賢者の孫『常識知らずと自重知らずの英雄譚』   作:【ユーマ】

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小説では茶色となってますけど、マンガのカラー絵やアニメだとマリアの髪って明らかに赤に見えるんですよね。


第4話『祖父母の名声』

「でかっ! 俺達こんな所に住んで良いの!?」

 

「住んで良いって言うか、ここは元々私らの家だよ」

 

 目の前に建つ大きな屋敷を見上げていると隣のシンがそんな事を口にした。お爺ちゃんの教育と育児のしかたに問題が見つかり、社会勉強と同世代との交友関係拡大の為に高等魔法学院に通う事になった俺とシン。その為に俺達4人は王都に移住する事となった。そしてその移住先はどう見ても貴族階級の人々が住んでそうな屋敷、二人が若い頃に国を救った褒賞として貰ったモノらしい。辺境の小さな村に住む村人のままだったら一生縁が無かったモノだろうし、前世の自分でも同じだ。さて、何時までも呆けてるわけにも行かない。とりあえず中に入ろうとドアを開けた次の瞬間――

 

「「「「「「お帰りなさいませ」」」」」」

 

 正面を空けるように左に執事、右にはメイドが数人並んでおり、一糸乱れぬ会釈と挨拶が飛んできた。少し奥のほうには一人の執事とメイド、コックさんが立っており、こちらに近づいてきてから一礼。

 

「初めましてマーリン様、メリダ様、シン様、セイン様。私はこのウォルフォード邸の女中頭を務めさせていただきます、マリーカと申します」

 

「同じく、この屋敷で執事長を務めさせて頂きますスティーブと申します。この屋敷の事は万事取り仕切りますのでよろしくお願いいたします」

 

「私は料理長を務めさせて頂きます、コレルと申します。皆様に満足して頂ける様に務めます。よろしくお願いいたします」

 

 スティーブさんの話によると賢者様と導師様がお帰りになると聞き、色々な方面から是非とも屋敷で働きたいとの応募が殺到、高倍率の試験を勝ち抜いた使用人の選抜チームとの事だ。

 

(俺らって王族でも貴族でも無い筈だよな……)

 

 今までは食料調達から洗濯といった家事も自分で行うように習慣づいてると、いきなり全て人任するのは気が引けると感じるのが普通の感覚と言うものだ。

 

「そう申されましても、私どもも陛下のご命令を受けて参っております。ましてや英雄殿のご家族なのです。無下に扱い事など出来るはずがございません」

 

 同じ事を思い、それを口にしたシンの言葉に対するスティーブさんの返事がこれだ。と言うより、家の事やらせただけで無下な扱いなるのか。とは言え、彼らも王の命を受けてここで仕事をするというのだ。無理に手伝うのも職務遂行の邪魔になるだけ……そう考える事にしよう、うん。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 と言う訳で、王都での生活を始めてから、今までは家事や狩りの為に割いてた時間が丸ごと空いてしまったのでその時間で入学試験に向けての勉強をしたり、魔法や魔道具の研究をして過ごしている。そして今日は息抜きの為に王都を散策することにした、何せこれから生活していく事になる場所だ、地理は早めに把握しておくに限る。屋台で串焼きを買い食い(シンにとって初のお買い物)したり、魔法具屋を冷やかしたりしながら辺りをぶらついていると、行列が見えた。

 

「あの、これ何の列ですか?」

 

「舞台さ! 『賢者マーリンと導師メリダの物語』」

 

 建物を通り越し、向こうの曲がりを曲がった先まで続く長蛇の列。公演されているのはお爺ちゃんとお婆ちゃんが若い頃に王国を救った時の事をベースとした英雄譚で、二人が王都に帰還した事を祝して特別公演が決まったとの事らしい。因みにこの公演の他にも二人の事は本にも綴られている。まぁ、当人たちが実際に読んだ時の感想が「これ誰?」と言う程、人物像は脚色されたみたいだが……。

 

(お婆ちゃんから少しだけ聞いてはいたけど、ホントに英雄なんだな。あの二人……)

 

 年月が経ち当時はまだ生まれても居なかった人にすら尊敬の念を抱かれているのを見ると、改めてそれを実感させれる。そして――

 

「二人の顔に泥を塗らねぇように、頑張んなきゃな……いろんな意味で」

 

 俺は小声でポツリとそんな事を呟いて、劇場を後にした。その後は特に何事もなく辺りをぶらつき、やがて表通りから裏通りを散策している時だ。

 

「イヤっ! やめてください!」

 

「ちょっとあんた達! いい加減にしなさいよ!」

 

 女の子の声が聞こえ、そちらに目を向けるとそこには革の鎧に腰には剣をさした如何にも剣士ですと言わんばかりの大男が三人。

 

「おぉコワ、そんな怒んなよぉ俺らと一緒に遊ぼうぜぇ」

 

「そうそう、俺らと遊ぶと楽しいぜぇ、ついでに気持ちいいかもなぁ」

 

 ギャハハハと下品な笑い声を上げている男性達。王国治安は他国と比べて良い方だ。とは言え、これだけ広い都だ、この手の輩が一人も居ないかと言われれば答えはご覧のとおり。

 

「おぉ、なんとテンプレな……」

 

 そう呟いて、シンが男たちの方に近づいていく。確かにこう言うシチュエーションは地球の物語では割と定番だ。そして――

 

「それに首を突っ込むシンも、な」

 

「あー、そこのお嬢さん、お困りですか?」

 

 とは言え、いきなり「やめろ!」とは言わず、一応確認は取るらしい。

 

「はい! 超お困りです!!」

 

 男に囲まれてるせいで顔は見えないが隙間から少し茶色味かかった赤い髪が見えており、その赤毛の少女から返事が返ってきた。

 

「なんだぁガキ! 何か用か!?」

 

「おぅおぅカッコイイねぇ、正義の味方気取り?」

 

「俺らは魔物狩ってこいつら守ってるんだぜ、俺らのほうが正義の味方でしょ」

 

 ああ、魔物ハンターか。ハンターの仕事は身分や生まれは関係なく誰でもなる事が出来るが他の仕事と比べ、自己責任な部分が多い。 故にこいつらの様な他の職に付くには少しモラルが不足してる連中でも実力さえあればやって行ける訳だ。

 

「お兄さん達、魔物を狩るのは正義の味方かもしれないけど、女の子まで狩っちゃったら悪人だよ」

 

「ふむ、座布団0,2枚って所だな」

 

「上手くないなら、上手くないってはっきり言って良いぞ……」

 

 いや上手くないなら、座布団は持ってかれるからな。なんてやり取りをしてると下卑た笑みを浮かべていた男たちの表情が一気に険しくなり――

 

「ンだと! このガキ!」

 

「痛い目見ないとわかんねえ様だな!」

 

 そう言って三人の内、二人が殴りかかってくるがシンはそれを避けて腕を掴むと同時に足払いで転ばせる。続く二人目はカウンターで腹に一発打ち込んでからの背負い投げを決める。2人が倒された事で、からまれていた少女達の姿がハッキリと映る。若干つり目気味な大きな茶色い瞳をした少女、見た目や先の男とのやり取りからも割りと勝ち気な女の子だろう。

 

(……へぇ)

 

 シン一人で問題無さそうだし俺は傍観決め込むつもりだったが、その赤毛の少女の一人の姿を見てちょっと考えが変わる。

 

「死ね! コラァ!!」

 

 最後の一人は素手だと分が悪いと悟ったのか、腰に挿してた剣を抜いてシンに斬りかかる。

 

(まぁ、武術の実践はあまりしてなかったしな……)

 

 と、自分に言い訳をしてシンと男の間に割り込み、剣を持ってる方の腕の付け根を手で押さえる。

 

「う、うごかねぇ!?」

 

 何かを殴る、剣で水平もしくはナナメに斬りつけると言った動きは身体を中心とした回転運動に近い動きとなる。そしてその運動の作用点は肩、だからこそそこを押さえて回転運動を封じれば、結果はこの通り。そのまま反対の手で掌底打ちを男の顎に叩き込みノックアウト。

 

「大丈夫? 怪我してない?」

 

「あ、はい! 大丈夫です」

 

 シンが赤毛の女の子に声を掛けると、彼女は一言そう返事をして今度はこちらの方に近づいてきた。

 

「それより、貴方こそ大丈夫? あいつ、剣まで抜いてたし」

 

「かすり傷一つねぇよ。あの程度の太刀筋なら簡単に見切れる」

 

 実際、剣速もそんなに早いものでもなく、わざわざ肩を抑えて止めなくも余裕でいなす事も出来ただろう。

 

「え、結構鋭いと思ったんですけど……」

 

 そう言ったのはもう一人の女の子、赤毛の女の子とは対照的に青い髪に大人しげな雰囲気をした少女だった。

 

「とりあえず、こいつ等が目を覚ます前に一旦此処を離れようぜ。……シン?」

 

 と、シンに声を掛けたが反応が返ってこない。視線は青い髪の女の子に向いたまま動かない。

 

「おい、シンっ!」

 

「えっ? ああ、そうだね。とりあえず何処か落ち着ける場所……カフェにでも行こうか?」

 

(そのセリフは完全にナンパなんだが……まぁ、いっか)

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「改めてお礼を言うわね。助けてくれてありがとう」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

 あの後、シンの提案どおりに少し離れたとおりのカフェで女の子二人とテーブル席を囲んでいる。

 

「構わないよ。大した相手でも無かったし」

 

「もう、魔法さえ使えてたらあんな奴ら簡単にやっつけられるのに」

 

「駄目だよ、マリア。街中で攻撃魔法は使っちゃダメなんだよ」

 

 そう、この王都内では攻撃魔法を使用する事は基本禁止されている。使えるのは主に治癒魔法や身体強化といった類の魔法だ。身体強化に関してはどういう目的で使うかにより変わるので割とグレーゾーンなのだが。

 

「あ、そう言えば自己紹介まだだったわね、私はマリア。こっちはシシリーよ」

 

「あ、シシリー……です」

 

「ご丁寧にどうも。俺はシンって言うんだ。こっちは――」

 

「セインだ。まぁ、よろしくな。ところで、魔法を使えるって事は高等魔法学院の生徒なのか?」

 

 見た目そんなに年が離れてる訳でも無さそうだし、学校に行ってるとすれば高等部だろう。

 

「来月の入試で受かればね」

 

 俺達と同じって事は同い年。無事に合格すれば同級生って訳か

 

「へぇマリアも来月の入試受けるんだ?」

 

「そうよ、こっちのシシリーと一緒にね」

 

 ジュースを飲みながら言葉返したマリアはふと何かに気づいたようにコップから顔上げた

 

「っていうか、『も』?」

 

「うん、俺とセインも来月受けるからね」

 

「ウソ……あれだけ体術が使えるのに魔法使い?」

 

「てっきり二人とも騎士養成学院の生徒さんかと思ってました……」

 

 学院こそ入学してないが引退した騎士団総長様に幼少時代からミッチリしごかれてはいるからな。因みに魔法抜きの純粋の武術ではまだまだミッシェルさんには敵わず、稽古をつけて貰うたびに地に伏す事になるのはお約束となっている。

 

(引退後であれだもんな、現役時代はどれほどだったのやら)

 

「来月の試験に受かれば同じ学院生だね。お互い頑張ろう」

 

「勿論、私主席入学目指してるからね、負けないわよ」

 

 そう言いながらシンとマリアが握手を交わす。

 

「まぁ、こっちはボチボチやるよ」

 

「なによ、張り合い無いわねぇ」

 

 そうして、シンは同じ様にシシリーにも握手を求めた。

 

「えっと……あの……」

 

 が、マリアの時みたいにすぐには応じず、何処か戸惑う、と言うより恥ずかしがってる様に見えた。

 

「ちょっと、どうしたのよシシリー。具合でも悪いの?」

 

「え!? ううん、なんでもないよ! えと、が、頑張りましょう!」

 

 そう言いながら、両手でシンの手を掴んで握手を交わす。なんと言うか初対面の女の子相手だというのにこの対応。社交性が高いのか、それとも単に鈍いだけか。

 

「そう言えば二人はどこの中等学院? 同い年の割りに見たこと無いけど」

 

「王都にはつい最近移り住んだばかりでな」

 

 中等どころか初等の学院すら通ってない。まぁ、移り住んだのは確かだしウソは言ってない……。今気付いたが、これって就活する時大丈夫か?学歴とか。

 

「へー、なるほどね。そうだ! 二人は知ってる? 最近、賢者様と導師様も王都にお戻りになったらしいわよ」

 

「あ、ああ……そうらしい、ね」

 

「そういや、劇場でも行列できてたな」

 

「何よ、興味ないの!? 救国の英雄、稀代の魔法使いでありながら勇猛果敢に魔物を仕留める賢者マーリン様と魔道具を操りその美しい容姿からは想像も出来ないほど苛烈に魔物を狩る導師メリダ様よ! この国、いえこの世界に生きている限り最高の憧れの存在、生ける伝説よ!」

 

 マリア、その辺にしてやってくれ。シンの奴が恥ずかしさのあまり密かに悶えてるから……

 

「しかし、そこまで熱く語るなんてマリアって導師様と賢者様の事がよっぽど好きなんだな」

 

「当然でしょ! それに今年はそのお二人のお孫さん達も魔法学院の入試を受けるみたいなのよ!!」

 

(おおう、話はそこまで広がってんのか……)

 

「ああ、一体どんな方達なのかしら。その方達と同い年であった幸運に感謝したいわ」

 

 こんな方達ですよ。と心の中で返事をしたところで気まずくなったが、これ以上此処に居てボロを出すのを避ける為か、シンが伝票を手に席から立ち上がったので、俺も残りのコーヒーを一気に飲み干しそれに続く。

 

「そ、それじゃあ。俺たちはこの辺で……」

 

「ちょっと! 私達の分は払うわよ!」

 

「良いから良いから、女の子に払わせるなんて格好悪いじゃん。ここは格好付けさせてよ」

 

「おっ、そっか? そんじゃ遠慮なくゴチにならせてもらうかな」

 

「いや、女の子につったよな!?」

 

「冗談冗談、わーってるよ。そんじゃ二人とも、またな」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 二人が居なくなってから少しした後、シシリーとマリアの二人もカフェを後にして表通りを歩いていた

 

「なんて言うか……カッコイイ奴らだったわねぇ」

 

「うん……」

 

「顔も良いし、強いし、魔法学院受けれる位魔法使えるみたいだし、おまけに押し付けがましく無いし」

 

「うん……」

 

「……去り際も格好良かったね?」

 

「うん……」

 

 此処でマリアはシシリーの様子が少し変になっていることにで気付いた。

 

「ねぇ、チュウしていい?」

 

「うん……」

 

 試しにあえておかしな提案をしてみるも結果は同じ、心此処にあらずだ。

 

(これって……)

 

「……ねぇ、セインさ、あたし貰って良い?」

 

「うん……」

 

(こっちじゃないか、てことは)

 

「じゃあ、シンも貰って良い?」

 

「う……え!? あ、ダメっ!!」

 

 どうやら、当りだ。心此処にあらずと言うよりはシンの事を考えていたのだろう。クックッと笑ってるマリアの姿を見て、シシリーは漸くからかわれた事を悟る。

 

「も、もう! マリア!」

 

「あっはっは、いやぁゴメンゴメン。シシリーのそんな様子なんて初めて見たからさぁ。で、何? まさから助けられたからベタに一目惚れしちゃったとか、物語にありがちなヒロインみたいな事言わないでよ」

 

「そ、そんなんじゃ……ない、と思う……けど」

 

(……あ、あれ?)

 

 冗談のつもりで言ったのに、シシリーは顔を赤くして少し俯きがちだ。

 

「凄く緊張するって言うか……心臓がどきどきするって言うか、体が熱くなるっていうか……」

 

(ちょっとちょっと、マジですか……)

 

「おい、お前」

 

 直後、シンやセインとは違う高圧的な雰囲気をした声が聞こえ、二人は声がした方を振り返った。そこに居たのは―― 




今回の補足は『小説の視点や場面転換について』

次話より普段は登場人物の誰かの視点で執筆、その際の地の文もそのキャラの口調に寄せたものにしていきます。例外として戦闘時は第三者視点をメインに地の文も特定のキャラのものでは無い一般的?な文章にします。

また既に何回か使用している『数行空けて※マークまた数行空ける』と言う表現は引き続き場面転換、時間経過で使うと同時に、本文中で視点が変わる際にも使用します。極力『本格的な戦闘シーン』⇔『その他のシーン』の移り変わり以外では使わないようにはしますが、今回のように視点となるキャラが変わる必要が出た時はやむなく使用しますので、予めご了承下さい。

後、今回半端なところで切りましたが、この直後の出来事はあえて割愛です。
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