転生者vsSCP   作:タサオカ/tasaoka1

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- vs………

麗らかな陽気というのだろう、心地よかった。

そのまま目をつぶり、意識を手放したくなる場所だ。

昼間だからだろうか、幾人かの親子連れが子供を砂場で遊ばせている。

その子どもたちの騒ぐ声すら子守唄のように耳へなじむ。

視線をそらすと、雑種犬を連れた老婦人がゆっくりと坂を登っていくのが見えた。

閑静、平和という言葉が似合う公園だ。

おかげでリラックスしながら作業ができそうだった。

一旦、息をついて手前に視線を落とす。捨てられていた雑誌が俺の机だ。

その上でメモを書きながら頭を捻り続ける作業がかなりの苦痛で、逃避していたのだ。

頭の痛くなるような文字列がのたくっては世界の危機を訴えていた。

直近での危険案件を書き連ねて、どうすれば良いのかを先程から考えていた。

単純に危険度の高いもの、収容の方向を誤れば死人が出るもの、初見殺し、直接介入した方が早いもの。もうこれで何枚目かは覚えていない。

文字だけが殺伐としている。スマホで解説動画を見ていた頃と状況は同じなはずなのに。

こういったものを途中から数えるのは止めていた、意味がない気がしたからだ。

もしかしたらまだアプローチが足りていないかもしれない、とも思い始めている。

いや…………きっとそうだ、そうに違いない。

だって今も、俺は――――――――――――――――――――

 

 

 

 

                

               

                        上手ね

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かの笑い声が聞こえたような気がした。

意識が戻る。いつの間にか立ち上がっていた。

粉々になったベンチの破片が背中に刺さっている

聞こえる幾つもの声、叫び、悲鳴。先程の静けさは何処かへと消え去ってしまった。

我が子を庇うようにその場から動けなくなっている母親を見た。

何かを思い出しそうになる。ごめんね。だが少なくとも爆撃ではない。

攻撃に直接的に巻き込まれた人は幸いなことにいないようだ。

流れた液体の感触、粘着いた服が張り付いて、大きく息を吸う前に3発が突き刺さった。

頭と胸、そして首。ダメ押しとも言えるべき三発が、恐らく別々の発射点から。

動こうとして、不意に空気が漏れた。無様にひゅうひゅうと間抜けな音を立てる。

貫通した穴から血液が鼓動とともに吹き出していった。

思考が途切れてし――――その認識すらも破裂音が寸断していた。

体内の銃弾が爆発して頭部と胴体と下半身が分かたれたようだった。

見えていないからわからない、強いレーザー光線か何かで目も焼き潰されている。

だがその一瞬をすり替えるように世界は空の青を、血の赤さを取り戻し、射点を特定させた。

いつぞやの二人組の財団エージェントより薄い気配、のようなものを辿ろうとする。

視線を逆走するイメージを広げ、素直にそれを信じようとする。

そして唇を噛む。全くもって一切の容赦がない、その振る舞いに。

市街地でこんな攻勢手段を取ってくる相手は非常に限られてくる。

夜にやればよかったのにと思って納得する。だからこそだ。

普通の現実改変者なら、こんな真っ昼間の公園で、相手が全力で襲いかかってくるとは考えない。

だが彼らならやりかねなかったな、理解を深める、俺はまだまだ甘い。

そして、このままエスカレーションすればどうなるかわかったものではない。

何時ぞやの様に騒ぎが大事になってしまえば、目的の達成に支障が出る可能性すら出てくる

だから少なくとも現状の打開策はすでに自分の中で出来上がっていた。

彼らはもう逃げ始めているだろうな。

終了できず反撃を始めようとする現実改変者にわざわざ付き合う必要はないからだ。

だが彼らには俺のそばに一時的にでも居てもらわなきゃならない、接触する必要がある。

戦線は拡大することになる、それが良いことか悪いことかはわからないが。

少なくとも、死人は減るはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界オカルト連合極東部門所属、排撃班2002のラウドさんでしょうか」

「そのとーり、バレてんのかよ、いやだなぁ! 今からさ、殺されんの?」

「あ、いや、そういうわけでもないんですけど」

 

やけに元気なこの人に対して急いで首を振る。彼がそう呼ばれていたのを聞いただけだ。

眼の前にいるのは俺の頭を巨大な対物ライフルで見事に撃ち抜いた狙撃手の人だった。

あの口径で銃声もしなかったのだから恐らくGOCの技術力の賜物だろう。

周りに被害がなかったこともいいと思う、素敵な腕前だ。

ちょうど座っていたベンチは赤茶色に塗装されて前衛的なオブジェに変わり果てたけど。

同時に他の工作員も胸を撃ってきたのだから対現実改変者セオリーに忠実だと思った。

現実改変者が想像し得ないタイミングでの重要部位を瞬時に破壊するプロトコル。

それがわかっていたから、大丈夫になってしまった。

 

常に警戒すればいい。

 

これでも一度目の襲撃よりはずっとマシだ。

最終的に市街地でオレンジースーツや名称不明兵器まで駆り出てくるとは想像以上に自分がヘイトを買っていたと自覚した。あの時はボロ雑巾にされかけながらも逃げるしかなかった。

巻き添え被害を恐れて、その後からトラウマで人気のない夜の公園でしか横になる事が出来なくなったぐらいだ。今回はそれを踏まえての比較的スマートな排撃だったのかもしれない。

財団との協定上、日本で事を起こすなと注意勧告がなされたのかも。

日本はこの世界においても、わりかし各団体の歩調がまだ取れてる方らしいという感じがする。

その結果として、俺の目の前には彼がいる。流れで聞いた。

 

「ラウド……スペルはわからないんですけど声が大きいんですか?」

「ん?…………そうだ、自衛隊にいた頃からしゃべりがうっせぇってな、そうそう喋るなと言われてたんだわ!」

「なるほど、それからとられているんですね」

 

ハブのガイドにはコードネームはそういった事から取られると書いてあったような。

たしかに声が大きい、よく通る声だった。

自衛隊上がりの人とは狙撃の腕も納得だが、声の大きいスナイパーだなんてイメージと似合わない気がした。

 

「所で、どうしてオレまだ生きてるんだ?」

 

バナナは遠足のおやつに入りますかぐらい自然に彼は聞いてきた。

俺は即答する。

 

「貴方が生きていることに意味があるからです……あなたのスーツ仲間は全員隣の部屋で寝かせてあります、少し“酔わせた”だけなので多分健康問題は起きないと思います、ですがこの後は念の為、体の検査を……」

「わかった、わかった、俺が生きてかえることができれば、な」

「それは心配ありません、もとより殺すつもりも怪我をさせるつもりもありません、ただ……」

 

ただ話してもらうだけだ、GOCという組織自体に。

対面の椅子に座る。少し疲れていた、くるぐると頭痛は始まりつつあった。

体のあちこちを揉む、最近少し痩せてきたのかもしれない。

お菓子ぐらいしか口にできないから、当然だろうな。

周囲を見回す、ここは彼らのアジトだ。

普通のアパートの一室ではない、簡素かつ物資が集積してあるセーフハウスだった。

椅子は適当なパイプ椅子を拝借している、体をあずけるとキィっと少しだけ音が鳴った。

GOC絡みで記憶からアレが引き出された。

椅子が勝手にテレポートしてきたりしたら便利なのになと思う。

だからこそ、そんな彼らの力が必要になる。

頭を上げるとラウドさんの目がこちらを見ている。

柔和な態度を見せているが、その瞳の奥に宿るものの意味を俺は読み取れていた。

今すぐこの拘束をなくせば首に噛みつかれるぐらいだろう。

どうしようかなと思う、手持ちのレコーダーはない。

 

『伝えてほしいことがあるんです』

 

口頭でお願いするだけだ。

 

「自分は手を広げる必要があると思っていました、財団だけじゃない、あなた達にも、蛇の手だろうと、イニシアチブだろうと、結果的にあなた達は得をする、貴重な排撃班や艦艇の喪失を防ぐことができる、他勢力に対する面子が保たれる、確かにあなた達はしくじったけど大きな目で見れば、私を削除することにきっとそれは繋がる」

 

そう神の手、スピア、最高で趣味の悪い作家たちに、あるいは……誰かの投票で。

もしできるのならどこかだれかのベッドの元に立って、自分の下顎を眼の前で切り取ってやりたかった。

 

「何を……」

「あなた達もこの世界に必要な存在なんです、財団とのプラスサムゲームになるかもしれないと思っています、要らないものは此処にいる俺だけなんです」

「……」

「これから財団だけでなくあなた達の力が必要になる時が来ます、浜辺で、宇宙で、あたらしい世界で、その時までに戦力が漸減することを避けてほしいのです」

 

長い独り言だ、一人が長いとこんなことになる、これじゃあ自慰行為だ。

でも混乱しそうな頭をスッキリさせるためには自分自身にも言い聞かせる必要があった

まだ俺は長々と続けるつもりなのだろうか、なぜ未だに俺はいるか。

その理由は一つ、足りないんだ。まだ。

死ぬ人々がいるから、消えるべきだからなのか。

俺は踏みにじったものに釣り合うように振る舞わなければならない。

いつか訪れてくれる抹消の時を、俺はどこか心待ちにしている。

 

「そして、あなた達が無事に生きて帰ることが私の意思表示です」

「俺はメッセンジャーってわけ?」

「そうです、それと……貴方たちは私に敵対的かもしれないけれども、私は貴方たちと敵対したいわけじゃない」

 

そして、ラウドさんの目を見る。先程から彼が発している信号のことはわかっていた。

この人も、諦めなかった。俺も諦めてはならないのだろうか、最期まで。

もう行くべきだろう、そう思って立ち上がる。

 

「僕は貴方たちの事のそういうところを尊敬しています、頑張ってください、応援してます」

「皮肉か……?」

「いえ、本心です」

 

そう告げるとラウドさんは笑いを漏らした。

その哄笑に含まれている感情は俺なんかではきっと読み取れない。

俺は椅子から立ち上がり、陽の指す方へと歩く。

 

「クッ、ハハハ!まぁ……わかってるか!」

 

背後からの笑いに頷く、もう間近ってところだろう。

そして、そのまま窓を開けて一息にベランダの柵を乗り越えた。

浮遊感、飛び降りる瞬間の背後で爆発音が聞こえた、おそらく扉を破壊した音だろう。

出入口の前に別動の排撃班が待機していたのはわかっていた。

外にも恐らく張っている工作員がいるだろうけれども、袋の鼠になるよりはいい。

室内で戦闘になってしまえば、寝ているスーツ仲間たちが巻き添えを食らうかもしれない。

だからこそ、外のほうが色々と都合がいい。

それに、これ以上の余計な戦闘は痛みが我慢できそうにない。

なら遺された手段は一つだけ。

 

 

 

逃げるのは、得意だ。

 




出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/

世界オカルト連合事件簿
http://scp-jp.wikidot.com/goc-hub-page

>もしできるのならどこかだれかのベッドの元に立って、自分の下顎を眼の前で切り取ってやりたかった。
SCP-3999 作者lordstonefish様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-3999

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