埠頭のとある場所で男と女は身を潜めていた。
「始まってるな」
それは全身黒ずくめに銃で武装した衛宮切嗣と久宇舞弥の姿である。剣戟は遠く、攻撃の余波があたる心配のない場所に二人は立っていた。
「誰かが結界を張っている。おそらくは敵サーヴァントのマスターだろう」
「あの上からなら、戦場が隈なく隅々まで見渡せますが」
舞弥の視線の先には赤いクレーンがあった。近場で戦いが行われていれば、それは本来の役目であるはずのコンテナを運ぶという行為には使用されず、物見台に使われるというのはある種の奇妙さを感じさせる。
「確かに、監視にはあそこが絶好だ。誰が見たってそう思うだろう。舞弥は東側の岸壁から周りこめ、僕は西側から行く。キャスターたちの戦闘と、それとあのデリッククレーンの両方をやれるポイントに付くんだ」
「分かりました」
そう言うと各人は持ち場へ移動した。
スコープ越しの視界は独特だ。自分が現実から剥離されたかのように感じられる。そこから覗ける命は近くに見えるというのにどこよりも遠く、引き金を引けばそれで終わるのだと考えると、どこか達観めいたものがその身に宿った。
切嗣はキャスターたちの戦いが見えることを確認すると、敵マスターがいないか探 した。
「ふっ。舞弥、キャスターたちの北東を見ろ。そこに敵のマスターがいる。見えるか?」
切嗣と舞弥は事前に身に着けていた無線で連絡をとる。
「いえ、私の位置からは死角のようです」
「分かった。こちらで仕留める」
そう言って弾をこめた矢先だった。突如感じる違和感。自らが英霊に近い存在になっているのが理由なのだろうか。すぐそこに英霊の力があるのを感じた。
振り向くと、スコープ越しに中国服を着た白髪の老人が立っているのを見た。運よく、そのサーヴァントはキャスターたちの戦いを見るのに夢中なのかこちらに気付いた様子はない。
「こちらも視認しました」
「このままひとまず様子を見よう。引き続きそのサーヴァントを監視してくれ。僕はもう片方をやる」
「私がそのサーヴァントに攻撃を仕掛けて注意を引き付けているその隙に、敵のマスターを」
「駄目だ、舞弥。あそこに陣取っているのがサーヴァントなのが問題だ。今僕たちには対サーヴァント戦の備えが十分でない」
「分かりました」
キャスターと男の戦いは膠着状態に陥っていた。障壁を身にまとうことでダメージを受けずに済んでいるキャスターに対し、決定打をもらわないように立ち回ることで実質の損傷はないに等しいランサー。どちらも互いの実力を知り、油断のならない敵だと認めていた。
(私としては幻術が効かないのが苦しいところか……)
キャスターは幻術をAランクで取得しており、その威力は目の前にいる者へ全く違う光景を見せることさえ可能だった。しかし、目の前のサーヴァントにはそれが効いていない。
一見障壁によって優位を取っているかのように見えるキャスターだが実際は違う。障壁のおかげでようやく五分に立っているのだ。そしてその均衡を敵が上回ることはあっても、キャスターが上回ることはない。なぜならキャスターの場合、奥の手とも言える宝具が攻撃用ではないからだ。
(ジリ貧だ。できれば逃げたいところだが)
戦闘も一息つき、お互いは立ち止まった。
「魔術師といって侮っていたが、中々剣の技も映えてやがるな」
「そういう君も速さだけに頼りをおいた戦法ではなく、技巧を凝らした立ち回り。いやいや強いねぇ」
「じゃれあいはそこまでだ、ライダー」
魔術を使っているのだろう、ライダーのマスターの声がどこからか響いてくる。
「ライダーのマスター!」
「これ以上勝負を長引かせるな。そこのキャスターは難敵だ。速やかに始末しろ。宝具の開帳を許す」
「了解した、マスター。俺もいい加減ケリを付けたかったんだ」
ピューーーイ、とライダーが口笛を吹くと、空をかけて三頭立ての戦車が舞い降りてきた。強烈な神秘を纏った馬が二頭、そして力強き馬が一頭。銀の車体は荒れ狂う暴風を感じさせるかのようなフォルムだ。正に宝具、正に奥の手。
ライダーは戦車に颯爽と飛び乗ると、槍を構え走らせた。
「
風を裂き、大地を踏み砕きながら戦車は進む。
その先にいるキャスターは花咲き乱れる野原に立つようにほほ笑んでいた。
ライダーがライダーぽくない。