転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

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Decommissioned
-/+  親愛なる人々 後


「君の1か月の苦労を俺は知ってる」

 

男は深く息を吐いて、椅子に体重を預けた。

 

「で、その間ずっと本部と理事のクソサンドイッチの具と化してた上司に労いの言葉をいただけるかな?」

「申し訳ありません」

 

地下5階、何かがあれば戦略核のエネルギーと共に沈む場に男は居た。

オフィスというには、あまりにも薄汚い場所だった。

所狭しと並べられ、積み上げられた呪具と書類の奥。

 

部屋の主たる佐脇サイト管理官、そして謹慎が解除された菅沼博士は向かい合っている。

 

佐脇は彼女が初めてあった時より幾分か白髪を増やし、年相応の皺を刻んでいた。

本来佐脇の立場で適用される技術をもってすれば、それに抗うことができるだろうに、そうしてはいない。

それは本人の主義によるものであり、権力を持つ佐脇に対して苦言を呈せる者は少なかった。

 

「まぁいい、些事だ、とても"些事"だ」

 

佐脇の頬に深い歪みが刻まれた、彼の笑顔というのはそういうものだと菅沼は知っている。

 

「彼らの動きが速い、どうも向こうは織り込み済みだったフシがある、あるいは求めていたのは君という窓口だったのかもしれない」

 

君の極めて"人道的な提案"を見れば予想は容易かっただろうねと、彼は懸念を鼻で笑い飛ばした。

そして何を思ったのか、佐脇は机の上にある動物の木彫りを手に取った。

咢より2本の飛び出した牙を持つ、絶滅した大型の肉食動物、それを模した木彫り。

鋭利な牙が、表面の漆によって浮かび上がる。

 

「我々は……こいつの様な進化を遂げてしまったのかもしれない」

「……」

「人にとって、この無駄でもあり、欠かせない牙はなんだろうね」

 

佐脇は自分自身に問うように呟き、木彫りを机上に戻した。

菅沼を、見据える。

 

「君はその点で好ましく映ったのかもしれない、アレがこちらのルールを深く知っているからこそな」

 

ま、真相は闇の中だろうがね、そして佐脇は吐き捨てた。

 

「さて菅沼クン、対象は本部が持って行った、どちらにせよ分かっていただろう? 作戦を行う上で都合がよかっただけで、元よりこっちの手には余るんだ」

「はい」

「今頃どうなってることやら、強硬派は終了させたがるだろうし急進派は活用することを考えるだろう、どちらにせよ、碌なもんじゃない」

「……はい」

「その表情、君はまだ人間らしいね、けれども、ここに居る限り美徳扱いされる事は少ないって知ってるはずだ」

「……」

「だがそんな哀れな菅沼クンに伝言がある、誰からとは言わない、これは虚言であり、信じるべきではない、だが」

 

 

「貴方は立派に義務を果たしました、どうかお元気で……そう、何処かで聞いた」

 

 

しばらくの後。

佐脇は俯いた女の顔をわざわざ見るわけにもいかず、視線を天井へと向け、考えていた。

 

これから財団は、また犠牲を積み上げていくだろう。

自分やあるいは目の前の部下、名も知らぬフィールドエージェントたち、あるいは研究員、見知った職員たちの命でもって。

人々が不条理の暗闇に怯えないための戦いを。

そうだ、それが正常な事なのだ。

 

ああ、そうだとも。

 

それでこそ、財団(われわれ)なのだ。

ただ、それが通常業務に戻るだけで。

 

決して、それは疲弊した子供一人に任せきっていいようなもんじゃなかった。

 

この立場になったからこそ、誰にも打ち明けられない本音を、佐脇は吞み込んだ。

そして、赤く腫らした瞳を強い意志と共にこちらへ向ける部下に、今後の方針を伝えることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手順CYA-010は実行されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去も未来も、私たちには、すでにありませんでした。

 

私は、かつて私でした。

 

貴方は、かつて2,696gの私であった、2,675gの死体でした。

 

ピンクの布に包まれて、柵の中に放置されている物体だったはずの。

沈黙と共に横たわるのが、きっと世界にとっての正常であり、正しい姿だったのでしょう。

もうその小さな手を誰かが握ることも、柔らかであった頬を誰かが撫でることもありません。

肉塊の顔にあたる部分には、柔らかなタオルが載せられていました。

息苦しかったかもしれません、なにしろ私は窒息していたのですから。

それに貴方は、そのあとすぐに自らの世界に閉じこもりました。

最近まで思い出さなかったことは、幸せだったかもしれません。

 

貴方の顔に当てられたタオルは、良心の呵責によって生じたはずです。

最後の躊躇いをなくすために壁のようなものでした。

あるいは血の繋がりそのものを断つために、そこに置かれたかもしれません。

どうせ苦しむのなら、という優しさの発露であったのかもしれません。

すでに亡くなった人の考えを辿ることなんて出来ませんけれども。

タオルには手の形に歪んだ皺が遺されていたことでしょう。

生命を殺すには十分すぎるほどの力が掛けられた証として。

 

そしてそこから後ろへと振り向けば、居間に垂れ下がる二つの肉塊を見ることができます。

私達の遺伝子提供元であり、愛してくれた両親であり、その命を奪った犯人たちで。

 

彼らは、もう動くことは二度とありませんでした。

 

彼らは、凄惨な死に呑まれたのです。

世界規模で進行していた自殺の波の、ほんの一匙。

これは、きっとあまりにも小さなことでしょうね。

けれども、一般的な家族が崩壊してしまうには十分すぎるものだった。

私たちの両親は常人でした、だからこそ、起こってしまった。

 

彼らは短絡的だったのかもしれません。

もしかしたならば、貴方がその場にいてくれれば……何とかなったかもしれないのに。

もうどうしようもないことなので、貴方は悪くありません。あの二人もそうです。

本当ですよ? でなければ貴方の側に私はいません。

私は、そこまで子供じゃありません。

 

でも、二人は折れてしまった、もう過去は変えられません、未来もそうです。

残ったのは世界ごと掃除されてしまうはずの無残な死骸と腐り果てる家。

 

理由なんて、簡単な話です。

自分を支える椅子を蹴る前に、この世への未練が一つでも残らないように。

彼女は、私を手にかけた。

私に対して愛をささやいた口を戦慄かせながら、私を撫でていた手で首を絞めた。

私の口に含ませた胸を震わせて、そんな所を見なくてよかったかもしれない。

 

……大きくなるまで愛してほしかったのかもどうかもわかりません。

でも二人にとっては、きっとそれが愛の証明だったと思います。

私は受け取るがままでしたし、今みたいに感情を咀嚼することもできませんでしたけど。

でも普通に暮らせれば、それはそれでよかったんだと思います。

だとすれば貴方はどうなっていたのでしょうね。

たまに考えてしまいます、私の中に貴方は居たのでしょうか?

 

まぁ結局、そうはなりませんでしたけど。

 

彼らは頸椎への損傷によって首が伸び、排泄物が垂れ流され、俗にいう死臭が漂う空間を作り出した。

そうして、貴方がずっと、ずっと住んでいた家が出来上がった。

いるものをいないように、いないものをいるようにした。

貴方の自己欺瞞も育ててしまった悍ましい場所に。

私が、なにかできればよかったのに。

 

そして風一つ吹かない室内で、タオルがひとりでに肉塊から滑り落ちましたでしょう。

肉塊となったそれは動くことはないはずなのに、すでに生物的な死を迎えているのに。

赤ん坊の鳴き声がきっと聞こえたはず、あの時、私は自らの状況にも拘らず驚きました。

私に知識はなくとも本能的なもので、貴方の存在と力の存在を悟りました。

 

そして、思ったのです。

私もまだ死にたくないって。

貴方も、また死にたくはなかった。

 

そうでしょう?

だから、貴方の願いに何度も協力したんです。

 

奇妙な色の服を着て、木の根本にいる貴方。

煌々とした大地のうなりを聞きながら、噴き出す熱水を見ている貴方。

行く手を阻む障害をものともしない貴方の、この悪しき世界に対する献身を。

私は、貴方の最期である、その姿を見ています。

 

全てを成し遂げた貴方を。

 

私達には力がありました。

現実を都合よく捻じ曲げようとする力が。

赤い鳥も、椅子も、鍵も、暗闇も。

そういった事柄にだいぶ力を割かれてしまったけれども。

ずっと貴方の側に居られて、お喋りすることができれば良かったのに。

 

そして、貴方の知識を得てわかったことがあります。

 

私たちや両親が殺された、きっと、その本当の理由について。

天の向こう側の存在たちに恨みを投げるのは無意味だってわかってます。

私たちは命をもって、この世界に生まれて、選択をしているのですから。

 

私たちの両親だって、例え見えない糸の下に強制されてたとしても、選んだのです。

貴方は、世界を包んでいた影響に対して無自覚だったのでしょうけれども。

 

私たちの仇をとってくれたんですよね?

あの日、異界の星を1つ、沈めることによって。

 

本当に嬉しかったんです。

 

そう、わたしは、もうあなたに救われてるんです、███。

 

ずっと、貴方のことを愛してます。

きっと私が消えるその最期まで、ずっと。

どこから来たかなんて関係ない、どんな気持ちだって凌駕しています。

最も大切な人はもう私だけ、貴方が気づいてくれることはないかもしれないけれども。

 

 

 

 

わたしのほうが、先に生まれたんですから。

 

 

 

 









出典元
SCP財団日本支部
http://ja.scp-wiki.net/

>世界規模で進行していた自殺の波。

タイトル: SCP-3519 - 静かなる日々
原語版タイトル: SCP-3519 - These Quiet Days
訳者: C-Dives
原語版作者: sirpudding
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3519
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3519
ライセンス: CC BY-SA 3.0

>異界の星を1つ、沈めることによって。

タイトル: SCP-3125 - 逃亡者
原語版タイトル: SCP-3125 - The Escapee
訳者: C-Dives
原語版作者: qntm
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3125
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3125
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-5502 - たなびく煙の断端
原語版タイトル: SCP-5502 - Where the Smoke Trail Ends
訳者: C-Dives
原語版作者: aismallard
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-5502
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-5502
ライセンス: CC BY-SA 4.0




タイトル: SCP-2000 - 機械仕掛けの神
原語版タイトル: SCP-2000 - Deus Ex Machina
訳者: Porsche466
原語版作者: HammerMaiden
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000
原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2000
ライセンス: CC BY-SA 3.0



誤字脱字報告ありがとうございます

Q つまり?
A タグ 家族愛(姉)


更新が遅くなり、大変申し訳ありません。
今作以外に投稿していた作品を全て完結させましたので、
じっくりとですが、こちらに取り掛かろうと思います。
よければ今作の最後まで、お付き合いください。
評価もいただけると幸いです。
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