魔王ヨシヒコと勇者モモンガ   作:カイバーマン。

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この世界へやって来たヨシヒコ達への洗礼と言うべきか

 

まだレベル1だという状態にも関わらず、彼等の前に明らかに異質かつ禍々しい雰囲気を放つ者が現れた。

 

シャルティア・ブラッドフォールン

 

見た目は幼い少女ではあるが、そのあどけない表情の裏には徹底的に相手を弄びながら殺し、ひたすら見下しながら嘲笑い、ただ己の快楽の為だけに蹂躙して楽しむという恐ろしい残虐性が見え隠れしていた。

 

「フフフ……久しぶりに人間の血を吸って楽しむとしましょうかえ」

 

「私の血を? どういう事だ?」

 

こちらの体の部位をチラチラと目に通しながら品定めしてくるシャルティアに、ヨシヒコは彼女の言葉に首を傾げていると、傍にいたセバスが冷静に教えてくれた。

 

「気を付けて下さいヨシヒコさん、彼女は”吸血鬼”、異業種の中でも上位に君臨する恐ろしい種族です」

 

「すみません、吸血鬼ってなんですか?」

 

「よし、それには俺がお答えしようヨシヒコよ」

 

聞き覚えの無い種族にヨシヒコはどう対処すればいいのかわからないでいると、セバスの隣にいたメレブがドヤ顔で説明する。

 

「吸血鬼というのは人間の血を飲む事を好み、吸った相手を自由に操る事さえ出来るパワーを持つ生き物なのだ、他にも空を飛び回ったり滅茶苦茶怪力だったり、日光を浴びせるとか心臓を杭で刺さすとかしないと死ななかったり、時間を止めたり、二丁拳銃で暴れ回ったり、ホテルを経営していたり、機械人形を手下にしたりする、つまり超やばい」

 

「な、なんて恐ろしい……! まさか異世界に来て早々、そんな強敵と戦う事になってしまうとは……!」

 

「あと、ドーナッツが好きだったりするよ!」

 

入手経路は不明だが、メレブが出来る限り吸血鬼という生き物の生態を詳しく説明すると、ヨシヒコは一筋縄ではいかない相手だと顔から汗を滲ませる。

 

しかし彼はだからといってここで退く訳にはいかないと、腰に差す立派な剣、「いざないの剣」を抜いて両手で構えて真っ向から対峙した。

 

「しかし私には魔王を倒すという使命がある、例え相手が吸血鬼だろうがここで負ける訳にはいかない」

 

「ほ~ん、多少の恐怖は感じているみたいでござんすが私から逃げる気は毛頭ないと? さてさて無知とはホントに恐ろしいものでありんすなぁ」

 

こちらの攻撃を正面から受ける気だと判断したシャルティアは、相変わらず人を小馬鹿にした態度を取りながらヨシヒコを嘲笑う。

 

もはや彼女はヨシヒコを敵と判断していない、ただその辺に這いつくばっている虫を潰すだけの簡単な作業だとしか思っていないのだ。

 

「己と相手の力量が全く違うという事にも気づかないとは……人間とは実に嘆かわしい生き物でござんす」

 

「さあかかってこい! 私はいつでもお前を迎え撃つ準備は出来てるぞ!」

 

「迎え撃つ? そんな準備はいりんせん、何故なら……」

 

 

剣を構えてこちらを睨みつけ、絶対に勝つという信念さえも感じるヨシヒコの態度にシャルティアは不快感を覚えると

 

お望み通りにと彼女はダッと地面を蹴ったその瞬間、一瞬で彼との距離をゼロに縮めてしまったのだ。

 

「私の小指一本で、お前程度なんとでもなるでありんす」

 

「!?」

 

「ヨシヒコォー!」

 

いきなり目の前に現れた事にヨシヒコが怯んだのも束の間、シャルティアは小さな手から長い爪の生えた小指一本だけを立てて、無邪気に笑いながら彼のお腹を抉り取ろうと突き刺したのだ。

 

小指一本とはいえ吸血鬼の一撃だ、いくらヨシヒコでもただでは済まないぞ、とメレブが焦った様子で呆然と眺めていると

「……」

 

「……」

 

「……あれ?」

 

すぐにヨシヒコの腹からおびだたしい血が流れるとか、モザイク表現になるとかそういうグロデスクな光景を見せられると予想していたメレブであったが

 

シャルティアに一撃を食らわされたヨシヒコは無表情でただジッと自分の胸元近くにいる彼女を見下ろすだけであった。

 

そして攻撃を繰り出したシャルティアの方もしばし硬直した様子で固まり、辺りに微妙な雰囲気が流れ始めると

 

「……」

 

シャルティアはそっと無言でヨシヒコから一歩離れる、右手の小指を大事そうに左手で握りながら

 

「ん? おいあの吸血鬼、まさかぁ~……指痛めた?」

 

さっきまでベラベラしつこいぐらいに喋ってたクセに、急に黙り込んで後退するので、明らかに彼女の様子がおかしいとすぐにメレブが見抜いて小首を傾げる。

 

「……ヨシヒコ、今お前攻撃まともに食らったけどぶっちゃけどうだった?」

 

「……お腹を指で突っつかれました」

 

「……それだけ?」

 

「はい」

 

もしかしたらヨシヒコ自身は攻撃を食らったという感覚さえ無かったのかもしれない。

 

さっきまで小指一本で倒してみせるとのたまっていたシャルティアは、それを聞いてジンジンと痛む小指をさすりながら何度も頷き

 

「ただの……ただの人間の割には中々やるでありんすな」

 

「……まだなにもやってないが?」

 

「次から、次からいよいよ本番でござりんす、左手、左手一本で殺してやるんで覚悟しておくんなまし」

 

テンションもかなり下がっている様子で落ち着いた声でそう呟く彼女にヨシヒコが真顔で答えると

 

シャルティアはまるで自分に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返しながら、左手で拳を構えて再度彼に挑む事に。

 

そして

 

「死ねぇぇ!」

 

「う!」

 

再び猛スピードでヨシヒコのお腹に向かって攻撃、今度は小指などではなく渾身の左でのボディブロー

 

これは流石に効いただろうと彼女も内心思ったのだが……

 

「……」

 

「あ、あれぇ……?」

 

微かに呻き声を上げて若干後ろに体が揺れただけで、依然ヨシヒコは無言で立ったままであった。

 

どうしていいのかとシャルティアが困った様な表情を浮かべてしまうと、メレブが頬をポリポリと掻きながらヨシヒコに向かって

 

「ヨシヒコ、今の攻撃、ダメージにするとどんぐらい? ぶっちゃけていいから正直に答えて」

 

「……1ぐらいです」

 

「わぁお、スライムレベル」

 

「な!?」

 

最序盤に出て来るレベルの魔物と同格の攻撃力と聞いて口を開けてメレブは絶句、シャルティアも絶句。

 

「今の無し! 次こそは私の本気だから! 本気の本気! もう! マジで死ぬからアンタ!」

 

「おいおいどうしたどうした~? なんかさっきまでシリアスぽかったのになんか変な空気流れてるぞ~? どうしてくれるんだこの空気~」

 

「うっさい! コイツ殺したら次はお前だ金髪腐れ菌類!」

 

外野のメレブに苛立ちを募らせながらもシャルティアは今度こそ殺してみせると一旦ヨシヒコから離れる、今度はより勢いを付ける為にかなり距離を取った。

 

「おお、助走付ける為にヨシヒコから離れ始めた、今度は勢い付けるんだ、いいよいいよー頑張ってー」

 

「……」

 

「おや? 足元の石が気になっちゃうのかな? じゃあ転ばないよう弾いておかないとね~、そうそうそう」

 

後ろに下がるがてら足元にある石ころでうっかり転ばないよう危惧して、シャルティアは無言で落ちてる石を手づかみで外側に弾いて行く。メレブはそれをにこやかに笑みを浮かべ見守っていた。

 

そしてそれをジッと見ていたヨシヒコも気になったのか、彼女の傍に寄ってしゃがみ込んで

 

「あぁ~ヨシヒコが気を使って一緒に石捨てるの手伝い出しちゃった、敵なのに」

 

「その靴は山道に向かないから、走るんだったら一旦脱いでおきなさい」

 

「あ、なるほど……」

 

「そして敵なのにアドバイスしちゃうヨシヒコ、そして敵なのにアドバイスに従う吸血鬼、なんだお前等、仲良しか?」

 

ヨシヒコに石拾いを手伝って貰いながら更には助言までされるシャルティア

 

彼の言う通りに一旦靴を脱いでそれを丁寧に揃えてちょっと離れた場所に置いて来ると、彼女は改めてヨシヒコと一定の距離を置いたのを確認して……

 

「さあ今から貴様を徹底的に嬲って殺してやるでありんす!」

 

「よし来い! 私は絶対に負けない!」

 

「いやこの流れで普通にやるんかい、今更シリアスっぽくしても無駄だから、なんかもう、薄々勘付いて来たからこっち」

 

一連の二人のやり取りのおかげですっかり茶番にしか見えなくなってしまったメレブだが、そんな彼をよそにシャルティアとヨシヒコは三度目の正直という事で、再びぶつかり合う事に

 

「うおぉぉぉぉぉ!! これで死に果てろぉ!!」

 

「うわーもうヤケクソだ、パンチが効かないからってなりふり構わずに体当たりを仕掛けて来たよ」

 

メレブの呆れて実況がする中、全身全霊の一撃を食らわさんとヨシヒコに向かって全速力で突撃を開始する。

 

靴を脱いだおかげで先程よりも更にスピードが速い、このままヨシヒコに全身で体当たりをかますのかと思いきや……

 

 

当たる直前で咄嗟に身を翻してヨシヒコが無言でスッと避けるのであった。

 

「ぎにゅッ!」

 

「いやそこ避けんのかい!」

 

事前にキチンとセッティングをさせておいて何食わぬ顔で避けてしまったヨシヒコに思わずメレブもツッコミを叫んでいると、哀れシャルティアはヨシヒコの背後にあった大きな木に頭から突っ込んで、短い叫び声を上げてズルズルとその場にもたれ込む。

 

「ヨシヒコ! それは酷い! あんなに手伝っておいて結局避けるのは流石に酷い! そこは受け止めてあげないとダメじゃん! 彼女の頑張りに応えてやってそこは!」

 

「いやだって……死にはしなくてもやっぱり痛いモンは痛いですから……」

 

「あんなに優しくしておいて最終的に冷たく突き放すとか……酷い男だわ~ヨシヒコ」

 

呆気なくダウンを一つ奪う事に成功したヨシヒコであるが、そのやり方にメレブがちょっと納得いかない様子で首を捻っていると

 

「おのれ……」

 

木に激突して倒れていたシャルティアが頭を押さえながらヨロヨロと起き上がった。

 

「おのれぇぇぇ!! よくもこの私にこんな醜態を! 絶対にぶっ殺してやるぞ貴様等ぁ!」

 

「いい加減になさい、”ナザリック地下大墳墓 第一~第三階層守護者”、シャルティア・ブラッドフォールン」

 

「!?」

 

額の箇所を赤くさせながら目を血走らせて激昂する様子を見せる彼女に見かねて落ち着いて声を掛けたのは

 

今までずっと無言で彼女を眺めていただけだったセバスであった。

 

「あなたがそうして滑稽な姿をさらしているのは、他でもないあなた自身の責任です、”異変の影響”をもう忘れたのですかな?」

 

「……」

 

自業自得だと冷たく言い放つセバスにシャルティアは何も言えずにただ無言で彼を睨みつけていると、異変と聞いてメレブも「お?」と反応して彼の方へ振り返る。

 

「そういやまだ異変の事について聞いてなかったっけ? もしやあの吸血鬼から察するに……」

 

「そう、今の我々はかつての頃に比べて雲泥の差と言っていい程酷く”弱体化”している状態、それが異変なのです」

 

察しの良いメレブにセバスは深く頷くと、改めて異変についての話を教えてくれた。

 

「我々は今、異変が起きる前に比べて格段に力を失っています、それもただ単に弱くなるだけではありません、本来持っていた筈のあらゆるスキルや装備品、アイテム全てを失ってしまっているのです」

 

「ほう、冒険の章が消されてしまいました的な感じかな?」

 

「異変の影響は強き者ほどより大きく影響を受けると確証されております、つまり我々の組織の面々はその強さが仇となり、此度の現象によって甚大なる被害を被ってしまった訳です」

 

セバスの言っていた異変というのは、どうやらその者の強さに比例してより大きな損失を被ってしまう厄介な現象の事だったらしい。

 

魔物の群れに袋叩きにされていたセバスと、人間一人とまともに戦う事すら出来なかったシャルティアを思い出し

 

強さに比例して弱くなるという事は、きっとこの二人は異変が起きる前は自分達が想像つかない程強かったのだろうとメレブは推理するのであった。

 

そして今となってはもうこの二人は、ぶっちゃけ自分とヨシヒコと同じレベル1の状態なのであろう。

 

「更にこの異変というのは性質が悪く、私達の様な生き物だけでなくモノ自体にも影響を与え、至高の四十一人が築いて下さった多くのワールドアイテム、あの御方達がいた証であられる神器までもが一瞬で消失してしまったのです」

 

「ん~よく分からないけど、なんとなくすげぇアイテムや超レアな装備品も無くなっちゃったというのは理解した」

 

至高の四十一人? ワールドアイテム? 神器? 

 

意味わからない単語が連続で出て来てメレブは考えるのを一旦諦めて、とにかく異変の影響で今まで築き上げた財力を失い、そのせいで組織の崩壊に拍車を掛けている事だけはわかったと適当に頷いて見せる。

 

「つまりこの世界は今、その異変、つまり魔王が放った呪いの影響で、みんな弱くなっちゃってるんだな、なるほどー大体わかった」

 

「……あまり驚きになられないのですね」

 

「んーぶっちゃけ俺達はレベル1になるのはもう慣れてるからねー、仏のせいで」

 

所持品全部失ってレベル1にリセット、そういう体験は慣れっこであるヨシヒコ達にとってはなんら珍しい事ではなかった。

 

しかしそんな体験に慣れていない彼等にとっては、当然耐えがたい屈辱なのであって……

 

「認めない……私は認めないでありんす……!」

 

今まで築き上げたモノが全て水泡に帰してしまったという現実を、受け止める事が出来ずにシャルティアが一人怒りというよりも焦りに震えながら呟き始めた。

 

「我が創造主であられるぺロロンチーノ様が私に下さった沢山のお力や贈り物……それら全てが消えてしまったなんて絶対に私は認めない! きっと今はまだ見えていないだけで、すぐに私の下へ返って来る! そう! 我等の主・”アインズ様”のように!」

 

「ペペロンチーノ? なに食い物の話? いやそんな事よりお前さ、ちょっと今の自分の状態欲見てみ、特にお腹の部分」

 

「はぁ?」

 

興奮した様子で吐き出すように叫んでくるシャルティアに対し静かにメレブが指摘したのは彼女のある”一部”であった。

 

いきなり何を言い出すんだと彼女は怪訝な様子で視線を下に向けると

 

「お前のおっぱい、腹に移動してるぞ、どうした? 吸血鬼のおっぱいは動くのか? 自動移動型おっぱいなのか?」

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メレブが指さしたシャルティアのお腹には謎の膨らみが二つぽっかりと浮かんでおり

 

その代わりに本来あるべき彼女の胸の部分はさっきに比べて確実にボリュームが薄くなっており……

 

言ってみれば完全にぺったんこ状態であったのだ。

 

これに対して今まで以上の金切り声を上げてシャルティアは凄まじい形相を浮かべると、急いでそのお腹に置かれた二つの山を必死に胸の所に上げようと奮闘。

 

そんな慌てる彼女を見たヨシヒコは途端にハッと表情を変え

 

「ま、まさかお前……!」

 

「その通りだヨシヒコ、最初見た時から怪しいと睨んでいたが俺は確信した、アイツは! あの吸血鬼は間違いなく!」

 

ずっと不自然に思っていた彼女の部分、あの華奢で小柄な割には明らかにサイズがおかしいと思っていたがこれで合点がいった。

 

全ての謎が解けたかのようにメレブは、名探偵の様にビシッと彼女に向かって指を突きつけ高々と。

 

「奴は胸に! 確実にパッドを詰め込んでいます! つまり奴は! ”エリってる”!」

 

「つつつつ詰めてないもん! コレはちょっと……アレだから! 吸血鬼特有のアレだから!」

 

真実を突きつけられ明らかに口調がおかしくなりキャラの設定がブレブレになり始めるシャルティア

 

しかしそんな彼女の言い訳を聞かなかった様にスルーして、セバスはメレブの口から出て来た聞き慣れない単語に興味を抱く。

 

「すみません、エリってるとは一体どんな意味ですか?」

 

「うむ、よくぞ聞いてくれた、エリってる、それはかつて俺達が別の異世界でお会いした事のある女神の名前から引用した言葉であり、その者は女神でありながらあろう事か、胸に大量のパッドを詰めて自らを巨乳だと偽っていたのだ」

 

「なるほど……それは狡猾で姑息ですな、己を偽り他人を騙すとは正に女神としてあるまじき行い」

 

かつて別の異世界でメレブが冒険していた時に出会った幸運の女神、その言葉の意味は彼女が元ネタだと聞いて感心するようにセバスは頷く。

 

「つまり胸をパッドで誤魔化す輩の事を……エリってる! と俺はそう呼ぶ事に今決めた、てか今咄嗟に考えた!」

 

「大変勉強になりました、無知なる私に教えて下りありがとうございます」

 

「使いたかったらいつでも使うがいい! そして広めろ! この世界にも”幸運の女神・エリス”の哀しく笑える事件を後世にまで伝えろ!」

 

面白半分でこの世界にあの女神の哀しきエピソードを広めてやろうと我策し始めたメレブ。

 

そしてヨシヒコの方はというとまだ胸にパッドを詰め直す作業に手こずっているシャルティアを可哀想な目で見つめながら

 

「貴様エリっていたのか、貧乳のクセに巨乳だと偽るとは……なんて哀しき娘だ……」

 

「偽ってないし! ただおっぱいがズレただけだし! 見るなぁ! そんな目で私を見るなぁ!」

 

早速メレブが言っていた単語を使いこなすヨシヒコに悲痛な声で訴えながら、ようやくシャルティアは大きな山二つを元の位置に戻し直すのであった。

 

「こうなったら私の本当の姿で殺してやる……! 私の真の姿で貴様等を八つ裂きにぃ!」

 

『シャルティアはへんしんをとなえた』

『しかしMPがたらなかった』

 

「うえぇ!?」

 

最終手段として取っておいた切り札を使おうと試みるシャルティアであったが、案の定なにも変化はない。

 

すると驚愕して絶句する彼女に向かってヨシヒコは容赦なくキリッとした表情で剣を構え

 

「どうやら今のお前ではもう私とまともに戦う事すら出来なくなっているらしい、このまま引き下がるのであれば逃がしてやるぞ」

 

「黙れ黙れ黙れぇ! 虫けら風情がこの私を下に見るんじゃねぇ! 私は誇り高き吸血鬼にしてナザリックの守護者! 虫けら程度に尻尾巻いて逃げるなら死んだ方がマシだ!」

 

「そうか、ならば私も全力でお前を斬らせて頂く」

 

半狂乱で怒鳴り散らし、己の誇りに掛けて逃げるつもりは無いと宣言するシャルティアに応えてやろうとヨシヒコの剣がキラリと光る。

 

するとそこへセバスが一歩前に出て

 

「お待ちくださいヨシヒコさん、彼女は今正気ではありません、どうかお命だけは奪わないで貰えませんか?」

 

「フ、案ずるなセバスよ」

 

流石に同胞であるシャルティアをここでみすみす殺されてしまっては、敬愛すべき主に顔向け出来ないと彼女の助命を願うセバスに対し、メレブが笑みを浮かべながら答える。

 

「ヨシヒコが持っているのは「いざないの剣」、アレは斬ったモノの命を奪うのではなく眠らせる事が出来る剣なのだ、例え斬られてもしばらく眠るだけ、あの娘が死ぬ事は無い」

 

「なんと、その様な武器があったとは……」

 

相手の命を奪わず眠らせる事が出来る、つまり不殺の剣

 

カボイの村に伝わりしその武器の特性にセバスが驚いていると

 

それを横から聞いていたシャルティアは一人ほくそ笑む。

 

「フッフッフ、聞いたぞえ、この私を殺すのではなく眠らせると? 吸血鬼特有の強い睡眠耐性を持つこの私を?」

 

あらゆる状態異常の耐性を持っている吸血鬼である自分がそんな剣如きに負ける筈など無い、あってたまるかとこの期に及んでまだ自信満々の彼女に向かって、ヨシヒコは高々と剣を両手で振り上げてみせた。

 

「望む所! この私を眠らせるモノなら眠らせてみるが……!」

 

「とぉう!」

 

「う!」

 

「うわ、まだアイツ台詞言い終えてなかったのに……」

 

かかってこいと両手を広げて凶器の笑みを浮かべた彼女になんの躊躇いもなく剣を振り下ろすヨシヒコ。

 

相変わらず空気の読めない彼にメレブが「ドSな所あるよねお前」と呟いていると、シャルティアはあっさりとその場にバタリと倒れ

 

「Zzzzzzzzzz!!!」

 

「うわ寝た! 速攻寝た! 斬られて一瞬ですぐ寝た!!」

 

「フガッ! グゴォォォォォォォォ!!!」

 

「しかもいびき超うるせ~! フガッって言ってるし、も~鼻詰まってるよ~!」

 

仰向けに倒れてそのまま盛大ないびきを上げながら爆睡してしまうシャルティアをメレブが呆れて見下ろしていると、剣を鞘に仕舞い終えたヨシヒコは目の前で眠る彼女をしばし見つめた後

 

 

 

 

 

「それじゃあ……私達も寝ますか」

 

「……だな」

 

「私が見張りをしておきましょう」

 

異世界に来て早々色々な事に巻き込まれたヨシヒコとメレブは

 

見張りを志願してくれたセバスの言葉に甘えて焚火を囲んだ状態で横になるのであった。

 

かくして、ヨシヒコとメレブの異世界での初日は、早くも波乱を迎える予感がありつつもようやく終わった。

 

異世界に来て出会い頭に魔物に襲われたり、老紳士が助っ人に来てピンチになったり、更にはいきなり吸血鬼に襲われたりと

 

どうやら今回もまた一筋縄ではいかない旅になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

「このジョルノ・ジョバーナには夢があるッ!!」

 

「フンゴォォォォォォォォォォォ!!!」

 

「食らえ! ゴールド・エクスペリエンス!!」

 

「ドドドドドドドドドドドドドド!!!!」

 

「ちょ! コイツ等超うるせぇ! なにヨシヒコの寝言!? またなんかの物語始まっちゃってる! しかもまさかの! この小娘のいびきが効果音を担当!」

 

「無~駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

 

「ドヒュゥ! ドグシャァァァァァァァァ!!!」

 

「どう寝ればそんないびきが出んだよ! この二人寝てる時は協調性超高いな!」

 

「静かにしてくれませんかメレブ、今主人公が組織に入る為の試験に合格出来るかどうかという大事な所なので」

 

「なに夢中になってんの! 見張りしろジジィ!」

 

 

 

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