Fate/lost imagine   作:ぽっとでの急須屋

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〇2019/6/9(日)書き直しました。
・矢よけのアミュレット→赤い宝石のペンダント
読んでくれた人ごめんなさい。

ここだけの話、うちの急須が言っていたんですけど。
この物語を書くにおいて、やりたいことは大きく二つあるらしいですね。
一つは、Fateシリーズに登場した最強のサーヴァント達の戦いを書くこと。
もう一つは、Fateシリーズのキャラクター同士の掛け合いを書くこと。
この二つのどちらをより優先するかはそのときになってみないと分からないらしいんですけど。


逃走する本能

 タッタッタッタッタ。

 

 校舎に男の靴音がこだまする。制服を着た赤髪の学生だ。彼は何かから逃げるように、窓ガラスから差し込む月明りの中を走っていた。

 

 顔は青ざめ、肩が上気する。自らの足音より鼓動が激しく耳を叩く。肺は締め上げられ、腹の物をぶちまけたくなる衝動に駆られるが死ぬ気で堪える。

 

(生きるんだ。死にたくない。あんな者がいるなんて)

 

 男の中で思いの濁流が氾濫する。絶望、不安、憧憬、羨望、期待、恐怖。男は正気を失っていた。冷静では無かった。腕を振り、足を出し、身体を動かすが、自分がどこに向かっているのかは理解していなかった。

 

 (どうすればいいんだ。どうすれば生きて………)

 

 激しく鳴っていた心臓の音が変わった。胸元を見ると一本の槍が自分の胸を貫いている。槍を中心に真っ赤な牡丹が咲いた。痛い、という当たり前の感覚より先に絶望が男を襲った。

 

 (逃げられなかった。追いつかれた。俺は死ぬんだ)

 

 槍が抜かれると、男は倒れた。俯せに倒れ込んだ床は暖かく、そして冷たかった。男は自分の身体が作り出す血の海に沈んだ。息をすることも、目を開けることも、もう意味がなかった。男の意識は静かに遠のいていった。

 

 槍は自らの目的を果たし、音もなく姿を消した。

 

 「マスター、ここだ」

 

 足音とともに一組の男女が現れた。先程のマスターと呼ばれた女と、アーチャーと呼ばれた男だ。

 

 「こんなことって………」

 

 女は男の無残な姿を見て絶句する。目の中には恐怖の色が宿ったが、すぐにその思いを振り払い、どこからか赤い宝石のペンダントを取り出した。

 

 「それは」

 

 「ペンダントよ。これにこもっている魔力を使うの」

 

 そう言って、女は伏した男の胸元にペンダントを広げ詠唱を始めた。ペンダントが仄かに発光する。魔術の光だ。女が手をかざすと男の胸の傷は綺麗にふさがった。

 

 「ほう、綺麗なもんだな」

 

 「………」

 

 女は無言で立ち上がる。

 

 「どこへ行くんだ、マスター」

 

 「帰るわよ。目を覚ます前に立ち去らないと」

 

 「マスター、それでいいのか」

 

 マスターの背に声がかかる。その声はなぜか厳しさが混じっていた。マスターが振り返ると、アーチャーの端正な顔はしかめられていた。有無を言わさぬ気高さがそこにはあった。

 

 「何よ………?」

 

 マスターは心の微かな波紋を抑え込み、アーチャーと正面から向き合う。

 

 「この少年は死ぬんだぞ」

 

 「何を、傷はふさがって………。まさか、見たっていうの!?」

 

 事情を理解したマスターは青ざめる。アーチャーのその目で見たということは、それは起こりうる事実だということだからだ。

 

 少年、と呼ばれた男を見る。普段学校で関わることは少ないものの、いなくてはならない人だと思っていた。こんなことで死ぬとは考えたこともなかった。死ぬならきっと、老いて家族に囲まれながら死ぬ人なんだと思っていた。

 

 (自分とは違う、普通の人、そう思っていたのに………)

 

 「ああ。て言っても見たのはランサーの方なんだけどな。あいつは俺たちが去った後、彼を殺すぞ」

 

 比喩でもなく、予想でもなく、結果として。アーチャーは淡々と未来を述べた。

 

 「………」

 

 「マスター」

 

 アーチャーは待つ。マスターの出す答えが、自分の望む通りのものであることを知りながら、自らの信じる強かさを秘める少女を見つめる。

 

 「分かったわよ。………ランサーを倒しましょう」

 

 顔を上げた少女の目には小さく光る闘志があった。

 




カタルシスを制する者が全てを制す。
なんつって。

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