綺麗の信託
士郎と凜は教会へ行ってきた。そこで荘厳な礼拝堂には似つかわしくない、不吉な神父言峰綺麗と出会った。聖堂教会に属するというのに、魔術を習っていた偏屈者の彼は、衛宮士郎という人間の神経を逆なでした。
思い出したくもないが、忘れもしない。
「――――喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」
そう信託を下すように神父は言った。
その言葉を言われたとき、俺の頭にガーンと横殴りされたかのような衝撃が走った。同時に襲い来る底冷え。その言葉は。自分でも気づかなかった、衛宮士郎の本心ではなかったか。
「――なにを、いきなり」
咄嗟に俺はそう言った。認めたくなかったのだ。なによりこいつに言われたのが気に食わない。
「判っていた筈だ。明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。たとえそれが君にとって容認しえぬモノであろうと、正義の味方には倒すべき悪が必要だ」
「っ――――――――」
目の前が、真っ暗になりそう、だった。
神父は言う。
衛宮士郎という人間が最も崇高な願いと、最も醜悪な望みは同意であると。
……そう。何かを守ろうという願いは、
同時に、何かを犯そうとするモノを、望むことに他ならない――――
「――おま、え」
けど、そんな事を望むはずがない。
望んだ覚えなんてない。
あまりにも不安定なその願望は、
ただ、目指す理想が矛盾しているだけの話。
だというのに神父は言う。
この胸を刺すように、〝敵が来てよかったな〟と。
今はもう教会の外だ。神父の姿も見えない。だというのに何だろう。この居心地の悪さは。
「大丈夫か、マスター。顔色が悪いようだが」
外で俺を待っていたセイバーが声をかけてくれる。
ふと、気になった。セイバーならどう答えるだろう、と。
この男の願いは「自分の正義を貫きたい」だった。だったら、この問いにも答えをすでに決めているんじゃないか。
縋るような気持ちで口に出そうとした言葉を寸前で俺はのみ込んだ。
いや、やめよう。これは俺の問題なんだ。俺が答えを出さなくてはいけない。
とりあえず、方針は決まったんだ。俺は他のマスターが叶えようとする邪な願いをやめさせる。ただそれだけに思いを集中させればいい。
「行きましょう。街に戻るまでは一緒でしょ、わたしたち」
言うだけ言ってさっさと歩きだす遠坂。その後に続いて、俺たちも教会を後にする。
三人で坂を下りていく。遠坂が前で、セイバーが俺の後ろ、俺はその間だ。来た時もそう話した方じゃないが、帰りは一段と会話がない。
その理由ぐらい、鈍感な俺でも分かっていた。教会での一件で、俺は本当にマスターになったのだ。
ああ、そうだ。遠坂に聞いておかないと、
「遠坂と俺で同盟を組まないか」
バッと振り返る遠坂。その顔は驚きを隠せないでいる。
「何言ってるのよ。……いや、でも」
ブツブツと遠坂が呟きだした。なんだろう、目の前で呟かれるというのは何を言われている訳でもないだろうけど意外と心にくるものがあるな。
「目的は?」
「え?」
「同盟を組む目的よ。まさか何も考えていないってわけ?」
「ああ、目的か。当面の目的は敵サーヴァントが来たら協力して倒すこと。最終的には遠坂が聖杯を手にすればいい」
「え!」
後ろでセイバーは黙っている。こういうとき何か思う事があれば言ってくれるやつだから、黙っているという事は賛成しているという事だろう。でも、一応訊いてみるか。
「セイバーはどう思う?」
「マスターの意見に賛成だ。凜なら聖杯を悪く扱わないだろう」
「あなたたちそれでいいの? 聖杯に願う願いもないわけ」
「ああ、俺はない」
「俺もない」
うーん、と凛は唸った。俺の言葉を信用していいのか悩んでいるのだろうか。
「……分かったわ。組みましょう、同盟」
しぶしぶといった感じで凜は承諾した。
私の士郎は情緒がかけている。
原作ではすぐには同盟を組まないけど、そんなに出てこない発想ではないと思うんだが、組みたくない理由でもあったんだろうか。