貴方の欲望はなんですか?『完結』   作:サルスベリ

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 王様って凄いんだぜ、的な。

 ある意味で最終話みたいな。

 放り投げる形での終わりもあっていいみたいな。

 でも、当初の予定通りのエンディングだったりします。

 さて問題です、この物語のオリ主の転生特典は何だったでしょう?






王の威光は遍くすべてを照らすのであった

 

 

 やあ、みんな、朝倉・雄一だよ。元気かい、そうか元気か。なら良かったと言っておこう。世界は平和で穏やかで、ちょっとした争いごとはあっても戦争とかない世界だといいな、とか思っちゃうんだよね。

 

 戦争万歳なんて危険な思想は持っていなかった。俺が最強、絶対無敵、誰も逆らえない、なんてことあっていいかなって想像したりして。

 

 そんな人たちに言っておこう。

 

 悪いこと言わないから、そんな考えは捨てろ。

 

 じゃないと、痛い目どころじゃないからな。

 

 さてと、どこから話したらいいかな。

 

「敵部隊出現! 何時もの連中です!」

 

「まったく懲りない奴らだ、また向かってくるとは」

 

「第一艦隊、第二艦隊を差し向けて撃滅しよう」

 

「そうだな、我らが王のために」

 

 目の前でそんな会話が流れているけど、俺は完全に無視して泣きたくなるのをグッと堪えて、必死に『平穏万歳』しか考えていない。

 

 何でだって? 

 

 だってさ、俺の転生特典が黙ってないからさ。

 

 ああ、そうそう俺が横須賀鎮守府に着任してから一年たったぜ。

 

「では行こうか、深海棲艦達よ」

 

「そうね、艦娘も遅れないようにしなさい」

 

 あ、ああ、もうどうしてこうなったのやら。

 

 敵の敵は味方なんて生易しいことはない、今まで戦っていた連中すべてが俺に従うって世界は、すっごく。

 

「我らが王に世界を差し出すために!」

 

 すっごく、生き難いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が望んだのは『王の力』だった。色々な王様の力をギュッと濃縮してゴジラに入れられて、今の世界に生まれ落ちた。

 

 生まれたときになかったのは、本人が望んでなかったからとか、危険とは無縁な生活だったからとか、妖精が言うには細かい話があるらしいけど、俺は完全無視だ。

 

 深海棲艦が鎮守府に押し寄せたその時、俺は死を覚悟したね。こっちの艦娘達は優秀だけど、万を超えるような深海棲艦が押し寄せたら、いくらなんでも多勢に無勢だ。

 

 艦娘達は俺を逃がそうとしたんだけど、俺は逃げるつもりなんてなかった。

 

 お飾りだろうと俺は提督だ、提督が最初に逃げ出してどうするって言うんだ?

 

 だから俺は立ち向かうつもりで拳を握って、そこからチラリとゴジラ様を見た。だってこれは俺の転生特典、俺が危なくなったら助けてくれるはずだからとゴジラ様を見つめたら、相手は滅茶苦茶『アクビ』していた。

 

 え、なんで、これから一大決戦なのに、あくび? 暇なの? 危険じゃないの、あの海が消えるくらいの深海棲艦が危険じゃないって、どういうことなんでしょう?

 

「ご、ゴジラ様?」

 

 あ、こっちを見た。でも、見た後は興味なくしたように顔を戻して、首を振った。

 

 え、終わり? ここで俺は終わり? こんなことなら欲望のままに生きるべきだった。

 

 だって、転生特典『王様能力てんこもりゴジラ様』だぜ。ハーレムだって夢じゃない、美人の幼女からお姉さんまで望みのままにできるってもんだろ、よりどりみどりっていうのも決して叶わないものじゃないから、好き勝手できるって話だろ。

 

 豪邸に住んでも良かったのかな? お城みたいな家とか望んでも、ゴジラ様だったら簡単に建てられそうだし。

 

 いやいや、ひょっとしたら国とか持てたのかも。国家運営なんてできないけど、そこはゴジラ様に頼んで優秀な人材確保して、ギアスかけて逆らえないようにしてさ。

 

 もう地球事支配下におけたんじゃないかな。いや、アニメの兵器とか次々につくってさ、リアルなスパロボとかできたんじゃないの。

 

 今更になってやりたいことが浮かんできた。もう終わりなんて、そんなこと認められない。

 

 だって俺はまだこの世界を楽しんでない、自分の好き勝手に生きてない。いや好き勝手に生きることはどうかって思うくらいの道徳心はあるけど、でも男に生まれた以上は『こうしたいって欲望』はいくらでもあるさ。

 

 艦娘に囲まれて生活してるんだぜ。せっかく、提督になったんだからさ。

 

 いや、この世界の艦娘達は色々と地雷が多いけどさ、それでも見た目は美人ばかりなんだから、もっと『キャッハウフフ』的な話があってもいいんじゃないか。

 

 高望だったのかな、一個人がいくら神様に転生してもらったとしても、そういった欲望を叶えようとしたのが間違いだったのだろうか。

 

 後悔ってこういうものか。

 

「提督! 速やかに退避を」

 

「大淀、俺は最後まで残る」

 

「しかし!」

 

「俺は提督だ、皆の提督なんだ。だから、俺はここで最後まで見届ける」

 

 必死に説得してくれる大淀には悪いけど、俺はもう逃げないって決めた。自分勝手な妄想とかして、艦娘に危機感を覚えたこともあったけどさ。

 

 こう、必死に俺を逃げそうとしてくれる女性を置いて、一人で逃げるなんて男じゃない。

 

「ゴジラ様、勝てないならば俺に武器をください。俺だって男だ、逃げるなんて恥ずかしいこと出来ない」

 

 武器なんて使ったことないし、英霊みたいに戦えないことは知っている。でも、彼らのように華々しく戦えなくても、みっともなく逃げることはしたくないから、だから前向いて歯を食いしばって戦ってやる。

 

 だから! と決意を向けてゴジラ様を見たら、相手の目が俺を見ていた。

 

 

『なにいってんの、おまえ』と呆れたように。

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は転生特典を舐めていた。神様の万能さを甘く見ていた。いや、あいつが神様かどうか知らないけど。

 

「神様じゃないね」

 

「あ、やっぱり」

 

「創造神クラスを何十匹と狩っているけど」

 

 

 

 

え、それってどういう化け物?

 

 

 

 

「世界を創造して破壊してを鼻歌交じりにやるけど」

 

 

 

 

ちょっと待って、なにそのキチガイ。

 

 

 

 

 

 

 と、とにかく話を戻そう。そう、あいつは万能だった。本当に自重って言葉がないくらいに、万能だったんだ。

 

「我ら深海棲艦、王をずっと探しておりました。貴君こそ、我らの王に相応しい存在。これより我らは貴方様の配下となり、手足となり、すべてを蹂躙して見せましょう」

 

「あ、はい」

 

 思わず頷いてしまった。

 

 ど、どういうことだよ?! え、待って、深海棲艦って敵じゃないの、なんで全員が俺の配下になっているの。

 

「配下ではなく、下僕としましょうか?」

 

 こ、怖ぇぇぇ!! な、なにこの人。なんで姫級がそんなこと言って笑ってるの。誰この人、公式が何か狂ったの?!

 

「なるほど、我らが提督が貴方達の王であると?」

 

「そうだ。我らはこの方に従う」

 

「同じ存在をいただくならば、我らは仲間ということだな?」

 

 え、ちょっと待って。なんで長門はそんなあっさりと認められるの。え、誰も疑問に感じないわけ。どうしてそうやって手を組めるわけ。

 

 わけわかんないよ、俺。

 

「提督、軍本部より出頭せよとの命令が届いています」

 

「あ、そっか」

 

 大淀が持ってきた電文を受け取ろうとして、俺の手は空を切った。

 

「え?」

 

「ですが、必要ないでしょうから、『おまえらが来い』と言っておきました」

 

 何してんですか、あんた?! 相手は日本の偉い人たちじゃないの?!

 

「さすが、大淀だな。解っている」

 

「そうだな、我らが王に来いなどとは、よほど死にたいらしいな」

 

「同感です」

 

 え、待って、俺の感覚がおかしいの。なんで、『万死に値する』って全員が頷いているわけ。

 

「い、いや、俺は行くよ、ちょっと話を聞いてくるからさ」

 

「我らが王はお優しいな、あのような下種どもを気にかけるとは」

 

 どうしてそうなる、長門。なんでそんなに日本の人々を見下しているわけ?

 

「そうだな、我らの王は優しすぎる。だからこそ、粛清は我らの役目か」

 

 おい、姫さんよ。どうしてそう短絡的に言うわけ。っていうか、誰も止めないってどういうことだ。

 

「では、戦略会議にしましょう」

 

 当然のように大淀が告げて、そして俺は止める間もなく世界征服を眺めることになったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、俺は世界の王様になったわけだよ。

 

 転生特典通りにまさに『王の力』を手に入れたってわけさ。

 

 あの後は凄かったね。艦娘と深海棲艦の連合軍が、各国を蹂躙していった。もう何処の『アルペジオ』ってくらいにさ。

 

 海から人類は叩きだされ、海上を移動する術は消滅。衛星軌道上ならばって当初は人類側は考えていたんだろうけど、ゴジラ様がいることは知らなかったのか、それとも気づいていても信じたくなかったのか。

 

 衛星軌道上まで届く対空砲に前に人類の人工衛星はすべて消滅。大陸内部に全人類が引きこんだので、ここで終了。

 

 なんてことはなかったのさ。

 

 艦娘の艤装がいつの間にか、『陸地を進めるようになっていた』。

 

「私たちが頑張りました」

 

「やりました!」

 

 おう、夕張と明石が頑張ったんだってさ。で、ゴジラ様も何かしたみたいでさぁ、もう蹂躙戦だったね。

 

 反対勢力は残らず駆逐。反論も社会的に封じ込めて、誰も反論できない世界の出来上がり。

 

 世界は俺の手中にって言うわけ。

 

「なんでだよ!?」

 

「王の力を望んだからじゃないの?」

 

「出たな元凶の妖精!! 説明しろよ!」

 

「おまえが望んだから」

 

 ビシッと指をさされて、俺は言葉に詰まった。

 

「王様になりたいんだろ? ハーレムが築きたいんだろ? 美人に囲まれたいんだろ? 好き勝手したんだろ? ほら、望の世界だ。どうだ、世界の頂点にたった気分は? すべての欲望がおまえの望みのままだぞ、良かったなぁ」

 

 妖精はケタケタと笑っている、これが俺の望の果て、欲望の結果だって言うのか。

 

 そんなことない、俺は、そんなことを。

 

 否定したくて顔を上げれば、そこには俺の転生特典が雄たけびを上げていた。

 

 ああ、間違いなく俺はこれを望んでいたのか、そうか。

 

「では次だ」

 

 妖精が無慈悲に問いかける、とても楽しそうに、とても無邪気に、体から力が抜けるような俺に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方の欲望はなんですか?』

 

 

 

 

 




 

 というわけで、完結です。

 書き始めた最初のきっかけは、『高すぎる欲望は身を滅ぼす』ってところから始まりました。

 神様転生って、つまりはそう言うことなのかなぁと。

 バッドエンド的な終わりですが、見方によっては彼はすべての欲望を叶えて生きているわけで、ハッピーエンドじゃないかなぁと。

 考え方、感じ方は人それぞれです。




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