セイバーとの談話
――――見た事もない景色だった。
頭上には炎の空。
足元には無数の鋼。
戦火の後なのか、世界は限りなく無機質で、生きているモノは誰もいない。
灰を含んだ風が、鋼の森を駆け抜ける。剣は樹木のように乱立し、その数は異様だった。
十や二十ではきかない。百や二百には届かない。だが実数がどうであれ、人に数え切れぬのであらば、それは無限と呼ばれるだろう。
大地に突き刺さったいくつもの武具は、使い手が不在のままに錆びていく。
夥しいまでの剣の後。
――それを。まるで墓場のようだと、彼は思った。
……視界が戻る。日が昇って随分と時間がたったのだろう、確かな陽射しが伝わってきた。
「――――今の、夢」
ぼんやりと目を開けて、見ていた夢を思い起こす。
……剣の丘。
あんな夢を見たのは、セイバーとバーサーカーの戦いが何か関係しているんだろうか――
「あ、お目覚め? それは結構。大事がなくて何よりだわ」
「は…………?」
と。
同時に、偉そうに見下ろしながら、とんでもなくフツーな一言を述べる遠坂凛。
「~~~~~~~~っ!」
布団を跳ねのける。そこからザザザと後ろへ這って、ともかく遠坂から距離をとった。
「遠坂!? な、何故にいま俺の部屋……!!??」
俺は剣の丘――じゃなくて、坂にいた筈で、近くにいたのはセイバーで、どうして自分の部屋で眠っていてもう朝になっているのか……!?
「と、遠坂、どうしてお前がここにいて、俺は何してたんだ――――!?」
口にした途端、ますます頭が回りだした。自体が急展開を迎えている。
「驚くんならどっちかに驚きなさいよ。どっちも取れるほど器用じゃないでしょ、衛宮くんは」
こっちの心境も知らず、遠坂はあくまでクールだ。
「――――む」
それで停止していた頭に喝が入った。そうだ。そりゃあ目が覚めた途端、遠坂の顔があったらびっくりするのは当然だ。が、裏を返せば、それはつまり――――
「……そうか。状況を見ると、気を失った俺をここまで運んでくれたんだな、遠坂」
「へえ。なんだ、見た目より頭の回転は速いんだ。混乱しているようでちゃんと物事は考えてるのね。うん、面白い面白い」
…………む。褒めているのか貶しているのか、判断しづらい発言は止めて欲しい。
「……じゃああれから半日ぐらいしか経ってないのか。俺の家まで運んでくれたってことは、人目につかないで逃げられたんだ」
「ええ、そういう事。話が早くて助かるわ」
まだ話すことがあるのか、遠坂はその場にいた。いや、話すことがあるというより、話すべきかどうか考えていると言った風だ。
「…………やっぱり、衛宮くんには話しておかないといけないわね。私の家がサーヴァント達の戦闘に巻き込まれて全壊したわ」
「ぜ、全壊!? だって昨日は坂道で戦っていた筈だろう、なんで遠坂の家が? 他のサーヴァント達がやってきて勝手に戦っていったってことか?」
「ええ、そうよ。何の目的でそれをやったかなんて分からないけどね。……でも、アーチャーが持ち帰った情報によると…………」
「…………な、なんだよ」
ごくり。
「…………私の家の中に人影があったらしいわ」
「え……?」
なんだそれ、つまりどういうことだ?
「聞いた限りではその人影の特徴は亡き父に似ていたわ」
「そんなことってあるのか……」
「ええ、そうよ。こんな話バカみたいでしょ。でも、本当にあったことなの。――――この聖杯戦争は何かおかしいわ。衛宮くんも気を付けてね」
「おい。どこ行くんだよ、遠坂」
「私は私だけで調べたいことがあるのよ。どっかの寝坊助さんと違って忙しいんだから」
「そうか、すまない遠坂。それと、ありがとう」
遠坂は後ろ手に手を振ると、部屋を出て行った。
遠坂が去った後は、暖かな日の光の満ちた庭が見えた。俺はそこから視線を逸らし、自分の手を見つめる。
遠坂の父さんに似ていたという人物は単に他人の空似なんだろうか。しかし、魔術がある世界だ。魔術よりすごい魔法なんてものだってある。ある程度はなんでもありだろう。それこそ死者が蘇ることだって――。でも、誰が何の目的で、どうして第五次聖杯戦争が行われている今に……?
いや、本当に俺が引っかかっていることはそこじゃない。俺は本心から目を逸らしている。俺が本当に引っかかっていること、それは切嗣のことだ。
もしも、そう、もしもでしかないが、切嗣に会えたとして俺はどうする。会いに行くのか? …………会いに行きたい。会ってただ話をしたい。どんな話でもいい。他愛無い話でいい。俺の周りで最近起こったこと、自分なりに充実した日々を過ごしていること、相変わらず藤ねえに振り回されていること……。それらの話を聞いてほしい。
まあ、もしもでしかない。今まで俺の家に切嗣がいなかったことを考えればその可能性は低いだろう。でも、もしもは可能性がないというわけじゃない。もしかしたらありえるのだ。
俺はこのことを心に留めることにした。
さて、今日は休日だ。することと言えば特にない。そうだな、今後のためにセイバーと話でもしておくか。
「セイバー」
そう俺が呼ぶと目の前に灰色の髪の男が現れた。毎回見るたびに思うが、霊体から実体になるのって軽く怪奇現象だよな。
「なんだ、マスター」
「セイバーのことについて教えてくれよ。セイバーって英雄だったんだろ、そのときの英雄譚とかさ」
「それは不味いぞ、マスター。その情報は俺の真名につながる」
そうだった。遠坂から「衛宮くんは隠し事とか無理だから、真名を教えてもらわないようにしなさい」と言われていたんだった。同盟相手に命令されるのはなんかへこむけど、まぁその通りだから俺はそれを守ることにしたのだ。
「じゃあさ、セイバーが好きなものってなんだ? それぐらいならいいだろ?」
「そうだな。それならば構わないだろう。俺の好きなものか、それは願いをかなえることだ」
願いを叶える? 好きなものを聞いてそんな答えが出てくるなんて驚きだ。
「聖杯に願うような願いではないんだろ? どんな願いなんだ」
「なに、俺の守りたいものを守る。それだけだ」
「……………………そうか」
沈黙がおりる。俺の中で何かが腑に落ちた感覚がした。
「なんだ、マスター。俺は何か変なことを言っただろうか」
「いや、そういうわけじゃないさ。ただ面食らったというか、驚いたというか。いやなに俺の願いもそうだからさ」
「そうか、それは何よりだ。…………幸運はEだといのに、俺は良いマスターに巡り合えたようだな」
「幸運がEなのか!? それは知らなかった」
「む、マスターはステータスが見えてないのか。少し目を閉じていてくれ」
「……? いいけど」
俺は目を閉じた。後から額に触れる微かな感触。どうやらセイバーは俺の額に指で触れているらしい。
――――と。俺の視界にゲームの説明欄のようなものが広がった。
「今のは?」
「どのような方法で現れたかは知らないがそれが俺のステータスだ。慣れれば今のように他のサーヴァントのものも見えるようになるだろう」
「……そうか、俺は本当にマスターになったんだな。あらためて実感したよ」
「ああ、そして俺はマスターのサーヴァントだ。なんなりと命令してくれ」
その後はセイバーと幾つかのことを話した。セイバーのことは初めてあったときから何となく気に入っていたんだが、その理由が今回分かった気がする。俺とセイバーは似ているんだ。その後の話し合いで、願わくば最後まで共に戦っていたい、そう思うには十分なほど俺はセイバーを信用するようになっていった。