生まれ変わる先は女尊男卑   作:灰TS

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第二話 この羊は狡猾に非ず/その名はΣ〈シグマ〉 前編

----IS学園 1学年教室----

 

『久し振り……と言いたかったが、一撃叩く必要がある様だな。私のいる学園で淫行をする輩には挨拶の前に然るべき制裁を加える必要が……拘束を解け。』

『眼が怖いよちーちゃん』

 

束はすぐさま山田から離れ、千冬から距離を取る。

 

『織斑先生⁉︎今、この方の事を束と……もしかして⁉︎』

『そうだ、山田。こいつがISの生みの親で全世界から指名手配を受けている腐れ縁だ。』

『〈腐れ縁〉とは酷い言い草だね、ちーちゃん。』

山田は心身共に驚愕していた。それもそうだろう。さっきまで強姦紛いの行為に及んでいた女性が、世界に一石を投じた人物なのだから。

天才ならぬ【天災】の人を前に山田の確固たる理性と燃え上がる怒りは瓦解し、挨拶をしようか、それとも矢張り怒った方がいいだろうか対応に迷っているのだ。

 

『(ど、どうすれば……!)』

『ねえ、ちょっといいかな?』

『はひぃ!』

『はあぁ…ホント君は可愛いなあ❤️』ゴチン!

 

束の頭上から明らかに激痛を伴う音が響いた。

千冬が拳骨を放ったのだ。

 

『いったぁ〜い!何をするのさ、ちーちゃん!』

『謝れ』

『ゑ?』

『謝れ、と言ったが聞こえなかったのか?』

 

千冬の鬼神の如き気に気圧されて”流石にやり過ぎた”と確信した束は、山田の方に向き直り

 

『すいませんでしたぁ!』

 

縦方向にほぼ90度に身体を曲げた。謝罪である。

 

 

二人の教師と一人の天才の会話を聞きながらエイジは奇妙な違和感を抱いていた。父親から聞いた背格好と寸分違わず其処に束はいるのに『この女は偽物である』という本能的な感覚ではあるが信じるに足る実感があった。

脳は『その女性こそ自身が会いたがっていた人物である事に間違いは無い』との判断が下されているので、ちぐはぐになっているのだ。

 

『それにしても、これはどういう事だ。』

『ほえ?』

『何故、クラスの全員が眠っているのだ?これもお前の仕業か?』

『無理して入って来たから、パニックになる寸前だったの。騒ぐ前にこれを使って全員眠らせたのさ。いっくんは席の位置からガラスに当たりそうで速攻で回避したし、私がボタンを押した頃には口をハンカチで押さえて教室の隅っこまで行ってたから吸わなかったのかもね。』

 

束はポケットの中から丸い形状をした野球ボールサイズの物体を取り出す。

 

『私が昔作って研究所の倉庫に放り込んだ特製無音催眠ボールなのだ♪』

『起こせるか?これから授業を始める予定なのだが…』

『天才に不可能は無いのだ〜。ほいッ』

 

束がもう一度ボールに設置されているボタンを押した5秒後に変化が現れた。ボールから二つの穴が開き其処からガスが噴出したのだ。

 

『本当に大丈夫か⁉︎』

『”起こす方”のガスだから心配要らないよ。』

セシリア『うぅ…一体何が…』

 

束曰く”起こす方のガス”の効果により睡眠状態にあった生徒達が一斉に起き出した。本当に起こす効果しかなかったらしい。

 

『いや〜ちーちゃんといっくんに久し振りに会う事に決めたら、私ったら急に張り切っちゃってさ。ゴミ屋敷みたいな倉庫をクロちゃんと一緒に掃除して《ガスボール》を引っ張り出してサプライズの為に使ってみたのです!』

『此処に来るのなら連絡ぐらいしろ!そのガスボールとやら、明らかに本来の用途と逸脱しているのが解らんのか?』

『ちーちゃんは驚いてるようだけど、これ使えるの一回切りなんだよね。だから束ちゃんの見識的にはポンコツ扱いだから捨てたのだよ……で?そこのサングラスの人と小さいけど鮮やかな長髪が光るイケメンは、束ちゃんに所用ありって感じだね』

 

『篠ノ之束、ここで捕らえる。スサノオの命でな。』

『動くなよ?絶対にな……』

 

盾を束に向けて前面に構えつつ、収納状態にあった警棒を慣れた手つきで勢いよく延伸させ間合いを測るカナード。

その背後には銃身下部に銃剣を付けたサブマシンガンをセミオート状態にして、制圧出来る構えに入っているガイ。

〈二人〉はいつでも戦える状態にあった。

 

 

しかし、この男は。このエイジだけは、二人と同じ様に警戒する姿勢では〈精神〉だけは同じものであった。が、彼にとっての警戒心は全く別の所にあった。

 

『あんた…誰だ?』

『エイジ?…何を言っている?既に察しもついているだろうに。この女は篠ノ之束。私のくされえ…』

『いいや違うね。この人は篠ノ之束ではない。』

『ほぅ…だったら私が天才束ちゃんではない理由を教えて貰おうか。この糞餓鬼。』

 

束は心底怒りを露わにした。それは当然だろう。何処の馬の骨とも知らぬ奴に〈偽物である〉と言われたのだ。自身を〈世界最高の科学者〉と言って憚らない彼女でなくとも怒るのは当然。本来なら半殺しにする所だが、それは低脳な一般人のやる行動。怒りを収め、話を聞いてからブチのめす事に決めた束は右腕の握り拳をそのままに聞く。

 

『先ずひとつに、貴女が警戒したのは武器を持っているガイとカナードだけだった。』

『それは当然じゃない?束ちゃんが捕まるなんて事はあり得ないけど、脅威度は武器を持っていない君よりも警戒するのは…』

『私は父から貴女の背格好と〈狡猾な羊〉という意味不明な二つ名しか聴いてないので、正直言って性格的特徴なんて解りません。ですが、先程からの言動や行動を観察して一つの結論を立てました。』

『へぇ〜どんな?』

『恐らく貴女は私が警戒する事はしても、殺意は持たない事を知っていた。であれば、殺そうとしないものに気を向けないのは当然の帰結。篠ノ之束を完全に〈模倣〉する為に編纂した資料を用いて私以外の面々には本物と変わらない体面は出来た様ですが、所詮は上っ面。今になってやっと解りました。思うに本物の篠ノ之束は…興味の無い事には無関心!それは、人間に対しても変わらない筈!しかし今の貴女は…本物に比べて社交的過ぎる!』

 

某大人気探偵漫画で的外れな推理を連発するちびっこ探偵の保護者並の無茶な推理を展開したエイジは、束らしき人物の反応を伺う。

その間に目覚めた生徒達の精神は所謂ポルナレフ状態だった。

 

『(これから授業が始まるかと思ったらウサミミが空からガラスを割って入ってきて、突然眠らされた。起きたらあの千冬様と服ごと揉まれたようでへたり込んでる担任とウサミミをつけた美女と見知らぬ男3人が立っていた。何を言っているのか解らないが、私達も頭がどうにかなりそうだった。催眠術とか超スピードとかチャチなもんじゃあない。もっと恐ろしいものの片鱗を感じました……)』

 

『ククク…フフッ…ふふふ…くっくっく…あっははは!アァはははははは!アヒィ!イヒィ!イヒィ!』

『⁉︎(笑った!なら、本物なのか?)』

『束…一体どうしたというのだ?』

 

狂ったように笑う親友を心配する千冬と、疑念を言葉に変えて投げうち反応を伺うエイジ。束から殺意を感じられなくなったカナードとガイは携行していた武器を待機状態のISに収める。

 

『まさか…この女は…』

『ああ。恐らくあいつがお守りの為に贈った…』

『ガイ?カナード?何を言って…』

 

正体を知っているような口ぶりにエイジは二人を問いただそうとした。だが、急に笑い声が止んだ。束に化けた人物が腹部をさすりながら呼吸をしている。

 

???『擬態率は100%なのに、目を合わせた瞬間からバレてしまうなんて。流石は私の【先輩】です。』

『せ…先輩!?何を言っているんだ?それに擬態って…』

『見破られたからにはしょうがない。見せて差し上げましょう。私の完壁にして至高の姿を‥擬態、解除。』

 

束らしき人物の両手の指の皮膚が剥がれ落ち始めた。ウサミミを付けた紫色の頭髪は徐々にその色素を変化させ金髪になり、ウサミミは獅子の耳を象った装飾品と姿を変える。それだけではない。服装も軍服に”戻った"のだ。

 

 

 

アルトリア『私は【エンキロイド】。コードネームは【アルトリア】。貴方の【エンキドゥ細胞】から得られた遺伝子情報を元に造られた《人造人間》なのです。』

 

 

入学1日目から波乱の日々が幕を開けた!

束を騙り、自らを人造人間と名乗った謎の美女の正体とは?

事態についていけない生徒達に明日はあるのか!?




【エンキドゥ細胞】
名前は紀元前2600年頃に古代メソポタミアに於いて王政を敷いていた世界最古の英雄王ギルガメッシュの唯一無二の親友《エンキドゥ》からなぞられている。
ゼウスに存在する生体兵器開発部門『レガシー・アンブレラ』によって製作された霊長類強化用細胞。
身体能力・脳機能・各種臓器の機能を飛躍的に上昇させることができ、脳内に《補助脳》と呼ばれる器官が新たに生成され、思考能力・知能が特に向上する。
他の生態系の生物の細胞を移植して遺伝子組み換えを行う事も可能であり、アルトリアはカメレオンの擬態能力をエンキドゥを利用して発展させた。
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