夜の街灯が立ち並んでいる。光を放っているはずなのにどこか心もとないのは、光量が少ないからか。光が届かない薄暗いところの中に何かが潜んでいるかもしれない。そんな気がするからか。
「遠坂。お前のサーヴァント、大丈夫なのか」
「え……? あ、うん。アーチャーなら無事よ。……ま、ランサーにやられたダメージは簡単に消えそうにないから、しばらく実体化はさせられないだろうけど」
「じゃあ、そばにはいないのか」
「ええ、私の家で匿っている状態。いま他のサーヴァントに襲われたら不利だから、傷が治るまでは有利な場所で敵に備えさせてるの」
なるほど。うちはともかく、遠坂の家なら外的に対する備えは万全なんだろう。魔術師にとって自分の家は要塞のようなものだ。そこにいる限り、まず負けることなどない。
逆に言えば、ホームグラウンドにいる限り、敵は簡単には襲い掛かってこないという事か。
……うむ。うちの結界は侵入者に対する警報だけだが、それだけでも有ると無いでは大違いだし。
歩く途中で俺は遠坂に幾つか質問した。同盟相手だし今後とも持ちつ持たれつの関係になるんだから、親睦を深めるためにもってやつだ。まぁ、本当は単純に疑問に思っただけなんだけど。
その会話の中の内容をまとめるとこうだ。
サーヴァントの真名を人に明かすな。
言峰綺麗は信用するな。
綺麗を信用してない。遠坂からその台詞が出てきたことに驚きはしたがホッともした。それでも、なんとなくその台詞には、神父への親しみが含まれている気がした。
そうして橋を渡る。
「遠坂の聖杯にかける願いってなんだ」
「同盟を組んだ後にそれを訊くの? 衛宮くんって魚を尻尾から食べる質?」
なんか、聞きなれない言葉が出たぞ。魚を尻尾から食べる。過程をすっとばして結論から物事を進めようとする、ってことか……?
「私の願いはないわ」
「遠坂もだったのか」
「なんでそこでちょっと嬉しそうなのよ」
いや、安心した。話を聞く限りだと聖杯というのは、本当に何でも叶うらしいじゃないか。それに願いを託さないという事は芯が強い証だろう。
不思議と、隣りを歩く遠坂の顔を見ようとは思わなかった。
今は遠坂の顔を見るより、こうして一緒に夜の橋を歩く方が得難いと思う。いや、同盟を組んだのだから、このような機会はまたあるのか。
本当なら俺が正規のマスターになったときに、協力関係は終わりって言われるかもと心配していたんだ。でも今はこうして、俺と遠坂とセイバーで並んで歩いていける。
交差点に着いた。それぞれの家に続く坂道の交差点、衛宮士郎と遠坂凛が分かれる場所。
「ここでお別れね。どう、行動するかとか、詳しい話は明日からにしましょ」
「ああ」
「もし、サーヴァントがやられたら迷わずさっきの教会に逃げ込みなさいよ。そうすれば命だけは助かるんだから」
「それは気が引けるけど、一応聞いておく。けどそんな事にはならないだろ。どう考えてもセイバーより俺のほうが短命だ」
冷静に現状を述べる。
「――――ふう」
謎のリアクションを見せる遠坂。彼女は呆れた風に溜息をこぼした後、ちらり、とセイバーを流し見た。
「衛宮くんはもうちょっと自分の命を大事にした方がいいわ」
何を言っているんだ、遠坂は。そんなことは言うまでもないことだろうに。
くるり、と背を向けて歩き出す遠坂。
「――――」
だが。幽霊でも見たかのような唐突さで、彼女の足はピタリと止まった。
「遠坂?」
そう声をかけた時、左手がズキリと痛んだ。
「――――ねえ、お話は終わり?」
幼い声が夜に響く。歌うようなそれは、紛れもなく少女の物だ。視線が坂の上に引き寄せられる。いつのまにか雲は去ったのか、空には煌々と輝く月。
――――そこには。
伸びる影。ほの暗く青ざめた影絵の町に、それは、あってはならない異形だった。
「――バーサーカー」
聞きなれない言葉を漏らす遠坂。……追求する必要などない。アレは紛れもなくサーヴァントであり、同時に――十年前の火事をなお上回る、圧倒的なまでの死の気配だった。
「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」
微笑みながら少女は言った。その無邪気さに背筋が凍る。
なぜ今、どうしてこのタイミングで。もちろん狙っていたのだろう。疑問の余地もないほどにその登場は悪意的だ。
「――――」
傍らのセイバーに視線を向けたくなるが、体が凍っている。アレは化け物だ。視線さえ合っていないのに、ただ、そこに在るだけで身動きがとれなくなる。
圧倒的なまでの力を孕んだその存在に嫌というほど俺はくぎ付けになっていた。
ちらほら原文そのままパクっています。
あかんかな。