「アーチャー、遠くから撃ち落とすんじゃなかったの」
凜の問いかけに、敵を逃すまいと弓を張りつめているアーチャーは振り向かずに答えた。
「そうしようと思っていたんだがな。このランサー、姿を変えるわ、辺りの魔力を弄るわで、行方を眩ませるもんだから、うっかり通しちまった。すまん、マスター」
月夜の中、辺りは緊迫の様相を呈していた。緑髪のランサーは白い衣を一枚羽織り壁の上に立っていた。
「始末したはずの目撃者とアーチャーのマスターがいるから、興味本位でやってきたんだけどね。何のことはない、始末する対象が二人ここにいるだけだ」
「待って、ランサー。この目撃者は魔術師なの、聖杯の秘匿のために殺す必要はないわ」
凛が焦った様子で弁解を述べる。無理もない、凛は校庭での戦闘を最も間近で目撃したのだ。ランサーの美しさに秘められた暴力性に凛が気おされるのも当然と言える。
(あの遠坂でさえ、慌てるのか)
そして、それはランサーとアーチャーの相性にも理由があったと言えよう。ランサーはその高い身体能力に、大地から大量の武器を生み出しそれらを高速射出する力を持つ。近距離戦においては独壇場だ。たいしてアーチャーは校庭でこそ何とか拮抗させていたものの、それはアーチャーの目によってランサーの手数を手際よくさばいていたに過ぎない。今の互いの間の距離はわずか数メートル。アーチャーの目がいかに優れていようと、それはもはや焼石に水に過ぎないのだ。
なにより凛には分かっていた。この距離では自らの命も無事では済まないことが。
「魔術師、か。それならいいだろう。ならば、僕というシステムは君一人に注げばいいわけだ」
戦慄が走る。ランサーの冷たい目は遠坂へと注がれた。遠坂はわずかに震えたようだった。
「待てよ、ランサーと言ったか。俺の家で勝手に暴れようとするな!」
その言葉には衛宮を除く二人が驚いた。しかし、ランサーの表情は変わらない。
「それは、……そうだね。困ったな、アーチャーのマスターよ、場所を変えてくれるかい?」
そのちょっと間の抜けた質問に答えたのは、凛ならぬ士郎であった。
「いや、それは駄目だ。遠坂には今日ここで泊まってもらう」
士郎の可笑しさに凜はこらえきれず口を出した。
「何言ってんのよ、衛宮くん。衛宮くんには関係ないでしょ」
「いや、関係ある。夜中に出歩くなんていけない」
はああああ!? と遠坂は驚いた様子だ。
「ふっ、ランサーよ。今回は開きにするか?」
「困ったな。こういう場合はマスターの命令を優先して、やはりアーチャーのマスターはここで始末させてもらおう。魔術師の君は巻き添えを食わないように気を付けてくれ」
「やっぱこうなるかよ」
衛宮の主張も、凛の困惑もよそに、二人の意志は昂っていく。
先に動いたのはアーチャーだった。
〇独自解釈ポイント
ランサーの肉体を変える技は、その物体の本質である魔力も変えることができる。
ランサーの大地を操る技で、自分の劣化分身を作ることも可能。