためですよ」

 

誰も居ないはずの部屋、後ろから聞こえた声になるべく驚かないように努めた。

ゆっくりと息を吐く、平常心、カオスインサージェンシーが攻め込んできたときだって実験続行したではないか、なんてことない、多分。

それに、乏しい情報からつなぎ合わせたPoIの人物像なら直接的な危害が及ぶ可能性は少ない。

危険な現実改変者であるという事実には、何ら変わりようがないけれども。

 

「いつから?」

「そちらのご飯を届けに来てからずっと、食べ終わるまで待ってようと思ったんですけど居すぎるのも良くないかなと思って」

「っ……そう」

「座っても?」

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

何かが動く音が聞こえる、背中を汗が伝った。

直感は、間違いなく件のPoIであると告げていた。

対策本部であったのならこうも安々侵入されることも……ああ、”だから”なのか。

危険性をわかっていながらも文書に飛びついて、まんまとこのサイトに誘導されたわけだ。

 

「オリエンテーションを見たり報告書を読みました、他人から見た自分って恥ずかしいものですね」

「それは……」

 

読まれてもいるか、もし生きて帰れたらセキュリティをもっと厳重にしなきゃならない。

嫌だな、これじゃあ死亡フラグだ、頭の何処かで冷静な自分が呟く。

間髪入れずPoIは語りだした。

 

「……自分は手紙に書いてあるSCiPの制作には何一つ関わっていません、繁栄の街灯も、キメラの剥製も、時が止まってしまった村も自分には作ろうと思っても絶対にできない、信じてほしいのです、対策班の皆様に労力をかけてしまうのが忍びなかったのもありまして、それだけお伝えしたいと思っていました」

 

いずれの異常存在も、文章に記載されていた覚えがあるものだった。

現在はどれも無事に収容済みとなっている。

けれども、絶対にできないというのはどういうことだろうか。

こんな状況なのに好奇心が動き出して抑えるのに苦労する。

 

「それと菅沼さん、あのオリエンテーション」

「……」

「自分の人生は、あの時から壊れてしまったわけじゃないんです」

 

そのフレーズで思い出す、まだ自分が上席になる前の話だ。

残された情報から彼の人生を組み立てた上で、オリエーション時に私は述べた。

あの時というのはきっとインシデント193267-1、交通事故の事だろう。

財団に初めて感知されることになったPoI-████の異常性の発露、その始点。

では、何時から? その思いに応えるように彼は言った。

 

「全ては、私が産まれた時から破綻していました」

 

声色は変わらない、だけどその内容は何故か一層悲壮なものを連想させた。

私はどうしようもなく息が詰まって胸を抑えた、瞼も重たくなる。

薄れゆく意識の中で呻く、しまった、PoIは逃げようとしている。

それに気づいてカーソルを動かし通報しようとするが、もう遅かった。

 

「この写真のデータもらっていきます、良い夢を」

 

その声を聞くと同時に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから目覚めた後にデータファイルの中で一つ。

級友たちと笑っているPoI-████の写真に、コピーされた形跡があった。

被害らしい被害はそれだけで済んだことは幸いだったけれども。

PoI-████がその写真を選んだという事実が、胸の中で重く沈んだ。




出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/

作者dr_toraya様  http://scp-jp.wikidot.com/scp-280-jp

>時が止まってしまった村
作者rkondo_001様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-619-jp

>キメラの剥製
作者elsamael様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-298-jp

>繁栄の街灯
作者Fennecist様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-183-jp


>- ある学生の死
佐藤大輔著 レッドサンブラッククロス ある中尉の戦死

誤字脱字報告感謝

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