秘密の恋人   作:cake

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秘密の関係

 

「悠理って、今好きな人とかいないでしょ?」

 

 それは突然に、珍しくそいつと二人きりになった時に聞かれたこと。二人きり、というより、みんなと少し離れて歩いていただけだが。

 そしてそいつの名前は美竹蘭。話していると何処と無く壁を感じるが、一応仲のいい友達だった。

 

「……なんだよ、急に」

「いや、別に。前から聞きたかったことだし」

 

 学園からの帰り道。少し前を歩く4人に聞こえないようにするためか、美竹はかなり俺に接近して小声で喋る。

 この距離感といい、質問の内容といい、普通だったら自分に気があるのかと勘違いしてしまう状況かもしれない。けれど大丈夫。俺の頭は決してそういう勘違いはしない。……多分。

 それよりも、今は質問に対する答えだ。男らしく素直に答えるか、恥ずかしがって嘘をつくか。まあ、そんなものは決まりきっているけど。

 

「それで、どうなの?」

「いないな」

 

 前の4人に聞こえるくらいの声量でそう言い切る。だから当然みんなに聞こえただろうが、だれもこちらを気にする様子はない。どうやら、自分たちの会話に夢中なようだった。少し残念。……残念? なにが? 知らない。

 

「……ふーん」

「なんなんだよ」

 

 美竹が俺の答えを聞いて不満そうな声を漏らす。なにが気に食わないんだか。

 

「じゃあさ、つぐみのことはどう思ってるの?」

「……つぐみをどうって……いや、別に」

「ふーん」

「さっきからなんだよ、お前。似たようなことばっか聞いてきやがって」

 

 なんだか、今日の美竹はよく喋る。それもウザったらしいことばかりだ。気分が悪い。

 つぐみ。羽沢つぐみ。少し前を歩いている女の子。美竹同様俺にとって彼女は一応仲のいい友達程度には思っている。あくまで、俺にとっては。

 

「あんた、つぐみの気持ちわかってるでしょ」

「は? 気持ち?」

「そ。つぐみがあんたをどう思ってるのか、悠理自身もわかってるんじゃないの?」

「……ああ、そういう」

 

 つぐみが俺をどう思っているのか。そう言われても、ね。

 

「俺をどうって、ねぇ……」

 

 モカたちと一緒に、楽しそうに笑うつぐみに目を向ける。

 普通に見てれば、可愛らしい女の子。おそらくあいつと絡んでいて、あいつに悪い印象を持つ奴はいないだろう。そんな風に感じさせるくらいには良い子だ。つぐみは。

 

 そんな彼女が、俺をどう思っているのか。普段のつぐみの、俺に対する態度を思い出してみる。

 

 顔を合わせれば、基本的に目を逸らされる。その割には、頻繁に視線を送られていたけど。

 他の奴らと比べて、俺と喋っているときは何処かぎこちない。不自然さが目立つ態度だった。

 少し優しくしてやると、妙に嬉しそうに笑う。その優しさの意味を理解していないんだろう。

 

「まあ、なんとなく──」

 

 ただの自惚れだろうが、好意を抱かれている。そう感じる。

 だがもちろん、これら全ては俺の勘違いだ。そう思うことにしている。

 一年くらい前に()()()()()()()()()ことがあるけども、それは少し()()()があった。勝手にそう思っておいた。

 

「──ああ」

「? 悠理?」

 

 つぐみから目を離すそのときに、初めて気づいた。

 

「最近のコンビニのスイーツはホントに美味しいのがいっぱいあって、いっつもどれを買おうか迷っちゃうんだよ」

「確かにコンビニってどれも高いから、欲しいもの全部買おうとすると思ったよりも高くなっちゃうよね」

「そーだよ〜。コンビニのスイーツは、値段も高くてカロリーもたか──」

「モカ。それ以上は言ってあげるな」

 

 みんなと一緒に、なにやら上原が怒りそうな話をしているモカの目だけが、こっちを見ていた。

 そのモカの目はいつも通りの穏やかそうな瞳だけど、俺はなんだかそれに睨まれている気がして落ち着かなかった。

 

「ねえ、悠理? 急に黙ってどうしたの」

「いいや、なんでも」

「……そう? それより、つぐみのこと──」

「知らない」

「え? でも」

「知らない」

 

 そういう話は、もうやめにしたかった。だから簡潔に、知らないと、そう断言した。

 それに、俺は一度も嘘はついていない。

 

「……ふーん」

 

 美竹は不満そうだけど、なにかを察したのかそれきり口を閉ざした。いつも通りの、俺と美竹蘭の距離感に戻る。

 それにしても、やっぱり美竹にしては本当によく喋っていたと思う。どういう意図があったのかは知らないが、俺にここまで話しかけてくるのはあまりないから少し不思議だ。

 

「…………」

 

 ポケットの中で、携帯が震えたのがわかった。けれどあえて、確認はしなかった。

 

 

 

 ****

 

 みんなと別れて一人。俺は気分的に少し遠回りをして、家に帰ってきた。

 

 2階建の普通の一軒家で、両親と俺の3人暮らし。といっても、両親は殆ど帰ってこないから実質1人暮らしだが。

 玄関のドアを開けて、中に入る。俺以外に誰もいないはずだけども、玄関には無造作……とはいかなくとも、あまり遠慮というものがなさげに脱がれた靴があった。

 

「おかえり〜、悠くん」

「……やっぱお前か、モカ」

 

 音を聞きつけてきたのか、奥からさっき別れたはずのモカがぺたぺたとやって来る。靴どころか、靴下すら脱いでいた。

 

「悠くん、帰ってきたらまずはただいまって言わないと」

「ああ、うん、ただいまただいま」

 

 適当にあしらい、俺も靴を脱いで家に上がる。

 

「俺今日は鍵かけてたと思うんだけど」

「んー? かけてなかったからあたしがいるんだよ」

「それもそうか。なら、仕方ないよな」

「そーなのです。仕方ないのです」

 

 何が仕方ないのか。モカが当たり前のように家にいることが、だろう。

 俺が鍵を閉め忘れたから、こいつがここにいるのは仕方ない。……なんだか明らかにおかしなことを、おかしな考えで自分を納得させようとしている気がする。

 

「何度も言ってるけど、悠くん」

「ん?」

「まじめな話、家の鍵はちゃんとかけないとダメだよー?」

「気をつけるよ」

 

 いつからか両親があまり帰ってこなくなって以来、俺は何故かいつも家の鍵をかけ忘れてしまうようになった。だけど、俺の中では深刻な問題でもなかった。

 親のいない家に、大したものは置いていない。そういうのは基本的に全部両親がそれぞれ持っていった。

 それに俺自身、誰も居ない家に帰ろうとは思わなくなっていた。だから別に、鍵なんてどうだってよかったんだろう。

 

 しかしそれを知ったモカが何を思ったのか、暇な時は俺の家に居てくれる。俺にとってもモカがいるのなら、ここに帰る価値は充分に出てくるから有難い。

 

「それにしてもモカ、ここ最近毎日いるな。バンドの練習はないのか?」

「最近は控え気味〜」

 

 本当に、暇があれば俺のところに来てくれるんだな。悪い気分でもないし、むしろ嬉しいんだけど……。

 

「それじゃあ、俺たちのことを秘密にしたいんなら、もうちょっとみんなと遊んだりしないのかよ。こうも俺にばっか構ってたら、不自然だろ?」

「いやいや、そこを抑えたらもう悠くんといちゃいちゃできなくなるからね〜」

 

 いちゃいちゃ。なんかモカの口から聞くと面白い言葉だった。だってモカは、いちゃいちゃとかいうのはあんまり似合わない女の子な気がする。イメージ的には。

 

 階段を上って、モカと一緒に自分の部屋に入る。お互い適当な場所に腰掛けると、モカは少し声を低くして言った。

 

「それで悠くん。今日蘭と二人きりで何を話してたのかな?」

 

 それはいつものゆったりとした喋り方ではなく、モカにしてはかなりはっきりとした喋り方だった。

 

「いや、別に。ただあいつにナンパされてただけだ」

「うん?」

「なんでもないです、ごめんなさい」

 

 冗談のつもりが割と本気な顔で反応されたから、反射的に謝ってしまう。

 

「……なんかつぐみのこと聞かれただけだ。あいつの気持ちをわかってるのかってさ」

「……それでー? 悠くんはなんて答えたの?」

 

 少しだけモカにいつもの調子が戻る。

 

「……大丈夫。全部俺の()()()だ」

 

 それはモカの質問に対する答えではないけれど、モカの確認しておきたいことに対する直接的な答えだ。

 

「うん、よろしいー」

 

 欲しい答えが聞けて安心したのか、モカにいつものだらけた雰囲気が戻る。

 こう見えてモカは、かなりの心配性なのだろう。事あるごとに、こういうことを聞いてくる。

 

「悠くん、絶対浮気しちゃダメだよ〜?」

 

 そう言いながら、モカは俺に抱きついてくる。といっても、座っている俺にのしかかってくる形だけど。

 

「なんだよ、急に」

「別にいいでしょー? モカちゃんを不安にさせたんだから〜」

 

 相変わらず、甘えるのが下手な女の子だ。甘えるのにも、基本的にはこういう雰囲気を作ってから甘えてくる。

 元々、俺たちのことを秘密にすることを望んだのはモカの方だ。しかしその割には、かなり嫉妬する。まあ、それが可愛いとは思うんだけど。

 

「……重い」

 

 聞こえないように呟いたつもりだったけど、どうやら聞こえたらしい。モカがどんどん上から体重をかけてきた。

 

 




すぐに終わります。
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