「本気で言っているの、衛宮くん!?」
冬という事もあり少し冷えた室内の空気の中で、二人はひと時の安堵を得ていた。
二人はあの場で立ち止まっていてはランサーに追いつかれることに思い至り、すぐさま駆け出した。ようやくたどり着いた遠坂邸。洋風の外観で、壁は赤レンガでできている。庭を通り抜け玄関を開け、一階のロビーへ。今二人は地下室の扉の前に立っていた。
「当然だ。この状況で冗談なんか言わないさ」
戸惑う凛に対して、士郎は頑なに譲らなかった。
「遠坂は分かっているんだろ、今の状況じゃランサーに勝てっこないって」
「そりゃそうだけど」
そうだ。今の状況ではランサーに勝てない。マスターという私を狙う戦法を取られては、遠距離攻撃が主軸のアーチャーでは心もとない。できれば、あと一体白兵戦に富んだサーヴァントがいてくれればとは思う。
「俺が召喚する。俺だって魔術師の端くれだ。召喚できないわけないさ」
「そうだけど……」
「頼む、遠坂。下の魔法陣を貸してくれ」
凜は沈黙する。できることはできるだろうが、させたくないのが本音なのだ。
どうして遠坂は貸してくれないんだろう。このままじゃ勝てないのは分かっているのに。
「衛宮くんにはさせたくないのよ」
「なんでさ」
遠坂の顔は俯き、手は震えている。
「だって、聖杯戦争は甘くないのよ。何も衛宮くんが巻き込まれること……」
「遠坂!」
士郎の表情は真剣そのものだった。
「俺は遠坂に巻き込まれたなんて思ってない。ランサーに襲われた時も助けてくれたじゃないか。俺は俺の意思で遠坂を助けたいんだ」
士郎の目には闘志の炎が燻っていた。
(それを巻き込むっていうんでしょ……)
凛は考えていた。こうなってしまっては自分がどうあがいても衛宮くんは意思をまげないだろうということ。そして、もしこのままサーヴァントを召喚しない場合のリスクを……。
その末に凛は決めた。とりあえず今を乗り切ろう、と。
「分かったわよ。じゃあ、準備するから先に下へ行って」
「ありがとう、遠坂」
「これでいいのか、遠坂」
「ええ、完璧よ」
魔法陣の前に士郎は立つ。
「じゃあ行くぞ」
光に包まれだした魔法陣に、詠唱を唱えていく。
素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝、三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守りてよーーー!
魔力の高ぶりと共に、風が吹き荒れる。
燦然と輝く、魔法陣の中心に果たしてその姿は現れた。
男は臣下の礼をとり、面を上げた。
「問おう、君が俺のマスターか」
灰色の長髪に端正な顔立ち。胸元と背中が大きく開いた鎧。大剣を脇に抱えている。
龍を彷彿とさせるその青年はまごうことなき士郎のサーヴァントだった。
〇独自解釈ポイント
魔法陣はある程度使いまわし可能。