Fate/lost imagine   作:ぽっとでの急須屋

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狂戦士の闘争

 少しでも動けばその瞬間に死んでいるだろう、と当然のように納得できた。むき出しの腹に、ピタリと包丁を押し当てられている感覚。……手が鉛のように重くなり、足が棒になる。自分はこの場で動く資格がない。動くにはあまりにも弱すぎる。

 

「――――やば。あいつ、けた違いだ」

 

 震えている俺とは違い、遠坂には身構えるだけの余裕がある。……しかし、それも僅かな物だろう。背中越しだというのに、彼女が抱いている絶望を感じ取れるんだから。俺がなにかできれば――。

 

「あれ? なんだ、あなたのサーヴァントはお休みなんだ。つまんないなぁ、二匹いっしょに潰してあげようって思ったのに」

 

 坂の上、俺たちを見下ろしながら、少女は不満そうに言う。……ますますやばい。あの少女には、遠坂のサーヴァントが不在だという事も見抜かれている。

 

 ――と。少女は行儀よくスカートの裾を持ち上げて、とんでもなくこの場に不釣り合いなお辞儀をした。

 

「はじめまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」

 

「アインツベルン――――」

 

 その名前に聞き覚えがあるのか、遠坂の体がかすかに揺れた。そんな反応が気に入ったのか、少女は嬉しそうに笑みをこぼし、

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 巨体が飛ぶ。バーサーカーと呼ばれたモノが、坂の上からここまで何十メートルという距離を一息で落下してくる――――!

 

「――――マスター、下がっていろ」

 

 セイバーが駆ける。灰色の髪が翻り、視界が一瞬閉ざされる。

 

 二つの衝撃が混ざり合う。

 バーサーカーの落下地点まで駆けるセイバーと、旋風を伴って落下してきたバーサーカーとは、全くの同時だった。

 

「っ…………!」

 

 空気が震える。岩塊そのものとも言えるバーサーカーの大剣を、セイバーは銀の大剣で受け止めていた。

 

 夜をつんざく衝撃。はちきれんばかりの剛腕によってくりだされた一撃は、隕石でも落ちたかのように戦いの余波を辺りにまき散らす。クレーターの中心にいるセイバーは押しつぶされたかと思ったが、かろうじて立っていた。俺は震える骨で理解するしかなかった。お互いの間に広がる圧倒的膂力の差を。

 

 繰り出される連撃。剛撃は束となり嵐となる。セイバーを襲う猛打は徐々にセイバーを追い詰めていく。荒れ狂う侵略。バーサーカーが振り下ろす石斧には技巧を感じられない。人類が強いものに勝つために積み上げてきた技術。そんなものは圧倒的な力の前には無力なのだ、と言わんばかりの無茶苦茶だ。

 

 セイバーはしかし食らいつく。圧倒的な力の前に屈しはしなかった。人類が挑むべき天災。それを前にして絶望するでも悲願するでもなく、勝利への一歩を、敵を屠るべく前進を、その体は成し遂げたのだ。

 

 それは確かに一瞬の出来事だった。時間にして一秒にも達しないだろう。瞬きと瞬きの間。その奇跡は起きた。

 

 下段から振り上げられるセイバーの一撃。乾坤一擲。その刃はバーサーカーの腰元から首にかけてを奔り抜ける。

 

 ズバッ。

 

 ――――喝采は絶望に砕かれた。身を後ろに傾けその一撃を浅く受けるバーサーカー。そして回転、からの蹴り。バク転の形で宙へ浮かびあがったバーサーカーは地に着く前に、蹴りを繰り出す。

 

 セイバーの喉元を抉るかのように突き上げられる。剛撃。一撃一撃が必殺のそれは決して油断していたわけではないセイバーを苦しめる。一撃を防ぐセイバー。しかしそれでは終わらない。剣をもつ両手を蹴り上げられた、セイバーは攻撃などするべきではなかった。踏み込めたことはチャンスなどではなかった。それは死の宣告だった。たかをくくると殺す、と。

 

 迫る二撃目。二本目の足がセイバーの顔を踏みつけた。

 

 ドッォゥン。

 

「――――えっ?」

 

 瞬間、セイバーは吹き飛んだ。はるか後方で、ドサリと物が倒れる音。目の前から戦いが去り、希望を失う。当然、戦うべき相手を失った狂者は新たな敵を打ち滅ぼさんと走るわけで、――――俺の前に絶望が現れた。

 

 巨躯。この言葉がこれほど当てはまる者も他にいないだろう。二メートルは優に超えている。人体の限界を超えたかのような肉体。筋肉の隆起などは一つ一つが破壊に対する誠意に満ち満ちていて、その集合体はまさしく破壊の権化とでもいうべき存在だ。

 

「あ…………」

 

 死ぬ。間違いなく自分はここで終わりだ。十代半ばといったところで終わるのは無念だ。自分はまだ何も成し遂げていない。何もなせなかった人間だ。俺は求めていたものの影さえ見ずに終わるのだ。正義に憧れ、正義に準じようとした。しかし、そんな俺は圧倒的な力の前で終わりを迎える。

 

 ふざけるな!

 

 振り上げられる巨腕。それは瞬時に目の前の物体を肉塊に変えるかと思われたが――――。

 

 バンッ。

 

 それは突如飛来した一つの物体によって止められた。それを目視できたものはいないだろう。誰の意識にもとらわれない、予期せぬ攻撃の来訪。文字通り面食らったのはバーサーカーだ。バーサーカーの頭部は肉が抉れ、骨が拉げていた。

 

 俺を後ろに引っ張る遠坂。未だ混乱の中にいた俺は、数秒が経ってからそれがアーチャーの射撃によるものだと気づいた。

 

「遅いわよ、アーチャー。危うく死ぬところだったじゃない」

 

 そうだ死ぬところだった。でも、それももう終わりだ。俺はバーサーカーの死体を見る。理不尽なほどの暴力は過ぎ去ったのだ。これでもう恐れることはない。いつのまにか手の震えも消えている。イリヤ……と言ったか、彼女に聞きたいこともあるんだ。

 




放浪息子という漫画を全巻買い読み進めています。おすすめです。

セイバーの行動に関しては直観もってないしこんなものかと。
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