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[資格情報を承認]
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インタビューログ393-01 - 201█/██/██
インタビュアー: エージェント██
付記: 対象はPoI-████及びSCP-393-JPと接触した関係者です。
<録音開始>
エージェント██: それではお聞かせ願えますか。
芳田氏: はい。昨日の事でした。あの日は残業で帰りが遅くなるし、仕事自体うまくいかなくて苛立っていたのを覚えています。それでへとへとになりながら家に帰っている途中……象のぬいぐるみでした。怒らないで聞いてくださいね、馬鹿みたいな話なんですけど笑顔の象のぬいぐるみが私の目の前にいきなり現れたんです。
エージェント██:いえ、どうぞ続けてください。
芳田氏: ええ……そのぬいぐるみを見た時、何故か驚くより先に、なんで俺はこんなに疲れているのにこいつはへらへらしているんだと、無性に腹が立ったんです。その後はぬいぐるみをボコボコにしてやろうと拳を振り上げたんですが……彼が現れたのはそんな時です。
エージェント██: それが件の少年ですね。
芳田氏: はい……振り下ろした拳は彼に当たってしまいました、申し訳ないことをしました、けれども彼はケロッとしていて、私は大丈夫です、といいました。あの時は本当に我を忘れて人形を壊そうとしてたんですが、彼の瞳を見ているうちにスーッと気分が不思議なくらい変わって、自分がしようとしてた事に驚きさえしました。彼はいつの間にか人形を不透明な黒いゴミ袋にしまい込んだ後、色々話してくれました。
エージェント██: どのような会話をされたんですか?
芳田氏: そうですね……まず世の中にはたくさんの不可思議なことがあり、この人形もその不可思議な物であると伝えられました、人形を見た者は無性にこれを壊したくなって、壊したら大事な人に同じダメージが行くとか……私も信じられませんでしたが、不可思議な心の移り変わりを実感したばかりですし殴ってしまった手前、真剣に話を聞きました、それに明日菜に何か起こってしまったらと思うと私は
エージェント██: [遮って]それで、私達のことも彼から?
芳田氏: すいません、そういったものを集めている組織があると教えられまして、帰ったらここの番号に電話をかけて、来た人に正直に話してくれと言われました。それで貴方に来てもらいました。
エージェント██: ……なるほど、話は戻りますが彼はどんな様子でしたか?
芳田氏: あーそれは……あれ……? 今になって思うと……何だか酷く疲れているようでした、目の隈とかスゴかったし、服も何だか濡れていましたね、なんであんな状態でも殴られて平気だったのか……まだ子供だろうに……本当に申し訳ないことをしてしまった……。
エージェント██: ふむ……この後、幾つかの検査を受けてもらいますが大丈夫ですか?
芳田氏: はい、大丈夫です、それと、もし彼と知り合いなんでしたら……後日謝りに行きたいと言っておいてくれませんか?
エージェント██: ……かしこまりました、それではインタビューを終了します。ご協力感謝します。
<録音終了>
終了報告書: インタビュー及び検査後、対象者及びその家族全員にPoIとの接触による顕著な異常は認められず、記憶処理を実施致しました。
「警告しますッ!」
自分の耳がキンキンするくらいの大声を出す。
本当に久々にクソデカい大声を喉から絞り出して、俺は相手のグループをわざとらしく刺激する。
場所はダムのすぐ上、ガラスの国への入り口であるコンジットゲート、そこへ近づこうとしている──どう考えても管理業者ではない──怪しげな3人組に通告する。
すでにダムの職員たちは全員催眠状態だったから、その時が来たのだと俺は覚悟して走って叫んだ。
「あなた達を財団に通報しましたッ! 近隣財団サイトにダムの秘密ごと通報したんで到着はすぐですッ! 大人しく退いてください!」
実力行使の前にこういった手順を踏むべきだと思うのは俺の逃げだ。
これで何事もなく退いてくれるなら、それはそれでいいからだ。
おまけに通報自体も実際に行っているし、財団の名前を利用するだけならタダである。
世界一大きい要注意団体とは? というジョークがある。
大昔にSCP関連のスレッドで見た。答えはGOCでもメカニトでもサーキックでもない。
それは財団自体であるというものだった。
裏の世界に通じていれば聞かないことはないぐらいの大きな組織である。
組織立った連中ならなおさら気をつけているだろう事は想像できる。
そこに異常があるとわかれば飛んできて収容を試みる、そんな異常で巨大な正常性維持組織。
特に今回みたいな好き勝手やれると思ったところに財団が来たり、更に俺みたいな異分子が紛れ込んでめちゃくちゃにされる想定なんてしていないだろう。
普通だったら退く、そう、マトモな思考があるのなら。
「っ……! 」
一瞬、ダム湖の水面が弾け飛んだように錯覚する、衝撃波がくるのも見えた。
即座に俺の知覚する景色全てが崩れ落ちていく、遅れて痛みが体中を走った。
それでも思考は続けられる、何らかの爆発によって辺りが吹き飛ばされたのだろうか?
いや違う……崩れ落ちているのは――俺だ。
地面に眼球がこぼれ落ちる寸前、ダム湖の水面を透明な何かが跳ねているのが見えた。
姿も形も捉えられない透明な何かによる、それは完全な奇襲となして俺の胴から頭蓋までを原因不明の力で切り裂いていた。
だが俺が物理的にずり落ちているのを認識した瞬間、視界は元に戻る。
何の支障もなく体が元に戻った、このとき相手のグループに何らかの動きが見られた。
俺への対処に戸惑っているなら、それでいい。
“門番の門番”が、今この瞬間ここにいることを奴らに知らしめればいいだけだ。
何にせよ財団が到着するまで、俺はこの正体不明の敵と三人組の相手をする必要がある。
ココの住人たちに関する文書はすでに送ってあるので、財団ならきっとうまくやってくれるだろう。
その結果がどれだけ、あの心を抉るような物語を足蹴にすることであろうと――。
ひとまずは、それまでの辛抱だ。気合を入れる必要がある。
痛みに惑う贅沢な時間なんてない、歯を食いしばって前進する。
「俺は、まだ、消えてないぞッ!」
ダム湖の水面は再び揺れる。不可視の斬撃が、再び俺を切り裂いた。
「結局、どちらにも逃げられたのか」
「はい」
「フン、基本は後手後手……か……」
近隣サイトより要請を受けて緊急展開した部隊は周辺を隈なく捜索した。
だがPoI-████及び、その敵対者を発見することはついぞ出来なかった。
PoIのものと思われる大量の血痕と出所不明の緑色の液体が、まだ所々に酸化せず残っている。
「専門チームが来るまでココを維持しろとのことだ、警戒は怠るな」
「了解しました」
「面倒くさいものまで押し付けてきおってからに……」
隊長は下を睨めつけ不機嫌にダムを一発踏み鳴らすと、指揮車へと退く。
この隊長は知らない。
彼の部下は、PoI-████と思わしき一人を周辺より意図的に見逃していたことを。
この場より逃げ出した転生者は知らない。
彼とその家族を、あるSCiPから『警告文書』によって間接的に救ったことを。
「借りは返したぞ」
彼は一人、静かな湖面に向かって呟いた。
誰にも聞かれず、誰にも気づかれずに言葉は消える。
ただ己の職務と人間としての情を釣り合わせるための、それは儀式だった。
出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/
>人形
タイトル: SCP-393-JP
作者: kotarou611
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-393-jp
作成年: 2016
ライセンス: CC BY-SA 3.0
>ダム
タイトル: SCP-189-JP
作者: ZeroWinchester
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-189-jp
作成年: 2014
ライセンス: CC BY-SA 3.0
誤字報告感謝
7月30日改定。