秘密の恋人   作:cake

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秘密の恋人

「──悠くんの好きな人って、誰なの?」

 

 それは中等部3年の時。

 一人の女の子に、なんの前触れもなく、それを聞かれた。

 

「……はい?」

「だから〜、好きな人ー」

 

 突然すぎて俺は、彼女が何を言ったのかを聞き取ることができなかった。

 

 その日は確か、金曜日の放課後。俺は一週間の学園を乗り切った達成感に浸っていた。

 明日の休みを考え、自然と浮ついた気分になりながら、一人で帰路につくつもりだった。

 

 仲のいい5人の少女たちは、金曜日はいつもバンドの練習とかで、俺とは一緒に帰ったりなんか出来ない。

 だから金曜日のその日も、いつも通り一人で帰る。……つもりだった。

 

「悠くーん。一緒に帰ろ〜」

「ん、青葉?」

 

 仲のいい少女の一人、青葉モカにそう声をかけられた。

 

「一人か? 練習はどうした?」

「今日はつぐが忙しいみたいだから、練習はお休みー。だから珍しく、悠くんと一緒に帰ってあげようと思ったわけですよ〜」

「なんで上から目線なんだよ……」

 

 

 そんなこんなで、一緒に帰ることになって。ちょうど学園の門をくぐったところで、突然それを聞かれた。

 

 

「──てな感じでお前らを見てると、俺も何か楽器でも始めようかなって思うんだよな」

「へー。……ところで悠くん」

「ん?」

「悠くんの好きな人って、誰なの?」

「……はい?」

「だから〜、好きな人ー」

 

 俺の話を適当に『へー』なんて言葉で返した後に、そう言ったのだ。こいつは。

 

「待て待て、話の繋がりが見えないんだけど」

「まーまー、気にしない気にしない。それで、誰ー?」

「あっ、俺の話は聞くつもりないんだね……」

 

 青葉のその表情から俺は、それを言わない限り退くつもりはないというよくわからない強い意志を感じた。いやほんとに、なんだよその意思は。

 

「好きな人って言われてもなぁ……。てかなんでそれをお前に教えなきゃいけないんだよ」

「ダメー?」

 

 好きな人……確かにいるけど、それを青葉だけに教えるのは嫌だった。

 

 ──だって俺の好きな人、お前だもん。

 

「悠くん?」

 

 言えるわけないんだよな、こいつにだけは。

 そりゃ、本人に好きな人を聞かれて『お前』なんて言えたらカッコいいんだろうけど、俺にそんな勇気はなかった。

 

「……うん、無理だな」

「どうしてもー?」

「ああ、駄目」

 

 主に俺のメンタルが。

 

「そっかー、残念だなー」

 

 悪いな青葉、女々しくて。

 そう思いながら青葉を見てみると、なにやら含みのある笑顔を浮かべていた。

 その表情に気づいて、俺は思わず身構えてしまう。今度は一体なにを言いだすつもりだ、こいつは。

 

 

「──教えてくれたら、その人と付き合わせてあげれるのになー」

「好きだ、付き合ってくれ」

 

 

 身構えても、結局青葉が何を言ったのかまたよくわからないままに、俺は何故だか青葉に告白をしていた。

 

「……あれ? 俺はなにを」

 

 色々と疑問を感じながら、もう一度青葉を見てみると、さっきとは違った笑顔だった。

 

「ふふん、いいでしょう〜。その恋、叶えてあげましょー」

 

 そんなよくわからないやり取りで、俺たちは。

 

「……お前、まさか(はか)ったな?」

「悠くんは本当に単純だなー」

 

 気つけば、付き合っていた。

 

 

 

 ****

 

 昼休み。

 俺は特になにかをするわけでもなく、いつも通りみんなと駄弁っていた。

 

「それでね、蘭がまた拗ねちゃってさー」

「別に拗ねてなんかないんだけど」

「いやいや、拗ねてたよ!」

 

 そんな上原と美竹のやり取りを右から左へと聞き流しながら、俺は窓の外を見やる。

 窓際の席だと、やっぱりこうやってぼーっと外を眺められるのが良いよな。こんな風にこいつらが集まってきても、あんまり邪魔にはならないし。

 

「あー、悠くんが黄昏てるー」

 

 そんな俺を見て、モカがからかうようにそう言った。

 

「ほんとだ。しかもなんか様になってるし」

「この悠理みてると、なんか腹立つ」

「うるせーよ」

 

 それを聞いて、上原と美竹もからかってくる。

 

「どーしたんだ、ぼーっとして」

「悠理くん、大丈夫? 具合悪いの?」

 

 そして巴とつぐみも反応したけど、3人とは違って少し心配するような反応だった。

 

「いや、眠いだけ」

「眠いってお前、昨日も寝てないからだろ。しっかりと寝ないと駄目だぞ」

「巴ちゃんの言う通りだよ。ちゃんと寝ないと、身体壊しちゃうよ?」

「あいあい……」

 

 言いながら俺はあくびをする。

 確かに、昨日も夜遅くまで無意味にゲームをしていた。そりゃ眠くて当然か。

 

「……授業が始まるまで、ちょっと寝る」

 

 みんなの反応を見る前に、机に突っ伏した。完全なおやすみモードだ。

 

「悠理ってば、いつも寝てる気がするよね」

「寝るために生きてるみたいな奴だし、それが通常なんでしょ」

「酷い言われようだな、悠理……」

「悠理くんも静かに寝たいだろうし、向こうに行こう、みんな」

 

 みんながさっきみたいに駄弁る前に、つぐみがそんなことを言ってくれたのが聞こえた。

 

「……つぐってほんとに悠理のこと好きだよねー」

「そ、そういうのじゃないよ……!」

「……はいはい」

「蘭ちゃん? なんだか意味深な反応しないでよ……」

 

 

 そういうのは、聞かないフリをして。

 みんなが俺から離れていくのを感じながら、制服のポケットから携帯を取り出す。

 

 

『つぐに浮気しちゃ駄目だよ〜?』

 

 

 メッセージアプリに、そんなメッセージが届いていた。相手は当然モカだ。見るまでもなくわかった。

 一体どうやって、みんなにバレないようにこれを送ってきたのだろうか。

 

『俺はなにも聞いていない』

 

 そうやって返すと、案の定すぐに返信が来た。相変わらず返信が早いな。

 

『よろしい』

 

 この文章だと、モカ特有のだらけた雰囲気が伝わってこない。

 果たして彼女は、どんな調子でこの文を送ってきたんだろうか。

 

『帰りはちゃんと待ってろよ』

 

 取り敢えずそんな文を送って、携帯の電源を切る。そうしてもう一度机に突っ伏し、目を閉じる。

 授業が始まるまで、あと10分もない。今から寝ると、確実に授業中も寝るだろうな。

 

 けれどまあ、それがわかっていても睡眠欲には勝てないのだ。

 

 

『おやすみー、悠くん』

 

 

 そんなメッセージが送られてきていたのに気づいたのは、家に帰ってからのことだった。

 

 

 

 

 




今日もいい天気ですね。
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