遠坂時臣は慌てていた。弟子の言峰綺麗が最優のセイバーを召喚したことは嬉しいといえば嬉しい誤算であったが、自分の召喚したギルガメッシュいわく、この聖杯戦争にはギルガメッシュに匹敵するサーヴァントがいるという情報があり、王が本気を出してくれて嬉しい反面、この聖杯戦争で簡単に勝つことが難しくなったことから喜んでもいいのかわからなかった。さらに大変なのは、そのサーヴァントが遠坂邸に乗り込んできたというのだ。
喜色満面。それはさも嬉しそうに体中から闘気を奔らせて金のアーチャーは遠坂邸の窓から出ていった。
今は恐る恐る窓から様子を見ている時臣だが、その頭の中には逃げるか否かの考えが渦を巻いていた。ギルガメッシュの言が本当なら両雄が本気を出したらこの遠坂邸は無事では済まない。しかし、王の手前仮にも臣下の礼を取っている自分が王より先に逃げてもいいのかどうか。
「我の前に立つのが相応しいのは後にも先にもお前だけだ。今宵はどのような用件でこの場に足を運んだのだ? いや、言葉を発することすら無粋だったな」
「ああ、僕らの前に言葉はいらない。一度会ってしまえば、そこが戦いの場になることは必定だ」
両雄が立ち昇らせる闘気は夜の冷気と混ざり合い次第に周囲に充満していく。刺さるようなその気は近づくものを脅かし、その渦中にいる二人の闘志をさらに高めていく。
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二人の撃鉄が落とされた。ギルガメシュの背後に広がる無数の空間の揺らぎから大小さまざまな宝具が射出される。対してエルキドゥは空中、大地を問わず、周囲の空間から鎖を射出し、自らは突貫する。
飛来する槍を右手ではじき、斧を左手で叩き落とし、それ以外は自らの疾走に続く鎖に任せてギルガメッシュの下へ肉薄する。ギルガメッシュはそれに応じて宝物庫から取り出した一本の剣を握り振り下ろした。
体を横に捻り剣を躱し、そのままの姿勢から回転し飛び蹴りを放つエルキドゥ。魔力の激震とともに二本の脚がそれぞれ顎と鳩尾に走る。
バンバンッ。
連続して放たれた二撃に続いて更に手刀が放たれる。
バンッ。
押されながらも踏み止まったギルガメッシュの手に持たれていたのは剣ではなく、両手盾だった。剣が躱されたと同時に宝物庫から取り出したのだろう。そしてエルキドゥの頭上から武器が降り注ぐ。
休むことなく続く攻防。宝物庫から武器が射出されたかと思えば、それを蹴りで、手刀で切り払うエルキドゥ。かと思えば鎖に防御を任せ捨て身の突貫、それが効かぬとなれば足元に鎖を忍ばせギルガメッシュを縛ろうとしてくる。
ギルガメッシュがやられてばかりかと言えばそうではない。宝物庫から展開される大量の宝具の圧倒的物量により、高速機動するエルキドゥを何度も窮地に陥らせている。その度にエルキドゥは機転を働かせ、上手く躱すため決定打を与えることは叶わなかったが。
手数ではギルガメッシュが勝るものの、それを凌ぐ速さをエルキドゥは持っている。二人の強さは完全に互角であった。
「ふっ、やはりお前にはこれでは足りぬか」
そう言ってギルガメッシュは宝物庫から超常の剣を抜く。
「行くぞ、エルキドゥ。開戦の祝いだ。持っていけ」
「ああ、僕も全力で行く」
ギルガメッシュは二本の足で悠然と大地に立つ。回転する三つの円筒が束となり、一つの剣をなしている。風が吹き荒れ周囲の魔力が集結していく。さらなる魔力の高ぶりがそのまま猛威となって現れようとしていた。
エルキドゥは身を屈め、大地に手をついた。瞬間、吹き上がる魔力。大地はそれに呼応して揺れだした。
高まる二つの魔力に大気が鳴動する。その振動はビリビリと見るものを圧迫するようにあたりをねめつけていく。
鬱蒼とした遠坂邸の森が神話の世界の一部となる。そこには弱者は立つことすらままならない空間が広がっていた。
使い魔越しにそれらを見ていたマスターたちは震撼した。その周囲にいるものは瞬く間に消し炭になるであろう、と。
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衝撃はぶつかった。片や天地を分かつ剣の一撃、片やギルガメッシュを縛り天上に連れ戻すための無数の鎖。両雄とも他に並び立つ者のいない究極の攻撃だった。大気は裂け、光は拡散する。その衝撃の余波は遠坂邸を全壊させて余りあるものだった。
その惨劇のあとに両雄は立った。互いに無傷であった。
「はっはっは。中々に愉しめたわ。ではな、エルキドゥ。お前を倒すものは我であることをゆめ忘れるなよ」
「ああ、分かっているとも。では、次会うときこそは雌雄を決しよう」
そう言って二人は去った。二人の心は最大の全力ではなかったものの、力を振り絞った戦いができ満足であった。
その後、上機嫌のままギルガメッシュは瓦礫の中で気絶している時臣を引きずり出した。