転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

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- まだ折れてなかったころ

蝉たちの騒がしい音が、日本に帰ってきたことを告げていた。

一方で鳴ることも無く、充電も乏しいガラケーを開くと画面に8月27日の表示がある。

 

そうか、世は夏休みだった。

クラスのみんなは何をしているのだろう、元気にしているだろうか。

今頃だったら底なしの体力を行使して、つるんでた皆とチャリで海にでも日帰り弾丸旅行してたかな。

 

無意識に懐かしんでしまったのが良くなかった。俺にはもう関係のないことだからだ。

それに友達の顔が昔の知り合いのように思えてしまうのが不思議だった。

あれからそれほど経っていないのに、そんなに俺は軽薄な人間だったのかな。

 

しかし、これらはもうどうにもならない。

俺が座ることのできる席や机はこの世のどこにも無くなっている。

そうやって心に言い聞かせて気持ちをなんとか落ち着かせようとした。

通うこともない学校に思いを馳せても、どうしようもない。

勉強しようにも、教科書も燃えてしまった。

だのに心から完全に切り離せられないのは未練があるからだろうが……やはり無理だ。

『知っている財団』なら露見した案件の関係者の記憶など、簡単に白紙にして──。

 

少しだけネガっていると熱気に揺らめくアスファルトを渡る少年の姿を見つけた。

俺は自傷的思考に浸るのをやめようと努力しながら、足を踏み出す。

咳払いをして喉を整えて、シナリオを少しだけ確認してから挑まなきゃならない。

そのまま動かなくなってしまいそうな表情筋を励起させて笑みを作った。

 

「金山くん、こんにちは」

 

気を持ち直せ、今の振る舞いに何人の命が懸っているか考えろ。

虫取り少年という出で立ちの彼に恐る恐るといった感じに俺は声をかける。

今から俺は君の近所の人間だ、だから気安く会話をしてもおかしくない。

そういった気持を維持する事にかなり緊張する、俺は元来人見知りなんだ。

何とか押し通すために強く意識してみる。

怪訝な目では見られてないから成功したと思っていいかな。

こんな使い方もあると最近学んだ、それにこれぐらいだったら多分『軽い』んだろう。

あまり頭も痛くならないし、なんなく続けられそうだった。

 

「ああっ”ソレ”探してたんだ!」

 

彼の手にあるものを見ながら、さも驚いたというよう白々しく本題を切り出す。

何の変哲もないネイルハンマーに見えるソレ。

ある意味ではとても素晴らしい物だった。

前世、本家とは別の掲示板でファンたちと色々な意味で有用だと語り合った覚えがある。

だが彼にとっては、命すらも先送りできる異常性によって忘れた頃に代償を支払わせる遅性の毒にしかならない。

そのままだったら彼の人生は爆弾を抱えて、それが起爆した時には悲劇だけが齎される。

 

だから、その流れを壊すことにした。

家族を失うなんて、取り返しの付かない事態の引き金を彼自身が引くことは無くなる。

正体不明の人物が何の悲劇もない不思議なトンカチを拾って財団に収容されて、お終い。

批評家たちが読んだら躊躇なく-ボタンをクリックすると思う。

果たして見てくれるかはわからないが、そうするしかない。

 

少しだけ悩んでいるようだが、こちらとしても無理強いもしたくない。

話し合いで解決できてしまうなら、俺はそれが一番いいと思っている。

この後たしか本棚作ろうとしてたから渡りに船な状況を邪魔される気持ちはわかる。

100均で手頃なトンカチを買ったほうが絶対マシなのは間違いない。

拾ったトンカチと家族の命だったら後者を選択するのは当然だろう。

むろん俺がそういった取引条件を明かすことはない。

彼の人生にそんなものが顔を覗かせることはあってはならない。

 

『正常な人生』を歩める事は、絶対的な幸せなんだ。

 

「ごめんね、実はそれ昨日落としちゃってからずっと探してたんだ」

「そうなの?」

 

とびきり困った顔をして『そうそう山の中でさ、困ってたんだよね』と。

事前に用意していた嘘をペラっと喋る。

少し悩んでちょっと躊躇しながらも、彼は俺の前にそれを差し出してくれた。

申し訳ない気持ちがある、だが信じてくれたようで助かった。

誰も不幸な人がいない、嗚咽も悲鳴も聞こえない、血しぶきも舞っていない。

万事こうならいいのに、そう思いながら受け取る。

 

「うん、ありがとう、お礼にお菓子あげるから」

 

バッグから大陸に渡っていた時に購入したキャンディを渡す。

なんかこうしてると不審者みたいだな、とふいに思ってしまった。

子供から持ち物を奪って代わりにお菓子を渡すとか……完全に不審者だ。

通報されたらどうしよう……いや『演技』しているんだから多分大丈夫だが。

背中がムズムズする、ともかく目的の3分の1は達成できた。

 

「秘密基地を作るんだったら思ってるより入り口を広くしてみるといいかも! 妹ちゃんとソラから目を離さず! いいね? それじゃサヨナラ! 」

 

避けがたい死はあるかもしれない。

それでも未然に防げる事があれば口添えしたいと思うのは傲慢だろうか。

 

長居してもいいことはないと判断して別れも漫ろに手を振る。

ぽかんとしながらも金山くんは手を振り返してくれた。

いい子だからこそコレに関わらせなくて良かったと思う。

手に入れたネイルハンマーを布製のバッグにしっかりと固定して仕舞っておく。

 

このまま知ってる中で一番最寄りの財団支部に届けよう。

流石に郵便で送る気は起きなかったので方法を考える必要がある。

なるべく迷惑をかけないようにかつ分かりやすく。

そして酷いことが起きないように気をつけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何事ですか博士」

「うちのサイト開設以来の異常事態だぞ~菅沼クン」

 

どこかウキウキしてると言っていい佐脇博士に、異常なんて何時もの事じゃないですかという言葉を投げそうになって既のところで飲み込んだ。

今朝はサイトの保安要員の人たちが特に騒がしかった、サイト内を走り回ってあちこちを点検していた。

セキュリティレベルが急上昇して、私みたいなのは厳重になった保安検査で遅れて出勤することになり、見事に朝ごはんを食べ損ねた。

そんなんだから胸騒ぎがするのも仕方のないことだ。

私だって研究員の端くれだ、何が起こったのだろうと好奇心が首をもたげてしまう。

 

「不審人物の侵入があった」

「大丈夫なんですかソレ!?」

 

不審人物!? 此処に直接!? 怪現象はたまに起こるけれども……。

博士があまりにもサラッと言うので私も驚いて声を上げてしまった。

 

「うおっびっくりした、いや入り口だけ……だったらしい」

「それならまだ……」

 

落ち着きそうになったところで博士は爆弾を投下する。

 

「あと異常物品らしきものが置かれていった」

「もっとヤバいじゃないですかッ!?」

 

どうどうと博士が手を上げて落ち着けと言ってくるけれど、明らかに面白がってるし私は不安だった。

カオスの残党たちが以前居たサイトに襲撃を仕掛けてきた際は本当に酷いことになった思い出がある。

手を離せない実験を続行しながら襲撃にも耐えるという2重で危険な状況に陥ったせいで、私は軽いトラウマになってる。

少し上がった心拍数を宥めながら、この非常事態にテンションが上った顔をしている博士から話を聞き出さないといけない。サイコパス……。

 

「いずれウチの研究室に持ってくるだろうから先に情報を仕入れといた」

 

博士はどこかネジが外れてるけど動きが早く、仕事でも成果を出すからタチが悪い。

財団の雇用が続いているというというのはそういうことだ。

私も人のことを言えないかもしれないけれども。

 

「見た目は何の変哲もないネイルハンマーだ、対象によって叩くだけで無機物も有機物も直せるらしい、それに記憶にも影響するとさ」

 

まるでソレを見てきたように語っている。

……いやそもそも現時点でなぜそんな異常性が判明しているの?

博士は私の疑問を嗅ぎ取ったのか、獲物を前にしたサーベルタイガーのような笑みを表情に深く刻んだ。

 

「問題は一緒に出てきた文書だ、異常性の仔細が書かれていたそうでな」

「何なんですかそれ……」

 

財団に直接乗り込んできて押し付けてくる例は世界的に見ればないこともないけど、説明書みたいなものまで持ち込んでくる例なんて聞いたことがない。

率直に言って、気味が悪い。

 

「恐らく侵入者の直筆だそうだ、ご丁寧にsafeクラスだの収容方法まで指定してきているらしい」

「怪しすぎません?」

「ああ、怪しい、怪しすぎて意味がわからん、そもそも侵入者は尻尾すら掴ませず逃げおおせている、此処でだぞ?」

 

此処、サイト-81██は比較的新しいサイトでセキュリティは国内でも上位に入るだろう。

それが早々にこれだ、保安管理者の人が可哀想すぎる。

 

「セキュリティはただの職員だと思っていたらしい、現実改変の可能性も視野に入れてるそうだが手も足も出ないだろうな……なぁ面白くないか?」

「な……何がですか?」

「これら全てが、さ、俺たちはこれからそれらが本当なのかどうか実証して調べなきゃいけないんだ、ワクワクしてくるだろ?」

「しませんけど……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が、PoI-████という存在を知覚したのはこの時が初めてだった。

 

以前からその予兆のような出来事は数多く起こっていた。

正体不明の人物による各要注意団体への襲撃、第五教会の消失、異常芸術家たちの活動の低下、GOCによる不正規活動。

それらと各支部の情報が共有され類似例の報告が上がる事により、誰かが気づいた、気づいてしまった。

捜査線上に浮かび上がる、ただ一つの特異点こそが『彼』であったと。




誤字報告感謝

出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/

要注意団体
http://scp-jp.wikidot.com/groups-of-interest

タイトル: SCP-1706-JP - 叩けば直してあげられる
作者: kotarou611, Pagema157
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1706-jp
作成年: 2017
ライセンス: CC BY-SA 3.0

>佐脇
皇国の守護者
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