ラスボス系王女をサポートせよ!   作:平成オワリ

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エピローグ ラスボス系王女をサポートせよ!!

 大地一面に広がる色とりどり花畑を目にした白銀の少女は、地面に咲く小さな花に触れてみた。

 

「ああ、なんて美しい光景なのかしら」

 

 魔界の魔王イリーナ。彼女は生まれてから一度も目にした事の出来なかった地上の光景に、思わず感嘆の息をこぼす。

 

 今彼女の目の前には、かつて血に濡れた赤く荒廃した大地ではなく、美しく草木が生え、青く澄んだ空の下に広がる地上の大地があった。

 

「これは父が地上を手に入れたいという気持ちも、よくわかるわね。やっぱり魔王らしく地上に侵略しようかしら?」

「イリーナ、冗談でもそういう事言うのは勘弁してくれ」

 

 かつてミストと戦ったことのあるセイヤは、このような冗談一つですら真に受け、嬉々として襲い掛かってくる黄金の女王が簡単に想像できた。あの理不尽なまでの暴力は、単純な強さ以上に恐ろしいものがありトラウマものだ。

 

 そんなセイヤのげんなりとした表情が面白いのか、イリーナは機嫌よく笑う。

 

「ふふ、そうね。貴方となら出来るかもって思ったけど、やっぱり止めておくわ」

 

 白い花を撫で、柔らかい風に身を任せる。

 

「だって、こんなに美しい世界を傷つけるなんて、私には出来そうにないもの」

 

 そうして柔らかく微笑む氷の魔王の姿に、セイヤは思わず見惚れて何も言えなかった。

 

 

 

 

 かつて邪神によって引き起こされた魔界での騒乱から十年が経過した。

 

 多くの魔族が傷つき血と涙を流した。そんな戦乱の傷跡が残る魔界であったが、地上の王であるミスト・フローディアと魔界の魔王イリーナがお互い手を取り合い、見事に復興を果たす。

 

 当初ミストは魔界の全てを支配し、総べる予定であった。これはもちろん地上の人間も、魔界で吸収された魔族軍もそう思っていたが、当のミストによって否定されることとなる。

 

 ――魔界の支配は、魔王がするべきである。

 

 魔界を正式な統一国家と定め、魔王イリーナと聖剣の勇者であるセイヤの統治の下、同盟国として宣言したのだ。

 

 元々魔界を支配すると豪語していたミストの心変わり。これにはイリーナも裏があると警戒していたが、ミストは愉快そうに笑ってセイヤを見る。

 

『くくく、まあうちは双子だからな。片方だけに大きい物をあげては平等ではないだろう?』

 

 その言葉の意味を当時理解できたのは、その場では苦々しい表情のトールだけだった。

 

 ミストの一声により地上へ引き上げた王国軍であるが、その中にはミストを心酔していた魔族の姿も見受けられた。

 

 最初は人類の敵である魔族が地上へやってくることを反対する者もいたが、彼らが同士であることを理解しすぐに酒を共にする間柄へと変わっていく。

 

 そうして地上ではこれまでではありえない、人間と魔族の共存する街が生まれるようになったのだ。

 

「ふっ……この光景も見慣れてきたな」

 

 ミストはそんな光景を城のバルコニーから見下ろしていた。その隣にはもちろん、王国の宰相でありミストの愛する男が立っている。

 

「地上は完全に掌握した。もはや私に反抗する愚か者などいない。そうだな、トール」

「ああ。そして、魔界との仲も良好だ。やつらが地上を侵略するなんて、もう二度とありえないだろう」

 

 この十年、トールは魔界とのやりとりに尽力を注ぎ続けてきた。かつて日本で学んだことや、この世界で宰相として国を運営してきたノウハウを全てセイヤに叩き込んだのだ。

 

 さらに厳しい環境でも育つ野菜や花を地上から魔界に持ち込み、生活環境やインフラを整え、凶悪な魔物類は全て滅ぼした。魔界の生態系が変わった時は流石に焦ったが、世界一つを変える大規模事業の前では小事と割り切ったものだ。

 

 そうして今の魔界は、地上までとは言わないものの、弱い魔物でも笑顔を見せられる世界へと変わっていった。

 

「いや旦那様……私が言うのもアレだが、やり過ぎだぞ」

「そんなことない!」

 

 トールの魔界でのやり取りは色々報告を受けていたが、もはや魔界とは? とまで言われかねない変貌を遂げている地域もある聞き、ミストも驚きを隠せない。しかもそれがまだ発展途上だというのだから、この男、優秀すぎる。誰がここまでやれと言った、とミストは言いたかった。

 

 しかしトールはまだまだやり足りないと言わんばかりに、魔界改変事業を拡大していくのだ。

 

「来年にはカグヤが、俺の可愛い可愛い愛すべき娘のカグヤがあのクソ勇者の下に嫁入りするんだ! どんな危険も取り除いて、どこよりも快適な環境を作ってやるのが父親としての役目だろ!」

「お、おうそうか……まあ、そうだな」

 

 トールの激しい勢いに押され、ミストは珍しく曖昧に頷くだけだった。

 

「父上、母上、そろそろ準備が出来ましたか?」

 

 不意に、一人の少年が二人に向かって話しかける。

 

 母親譲りの凛々しい顔立ちに、この世界では珍しい黒髪黒目の少年。この少年こそ、トールとミストの長男であり、ミストから地上の王を譲り受ける次世代の王、ヤマト・シノミヤ・フローディアその人である。

 

 その後ろにはヤマトの裾をぎゅっと握る、小さな黒髪金眼の少女が立っていた。

 

 ミコト・シノミヤ・フローディア――トールや魔王イリーナすら上回る、世界最高の魔力を持つ少女である。幼いころは夜泣きをするたびに隕石を落としていた彼女だが、その血筋を感じさせる美しい容姿は老若男女を魅了し、すでに一大勢力を築いている恐ろしい少女だ。

 

 とはいえ、本人はファザコン、マザコン、ブラコンでありシスコンなので、世界をどうこうしようという意思は全くない。あえて言えば、大好きな姉を魔界へ連れ去ろうとしてる一人の男をどう始末しようか考えているくらいだ。

 

「ん、まあ私たちも元々準備万端だ」

「おう、それじゃあ行くか」

 

 この日、世界を統一し、魔界とすら平和を築いた歴史上もっとも偉大な王が退位する。そして、世界は新たな若き王の下、さらなる発展を築き上げていくのだ。

 

 ミストとトールは、世界中の国民が涙を流す姿を見下ろしながら、そっと手を握り合う。

 

「なあトール。私は、幸せだな。これだけの者に愛されているのだから」

「……ぷ、くくく。いやお前、流石にそのキャラはない」

「く、くくく。すまん、流石に冗談が過ぎた」

 

 城下でミストの退位を惜しむ声が叫ばれる中、二人は笑う。笑いながら、徐々にその声は大きくなり、王都中に響き渡る。

 

 そうしてミストはいつもの不敵な笑いを見せると、そのまま眼下の民に向けて声を張り上げた。

 

「くくく、はーはっはっは! 貴様ら何を泣いている!? 何を嘆いている!? これより世界は生まれ変わり、未来へと歩みを進めていくのだぞ!? 私という破壊の王の時代は終わり、そして新たな治世の王が地上を、そして魔界を遥か高みへと発展させていくのだ! であれば、貴様らがすべきことは何だ? 幼子のように泣き叫ぶことか?」

 

 ミストの問いかけに、多くの国民が嘆く声を止め、耳を傾け静かに見上げる。

 

「違う、違うぞ! 貴様らがすべきことはただ一つ! より良い未来が来ることを信じ、歓喜の叫びをあげる事だ! さあ祝砲を上げよ! 世界よ笑え! 私が作り築いてきた時代は終わった! これより先は我が息子であり、次代の王であるヤマトが引き継ぎ平和な世を作り続けるであろう!」

 

 そうしてヤマトが一歩前に出る。これだけの衆人環視の中、威風堂々とした態度はまさに覇王の血を引くに相応しい。

 

「そしてっ!」

「ん?」

「母上?」

 

 隣でミストの演説を見守っていたトールとヤマトは、事前に話していた内容と違う流れに疑問に思う。

 

「地上、魔界を制圧した偉大なる王の私は、新たな道を歩みだす!」

 

 トールはこの流れに既視感を覚えていた。そして演説を魔界の王としてこの戴冠式に招かれていたセイヤは、とても嫌な予感がした。

 

「地上の王は全て蹴散らした! 魔界すら一度は支配下に置いた。と、なれば次はもちろん――」

 

 しかしミストはそんな二人をあえて見ず、大きく空を見上げて天に向かって指をさす。

 

「天界だ」

 

 その一言で演説を聞いている者全てが空を見る。

 

「私は天界へ乗り込み、神すら支配する!」

 

 嬉々としてそう叫ぶミストを見て、トールは思い出す。かつて地上を支配した後、一緒に温泉に行ったときミストは、自分との子を宿し、幸せだと言った。しかし、それだけではない。

 

『このミスト・フローディアはそのような当たり前の幸せ、掴んで当然だ! そのようなもの、求める必要すらあり得ない! 私が求める物は、手を伸ばしても伸ばしても、凡愚では手に入れることの出来ない物であり続けなければならない!』

 

 そう、ミストという女性は、世界を一つや二つ手に入れただけで満足するような、器の小さい女ではなかった。

 

 子が出来、国を慈しみ、男を愛する。そんな人生も幸せだろう。だがミストはそれだけでは足りないのだ。彼女は邪神の器。その身に注ぐ欲望の量は、大陸一つで収まるようなものではない!

 

「もはや神などいらん。人の世は人の手によって治められるべきなのだ!」

 

 邪神に魅入られ、人生を狂わされた復讐ではない。神という存在が気に食わないというわけではない。ただ、ミスト・フローディアという、生まれながら覇王の素質を持つ女傑は、自身の欲望を抑えきれないだけなのだ。

 

「ゆえに、私はこれより王を辞め、そして天界へと侵略を開始する! これより先は修羅の道! 私に付いてきたい者だけが付いてこい! しかしそれは平穏を捨てる事と同義! 二度と平穏など訪れないだろう! だが代わりに約束してやる! 誰も見た事のない、遥かなる高みの世界をなぁ!」

 

 ゆえに、その究極の我がままは、その矛先を神へと向けた。

 

「ふはは、ははは、はーっはっはっは! さあ貴様ら、我が旅路に相応しい雄たけびを上げよ! 我が名を叫べ! そう、私こそが偉大なる王にして世界最高の魔術師!」

「「「うおおおおおおおお!!! ミスト・フローディア! ミスト・フローディア!」」」

「そう、私だ! 私なのだ!」

「ミスト・フローディア! ミスト・フローディア!」

「私こそ世界の中心にして三千世界全てを総べる者、ミスト・フローディアである! 称えよ! 崇めよ! 神など、我が覇道に転がる障害物の一つでしかないことを証明して見せようではないか! ははは、はーっはっはっは! はーっはっはっはっは!」

 

 ただ、それだけの話なのだ。

 

「ふ、まったく……相変わらずというか……神すら潰すとか、どこのラスボスだよ。だけどまあ……」

 

 トールは苦笑する。彼女は変わらない。たとえ明日世界が終わるとしても、きっと変わらないだろう。

 

『く、くくく。そうか貴様が王宮で話題になっていた暗黒神官か。面白い。貴様、私の下に付け。貴様の知らない世界を見せてやろう』

『私は世界の全てを手に入れる。貴様には特等席で見せてやる。だから、一生傍にいろよトール』

 

 そんな黄金の輝きを持つ彼女だからこそ、トールはずっと傍にいると決めたのだ。

 

「一生傍にいるさ。俺は、お前を守り続けるって、決めたんだからな」

 

 天に向かってひたすら高笑いを続ける、まるでゲームのラスボスのような少女が愛おしく、トールはずっと彼女を見守り続けていた。

 

 

 

 

ラスボス系ヒロインをサポートせよ! ~異世界で助けてくれた王女のため、最強の魔術師になった俺は世界を征服する~ 完

 

 




【読者の皆様へ】
ここまで読んで下さりありがとうございます!

本来は前半の章で完結のはずが、感想でもっと読みたいという嬉しい声があり、こうして続けさせてもらいました!
投稿が遅く、待ってくれていた人には凄く申し訳なかったですが、何とか完結まで来れて良かったです!

これも読者の皆さんの応援のおかげです!
ありがとうございました!


【重大告知!!】
実は完結とほぼ同時に、小説家になろうで新作を投稿しています!
もしラスボス王女が面白かった方は、ぜひ新作も応援お願いします!

タイトルは
『落雷転生 ~俺だけ使える【雷魔術】で最強の魔術師を目指します~』

王道の異世界転生ファンタジーです!
ぜひぜひ、応援お待ちしてますので、よろしくお願いいたします!
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