賢者の孫『常識知らずと自重知らずの英雄譚』   作:【ユーマ】

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第3話『賢者の失態』

「さて、我らが英雄マーリン殿とメリダ殿のお孫さんたちがこの度、めでたく15歳になり成人した。コレを祝って乾杯したいと思う」

 

 今、マーリンの家には普段から家を訪れる人達全員が集まりテーブルを囲んでいる。

 

「それではシン君とセイン君の15歳の誕生日を祝って、乾杯!」

 

「「「乾杯っ!」」」

 

 あれから更に5年の月日が流れて俺とシンは15歳となり成人、つまり大人となった。それを祝うべくこうしてパーティが開かれてる訳だ。

 

「あの小さかった二人が成人するとはね」

 

「ほっほっほ、わし等も年を取るわけじゃな」

 

 と言った感じに主に俺達の幼少の話をメインに盛り上がっていた時だ。

 

「そう言えば二人は、これからどうするのかね?」

 

 金髪の髪と口ひげを生やした妙齢の男性、ディセウム。俺らはディスおじさんと呼んでる男性から、そんな事を聞かれた。成人した以上は何時までも森で隠居暮らしというわけには行かない。社会にでる必要があるし、お爺ちゃんとお婆ちゃんだって何時までも生きてる訳じゃない。……まぁ、おばあちゃん達が死んでる光景なんて思い浮かばないほど、まだまだ元気なのは確かだが。兎に角、二人の庇護を離れても生活している様になる必要はある。

 

「そうですね。とりあえず近くの町へ行ってみます」

 

「そうか、それから?」

 

「それからの事は町に着いてから考える予定です。この世界の事や社会常識とかある程度はお婆ちゃんから教わってはいますけど、こう言うのはやっぱ実際に肌で感じる必要はあるでしょうし」

 

「まぁ、シンとセインの二人なら大丈夫だろ」

 

 銀色の髪に青い目をしたイケメン。ジークことジークフリードがステーキを指したフォークを持ちながら会話に混ざってきた。

 

「二人のなら魔物ハンターにだってなれるし、付与魔法で魔道具屋だって開ける。それに二人ともそんだけ男前なんだ。女の子と仲良くなって養って貰えるかもしれないし」

 

「待って最後の奴。それ独り立ちする意味がなくね?」

 

「全くです」

 

 赤い髪のポニーテールをした女性。クリスが呆れた様な目線をジークに向けた。

 

「そんな事を考えるのはアナタだけですよ。アナタも少しはセインを見習って考えを改めたらどうです?」

 

「あぁっ!?」

 

「何かっ?」

 

 とクリス姉ちゃんとジーク兄ちゃんが互いにメンチを切り始めるがこれは二人が揃った時の恒例行事みたいなもの、最初こそオロオロしたものだが今では特に気にする事無くスルーしている。

 

「魔物ハンター? 魔物って討伐したらお金もらえるの?」

 

「魔物ハンターを知らんのか? 魔物を討伐してその牙や爪などの素材を売ったり、指定された魔物を討伐して報酬を貰ったりできるんだよ。実力主義の面が強いから身分とか生まれに関係なく誰でも出来る仕事さ」

 

 代わりに若干モラルが低い輩が混ざってる時もあるが……。

 

「そう言う仕事があるんだ」

 

「最初のうちは魔物ハンターで稼ぐ事になるだろうな。なんにしても俺達はまず社会の中での生活に慣れる事から始めなきゃいけない、つまり社会勉強も兼ねた自立って事だな」

 

「そうだよね。これからはお金の使い方とかも覚えていかないといけない訳だし」

 

 ……ちょっと待て。今シンはなんて言った?俺と同じ気持ちなのか一同全員無言になり視線がシンに集中している。

 

「まさかとは思いますが……シンさん、今まで買い物とかした事ありますか?」

 

 そんな中、恐る恐る口を開いたのは茶色の髪と目をした少し恰幅の良い男性のトムさん。俗世を離れ隠居してる俺達に生活に必要な物資を色々と売ってくれてる商人だ。

 

「買い物はトムさんからしかした事無いですね。お金のやり取りはじいちゃんがしてたからやった事無いです」

 

「……シン、失礼な事訊くかもしれんから先に謝っておくぞ」

 

 そう言って、俺は異空間収納から財布を取り出し、何種類かの硬貨を並べる。

 

「あ、これがこの世界のお金なんだ。これだけ間近で見たのは初めてだな」

 

「……」

 

 各硬貨の価値が分かってるか訊こうかと思ったが、お金を見たシンの一言で全てを察し、そのまま無言でお金をしまう。そして、俺も含め全員の視線が今度はお爺ちゃんに集中する。

 

「マーリン……!? あんた……」

 

「マーリン殿……これは……」

 

 やがておじいちゃんは一瞬だけ目を見開いて

 

「そう言えば、常識教えるの忘れとった」

 

 テヘッと舌を出して、とんでもない爆弾発言をしてくれた。つーか、老人の男性がそんな事してもぜんぜん可愛くねぇよ、お爺ちゃん……

 

「「「「何ぃ~~~~~~~~~~~!?」」」

 

 そして数秒の無言状態の後、全員が驚きの声を上げる事になった。そういや俺もお爺ちゃんからは社会の常識とかそこら辺は全然教わった記憶が無い……。思いっきり世間知らずの常識知らずにはなってしまってこそいるが、シンに人間としてのモラルや道徳はキチンと備わっているのは前世の記憶のお陰でもあるのだろう……

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 そんな賢者にあるまじき大失態が発覚した次の日、俺達は森から離れたある荒野に来ている。ここは俺とシンが魔法の練習や魔道具の試運転を行ってる所だ。目的はシン、そして俺の魔法の実力を確かめる事らしい。常識を教えるのも忘れるほど、熱心に魔法の手解きをしたのだ。どれほどになってしまっているのか確認したくなったとの事だ、主に不安だからという意味だろう……

 

「はぁ~っ、こんな空間魔法が使える辺り既に……ああ考えたく無いねぇ」

 

 そう言って、後ろに開いている紫色のドアのない枠の様な何か、シンが考えた転移とは別の移動魔法『ゲート』に目を向けた後に頭を抱えてしまった。

 

「しかしメリダ師。社会に出た後、彼らがどんなトラブルに巻き込まれるか判りません。諦めて確認しましょう」

 

 あれ?ある程度常識教わった筈の俺まで不安視されてる……?

 

「えっと、じゃあ俺からで良いか?」

 

 そう言って、皆から少し離れた所に立つ。

 

(基本イメージは風の槍)

 

 そして俺はお得意の風魔法の構築に掛る、微かに緑色の輝きを放つ風の槍を二つ生み出す。狙いは目に付いた大岩。

 

(望む結果は貫通。そこに至る過程は刺突のではなく、掘削)

 

 この風がどういう過程を持って岩を貫くのかのイメージも重要だ。刺すのか、それとも削るのか、この過程のイメージが変わると魔法の性質も大幅に変わってしまう。やがてイメージにそって槍の周りの風が螺旋状に渦巻き始める。そして放たれた風は岩とぶつかり、少しずつ岩に食い込んでいく。3秒ほどで岩を貫通すると同時に元の速度に戻り、遠く離れた所で霧散。魔法のお披露目を終えた所で俺はみんなの方を振り向く。全員が唖然としており、おばあちゃんは再び頭を抱えている。

 

(俺の魔法でこの反応。シンの魔法を見たらどうなるんだ、これ……)

 

 そして今度はシンが俺の横に立ち魔法の準備にかかる。シンが選んだのは火の魔法。まずは魔力で火種を作り、大気中の酸素と水素を集めそれで包む。そしてそれを放ち着弾と同時に酸素と水素の混合気に引火。酸素は火が燃えるのに必須、そして水素は火をつければ爆発する。それは地球では子供の段階で習う知識だ。そしてこの2つが充満していればいるほど爆発の規模も大きくなる。つまり――

 

(初めてこれをみた時は“人間爆弾”って言葉が思い浮かんだっけなぁ……)

 

 爆音が響き、大気が震える。爆発の後もモクモクと煙が立ち昇り、あまりの高温に爆心地の表面部分の一部がどろどろに融けかけている。焚き火もコンロもどちらも火を点けると言う結果を導き出す事はできる。けれど、焚き火と比べコンロは火力の強弱が容易だ。それは火が燃える原理・過程を理解し、その理解の下に作られた道具だからだ。過程を知り、大前提が崩れない範囲で変化を加える事で生み出す結果に変化を持たせる。イメージに『過程』を組み込んだ魔法、それが俺とシンの魔法であり、過程のイメージの大部分は地球の知識と技術が元になっている。因みにシンと比べて術の構築は遅くなるがやろうと思えば俺も同規模の事は出来る。実戦で使うにはちょっと勝手が悪いが……

 

「マーリン……ア……アンタ……」

 

 あ、お婆ちゃんキレ掛けてる。その後も指定された属性の魔法を放ち、一通りの魔法を撃ち終わった所でお婆ちゃんがお爺ちゃんのローブの襟に掴みかかった。

 

「何でこの子達に「自重」を教えなかったのさぁ!!!」

 

「だって教えた事はみんな吸収しよるんじゃ。ついどこまで出来るか見たくなったんじゃもん」

 

「何が「じゃもん」だい!! 気色悪いっ!!」

 

 確かに初めてシンの爆破魔法見た時は他の魔法使い達もこんだけの事が出来るのか若干気にはなった。が、それを実際に知る機会は無かったし、大は小を兼ねると言う言葉もあることだし『まぁいっか、やれるところまでやってみても損は無いだろ』と、お爺ちゃんと同じ考えになり、何時しか気にするのをやめてた。まぁ、言えば拳骨飛んでくるのが目に見えてるので言わないが……。

 

「これは……おいそれと世間に出せなくなったな」

 

「これ程の威力を持った魔法……先ほどのゲートの様な移動魔法。使い方次第では世界征服すらできるレベルだ」

 

「加えてミッシェル様に武術の稽古もつけてもらっています。これが知れたら各国が二人を取り込もうと躍起になりますね」

 

 また、此処では話題なっていないが俺の『付け替えられる付与魔法』、名前が長いので記憶の中の元ネタそのまんまに『マテリア』と呼んでいるそれも汎用性ならびに利便性の点から周りに大きな影響を与えかねない。だからこそ去年ディスおじさんに国に対してコレの技術開示を提案した際に、逆に無闇に開示するのはやめる様に釘を指された。

 

「マーリン殿、少し話があるのですか……」

 

「その前に、この婆さん……何とかしてくれんか……」

 

「誰の所為で締め上げられてると思ってんだいっ!!」

 

「お婆ちゃん、なんか大事な話っぽいしとりあえず一旦離してやった方が。締め上げるのは後でも出来るだろ」

 

「……それもそうだね。それで、話ってのはなんだい、ディセウム」

 

「え……まだ締め上げられるの、わし?」

 

 

 

 

 

「マーリン殿、メリダ殿。二人の力は正直異常……世の勢力分布を狂わすほどです」

 

 そしてシンは言わずもがなだが、俺の社会に関する知識もお婆ちゃんに教わったり本で読んだ程度で実際に自分で体験した訳でない。それで居てどの国も欲しがる程の実力を備えてるとなると、社会勉強も兼ねて自立させるにはリスクが大きすぎるとの事だ。

 

「そこで考えがあります。二人を我が国にある高等魔法学院に入学させませんか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、お爺ちゃんの雰囲気が変わった。鋭い眼光に張り詰めた空気、普段の好々爺とは似ても似つかない、それは賢者と呼ばれるに相応しい強者の気配と威圧感。

 

「……それはお前の国に取り込もうと言う考えか」

 

「二人を軍事利用しない事はこの場で誓いましょう」

 

 そんなお爺ちゃんの視線と真正面から向かい合い、ディスおじさんもハッキリと言葉を返した。

 

「私自身、甥っ子同然の彼らを戦いに巻き込みたくない」

 

 王都にある高等魔法学院。それは成人前の義務教育を終えた後に魔法が優秀なものを集めてその素質を更に伸ばす為の機関。

 

「そこなら、二人が“他の魔法使い”と比べて規格外か知る事が出来るでしょう」

 

(規格外って……そこまで言うか)

 

「それに二人にとっても同世代の友人を得るよい機会になります」

 

 シンに同世代の友人を、それがお婆ちゃんが俺を保護して孫として育ててくれた理由。けれどその目論見はある意味では失敗と言える。何せ俺とシンは殆ど兄弟に近い間柄になってるのだから。

 

「なるほどのう……」

 

 ディスおじさんの提案を聞いていたお爺ちゃんはやがていつもの雰囲気に戻った。

 

「どうじゃ、二人とも。ディセウムの言う事はもっともじゃし、ワシも良いと思うが」

 

「オレもそれで良いよ。学校通ってみたいし同じ年の友達出来るなら……楽しそうだし」

 

「いきなり独り立ちはリスクが高いんだろ? だったら考えるまでも無いさ」

 

 王都の高等魔法学院は完全な実力主義。その為ディスおじさんが便宜を図り、入学試験をパスする事は不可能。そんな魔法学園では貴族、更には王族の権威すら意味を成さない。それどころか権力を利用した行いはもれなく厳罰に処されるほど。つまり学校に入学しその保護下に入れば、少なくても国内の貴族は簡単に手出しは出来ない。下手にこのまま自立するより遥かに安全と言える。それとは別に今まで人の世を離れて隠居していたのだ。社会にでる前に青春を楽しみたい、と言う考えもある。

 

「ところで、さっきから便宜だとか、厳罰だとか……ディスおじさんって実は権威ある人なの?」

 

「おお、そういえば言ってなかったな」

 

「と言うか、それすら知らなかったのか。シン……」

 

「私の本名はディセウム=フォン=アールスハイド。我がアールスハイド王国の国王だ」

 

 そう、俺達にとっては親戚、もしくは近所のお兄ちゃんお姉ちゃん間隔で接してる人達はその大半が国の重鎮。ミッシェルさんも元・騎士団総長だった人物だ。因みに12歳の時にその事をお婆ちゃんから聞いた時「わー英雄の人脈ってスゴーイ」と言う月並な感想になってしまうほど衝撃を受けたのは言うまでも無い。




セインの口調ですが、マーリン、メリダ、ジークとクリス以外の年上や目上には敬語となりますが、その他には素の口調となります。
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