転生者vsSCP   作:タサオカ/@tasaoka1

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なんてSCPか当ててみてね


- 異常なる子女が世界及び財団の負担となることを防ぎ、人類文明によって収容たらしめるための穏健なる提案

 偽物の顔、声、服装であることを意識して、俺はその相手へと優しく語りかけた。

 キリン印の玩具屋で売っていた、なりきりセットのFBI手帳をドアアイに提示して。

 何もかもを作るより、ある程度の素材となるものを用意したほうが都合がいいと経験から学んでいた。

 

「電話をくれたのは君かな? 自分はUIUから派遣されてきたエージェントだ、こちらの対応者が失礼なことをした、謝罪をしたい」

「……どうぞ」

 

 インターフォン越しのコンタクトは軽く成功した。

 居間に招き入れられ、テーブル越しに対面しながら着席する。

 ふと視線が逸れた時、幼い彼女がガールスカウトをしている写真が暖炉の上に飾られてるのを見た。

 あの作品に、そんな描写はなかった。

 だが彼女は今も生きていて、19年の年月を重ねてきたのかと再認識する。

 そして、それは報告書の中に存在しない無意味な個性としてすり潰されていたのだろうか。

 俺は、段々と悪化していくこの”人”を見て楽しんでいたんだな。

 突然湧き出た懐かしさと若干の罪悪感を、表に出さないように制御した。

 UIU職員である自分は謝罪を済ませ、これからの事について話を誘導すべきだった。

 

「我々UIUは多数の危機的状況……例えば保有してるだけで組織が半壊する物品などを持っていて、それらの対処を早急に行わなきゃいけないんだ、自分のあとからやって来る財団という組織が君をきっと手助けしてくれると思うよ」

 

 舌が勝手なカバーストーリーを捏造する。手助け? 嘘もいいところだった。

 確保、収容、保護、彼女にどこまでの慈悲を、彼らの冷淡さは許してくれるだろうか。

 今目の前で若干不安げにしている彼女は、公的に死亡する事になる。

 両親は嘆き苦しむか、処理剤によって実感のない喪失によって呆然とするのかもしれない。

 だが、もう財団は確保に動き出してるはずだった。

 止めはしない、だが流れは致命的に変化させる。

 

「それでなんとかなるのかしら」

「ああ、彼らもまたプロで世界を守ってる正義の味方なんだけれども……少し困った所が在ってね、その人達が来たらこれを渡して欲しい、ちょっとした暗号なんだ」

「これを……?」

 

 ファイルごと書類を渡す。

 一応、説得力が出るようにUIUのロゴ入りのをでっち上げていた。

 こういうときは、本当に便利だなと思う。

 内容は日本語で、もし彼女がそれを読んでも意味は伝わらない。

 だがその内容を財団が確認して、正常に遵守すれば……。

 それだけで彼女は凡百の何でもない超能力者のままだ。

 もしかしたらカー・オンの腹の外側で、こぼれ落ちる概念の塊になるかもしれない。

 喰らうのだったら特段に不味いやつを食わせてやる。

 世界を滅ぼすであろう異常存在を、少しだけ特殊な女の子にしてやるんだ。

 それもいいかもしれない、俺は彼女の個性を殺そうとしている。苦しむよりいいのだろうか。

 答えなんて見つからないままだ、いつも手探りで行動してる、バカ踊りしてるようなもんだ。

 できるだけ傲慢に、下らなく、湿っぽく振る舞おう。

 

「ああ、それだけでいい、この訪問が在ったことも正直に伝えてあげて欲しい。あっそうだ、このキャンディーもあげるよ、気に入らなかったら捨てていい」

「ベーコン味って……」

「まあまあ、それじゃあ今日は帰らせてもらうよ。不安かもしれないが……明日にでも彼らが来ると思う、これは忠告なんだけれど今晩はご両親と一緒に居てあげるんだ。それじゃあ」

 

 言うだけのことは言った。

 自らの振る舞いに居たたまれなくなって急いで出ていこうと立ち上がった時、俺は彼女に手を握られていた。

 予測していた事だったのに脳の処理は進まない、ただ若干の間、緊張を強いられた。

 だが、それだけだった。彼女のその行為は俺に何の意味も為さなかった。

 俺の表情を確認すると、彼女はゆっくりと手を離してくれた。

 

「最後に聞かせて……どうして貴方はそんな平然としていられるの? 私は今こんなにも不安しかないのに」

 

「UIUで特殊な訓練を受けているんだ、君みたいな能力を持っている人は意外と世の中いっぱいでね、だから安心して欲しい、君は決してひとりじゃないし、理解してくれる人は財団にきっといる……それじゃあ本当にさようならだ」

 

 

 

 

 

 

 あの日、イリノイ州のある町の住人たちには彼が見えていなかった。

 

 街の各所に存在している監視カメラのテープの中に、対象は確かにいた。

 主任分析官である私はそれらの映像を片っ端から洗い出して繋合わせたからこそ、かの存在の片鱗を掴むことができたと言っていい。

 今回の調査の対象とされている実体は、痕跡を残すことに全く無頓着だった。

 大抵のPOI、要注意人物というものは証拠というものを一切残さないということがザラにある。

 ただ、それでも残された僅かな物を拾い集めて繋ぎ合わせることが主な仕事だったから困惑した。

 あまりにも易易と映像が残されていたのだから。

 逆に何らかの攻撃(見るだけで全身が松明になるマークなんてのがある)も疑われたが、幾つかの映像フィルターと検査装置は無害だとしていた。

 それどころか、あからさまに証拠を残していくような愉快犯的側面があるように思えた。

 平時であるならば凶悪な置き土産を置いていく要注意人物もいるからこそ不可解だ。

 この行動はメッセージや挑発だろうか? 

 収集した映像の全てに、日本において一般的な学生服に身を包む少年の形をとった実体が入り込んでいた。

 この土地においてはあまりに場違いな人種と服装だというのに、その町の住人たちは眉一つ訝しげに動かさない。

 州に5%未満の人種であるアジア系の少年が、見慣れない服装でフラフラと出歩いていたのを見ていた場合、それは異常な対応だ。

 自身が差別主義者でないことは願っているが、私が対象を見たら少し警戒してしまうだろう。

 

 ある1つの映像の中ではラテン系の店主は対象に平然と話しかけていた。

 コチラの存在を知っているかの如く、画面の中では監視カメラに視線を送りながら一般人と楽しげに会話する対象の姿は異様に映る。

 カメラを気にするひどい素人役者みたいだった。

 音声も記録されていた映像では、対象が日本語で会話しているのに対し、会話の相手は英語で受け答えをしていることが確認されている。

 当然のように、そこで行われていた全ての会話は言語的差異を無視したままに成立していた。

 対象と会話した人々からの聞き取り調査では人種的に多少のブレはあるものの一般的なアメリカ人として人々の目に映っていたことがわかっている。

 対象、その現実改変能力を持つ要注意人物は、わざわざ会話相手に好意的な印象を与える相手になるように姿を見せていたということになる。

 現実改変者としては、やり口があまりにも細やかすぎる気がした。

 従来ならば存在ごと消え去るか、そもそも痕跡すら残さないからだった。

 そこまでして対象のやりたいことは何だったのか? 

 会話内容からは、この町に居住している19歳の女性を探していたことがわかっている。

 狭い町だ、ある特定の人物を探し出すのは素人でもそう難しくない。

 それも不思議な力を持つと自称する少女であるなら、なおのこと。

 あの連中に電話で接触し、こちらの網に掛かった少女だった。

 対象はその日の内に彼女と接触している。我々よりも、早く。

 こちらは一歩遅く、現地のエージェントが訪ねたときには対象はすでに立ち去っていた。

 その日の内に行われた彼女へのインタビューで、幾つかのことがわかっている。

 対象はUIUの職員を騙っていた、少女がUIUに電話を掛けたことを知っていた事。

 財団に対する言及、此方側の内情を知っている事。

 そして対象から少女に与えられたという書類には、日本語でこう書いてあったそうだ。

 

『これから作成されるであろう特別収容プロトコルを遵守し、絶対にクロステストだけは辞めてください、イエローストーン国立公園でもう一度、人類文明を再生産したかったら私は止めません

 

 現在収容された彼女に対するあらゆる実験は、O5評議会からの通達によって無期限の保留とされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ補給が必要かなと思う。適当な店を見つけて入店する。

 自動ドアに取り付けられたベルが、控えめな音を立てた。

 感じる匂いはやはり日本のコンビニと違っているように思える。

 クリームを薄く薄く伸ばして空気に塗りたくったような甘ったるい匂いが体を包んだ。

 カウンターの奥に座ってる浅黒の肌の男性は此方をちらりと見て、すぐさま雑誌に視線を戻した。

 問題はないようだった。警戒は抜かりなく必要と思われたがここでホッとする。

 少しぐらい観光しよう。

 いきなりこの店の上空からバンカーバスターが突っ込んで来てもいいように警戒しながらだが。

 異国情緒で出来上がった雑多な店内をちょろちょろと物色した。

 物価はまあ普通で、手持ちで買えないものはなさそうだ。

 ポケットに手を突っ込む、小銭、ドル札が乱雑に入ってる。財布を買うのを忘れていた。

 自分で食べる用にも目についたキャンディーバー、チョコバー、原色がどぎついグミを次々とカゴに入れる。

 俺の心はまだ菓子を必要としている。人間性かな。

 棚の下段にはディフォルメされた丸っこい豚が唄うパッケージのキャンディーがあった。

 ちなみにベーコン味、さすが自由の国、甘味に対する探究心には恐れいるものだ。

 まあ日本も日本で、ジンギスカンキャラメルやらあったりするが。

 ただ探求者というものは得てして孤独になりやすいのか全く売れてないので、少しホコリを被ってる。

 何だかこれを”偶然”見つけたことがこれからの俺の行為をおちょくられてる気がして、腹いせにカゴに入れてやった。

 こんなもんだろうかと思って、店内の角の方に監視カメラがあることを確認して少しだけ手を振った。

 カウンターでは店主と思われる人が相変わらず雑誌を読んでいる。

 此方から見える見出しには、ギリシャ一帯で異常気象が連続して観測されたというニュースが小さく載っていた。

 それを流し見して、少し笑いながらカウンターにカゴを載せた。

 

「お願いします」

「兄ちゃん、ここら辺じゃ見ない顔だな?」

 

 カゴの中身を精算しながら、店主はちらりと目配せした。

 会話の合間にピ、ピ、とバーコードを読み取る音が混ざる。

 

「西海岸から来まして」

「随分遠い所ここまで? どうしてだい」

「従姉妹に会いに来たんですわ」

 

 口から出る嘘八百。これも慣れたもの、自分でも良く舌が回るものだと思った。

 きっと嘘をついてずうっと生活をしてきたのだから、舌もそれに順応していたのだろう。

 今の生活にはとても便利なことだ、人間的には駄目だが。

 だとしたら嘘をついてもいい事になってしまうな。

 

「へぇ、ロッキー越えて会いに来るぐらい可愛い従姉妹の名前は?」

 

 店主さんがそう聞いてくるので、レジ袋に商品を詰め込みながら少し考えた。

 なら、とびきりの嘘をついてやろう。

 

「ジェシカ・ランバートって言うんです、彼女、世界を滅ぼすことが出来るんですよ」

 

 だってこれから俺が、それを嘘にしてやるんだ。

 




誤字脱字報告感謝
出典元
SCP財団日本支部 http://ja.scp-wiki.net/
SCP-3127 作者Tanhony様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-3127
>保有してるだけで組織が半壊する物品
SCP-2635 作者Dr Solo様 http://scp-jp.wikidot.com/scp-2635
>カー・オン
AiHeの提言 作者AiliceHershey様 削除済み
>
イエローストーン国立公園でもう一度、人類文明を再生産したかったら私は止めません
SCP-1422 作者Communism will win様 http://ja.scp-wiki.net/scp-1422
SCP-2000 作者FortuneFavorsBold様 http://ja.scp-wiki.net/scp-2000
>全身が松明になるマーク
SCP-1730 作者djkaktus様 http://ja.scp-wiki.net/scp-1730
>俺の心はまだ菓子を必要としている。人間性かな
SCP-5000 作者Tanhony様 http://ja.scp-wiki.net/scp-5000

>異常なる子女が世界及び財団の負担となることを防ぎ、人類文明によって収容たらしめるための穏健なる提案
アイルランドの貧民の子供たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会の有益なる存在たらしめるための穏健なる提案
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