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その者は人々からヨシヒコと呼ばれていた
かつて迫りくる魔王の脅威を前に屈するしか無かった人々の為に
頼もしき仲間と共に幾度も世界を救った伝説の勇者
これは彼が再び新たな地で出会った仲間達と共に
世界を支配せんと企む邪悪なる大魔王と戦うお話である。
まず目を開けるとそこは一点の光も見当たらない完全なる闇だった。
「……んん?」
突然の出来事に困惑しつつ上体をゆっくりと起こすも、何処を見ても周りは何も見えない
最初に暗闇の中で目覚めたその者の名は『メレブ』
マッシュルームカットと鼻の下のほくろが特徴的な魔法使い。
覚える呪文はほとんど役に立たないがヨシヒコの窮地を幾度も救った事が一応あり
基本的には暴走気味のヨシヒコの良きツッコミ役をしてあげたりと世話役を自ら買って出ている。
「いやちょっと……え? なにここ?」
ここはどこなのだろうと困った様子で独り言をつぶやいても、返事はどこからも返って来ない。
「え~……嘘だろまたこのパターン? もう何度目だよ……」
メレブが一人途方に暮れていると、ふとすぐ隣に誰かが自分と同じく横になっている姿が確認できた。
「お、ヨシヒコ寝てる」
「そうか、その草を食べれば私もそんな風に強くなれるのか」
勇者・ヨシヒコである。
彼はメレブの隣ではカッと大きく目を見開きながら、ブツブツとうわ言の様に呟いている
「なに? 私が食べても何も起こらないだと? むしろ私は虫だから消滅する? 何を馬鹿な事を、私は虫ではない、勇者ヨシヒコだ、勇者は例え道端に落ちている草であろうとたちまち体力を回復する事が出来るのだぞ」
「……相変わらず気味の悪い寝方と寝言だなぁ……てかどんな夢見てんのコイツ?」
まるで意味のわからない夢の内容を呟き続けるヨシヒコを感心する様にしばし見つめた後、メレブは軽く彼の頬を叩くのであった。
「ヨシヒコ、起きなさいヨシヒコ、目覚めるのです勇者ヨシヒコ」
「大体さっきから私の事をおかしく言っているが、そっちの方がずっとおかしい、なんだそこにいる小さな子供は、さっきから私を宙吊りにしている縄を笑いながら切ろうとするばかりか、突然二人や三人に分身したりとても普通の人間とは……あ、メレブさん、おはようございます」
「……ああ、またちょっと気になる所で目を覚ましちゃった」
寝言の内容がやや不気味なホラーになった所でヨシヒコが遂に目覚めた。
彼こそが勇者『ヨシヒコ』
紫色のターバンとマントがトレードマークであり、腰に差しているのは故郷の村に伝わる伝説の剣・「いざないの剣」
あらゆる困難に自らの勇気を奮い立たせて立ち向かい、この手で幾度も強敵を倒していった正に勇者と呼べる存在。
しかし向こう見ずな所があったり天然気味な所があったり空気が読めない所があったりなど、絵本に出てくる完璧な勇者になるのは未だ程遠い。
時には魔王を倒すという役目さえも放棄してしまう程抜けた一面も持っている。
それでも正義感に満ち溢れ、お人好しで熱血漢な性格こそ、真の勇者に相応しい器なのかもしれない
「……どこですかここ? 随分暗いですが……」
「いやもう……わかるでしょ? 間違いなく“アレ”の仕業だから」
「アレ?」
少々、というよりかなり心当たりがあるのかしかめっ面を浮かべながら呟くメレブ
アレとは一体何の事だ? よくわかっていないヨシヒコは上体を起こしてゆっくりと立ち上がろうとすると……
ヨシヒコよ! ヨシヒコよーッ!
「! 今のは……!」
「ほら来た、やっぱりアイツの仕業じゃないの~」
頭上から聞こえる大きな声が二人の目をより覚まさせる。
聞き慣れたその声にヨシヒコがすかさず反応するとメレブもめんどくさそうに立ち上がりながら顔を上げた。
ヨシヒコよー! ヨシヒコよー!!
「いやもういいから! さっさと姿現せ! 俺等気付いてるから!」
ヨシヒコ!? どうしたヨシヒコ!! ヨーシーヒーコくーん!! あーそーびーまーしょー!!
「だからなんでそんなステップ踏みながら徐々にテンション上がんだよ! めんどくさい! はよ出て来い!」
最初は威厳ある声付きであったのに徐々に悪ノリで叫んでる様な調子に
眉間にしわを寄せながらメレブはもういい加減にしろと叫ぼうとしたその時
「さっきからずっと隣にいるんですけどー!? なんでこっちに振り返らねぇんだよテメェ等ー!!」
「うわ! ビックリした!」
「仏!」
急に真横から先程の声が更に大きくなったので、メレブとヨシヒコはビックリして同時に隣に振り返った。
そこにいた人物こそ、まさに『仏』であった。
仏と言うだけあって見たまんまの格好をしており、ヨシヒコ達に魔王討伐の命を出し、旅の道中で何度も空に現れては道を示した張本人。
しかし実際の所はやる気が無かったり曖昧な指示を出したりたまに台詞を噛んだり忘れたりと、正直頼りになる存在と素直に言い切れる人物ではない。
ちなみに空に浮かんで現れる時はヨシヒコは目視することが出来ず、メレブが取り出す目に掛ける何かがないと見る事は出来ない。
だがこうして空からではなく目の前に現れると、目に掛けなくても見ることが出来るのだ。
「ホントダメダメだなー、なんで気付かないのかなー? 長い付き合いなんだからパターン読みなさいよ全く」
「いやだから! ずっと上から声がしてたんだよさっきまで! ここの構造ホントわけわかんないんだって!」
「あーはいはい、そんじゃ、とりあえずいつも通り話するからちゃんと聞いて下さい、ね?」
「相変わらず腹立つなぁ……」
上を指差しながらすぐ様抗議しようとするメレブをはいはいといった感じで適当になだめる仏。
少々ムカつきながらもメレブは渋々従うと、最初にヨシヒコが仏に尋ねる。
「仏、我々をここに呼んだ理由は何でしょう、まさか再び魔王が現れたのですか?」
「その通りだヨシヒコ、我々の世界から再び魔王が復活してしまった、そしてお前はその魔王を倒す為に再び旅に出るのだー!」
「……」
「あれ? ヨシヒコ? どしたん? 心なしか凄い嫌そうに見えるけど?」
「いや……私の代わりに行く人とかいないんですか?」
「えぇ~……ヨシヒコそれは流石に私えぇ~なんだけど……」
どうやら再び新たなる悪の権現、魔王が蘇ってしまったらしい。
しかしそれをちょっとキメた感じでビシッと叫んでみた仏とは対照的に、ヨシヒコの反応はやや冷めた感じであった、というか物凄く嫌そうな顔を浮かべている。
するとそんなヨシヒコに代わってメレブがしかめっ面を浮かべながら
「あのさあのさ、仏よ、俺達がここに来る前にやった事ちゃんと覚えてます?」
「えーとね、まず異世界に逃げた竜王という魔王を倒しましてー、その次にまた別の異世界で破壊の神であるシドーを封印しましてー」
「そう、しかもその間の隙間全くない、ハーフタイム全くない状態で次の現場向かわされてんの俺等、もう連続で魔王やら破壊神やらと戦っちゃってるのよ実際」
実を言うとヨシヒコ達は今とんでもなく忙しいかつ大変な目に遭ったばかりの直後であった。
別の世界で長い旅を終え、やっと魔王を倒したと思いきや
その直後に目を開けた時にはまた別の世界にいて、更に目の前にいきなりラスボスである破壊の神が
そしてその破壊神を無事に封印した直後、気が付いたらヨシヒコ達はここにいたのである。
「どう思う実際? これ聞いておかしいと思わない?」
「いやね、仏もちょっと悪いなと思ってますよ、マジで。けど我々って忙しい時が華なの、今の内に現場の環境や空気に慣れれば絶対後々為になるから? しっかりと腕を上げて、頑張って売れようよ」
「おい、なんだその若手の俳優の愚痴に付き合ってる上司みたいな返しは、何様だよお前」
「仏様です~」
「うわ~絶対にそう言うと思った、つまんねぇ~、仏マジつまんねぇ~」
「二回も言うんじゃねぇよ!」
自分の都合で勝手に振り回しているというのに反省する気も無い様子で、ありきたりな返答までして来る仏。
そしてメレブとヨシヒコが全く乗り気じゃない事もお構いなしに、仏は勝手に話を続けていく。
「はい、そういう事でして今回ヨシヒコ御一行様に倒していただくのはですね、魔王バラモスという、え~これがまたねぇ、なんとも厄介な相手なんですよ~」
「魔王の名前はバラモスらしいですよ、メレブさん」
「え~~結局無理矢理俺達にやらせる気だよこのペヤングマン……たまにはお前一人で行って来いよ」
「おいキノコ、おいおいキノコマン、お前さっきから仏と面合わせてるのに失礼な事言い過ぎだから、そろそろ仏ブローが飛ぶよ、仏ブロー」
魔王・バラモス、それが今回の旅で倒すべき相手だと説明しながら、先程からずっと失礼な物言いのメレブに拳を軽く突き出す仏。
「それで今回の魔王は我々の世界ではなく別の世界にいます、元々はうちの世界にいたんだけど、一旦異世界へ逃げて、そこで力を蓄えてから我々の世界に戻ろうって算段、らしい」
「らしいってなんだよらしいって……え? てかまた異世界!? 前回と同じ流れじゃんそれ! どんだけズボラなのお前の管理能力!?」
「いやね、私もまあ頑張ってはいるんだけど、相手が魔王となると中々上手くいかないのよ、こっちも忙しいし」
「嘘つけ! お前別の世界で仏ファミリアを作るんだとか遊んでただろ! はぁ~また余所の世界に迷惑起こしてからにも~」
「異世界……」
冒険に出向く先が再び異世界だと聞かされて、メレブはツッコミながらつくづく仏のずさんな世界の管理能力に呆れていると、異世界と聞いてヨシヒコもまたピクリと反応する。
「異世界というと前に行った様な世界に赴き、また同じように旅をすればいいんですか?」
「そうそう、呑み込み早いねェヨっ君は」
「その世界に行けば、私は今度こそモテますか?」
「ん~~~? それは知らない、そこは大事じゃない」
前に異世界に行けば何をせずとも向こうから女性が寄って来てチヤホヤされると、メレブから聞いた事があったので
今度の異世界ではそれが可能かと目の色を輝かせて顔を近づけて来るヨシヒコに、仏は首を傾げながら頬を引きつらせて苦笑。
「あの、モテる云々は一旦置いといて、私がヨシヒコ達にやって貰いたいのは、その異世界に逃げた魔王を討伐して欲しいって事だから、それだけはキチンと覚えておいてホント」
「私は出来れば巨乳の女にモテたいです」
「いや、そんな事言われてもね、リクエストとか受け付けてないから、困ったなぁ、仏困ったなぁ、その辺は君次第だから勝手にやって、ていうか私の話今軽くスルーしたけどホントにわかってるヨっ君?」
「では行きましょうメレブさん」
「焦るなヨシヒコ、そんなに袖を引っ張られると千切れる、この服の生地安いしちょっとの力ですぐ破けるから」
一方的に自分の主張をするヨシヒコに仏がどうすればいいのやらとただ笑うしか出来ない様子。
するとメレブが代わりにヨシヒコに向かって「ちょい待ち」と呟き手の平を突き出して
「まだ仏から詳しい話を聞くことがあるからもうちょっと待ってなさいヨシヒコ、大丈夫、異世界にいるであろう女性達は逃げないから、お前が来るのをちゃんと待っているから」
「しかし私は一刻も早くフィーロとアトラに会いたいんです!」
「いやフィーロとアトラって誰よ? なにやっぱりもう既に頭の中で、ヒロインの名前決めちゃった?」
既に頭の中で自分のストーリーを展開してヒロインまで創造しているヨシヒコ
切羽詰った様子で急に叫んでくる彼に軽く引きながら、メレブはまあまあとなんとか抑えながら仏の方へと振り返った。
「おい仏、また俺達は世界から逃げた魔王を追う為に異世界に行くというのはわかったが、その前にまず俺達になんか渡すモンとかない訳?」
「え、なに?」
「いやすげぇ力とか武器とか、異世界に行く時に神様がそういう能力を授けて楽させてくれる奴あるじゃん、俺達もいい加減楽して冒険したいからさ、そういうのくれ」
「は? いやくれって言われても困るんだけど」
手の平を差し出して合図するメレブに対し、仏は目を細めて怪訝な様子で首を傾げながら
「前にも言ったよね、私そんなの出来ないから、仮に出来たとしてもお前にだけは絶対あげない」
「えぇぇ!? お前まだ出来ないのかよ! ほんっと使えねぇなお前! 仏のクセに超しょーもな!」
「おい! だから面と向かい合ってる時にさ! 仏に対して偉そうにお前とか言うんじゃねぇよ!」
出来ないとキッパリ即答してしまう仏にメレブは口をへの字に曲げてガッカリしながら悪態を突きまくるので
仏はそれに一喝すると、小指で鼻をほじりながらやる気無さそうに
「あーそれと前にも言ったけどさ、今度の異世界でも現在装備してる武器は持ち込み可ね、が、レベルとステータス、あと覚えている呪文は全てリセットされるんでよろしく」
「はいでましたまた逆に弱くなるパターン! だからなんだよレベルリセットって! なんで強くさせる事は出来ないのに弱くさせる事には全力で対応できるんだよ!」
「すみませんねー、そういうシステムでやってるんでウチ、という事でまた1から頑張ってくださーい、草葉の陰で応援してまーす」
「鼻をほじった手で耳をほじるな! 臭いをかぐな!」
割と重要な事を適当な感じで説明しながら今度は耳をほじり出す仏にメレブはキレると
ふとある事に気付いた。
よくよく考えればどうして自分とヨシヒコの“二人”しかここにいないのであろう……
「……あのさぁ仏さん? 俺とヨシヒコはここにいるけど、ダンジョーとムラサキが全く見えないんだけど」
「……気づいちゃった?」
「いや気付くだろ! だって明らかに俺ばっか喋らされてるもん! ツッコミ役が足りないんだもの!」
今更ながらここにいるのはヨシヒコとメレブ、そして仏のみである。
ヨシヒコにはまだ二人大切な仲間がいた。
元盗賊でありながら義理堅くそして頼れる親父的存在の戦士・ダンジョー
あまり戦力にはならないものの、たまにとんでもない活躍をしてくれる村の娘・ムラサキ
彼等もいてこそヨシヒコパーティの完成であるのに肝心な二人がどこにも見当たらないのだ。
「お前まさか……前回みたいにまたあの二人を先に異世界に飛ばしちゃったな?」
「うん」
「認めるのバリ早ッ! なんなのお前! わざと俺等の足引っ張ってんの!? もしかして敵側!?」
「いやでも待って、ちょい私の話を聞いて、あの二人を先に送った事には、ちゃんと今回は理由があるから」
その件についてメレブが深く追及しようとすると、仏は「いやー」とぼやきながら螺髪を掻き毟り
「実はですね、え~お前達二人が目覚める前にダンジョーとムラサキが先に起きまして、それで先に私から魔王を倒しに行って欲しい事を言ったんですよ、そしたらね、二人で先に行っちゃった異世界」
「いやなんで? なんで教えたら俺達置いて先に行くの? そこの経緯大事だからちゃんと教えて」
「あーほらさ、前の冒険であの二人竜王に操られちゃって、敵になった事あったじゃない?」
適当にかいつまんで短絡的に説明を終えようとする彼に、メレブが持ってる杖を左右に振りながら問い詰めると、仏は思い出すかのように話を始める
「あの事について二人共かなり気にしちゃってたみたいで、そんで今回はキチンとヨシヒコの助けになる為に、二人である事を決めたみたいなのよ」
「え、ヨシヒコの助けになるんならそこは普通に俺達と冒険するのがセオリーなんじゃないの? 何しに行ったのよあの二人」
「勇者ヨシヒコに匹敵する、超頼りになる逸材の勇者候補を異世界で探すらしい」
「ほう、超頼りになる勇者候補とは?」
ダンジョーとムラサキが自分達に何も言わずに勝手に行ってしまった事がピンと来ていないメレブに、仏はようやくその理由を語るのであった。
「ほら、ここに来るまでに二度別の世界で戦ったけどさ、そん時にその世界の人達のお世話になったでしょ?」
「まあ……いたっちゃいたね、基本は唯々キャラが濃いって連中ばっかだったけど」
「その中でもヨシヒコに負けないぐらいに強い心を持った、もう磨けば光るって感じの主人公タイプがいたじゃない?」
「あ~いたいた、ぶっちゃけ俺等より強いんじゃね?って奴は確かにいた」
メレブは仏の話を聞いて今まで出会って来た異世界の住人達を思い出す、彼の言う通り確かにヨシヒコに匹敵、成長性に見込みありな者達も何人か見かけた。
「ダンジョーとムラサキはね、そんな将来性に見込みのある、最終的にはヨシヒコの助けになってくれそうな助っ人候補を見つけようと旅に行っちゃったのよ」
「ん? じゃあ一旦二人は俺達とは別れて行動して、その勇者候補を見つけた後に、魔王と戦う時に改めてそいつを連れて来て俺達と合流するって事?」
「その通り」
あの二人の目的をようやく理解してメレブがポンと手を叩くと、仏はビシッと指さして正解の合図。
するとずっと話を一緒に聞いていたヨシヒコも「なるほど……」と深く頷き
「では私の代わりにその者が魔王を倒してくれるという訳ですね」
「ううん違う、ヨシヒコも頑張るの、他人に押し付けないで」
今まで何を聞いていたのだと、すかさずメレブがヨシヒコの方へ振り返った。
「ダンジョーとムラサキはただお前が魔王を倒す為に手伝ってくれる助っ人を探しに行っただけだから、魔王を倒すのはヨシヒコ、それは何も変わらない」
「たまには変えても良いんじゃないですか?」
「いやそこ物語的に一番変えちゃいけない所だから、主人公だよヨシヒコ? 主人公がラスボス戦を他人に任せちゃダメだって」
「しかし私が魔王にかまけてばかりいては、キールとウィンディアが寂しがってしまいます」
「いやだから誰よそれ……またヨシヒコの中のヒロイン候補? さっきと名前変わってるじゃん、思いきりハーレム築こうとしてるじゃん」
真顔でアホな発言を連発するヨシヒコにメレブが呆れつつもとりあえずツッコんであげる。彼の頭の中にはどれだけのヒロイン候補が創造されているのだろうか……
「とりあえずめんどいけど、まずは魔王倒す事にしようぜ、仏がうるさいからさ」
「そうですね、私は勇者、魔王を倒す事は勇者である私の使命」
「そうそう、流石ヨシヒコ、お前こそ真の勇者」
「それでは魔王を倒しに行きつつ私のヒロインを探す事にします、巨乳の」
「流石ヨシヒコ、真の勇者にしてむっつりスケベ」
どう言っても諦める気は無い様だと真っ直ぐな目を向けて来るヨシヒコにメレブが苦笑していると、仏がおもむろに注目を集める為に「コホン」とわざとらしい咳をする。
「えーそれではね、お二人共魔王を倒す為に旅に行く決心をしたところで、仏からもう一つ情報を教えておきまーす、まあそんな大した情報じゃないけどね、一応耳に入れておいた方がいいかなと思って」
「お、遂に嫁と離婚すんのか」
「しねぇよバーカ! 一生安泰だよ! 変な事言うんじゃねぇよ!」
変な予想をして来るメレブを一喝して黙らせると、仏は早速本題へと移るのであった。
「今から行く異世界には、魔王バラモスが仕掛けたと思われる邪悪な呪いが振り撒かれている」
「呪い!? え、大丈夫なのそれ!? 俺達もその呪いにかからないの!?」
「全然大丈夫、その呪いは世界全域に振り撒かれたけど、ごく一部の者にしか影響与えてないみたいだから、余所の世界から来たヨシヒコ達にはなんの影響も無いだろうし、まあ大したもんじゃないでしょうねぇきっと」
「おい、そこ大事なんだからどんな呪いなのかどうか調べておけよ、呪いだぞ呪い」
異世界に振り撒かれた呪い……それが一体どんな効果をもたらしているのかはわからないが
楽観的に大丈夫だろうと言いのける仏を見てメレブは何かとてつもなく嫌な予感と共に疑問を覚える。
その呪いは一体、その世界の者達にどんな影響を与えたのだろうか……
「はいそれじゃあ私の話はここで終わり、という事でそろそろお時間という事で、早速二人には旅立ってもらいましょう」
顔をしかめるメレブをよそに仏はパンと手を叩くと、ヨシヒコ達を異世界に送り飛ばす事に
「それでは勇者ヨシヒコよ!」
「はい!」
「ヘッポコ魔法使いメレブを連れて異世界へと旅立ち! 見事魔王バラモスを倒すのだー!」
「わかりました!」
「おい、誰がヘッポコ魔法使いだ、素敵なホクロを付けた凛々しい魔法使いと呼べ」
気合を入れて力強く叫ぶヨシヒコと不満げな様子のメレブ
かくして勇者ヨシヒコは魔王討伐の為、再び異世界へ足を踏み入れるのであった。
「待っていろラフタリア!! 私が必ず会いに行くぞー!」
「あ~また謎のヒロインを創造しおってからに……一人に選びなさい一人に」
そしてそれが今から数十分前の話
異世界で謎の呪いを振り撒いた魔王バラモスを討伐する為、ヨシヒコとメレブはその異世界の地を歩いていた
「なんだろう、新しい異世界に来た筈なのに……ここすげぇ見覚えがある」
空は雲一つない程の快晴、ではあるのだが二人がいるのはだだっ広い深く茂った山の中であった。
「なんで仏の奴ははじまりの街とかそういう場所に降ろさないのかね……頑なに山の中に飛ばすよないつも」
「まずは町に行きましょう、この世界の仕組みやヒロインの情報がわかるかもしれません」
「いやヒロインの情報はいいってば、魔王の情報を探しなさいヨシヒコ」
新たな地ではあるがどことなく見覚えのある山の中を、ヨシヒコとメレブはいつもと変わらない掛け合いをしながら歩き続ける。
「それにしてもまた私達レベル1になってしまいましたね……」
「うむ、もはやお約束と化しているな、どこぞのバカ(仏)が力不足のせいで技や呪文も失ってしまったし、またこの辺の魔物と戦っていきながらレベルアップしなければ」
ヨシヒコとメレブは幾度も魔王を倒した実績はあるが、その経験値は全て失ってレベル1に戻っている。
魔王を倒すには、まず魔物を倒し続けてひたすらに経験値を稼ぎ、レベルを上げまくるしかないのだ。
「でもさぁ、二人だけのパーティって不安だよなーやっぱ、俺呪文一つも覚えてないからまともに戦えるのヨシヒコだけだし」
「そうですね、このままでは不安です。前の旅では異世界の頼もしい仲間と出会えたんですけど……あ」
「いや~頼もしいとは素直に言えなかったような、アホな自称女神にドMの女騎士に……ん? どしたヨシヒコ?」
戦闘参加人数がほぼ1人だけという状況に淡い危機感を覚えていたヨシヒコが、小さく口を開けて何かに気付いた様子。
メレブも背後からヨシヒコが見つめている方向に目をやるとそこには
思いきり見覚えのある魔物達がゾロゾロと沸いて出てきたのだ。
『スライムがあらわれた』
『ドラキーがあらわれた』
『ばくだんいわがあらわれた』
『おどるほうせきがあらわれた』
『ゴーストがあらわれた』
『ギガンテスがあらわれた』
「え、ちょ! うっそいきなり大量の魔物と遭遇!? しかも完全に俺達の世界の魔物だし!」
「どうやらこの世界もまた魔王の影響により、我々の世界の魔物達が現れるようになったみたいですね」
現れたのは過去ヨシヒコ達が何度も倒して来た覚えのある魔物達。
青色のプルプルしたモノや小さな羽でパタパタと飛ぶモノ、他にも突然爆発するモノや混乱状態にさせて来る厄介なモノ、更にはこん棒の一撃で一気に瀕死に追い込むほどの強敵まで揃い踏みだ。
「マズいですよメレブさん、異世界に来ていきなり大量の魔物と遭遇してしまうとは……今の我々では全く勝ち目はありません」
「も~~~なんで仏の奴はこんな魔物がいっぱいいる山に俺達を飛ばしたんだよ~! 異世界来てすぐ全滅の危機じゃん俺達!」
まともに戦える状態はヨシヒコだけというこの危機的状況で、まさかのモンスターの大群に襲われてしまうとは……
このままでは非常にマズイ、だがその時
「ほう、声がしたので何事かと来てみれば、いささか面倒ごとに巻き込まれているご様子で」
「「!?」」
不意に背後から聞こえて来たのはしわがれた年季の入った声
ヨシヒコとメレブがすぐにバッと後ろに振り返ると、そこにはヨシヒコ達よりも背の高い屈強そうな男が立っていた。
白髪の髭の生えた老紳士にも見えるが、その鋭く光る眼光はまるで歴戦の猛者の様である。
「よければ私が代わりにその魔物のお相手をしても問題ないですかな? 遠慮はいりません、その魔物の生態についていろいろと調べる必要があるので」
「な、なんだこのいかにも仕事出来そうな超紳士的なおっさんは!」
「す、凄い! 見ただけでもう絶対になんでも出来てしまいそうな気迫を感じる……!」
謎の白髪の男は魔物の大群を前にしてもこれっぽっちも恐怖を感じておらず、むしろ平然と片付けてやろうと拳を鳴らしながら歩み寄って来た。
この異世界に来て初めて出会った人物ではあるが、メレブとヨシヒコは即座にきっと物凄く出来る人なのだと全面的に信頼してしまうのであった。
一体この者の正体は……
そしてそんな状況をヒッソリと隠れながら覗く者が一人
「兄様……またもや異世界に来てしまわれたのですね、ヒサは心配です……」
木の裏から顔を出しながら心配している娘は、兄であるヨシヒコの身を案じてついて来てしまった彼の妹・ヒサ。
どうやら今回もまた程よい波乱が起こる旅になりそうだ。