転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

24 / 28
- 戦士を襲うサラリーマンの卑劣な罠!児童加虐者を庇って逃がす悪魔の手先に負けるな!勧善懲悪の夢を果たすために邪悪を倒すんだヒーロー!財団と名乗る謎の集団にも負けるな!次回児童加虐者断罪戦士ジャッジン

「逃げて!」

 

彼が恐怖に強張っていた身を翻し、一目散に逃げ出すのが見えた。

とっさの言葉だったがよく効いたようだ。

このままできるだけ遠くに行ってくれれば助かる。足音が遠ざかっていく。

彼の背中を追おうとする紫色の戦士の前に、俺は立ちふさがって見上げた。

身長差に少しだけ俺は傷つく、もう少し背が欲しかった事を思い出したからだった。

 

「何のつもりだ」

 

思考が元に戻る。

返ってくるのは敵意に満ち溢れる、仮面によってくぐもった若い男の声。

厳つさと苛立ちに溢れているのが嫌でもわかる。

矛先を失った正義は全て俺に向けられていることだろう。

そう、それでよかった。

 

「貴方を止めにきました」

 

目的を率直に述べる、それ以外には何も思いつかなかった。

これで良かったのか? 人の生死に関わる事柄だと常に自問自答してしまう。

そして今まで通り誰も、自分以外に答えを出してくれるものはいない。

だがこの道を歩むのなら、二人を、いや三人を、きっと救うことに繋がるはずだった。

付随する事柄も含めれば…もっと救えるのかもしれない。

だが本来であれば、その正義によって報復される虐待者などは野放しになるかもしれない。

考えていけばキリがなく思考を断ち切るために俺は声を上げた。

俺は彼の名前を知らない、だがその呼び名は知っている。

 

「ジャッジング・バイオレットさん」

 

超電救助隊HEROから除名されながらも動くダークヒーロー。

そして、そのハブの宿命から逃れられない戦士。

流血で自らの手を汚して、矛盾した正義によって死ぬことになる被害者(ヒーロー)

俺は、彼を止めに来た。

 

「なぜ俺の名を……いやどうでもいい、邪魔をするなら貴様も悪だろう」

「……空ちゃんの父親は事件の真犯人じゃありません、冤罪です」

「嘘をつくな、いきなり現れて何だお前は、邪悪を庇うつもりか!?」

 

彼にとってはそう見えるだろう。

それが彼にとっての正義であり、揺るぎのない真実だったからだ。

一つでも間違いを認めてしまえば、今までの全てが崩れてしまう。

けれども本当に違う。そうして真実を知った彼は己に押し潰される。

 

「いいえ、真なる邪悪はきっと別にいます、だから俺は貴方を止めることにしました」

「ふざけるなよ、ふざけるなっ!! 貴様は悪だ!」

 

そうだ、その通りだ、俺はきっと。

正義に突き進む人を。あの物語を。

私利私欲によってこうして土足で踏み荒らしているのだから。

バイオレットは断罪を邪魔する障害物に向かい、紫の疾風と化して飛び込んでくる。

常人を遥かに超えた身体能力は装甲服の性能によるものなのか――視線では追いきれなかった。

躱すことも出来ず、咄嗟にガードした俺の両腕は衝撃によって簡単にへし折れた。

『ぼぎゅ』という、間抜けで深刻な体内からの音と響く衝撃に反射的に目をつぶってしまう。

それは骨と肉が同時に断裂する音だった、何度も聞いた覚えがある。

続けてやってくる痛みを耐えようとする体が反射で強ばるが、腕は一瞬で元の姿を取り戻す。

痛みの残滓によって麻痺しながらも、それで両手に感覚が戻ったことを理解する。

呆気にとられたとでも言うように止まったバイオレットの手を、逆に掴み返し拘束した。

 

「し、真犯人は別にいます、アビューサセンサーにも間違いはあります」

 

何とか口は回るからその隙に説得も試みて、更に無実の父親が逃げる時間を稼ぐ。

サイトにも通報済みだった。エージェントが間に合うなら、それでもいい。

今回の俺の目的は時間稼ぎと収容の手助け。そして――。

 

「貴方はもう殺すべきではない」

 

その装甲服に抱きついて動きを拘束すべく、目一杯の出力を行った。

これは得意じゃない、そんな現実改変者にあってはならない自覚があった。

耳なりが高まって、ついには針で鼓膜をほじくられるような鋭い痛みが脳をぐちゃぐちゃに侵しはじめる。

いつかの冬、雪原で足止めすることになった悍ましき老人の時みたいになるかもしれない。

だが財団が来るまでここに釘付けにすると、もとより覚悟していた。

残っていた手札も切る、出し惜しみをしている様な贅沢など最初からない。

 

「何を言ってるんだお前、まだ子供じゃねぇか、なぜ邪魔をするんだ! やめろ! 俺は空の仇を討ってやらなきゃいけねぇんだ!こんな所でェッ!」

 

俺は意図的に自らの風貌をサラリーマン風の男からありのままの自分に戻して、バイオレットのバイザー越しにその目を深く覗きこんだ。

相手の動揺を誘って力を強めることができると俺は信じている、その応用だった。

特にこの高潔な戦士に対し、その威力は効果的なはずだった。

知識を悪用して、相手の信念が手が緩ませることを逆に利用している現状。

俺は卑劣漢だ。どの口が殺させないと言うのだろう。

俺は矛盾している。私刑をしているのに私刑は駄目だと説くのだろう。

そうだったとしても……きっとこうするしかない。

この体を動かしているのは、理屈ではなく感情だ。

 

「貴方みたいな優しい人が、手を汚すべきじゃないんです」

 

いつかの記憶が蘇ってくる。

本来は覚えていないはずの、押し付けられた枕の息苦しさすら思い出して。

あれは、きっと俺の最初の願いだ。

間違った願いを間違った形で叶えてしまった報いだ。

俺は結局なにひとつ望むべきではなかった。すでに破綻していたとわかっていたのに。

それが現在へと、ずっと繋がりつづけて俺の首を絞め続けて。

物体たちが天井から垂れ下がりながら揺れているのが見える。

 

何もかもを精算すべきだった。

せめてプラスの方向へ、全てが帳消しになってしまうとしたら、それはそれでいい。

大好きだったものを虚仮にするような真似をしてでも。

己の子供だけでなく自分の命すら奪われるような人がいる限り、きっとやるしかないじゃないか。

これは現実で、たとえ俺が部外者だったとしても、もう舞台に上がってしまった。

脚本を無視した酷い演技をしなきゃならない。

しらけた拍手をさせるための愚かな役割が必要だ。

ある種の絶対的正義を成そうとする相手を、くだらない理由で阻止して説教をするんだ。

こんなのは無様で……そして、きっとつまらない。

 

「離せ!」

「離しません」

 

膠着状態を維持したまま、言葉の応酬が続く。

きっとそれが俺の役割なんだという言い訳を唱えて我慢していた時、空間が炸裂する。

彼らが来た、衝撃と閃光、おそらく閃光手榴弾が共に。

深い耳鳴りが一瞬で回復する。

視界はクリアに、戻る情報量を脳が処理しきれずに吐き気がする。

複数人の重い足音が、木造の床や階段を酷使するのが聞こえた。

あくまで通報だけだったから、ここに来たのは追跡班ではなく普通の機動部隊だろう。

俺がいることは伝えていないから、そこに隙が生まれるはずだった。

 

「対象がいます!」

 

叫んで、俺は一気に脱力した。

対峙していたバイオレットが力の均衡を失ったことにより体勢を崩したのをうまく利用する。

 

「彼を拘束してください!」

 

瞬時に俺が同僚であるという認識を植え付けた部隊員の間を駆け抜けて脱出する。

これで良かったのだろうか、救われるべき人は救われないままではないのだろうか。

自問自答は止まない。

家を出ていこうとすると子供部屋らしき所が見えた、綺麗なランドセルが置かれている。

他人の家庭の匂い、薄っすらとした線香の香り、玄関の芳香剤の作り物のような匂い。

そこに生活や思い出があったことを感じながら外に出て、嗅覚がいつの間にか戻っていた事に気づく。

何時まで続くのだろう、今は無き場所へ帰りたくなるような気持ちが湧き出そうになった。

これを随分と長く続けてきたような気持ちが心を占領する。

 

だが俺は最期の瞬間、1キロバイトのデータになるまでこれを貫き通さなきゃいけない。

今まで踏みにじってきた沢山の事柄や命が、きっと立ち止まる事を許さない。

 

「俺に相応しい最期は……スピアが……きっと……」

 

崩れ落ちそうになる膝を支えるために、救いの言葉を呟いた。

ソレが確実になされる保証など、どこにもないけれども。




出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/

タイトル: SCP-2031-JP - 児童加虐者断罪戦士ジャッジング・バイオレット
作者: Enginepithecus
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2031-jp
作成年: 2020
ライセンス: CC BY-SA 3.0

>スピア
タイトル: SCP-3309 - 薄れ、消え去る時、私達は何処へ行く
原語版タイトル: SCP-3309 - Where We Go When We Fade, Fade Away
訳者: evilplant
原語版作者: PhamtomGuy, Lt Flops
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3309
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3309
作成年: 2018
原語版作成年: 2018
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-387-JP - 財団と名乗る謎の集団によって僕とゴールドは監禁されてしまった!逃げる手段は見当たらない上、また一人一人と僕達が救えた筈の命が失われていく…目的も何も分からないけど、まだ僕達は挫けていない、必ずここから抜け出してみせる…えぇっ!?僕に全部任せるって、どういう事なの!?次回高速心臓再動士リバーサル・ゴールド「救う為に脱出せよ!決死のセルフ・リバーサル!」続けて「救う為に脱出せよ!決死のセルフ・リバーサル!」合わせて「巣食う為に脱出せよ!█死のリバーサル!リバーサル!命!」合わせて命は[Reboot]僕の名前はエイド・フェニックス!リバーサル・ゴールドの命█なんだけど、まだまだ僕の事を信じていないみたい…だけど子供が溺れて█るよ!あの子を救いたい気持ちがあるから█命命命!ああ、また新たな命が失われていく。このまま黙って見過ごせない、だっ█て僕達は█ヒーローなのだから![Reb██oot]][システムに異常が感知されました][reboot]命[Rebo██t][システムに異常が感知されました][安全性の為に一部メモリ内累積データを削除します]ヒーロー援助用ロボットであり要救助者の探知を█行います探知しましたモジュール稼働要請を送りま█す送りました探知しました送ります██りました█探知します[Reboot]要請します[Reb█oot][Repeat][Repeat██][Re█peat][█eboot][Repe██t]このま█だと僕█は誰も救えな█よ、ゴ██ルド…[ReReReboot][Repeat]
作者: ShicolorkiNaN
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-387-jp
作成年: 2018
ライセンス: CC BY-SA 3.0


誤字報告感謝
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。