> World
『町長候補が殺人未遂を告白、警察は緊急逮捕 カルトに傾倒か? アルバニア』
20██.04.11 Thu posted at 16:45 UTC
今月5日、アルバニア北部の町ドレーズで、アルバニア民主党に所属していた政治家ンドレッツ・ゲガ氏が公の場で殺人未遂を告白するという事件が起こった。
同氏は4月4日未明に女性を狙って犯行を行ったと町長選挙演説の場で告白し、町民によってその場で通報された。現地警察は近隣地区で襲われた女性の被害届を受理していたことから、緊急逮捕となった。
被疑者は容疑を全面的に認めており、聴取では「選挙での勝利のために女性の遺体が必要だった」「犯行途中で何者かに襲われ隠蔽ができなくなったため、町の人々に謝りたかった」など要領を得ない発言をしていることから近々精神鑑定が行われる予定だ。
ゲガ氏の自宅からは犯行に使われたと思われる工具、何らかの宗教的儀式道具などが押収され、警察はこれらを詳しく調べると共に余罪を追及している。
逮捕後、アルバニア民主党は同氏を除名処分とし町長選挙からの撤退と謝罪を表明している。
幸いな事に被害女性に命の別状はなく、また警察は犯行を妨害した人物の身元確認を引き続き急いでいる。
・
・
・
・
・
「どうでしたか」
「裏はとれた、情報の引き出しは面倒だったがね」
「ふむ……コーヒーはいりますか?」
あいにくインスタントしかないと付け加えて、私は席を立つ。
「ああ、エヴァレット、頼む……少し長くなりそうなんだ」
2つのカップを出し、ホテルの備え付けポッドでお湯を沸かしながら考えた。
今回のPoIの目的を――。
「相変わらずの映りたがりだな」
その言葉とともに机の上で、彼が持ってきた資料が乱雑に広げられた。
現地警察から提出された防犯カメラ映像の切り抜きにPoIの姿が隠蔽もなく写っている。
相変わらず何事もなかったように振る舞う少年の姿は実に挑発的に思えた。
PoIはアルバニアのドレーズという町に1週間ほど潜伏していたことがわかっている。
財団webクローラーは英国放送協会のこの奇妙なワールドニュースと防犯カメラ映像からPoIの存在を認識した。
その流れでEU圏捜索チームである我々が、この東欧の片田舎に派遣されたというわけだ。
だが、例に漏れず今回も我々が遅かった。
「この様子だとカバーストーリーは適用されないでしょうね」
「資源を無駄遣いすることはないからな、精神異常の政治家が人を襲った、そんなつまらないニュースとして記録されるだろうよ」
事後処理の心配をしなくていい場合が多いのはこのPoIの特徴だった。
むしろそこまで気を回せるほどの余裕をこちらに見せつけているのかもしれない。
一番の面倒事を発生させるこのPoIの存在が野放しであるが、気にしては負けだ。
何より未だその脅威は留まることを知らず、関与件数は増加傾向にある。
グリーンにありがちな愉快犯というわけでもないことは、すでに周知の事実だ。
それがどういった思惑で動いているのかが……まだはっきりとは分かっていないが。
ここで我々が注目すべきは、PoIの行動であった。
今回の滞在の意味が一体なんであったか、私たちは残された結果より考えるしかない。
情報と言葉を重ね傾向を見つけて過去の事例を照らし合わせる作業は思いの外、気が滅入る。
そうしてコーヒーの湯気がすっかり立ち上らなくなった頃、向かい側の彼は渋い顔をしながら言った。
「……スガヌマ女史の説は正しいのかもしれないな」
私は頷いた。
未確認の情報を含めても絶対の確証に至らなくとも、一定の推論には足り得る。
その一つが日本支部でこのPoI絡みの案件を担当するスガヌマ女史が唱えたある説。
それが頭を過るのは無理もないことだ、そうであった方が道理が通ってしまう。
シュガーとミルクの入れ過ぎで濁るコーヒー風味の液体で喉を潤し、彼は語りだす。
「被害にあった女性は土着したギリシャ系の魔女の血を引いていた、あの日の月と星の配列に道具を考えると何らかの異常活動が起こっていた可能性が非常に高いと、俺は考える」
「つまりは……」
「奴は間接的に、この未完の儀式が起こることを知っていた」
奇跡論スペシャリストの一人である彼は髪をくしゃっと掻き、小さな唸り声を上げた。
「未来予知か?それとも現実改変か?だとしてもあまりにも回りくどすぎるな……あの政治家に自首させる必要なんてどこにあるんだ?」
「ない、それに例え前提がどちらであっても、この儀式をピンポイントに妨害できた説明がつかない」
思う、ただのグリーンとして扱えればどれだけよかったことか。
終了すればそれまでであったはずだ、だがその手段は今に至るまで尽く失敗している。
GOCによる二度の、あるいはもっと行われていた排撃計画も失敗した。
そうしてすり抜け続けた結果、PoIが関わった案件は認知されているだけで現在百件以上。
おそらくこちらに降りてきていない情報を含めれば、もっと多いだろう。
確認できる限りおおよその案件でのPoIの行動は、スガヌマ女史の仮説を補強していく。
「彼は……
だとしたらオレたちはお役御免だな、彼がどこか自棄になりながら呟く。
……そういった気持は私の中にもある。
が、それでは駄目だ。私たちが異常存在に頼り切るようなことはあってはならない。
異常に頼る正常性維持機関など出来の悪いジョークだ。
いずれスガヌマ女史に会わなければならないだろう、PoIとの接触者でもある彼女に――。
月が隠れてしまったかのような夜だ。
彼が乗ってきた車の車内ライトだけが頼りだった。
ライトの下、女性の血をわかりやすくナイフに付着させたままにする。
慎重に布に包ませ、これを家にそのまま置いておきなさいと伝えて渡し、次の言葉を考えた。
車の中にはアメリカ先住民族の装飾品ドリームキャッチャーや、ノコギリがあることを確認した。選挙活動の準備は万端だったというわけだ。
「……」
痛い。頭の中から外側へ、針を突き刺すような軽い頭痛と耳鳴りがする。
今ここで、この人を殺すのは簡単だと不意に思った。
言いなりになった人間の首の、一番太い血管にナイフを差し込むのはきっと容易い。
……けれどもそんなことはもうしたくない、やるつもりも今なくすべきだ。
人が、人を殺める前に止めることが出来た。それだけでいい。
これで周辺住人たちはおかしな夢に悩まされずに済む。
標的にされた女性は走って逃げていった、多分警察に駆け込むことだろう。
この地の夜勤警官たちの良心に期待して任せることにした。
ここまでは十分だ。この後が問題だろう。
「貴方は、町長になることはできません」
道端の草むらにへたり込んでも巨大な体躯を持った彼に、そう言い放つ。
ひくひくとその太い眉毛を引きつらせる政治家に向いていそうな癖の強い顔を見ながら、こちらの言葉を聞かせ続けた。
より強い力を込めるイメージを伴って、誘導するような言葉を俺は並べる。
「私がこの犯行の全てを告発する前に、貴方自身の口で弁明したほうがきっと罪は軽くなるはずです、特に人がたくさんいる場所で謝ったほうがいいかもしれません、例えばドレーズの町の皆さんに伝えられるように……演説などで」
そう、これでいいはずだ。
痛快で悲惨なオチはこれで無くなる。
犠牲者もなく、奇妙な夢もなく、ただ犯人が馬鹿げた自白する。
きっと俺だったらDVするよ、こんな話はつまらないだろうから。
また次の場所へ行かなければならないだろう。
自分は、未だこの世に存続し続けている。
きっとまだ足りないんだと言い聞かせた、月明かりすらない道路の暗闇へと踏み出す。
東欧は一年を通して温暖だと聞いていたが体と心がひどく冷え切っている事に気づく。
手をすり合わせて熱を作ろうとしても、うまくゆかない。
日本のそれと比べると心もとなくでこぼこしている舗装路を進みながら思った。
久々にどこか……屋根のある場所でゆっくりと眠りたい。
この生活を続けていたら眠りというものが限りなく浅く、気絶する程度のものへと変質していった。だからこそ眠れる保証はないけれど。
今日は、少しだけ眠れそうな気がした。
出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/
>ンドレッツ・ゲガ氏
SCP-2934 作者様不明 http://scp-jp.wikidot.com/scp-2934
>異常に頼る正常性維持機関など出来の悪いジョークだ。
http://scp-jp.wikidot.com/object-classes#toc4
誤字報告感謝