ラスボス系王女をサポートせよ!   作:平成オワリ

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VS魔王 中編

 ついにこの時が来たか、と魔王クロノは目の前の少女達を見て思う。

 

「貴様が魔王クロノか?」

「左様。思っていたよりも老いぼれで期待外れだったかな?」

「ふ、確かに枯れ木のように細い身体だが、その内側から漏れ出る魔力は凄まじいものではないか。期待外れなどとんでもないさ」

 

 そう言いつつも、その瞳の奥に映る色は格下を見るものだ。この少女はこの魔王を前にして、それでも己こそが上位者であるという自信に微塵の揺らぎもないらしい。

 

 クックック、と腕を組み不敵に笑う姿が妙に絵になる少女だ。黄金の髪に、同じく黄金の瞳。この少女を見ていると、かつて己が命を賭して倒したあの邪神を思い出す。

 

 まあそれも、こうして相対すれば思い出すのも当然かとクロノは思う。

 

「まったく、長生きするものだな。まさか再びこうして相見えることになろうとは……」

「……何の話だ?」

「なに、昔話だ。遠い昔のな」

 

 かつて友と二人で戦い、そして滅ぼした邪神。その気配を濃厚に纏ったこの少女が何者か、もはや語る余地もない。魔王にとっては千年経っても忘れられない宿敵だ。

 

「さてさて、すでに全盛期を過ぎ、そして友もいない。こんな老骨にこのような大役を任せるとは、どうやら神はよほど余の事が嫌いらしい」

「違うな魔王」

「うん? 何が違うというのだ?」

「貴様が神に嫌われているのではない。私が神に愛されているのだよ」

 

 己の言葉こそ真理であるといわんばかりに、自信満々でそう言い切る。

 

「く、くくく……なるほどな。そうか、余は神に嫌われているわけではないのか。それは、愉快だな」

「なんだ、魔王のくせに神に嫌われたくないのか?」

「それはそうとも。なにせ余も所詮この世界の生命の一つでしかないからな。神に愛されたいと思うのは当然だ」

 

 そう答えると、少女は少し意外そうな顔をする。

 

 確かに人から見れば、魔に属する自分達は神の反逆者という見方の方が強いのだろう。実際、神を嫌う魔族は少なくない。だがそれも全ての魔族に当てはまるわけではないのだ。

 

 現実として、魔族という種そのものが神から見放されてた種族であることを魔王は誰よりも知っていたが、それでも求めてしまうからこそ、神と呼ばれるのかもしれない。

 

 魔王クロノは神を求めているからこそ、地上の底に存在する魔界からこうしてはい出てきたのだ。魔界という過酷な環境から、神に見放された魔族という種を救う為に。

 

 それだけの事を成す為に千年かかった。これ以上は己の力も、時間ももう足りない。だというのに、最期の最期で目の前に立ち塞がるのがかつて滅ぼした邪神だというのだから、もはや運命を呪う以外ないだろう。

 

「器の少女よ、貴様は己が何者か理解しているか?」

「私は私だよ。世界の支配者にして生きとし生きる全ての生命の頂点、ミスト・フローディアだ」

 

 視線が交差する。少女の目を見た瞬間、魔王は理解した。もはや取り返しのつかない所まで事態は進んでいるらしい。

 

「ではも改めて余も名乗ろう。魔族達の王にして世界を闇に覆う者、魔王クロノだ」

 

 お互いが相容れない存在であることは最初から分かっていた。それでも僅かばかりの期待を胸に、こうして話し合いの時間を設けてみた。

 

 残念ながら結果は、無駄に終わる。長い年月を生きてきた魔王にはわかってしまった。少女の器はすでに溢れ始め、限界が近いのだと。

 

 少女の後ろに並ぶ神官達。一人一人が邪神の恩恵を受けているのか、人とは思えないほどの力を秘めているのが分かった。

 

 この場になってようやく思う。かつて隣にいた友の存在がどれだけ心強かったかを。そして千年前、彼女が、勇者が将来の為にと撒いてきた種が芽吹いてくれた事に安堵する。

 

 これでもし自分が敗北しても大丈夫。心置きなく戦えるというものだ。

 

「さあ、それではどちらが世界の支配者に相応しいか決めようではないか! 魔族が好きな、力を持ってな!」

「器の少女……いやこれは礼に反していたな。ミスト・フローディアよ。お主の野望、ここで打ち砕かさせてもらうぞ」

 

 ミストが手を翳す。それに相対するように魔王クロノは杖を構える。

 

 世界最強クラスの二人が今、激突しようとしていた。

 

 

 

 ミストの背後で並び立つ暗黒神官達。その中の一人、神官長トールは魔王の姿を見て何故か懐かしい気持ちになっていた。

 

 当然、元々日本に住んでいて、ミストに拾われてからは彼女の傍を離れていない。遠い大陸すら離れていた魔王となど、出会ったことなどあり得ない。

 

 だがこの魔王の魔力を感じると懐かしさを覚えるのだ。

 

 魔王の姿をもう一度見る。元は黒かったであろう女性のように腰まで長く伸びている髪はほぼ白髪になり、体や腕はミストの言う通り枯れ枝のように細く、見た目だけなら四天王の方が遥かに強そうだ。

 

 しかし相対すれば分かる魔力の厚み。これまで出会ってきたどの生物よりも遥か強者であることがわかる。これが魔王という生き物。全ての魔族の頂点にして神。

 

 やはり見た事などない。だが絶対に知っている。

 

「くそ、なんだってんだ一体!」

 

 知らないはずなのに知っている感覚に気持ち悪くなり、つい悪態を吐いてしまう。

 

「神官長、指示をお願いするっす」

 

 幻術部隊の神官からの声にハッと顔を上げる。すでにミストと魔王は臨戦態勢。すぐにでもお互いの魔術をぶつけ合う事だろう。

 

「バフ部隊はミスト様が傷付かないよう『ゴッドガード』を。いいか、5人でローテーションして絶対に切らすな! ミスト様に傷一つでも付けたらぶっ殺すからな! 幻術部隊はミスト様の背後に黄金のオーラを展開! 魔王相手にテンション上がってるはずだからいつもより三割増しで強者ムーブ出来るようフォロー! それから千里眼部隊は――」

 

 テキパキとそれぞれの部隊に指示を出しつつ、冷静に魔王とミスト二人の動きを観察する。

 

「魔王初手、炎系の……最下級か。様子見のつもりか? いや、あれは……」

 

 最下級のファイヤーボール。しかしその規模は通常のそれを遥かに上回る。すでに熱量は上級魔術『ヘルフレイム』に匹敵、もしくは上回っている。常識を覆す、圧倒的魔力。

 

「なるほど、魔王ってのは伊達じゃねえな! だが俺らミストちゃんファンクラブを舐めるなよ! 熱血三兄弟!」

 

 トールが声を上げると、三人の筋肉の盛り上がった男達が前に出る。

 

「兄者、俺達の出番だな!」

「おおとも弟達よ! この盛り上がった筋肉をミスト様に褒めてもらうチャンスが来たぞ!」

「おおお! 燃えるぜぇぇぇ! やってやんぜぇぇぇ! 俺の炎が火を噴くぜぇぇぇ!」

「戦いは数だ! それをあの魔王様に教えてやれ! 転送用意!」

 

 トールが指示を出すと同時に三人が手を翳す。すると両手から大量のファイヤーボールが飛び出した。それはそのまま真っ直ぐ、ミストの方へと向かって行く。

 

「転送部隊!」

「ハッ!」

 

 別の神官が魔術を唱える。その瞬間、ファイヤーボールの進行方向の先の空間が歪み、そして火球はそのまま空間の中へと消えていく。

 

『なるほど、凄まじい魔力だ。最下級の魔術でこれとは恐れ入る。ふ、しかしそれではただのデカい的だな』

 

 ――ミストがそういった瞬間、彼女の掌から大量の火球が飛び出した。

 

『一つで駄目なら数で補えばいい。ふふふ、そう言えば我が神官が言っていたか。戦いは数だ、とな』

 

 そうして魔王の放った大火球はまるでガトリングガンのように連射された同じ魔術で相殺されることになる。それどころか、相殺が終わった後は一方的な火球の嵐が魔王を襲う。

 

 しかしそこは流石魔王。魔術障壁を展開し、その全てを防ぎきる。

 

「ちっ、流石にやるな。熱血三兄弟は一端下がれ。これ以上同じ魔術の乱用はミスト様が飽きる。今のうちにポーションで魔力回復。いつでも出れるよう待機だ」

「むぅぅ……一筋縄ではいかぬか……」

「この筋肉で仕留めきれんとは……無念」

「うぉぉぉぉ! 流石魔王、やりやがるぜぇぇぇ!」

 

 己の手で決めきれなかったからか、熱血三兄弟は残念そうに下がる。

 

 それを見送りながら、次の魔王の手を見る。どうやら今度は一撃の威力重視ではなく、数で勝負するらしい。

 

「甘く見るなよ。数で勝負ならこっちに分があるってんだ……ん?」

 

 数には数を、そう思った瞬間、ミストの後ろ姿を見て判断を変える。どうやら我らがお姫様は一撃の威力を重視したいらしい。

 

「なら、最高のパフォーマンスで叩き潰してやるよ」

 

 魔王の掌から二十三十と黒い魔弾が放たれる。闇属性のブラックランス。ファイヤボールとは比べ物にならないほど高威力で殺傷力の高い魔術だ。その分難易度も跳ね上がるが、どうやら魔王からすれば児戯に等しく、ありえない数を連射してくる。

 

『叩き潰す!』

「叩き潰す!」

 

 ミストが天井に向けた掌を、勢いよく振り下ろす。そのタイミングでトールは同時に超高威力の重力魔術『クラビティ・ウォール』を放つ。

 

 ミストの体の正面で展開された重力の壁は、魔王が放った黒槍をことごとく潰し、一本たりとも彼女の体に触れることはなかった。

 

「だ、大丈夫っすか」

「余裕」

 

 そう言いつつも、かなりの魔力を持って行かれたのは事実である。流石魔王というだけあって、一つ一つの威力が半端ではない。もしトールが少しでも手を抜けば、一本くらいは抜かれていたかもしれない。

 

「こりゃあ、油断出来ねぇな」

 

 額から汗を流し、魔王の強さを再認識しながらトールは周りを見渡す。そして常に最善策を打たなければ魔王に上をいかれるかもしれないというプレッシャーに襲われつつも、信頼する部下達となら大丈夫と己に言い聞かせた。

 

「うっし! ここらでミスト様は一発大技をかましたがるはず。となれば合成魔術だな。出来るだけ派手な……雷主体か? いや……魔王相手に一番挑発的な……闇か!」

 

『魔王よ、闇の嵐を喰らうがいい!』

 

「ヤベェ、間に合わねえ……トッキー!」

「はい! 神官長! 時魔術『スロウ・ダウン』」

 

 瞬間、ミストと魔王の二人の周辺のみ動きがゆっくりになる。その隙に風魔術部隊と闇魔術部隊を前に出し、魔力を重ね合わせる。

 

「よし、トッキー準備オッケーだ!」

「はい!」

 

 その言葉と共に魔王達の動きが通常通りに戻る。そしてミストが放った闇の暴風は魔王を呑み込み、そのまま魔王城の壁を突き破った。

 

「オオオオオ!」と神官達が喝采を上げるも、トールは油断しない。何故なら、まだ魔王の魔力は最初と変わらずほとんど減っていないのを、感じ取っていたからだ。

 

「こいつは、きっついなぁ……」

 

 ミストも何となくそれを察しているのか、突き破られた魔王城の壁を鋭く睨みながら腕を組んでいる。

 

 どうやら戦いはまだまだ続くようだと、トールは再び気合を入れ直した。


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