このアールズハイド王国は三大高等学院と言うのが存在し、騎士、魔法使い、そして商人や文官と、それぞれ専攻する分野が違う。その他にも高等学院と呼ばれるものは存在しているが、やはり人気が高いのはこの三大高等学院だ。何せ全生徒の学費等の諸経費を国が予算の一部として計上しており、生徒側の金銭的負担はゼロ。身分や権力を笠に着せた振る舞いは厳罰対象になる事もあり、受かりさえすれば貴族から平民まで誰もが健やかに学業に勤しめる仕組みとなっている。それは将来国を担うであろう人材の才能を生活環境や階級格差によって埋もれさせない為。卒業後は必ず国に仕える事を強制されていないのだが、それでも卒業生の大半は三大学院卒業と言う学歴を一番活かせる王国内でその後の進路を決定している。
「流石王国を代表する三大学院の一つ、スゲー受験者数……」
「やっぱり、倍率は高そうだな」
「だろうな」
「おい貴様、そこをどけ」
人気と言う事は当然受験者数も多く、倍率も高いという事だ。俺とシンは受験会場の案内板の前で自分の会場を探している。
(さて、ディスおじさんの話だと俺とシンの魔法の技術は規格外との事らしいが……)
「おい、貴様! 聞こえないのかっ!!」
とは言え、それはあくまで実技の話。筆記試験については今日までお爺ちゃんやお婆ちゃんにキッチリ叩き込まれてこそいるがそれでも、中等時代からここの合格を目指して勉強してたであろう他の受験生と比べれば勉強量は少ないのは確かだろう。
(なら、稼げる所で点数を稼いでおくに越した事はねぇ、か。よし試験は全力で、だな)
「この無礼者が!」
直後、誰かがシンの肩を掴み、そしてすぐさま後ろ手にされて捻りあげられてる。
「ぐあっ! 貴様ぁ、何をするっ! 離せっ!」
「さっきから何なのアンタ? いきなり人の肩掴んどいて何をするはないんじゃない?」
そこに居たのは金髪碧眼の少年。これで爽やかな雰囲気でも出してれば絵に書いたようなイケメンなのだが、残念ながらシンを忌々しげに睨む彼にその様な雰囲気は一切感じられない。
「貴様! 俺はカート=フォン=リッツバーグだぞ」
(フォン、ってことは貴族階級か……)
アールズハイド王国では爵位を得た家系はその証として王族と同じミドルネームを名乗る義務がある。そのミドルネームが『フォン』だ。
「? はい、俺はシンです」
と、それに気付いてないシンは唐突に自己紹介をし出したと判断したのか、こちらも普通に自己紹介している。そんなシンの反応がウケたらしく、周りから笑い声が聞こえた
「シン、自己紹介じゃねぇよ。俺は貴族だ、平民はさっさとどけろって言ってんだよ」
「そうなの?」
「ふん、そっちの平民は判っているみたいだな。判ったのなら、さっさとそこを――」
「でもまだ会場見つかってないから、もうちょっと待っててくれ。場所確認したらすぐどけるから」
「な!? き、貴様らぁっ!」
「あのさ、えぇとカート君? もうその辺にしといた方が良いんじゃない? 貴族が権力を振りかざす事は厳禁なんでしょ?」
「今はまだ入学前だからな、その校則は適用外。つまり権力振りかざしても学園側が罰する事は出来ないんだろ。まぁ、それでも入学して速攻、退学&厳罰って目に会いたくないなら早めにその態度は抑えるのをオススメするけどな」
「たかが魔法学院の教師なんぞに、この俺を裁ける訳が無いだろうが!」
ディスおじさんの前王の代からこうした貴族主義な考えは改めさせる方針で国を回してる筈だが、それもまだ完全では無いって事か。
「そこまでだ」
なんかめんどくなってきたし、そろそろどけるかな、と思ったところで横から割り込む声。そっちに視線を向けると金髪に青い瞳、そしてこちらには爽やかながらもどこか威厳のある雰囲気をしており、まさに絵に描いたようなイケメンがそこに居た。
「あ、あなたは……」
「そこの君、さっきの発言は一つ間違いがある。高等魔法学院において権力を振りかざし、他の魔法使いを害する事は、優秀な魔法使いの芽を刈り取る行為であり、これを破った者は厳罰に処する。これは高等魔法学院の校則では無く、王家の定めた法なんだ」
校則じゃなくて国の法律か。と言う事は――
「それとも、先ほどの発言は王家に対する叛意なのか?」
「ま! まさかそんな事は!」
罰するのは学校職員ではなく国そのものと言う事になる。
「ならばこれ以上騒ぐな。ここは入学試験会場だ。皆の心を乱す様な事をするな」
「は……はっ、かしこまりました」
最後に俺達の方を一睨みしてカートはその場から去っていった。どうでも良いが、会場確認せんでよかったのかね?あいつ。
「くっく、あの自己紹介を返したのは傑作だったな。聞いたとおりの世間知らずのようだ」
「聞いたとおり?」
「ああ、自己紹介が遅れたな。私の名はアウグスト。アウグスト=フォン=アールスハイドだ。近しい者はオーグと呼ぶ。シン、セイン、君達の事は父上から色々と聞いてるよ」
その名前、ああなるほど。つまり彼は――
「えっ!! って事はディスおじさんの息子!?」
次のシンの一言で周囲の人間の殆どがギョッとなる。まぁ、一国の王をおじさん呼ばわり、当たり前の事だろう。
「くっくっく、ディスおじさんの息子……そんな風に言われたのは初めてだな」
「そら大半の人間は恐れ多くてそんなこと言えないだろうし、初めてだろうよ」
「だっておじさんの事、ずっと親戚だと思ってたからさ。おじさんの息子って言われても従兄弟?って感じしか。セインだってそうだろ?」
「まぁ、あの人が王様だって教えられた時には既に親戚のおじさんとしての印象がすっかり染み付いてたのは確かだが……」
うちに来てる時のディスおじさんは完全にオフの状態でそこに王としての威厳と言うのは殆ど無いに等しかった。
「くっくっく、あははははは!」
そして、そんな反応がおきに召したかオーグはいきなり大爆笑。
「そうか従兄弟か……やはり面白い奴だな君達は。もう少し話をしたがそろそろ試験会場に行かないとまずいな。次に会うのは入学式かな? 互いに頑張ろう」
そう言い残し、軽く手を上げながらオーグはその場から去っていった。
「さて、俺達も会場に向かうか。シン、また後でな」
「ああ、セインも頑張れよ」
※
筆記試験は特に何事もなく、地理と歴史が若干芳しくない事を除けば何事もなく終わり、次は実技試験。内容は自分が一番得意とする魔法を披露する、と言う内容だ。そこで初めて自分は他の人の魔法を目にした訳だが……
(規格外、まぁ、確かにそうかもしれないが、その差は割りとすぐ埋められると思うが……)
確かに彼らの魔法は詠唱こそ堂に入ったものだがその威力は俺とシンの魔法と比べれば大きく劣る。けれどそれはれっきとした原因があり、その原因の解消は誰にでも行えるものだ。そして、原因が解消されれば俺とシンが規格外扱いされる程、力量差が開く事はない。
(魔力制御の錬度不足、それだけの筈だが……)
強力な魔法を使うならそれ相応の魔力が要る、当たり前の事だ。しかし、どう言う訳かその当たり前が欠如していると言う事だろう。現に一人目の眼鏡の女の子は魔力の乱れ具合から制御できるギリギリのライン、イヤ最悪暴発しかねない一か八かのラインの魔力量で魔法を行使したのだろう。他と比べ中々の威力をたたき出していた。
「では次の人!」
「はい」
呼ばれたので的の前に立つ。
「君は……そうですか、君が二人目の。先ほどもう一人の方にも言いましたけど、くれぐれも的を破壊する程度に抑えてください。いいですか!? くれぐれも、ですよ!」
俺より先にシンが実技を受けていた筈だが、あいつなにやらかした?よく見たら試験官の眼鏡、少しヒビ入ってるし。本気でやるつもりだったのだが、抑えろと言われた以上はそうするしかない。とりあえず的を破壊できれば満点は堅いってことだろう。
(的の破壊のみ、なら爆発系みたいな周囲にも影響でる様な性質のは避けるか……)
そう判断し、おなじみドリル状の風の槍を二発作る。
「うそ……詠唱無しで!?」
先ほどメガネ少女から驚きの声が聞こえた。威力は抑えるにしても無詠唱で使うぐらいは問題ないだろう。おばあちゃん達が若い頃は詠唱無しが主流だったのだから。
(狙いは人で言うなら頭と心臓でいいな)
そして、風のドリルを放つ。が、そこで一つ誤算が起きた。的を一瞬で貫通し大きな風穴を二つ空ける。そこまではよかったがそのまま後ろの壁に刺さってしまった。魔力を抑えていた事もあり、穴を開けるには至らなかったが、それでも壁をかなり削ってしまってる。的の強度を見誤ってしまったか。
「あ、えっと……スイマセン」
「い、いえ……大丈夫です。この程度ならすぐに修理できますので……」
米
あれから数日後、試験の結果は無事合格。シンに至っては主席合格となった。生活環境を考えると俺もシンも勉強時間は大して変わらないはずなのだが、学力試験でシンに負けていたのはちょっと納得がいかない。が、主席は新入生代表挨拶までしないといけないらしい。まぁ、いきなり壇上に立つのもゴメンだったので結果オーライと言った所だろう。