魔王ヨシヒコと勇者モモンガ   作:カイバーマン。

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ヨシヒコとシャルティアが真夜中の激闘を終え、夜が開けて朝日を迎えた頃

 

彼女と同じ組織に属するセバスはようやく落ち着いたシャルティアに、ヨシヒコとメレブが近くの川で顔を洗っている隙に彼等の詳しい事情を説明するのであった。

 

「……つまり彼等は、異変の原因を起こした元凶たる魔王という者を討ち倒さんと、別の世界からやって来たという訳です」

 

「はぁ……つまりこ奴等はユグドラシルから来た私達のようにこちらに飛ばされて来たという訳でありんすか……」

 

「ええ、大分勝手は違うかもしれませんが、なんでも仏の導きだとかなんとか」

 

「仏? ますます意味がわからん……それは神かなんかかえ?」

 

「詳しくは知りませんが、恐らくそれに匹敵するお力をもった方でしょうな」

 

 

とりあえず話だけでも聞いてやるという態勢の彼女に、セバスは現状知る限りの事を話してあげると

 

最初は胡散臭そうにその話を聞いていたシャルティアであったが、色々とぶっ飛び過ぎた話で逆にこの状況ではそんな事もあり得るのではないかと、頬杖を突きながらふと思ってしまう。

 

「作り話にしてはあまりにもお粗末すぎるでありんすがお粗末すぎて逆に……してセバス」

 

こんな緊急事態ではまともな正攻法を考える事さえも馬鹿らしくなる、故にシャルティアはセバスに向かって一つ尋ねる事にした。

 

「そろそろお前がこ奴等に近づいた狙いがなんなのかお聞かせ願いおくんなまし、我々の崇高なる御方の事や組織の事情まで、あろう事かあんな人間風情にベラベラと喋った事についても詳しく」

 

「それは無論、こちらの事情を説明すればあちらの警戒心も早く解けると思ったからです」

 

「してその心は」

 

「彼等の懐に入り込み、異変を振り撒いた魔王とやらに接近を試みます」

 

どう見てもまともではない行動をしていた自分の本意を問い詰めて来たシャルティアに、セバスは表情一つ変えずにあっさりと本音を暴露し始めた。

 

「今最も異変の元凶に近づけるモノがいるならばそれは仏とやらに導かれ、その元凶の下へと向かう彼等でしょう」

 

「ふむ……」

 

「共に行動すればゆくゆくは魔王等という存在に確実に辿り着ける筈、そしてそれは、きっと既に気付いて歩を進めているであろうアインズ様にも今一度巡り合う事が出来るという結果に繋がる筈です」

 

「アインズ様……」

 

魔王の下へ近づければ、それと一緒に偉大なる君主ともいずれ巡り合う事が出来るに違いない。

 

疑いも無くそう確信するセバスに対し、アインズと聞いて目の色を変えて、恍惚な表情を浮かべてシャルティアはうっとりときめかせる。数百年恋焦がれた愛しき殿方に想いを馳せるかの様な

 

「ああアインズ様、あの御方は一体どこに……! 私達が愚かな争いを続ける事に失望し去って行った我等が盟主……! 願わくば今一度あの御方の前に馳せ参じ、醜いお姿を見せた事に贖罪する許可を……!」

 

「それは私も同じ事、だからこそ彼等を、特にあの勇者と名乗っているヨシヒコという男を利用するのです」

 

まるで今にも歌って踊りだしそうな演技じみた台詞を吐いて悦に浸るシャルティアだが、セバスは特に気にせずに真面目に話を続ける。

 

「あの男を我らナザリックの下で傀儡と化し、魔王の下へと案内させましょう、ここで彼と会えたのもまた天運、協力関係を結んだ上で体よく我々の為に働いてもらいましょう」

 

「ほほーん……そして更にはあの虫けらに魔王を倒させ、異変を解決した私は晴れてお戻りになって下さったアインズ様に寵愛される機会を得る事が出来ると……」

 

「あなたが寵愛されるかどうかはわかりませんが、つまる所そういう事ですな」

 

「なるほどなるほど……」

 

利用価値があれば例えそれが下等生物の人間であろうと使うという訳か……

 

セバスの腹の内をそう解釈したシャルティアは意地悪そうにクスクスと笑った。

 

「おぬしも結構ワルよのぉセバス、お前はナザリックに属する者では珍しく、人間に対しては善意を持って接する数少ない”変わり者”ではあったと私は記憶していたありんすが?」

 

「……その解釈は間違いでありますな、私は別に人間全般に好意を持っている訳ではありません、相手によってはその扱い方も当然変わっていきます、時と場合によっては冷徹に利用し、利用価値が無くなれば斬り捨てるのもまた手だと考えております故……」

 

「クフフフ、どこまでが本意で言っているのかわからんが……ならば私もその話にちょっと乗ってみようかえ」

 

ヨシヒコの仲間になるフリをして上手く彼を利用して魔王の下へ向かわせれば、こちらにとっては都合の良い事ばかり起きるに違いない

 

コレを逃す手はないとシャルティアもまたセバスの案に乗っかる方針で、笑みを浮かべたまま縦に頷くのであった。

 

「ところであのターバン男は我等の宿願を叶えるまでは生かしておくとして、あのギャーギャー騒ぐだけのキノコ男はどうするかえ?」

 

「そうですな……ヨシヒコさんもいますし今の所は迂闊に手は出さない方が良いでしょう、しかし我々の足を引っ張る要因となるのであれば……」

 

「殺すのも仕方なし、という所でありんすか……フフ、それはそれで楽しみな事……」

 

ヨシヒコは利用価値がある間は生かしておくのが妥当であろう、しかしメレブに至ってはぶっちゃけ邪魔でしかないと思っているシャルティアは、何時あの男を殺せる機会を得られるのかと嬉々としながら待つ事にしようと静かに笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

「ヨシヒコ、悪い事は言わん、アイツ等を仲間にするのはよしといた方がいいぞ」

 

「どうしてですかメレブさん?」

 

セバスとシャルティアがそんな企みをしている一方で、川で顔を洗い終えたメレブは不意にヨシヒコに彼等の話を始めている所であった。

 

「確かにあの吸血鬼の娘は私に襲い掛かりますが、セバスさんのお仲間であればきっと良い人に違いありません、それにゆくゆく我々と共に戦いレベルを上げて行けば、いずれ大事な戦力になる筈です」

 

「いやーでもなー、あの娘に力付けさせたら、ぜってぇヤバいと思うんだよなぁ~」

 

突然牙を剥いたシャルティアであろうと、根は良い人に違いないと甘い考えをするヨシヒコに

 

メレブはしかめっ面で昨夜の事をふと思い出す。

 

「だってアイツすげぇ弱かったけどさ、俺達人間に対して散々ひでぇ事言ってる様な奴だぜ? ありゃきっとアレだな、「人間は日々互いに争い続けあう事しか出来ない愚かで弱い生き物」とかそういうお約束的な人間嫌いタイプだ」

 

「お約束ってなんですか?」

 

「んーたまにいるんだよね何処の世界でも、「人間こそ悪! だから滅ぼすべし!」とか主張してる輩が」

 

「そうだったんですか?」

 

「うん、俺の知ってる限りだと、テイルズオブほにゃららってシリーズの世界が特に多いね」

 

人は脆弱な力しか持たぬ癖に、醜く常に争い合うだけの野蛮な種族。そんな風に考えている人外の種族などなんら珍しくないと、メレブはあっけらかんとした感じで答えた。

 

「多分アイツ等が言ってた組織ってのは多分あの小娘みたいな考え方を持ってる奴が一杯いるんだと思うね、あのセバスってじいさんがその例外に当てはまってるだけで」

 

こうして昨夜の件を思い出していくと段々彼等のいる組織がどういう所なのかも曖昧だが見えて来た。

 

竜人、吸血鬼がいるとなると属する者はほとんど人外であろう、それはまるで自分達が何度も戦ってきた魔王軍の様な……

 

「仮にアイツ等と共に旅をするというのであれば、いずれ俺達の寝首を掻くこともあるやもしれんぞ」

 

「いえ、それはあり得ません、私は彼等を信じています、きっと共に戦えると」

 

「ほう、では何を根拠に?」

 

「………………」

メレブの問いかけに対しヨシヒコは無言で固まってしまった。

 

それがあまりにも長い沈黙だったのでメレブは目を細め

 

「もしかして……何も考えてなかった?」

 

「……はい、何も思い浮かびませんでした」

 

「ちょ! そこ結構重要な所じゃーん! そこは主人公らしくスパッと答えるべきなんじゃないのヨシヒコさ~ん」

 

「ですが、ですがきっと大丈夫です!」

 

「おい、この流れで押し切るつもりかさては」

 

ぶっちゃけ初めて出会ったのも昨日の事だったしヨシヒコはあの二人の事は全くわからなかった。

 

故に「~~だから」とかそういう確固たる理由は無く、メレブに指摘されてもヨシヒコは無理矢理話を進める。

 

「今後共に旅を続けて行けば! その内分かってくれます! かつて私が仲間にしてきた魔物達のように! 我々人間は敵ではないと!」

 

「まあ俺は別にアイツ等に人間がどう思われてようが知ったこっちゃ無いんだけどさ、そんじゃヨシヒコの中ではもうアイツ等を仲間にする事は決定済みなの?」

 

「はい! 私は彼等を仲間にします! あの二人と共に冒険を続ければ! きっと魔王を倒せると勇者の勘が耳元で囁いているんです!」

 

「いや耳元で囁くモンなの勇者の勘って、どうしてそんな内緒話してる感じに教えるの」

 

根拠なき自信を全て勇者の勘で誤魔化せると思っているのかと思いつつも、メレブは断言するヨシヒコにため息をこぼしながら「うん」と小さく頷いて見せた。

 

「まあお前がそうしたいってなら俺はもうこれ以上言わないけどさ、だって勇者はお前だし」

 

「ありがとうございます、メレブさん」

 

「ま、ぶっちゃけって言うとアイツ等が一体何を企んでようが……」

 

あの二人を仲間にする事を了承しつつ、メレブはヨシヒコの方へ目をやって。

 

「やる事なす事予想出来ないデタラメな勇者ならなんとでも出来るっしょ?」

 

そう一人確信した様子でニヤリと笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後、ヨシヒコとメレブは焚火を炊いて一夜を明かした場所、話を終えたセバスとシャルティアの所へと戻って来た。

 

「……随分と長く顔を洗っていたみたいですね」

 

「すみません、顔だけでなく全身も洗いたくなってしまい、気が付いたら二人で川の中を全裸で泳いでいました」

 

「ヨシヒコ、別にそこは誤魔化さなくていいし、その誤魔化し方もどうかと思う、てか俺まで被害に遭ってる」

 

こちらに立ち上がって声を掛けてきたセバスにヨシヒコは適当な話ででっち上げようとするも、明らかに嘘だとわかるので隣でメレブがボソリと呟いてやっていると

 

セバスの隣で座っていたシャルティアがスッとおもむろに立ち上がって見せ、スカートの裾をつまみながらわざとらしく深々とこちらにペコリと頭を下げた

 

「昨夜はそちら側に失礼な態度を取ってしまい大変失礼しました、改めまして私はシャルティア・ブラッドフォール、”アインズ・ウール・ゴウン”所属にてナザリック地下大墳墓 第一~第三階層守護者を担当する真祖の吸血鬼でありんす」

 

「ほほう、アインズ・ウール・ゴウン……それがお前達がいる組織でありんすか~」

 

「……私の口調を真似するなクソ虫」

 

「クソ虫じゃありんせん~わっちは魔法使い、メレブ様ざんす~」

 

「よしやっぱコイツは今殺そう……」

 

自分のロール設定である「あまり正確ではない廓言葉」をちょっと真似して見せるメレブに早速化けの皮が剥がれるシャルティアだが、そこへすかさずセバスが彼女の前に手を出して制止さえ、代わりに話の進行を進める。

 

「あなた方にお願いがあるのですが、よろしいですかなヨシヒコさん?」

 

「ええ、私が出来る事であればなんでも言って下さい」

 

「ありがたい事です、では率直にお頼み申し上げましょう」

 

快く話を聞く態度であるヨシヒコにセバスは軽く会釈すると、その猛禽類の様な鋭い目つきを向けながら彼はヨシヒコにゆっくりと口を開く。

 

「このセバスチャンとここにいるシャルティア・ブラッドフォールンを、あなた方の旅のお供に加えさせて頂きたい」

 

「なんだと……?」

 

「確かに見ず知らずの私達を仲間にするなど出来る筈が無いでしょうが……」

 

「いえ違います、私が驚いたのはそういう事ではありません」

 

 

こちらの頼みにヨシヒコが目を見開いて驚いて見せたので、セバスはやはり怪しまれてると思ったのだが

 

ヨシヒコはすぐに首を横に振る。

 

「実は私もあなた方がよろしければ是非仲間にしようと考えていた所なんです、ですからそちらから話が来るとは思っていなかったので少々ビックリしてしまいました」

 

「なんとそうだったんですか……」

 

これはセバス達にとっては願ったり叶ったりの事であった、ここからどう彼等を信頼させて仲間になる為の交渉を進めようと思っていたのだが、向こうから仲間に誘ってくれるのであればありがたい。さっさと事を進める事が出来る。

 

「ならばその誘い、ありがたく承りましょう。今の私では十分に力を貸す事は出来ませんが、いずれはきっと役に立つとこのセバスチャン、アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて偽りなく宣言させて頂きます」

 

協力関係を結ぶ点においては嘘は無い、あくまで異変が解決する”まで”だが……

 

友好的に手を差し伸べて来たセバスに対し、口元をやわらげながらヨシヒコは力強く彼と握手を交えた。

 

「共に魔王を倒し、そしてあなた方の君主も探しましょう」

 

「……魔王を討伐するだけでなく、我々の偉大なる御方、アインズ様も共に探してくれると言うのですか?」

 

「ええ、話を聞く限り大層素晴らしいお人らしいので、一度私もそのアインズ様とやらを見てみたいと思いました」

 

「……」

 

純粋な瞳を向けながらハッキリとそう答えるヨシヒコに、セバスは若干胸にチクリと小さな痛みが生じたのを自覚した。

 

これはきっと利用する立場であるヨシヒコに対し罪悪感が芽生えたのであろうと冷静に自分を分析する。

 

「そうですな、いずれあなたに会わせたいモノです、その機会があればの話ですが……それとメレブ、あなたもよろしくお願いします」

 

「あ、俺は普通に呼び捨てなのね」

 

ヨシヒコに対して曖昧な返事をすると今度はメレブに対しても一応握手を求めた。

 

ヨシヒコにはさん付けだったのに自分の事は呼び捨てなんだと思ったメレブは、彼の握手に応えながら若干胸にモヤっと嫌な感じがしたのを自覚した。

 

これはきっとセバスの中で順位付けが出来ていて、自分はヨシヒコより立場的に下だと位置付けられたのだろうと冷静に分析した。

 

「言っておくけどアレだからね、俺今はまだ呪文一個も覚えてないけど、覚えたらもう半端ないから、もうそん時から異世界無双始めっから」

 

「そうですか頑張ってください」

 

「うわ~絶対に信じてねぇよこのじぃさん……ぜってぇアッと驚かせてやるから覚悟しとけよ」

 

こちらの言い分を聞いても空返事気味のセバスにメレブがいずれ時が来たら新呪文で仰天させてやるという決意を胸に秘めていると、シャルティアもまたヨシヒコと握手していた。

 

「シャルティアでありんす、昨夜の件は水に流し、共にこの世界を救ってくださいまし、ヨシヒコ」

 

「もちろんだ、胸にパッドを詰めた少女よ」

 

「……おい、その呼び方は止めろ」

 

「胸を大きくさせる方法を知っているか?」

 

「いや余計なお世話だし勘弁しておくんなまし」

 

「ひたすら牛乳を飲み続ければ大きくなると、貧乳である私の仲間が教えてくれた」

 

「はぁ……貧乳が言ってる時点で信頼性ゼロのお話をどうもありがと……」

 

最初は作り笑顔で相手を油断させようという魂胆であったシャルティアだが

 

余計な事を次々と勝手に話し出すヨシヒコのおかげで徐々に素のしかめっ面になってしまう。

 

どうもこの男はやりにくい、まあいい、どうせ短い付き合いだ、上手い具合に転がして事が済んだらさっさと始末しよう……

 

そんな事を考えながら彼女はヨシヒコとの握手を終えると、今度は向こうからニコニコしながらメレブがこちらに手を差し出して来た、すると

 

「……」

 

「いて! まさかの俺だけ握手拒否!」

 

しかしシャルティア、ここはあえて彼との握手を全力で拒否。メレブの手を乱暴に払って彼女は目を逸らし黙り込んでやると、しばらくしてメレブは憎らしげな表情を浮かべながら彼女に向かってボソリと

 

「吸血鬼(笑)」

 

「あぁぁぁぁぁ!? なんつったコラァァァァ!!」

 

囁くように呟きつつも明らかに悪意が混じったその言葉に、シャルティアはすぐ様反応して彼に襲い掛かろうとするが、すぐにセバスが彼女を背後から羽交い絞めにして止める。

 

「(笑)ってなんだ! (笑)ってなんだよ説明しろゴラァ!」

 

「落ち着きなされ、ただの戯言です」

 

「そうさっきのはただの戯言だ、気にするなパッド(吸血鬼)」

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!! コイツはもう殺す! 確実に今殺す!」

 

セバスに拘束されながらもジタバタともがきながら、シャルティアは目の前でへらへら笑うメレブを一刻も早く殺してやりたいという強い衝動に駆られていると。

 

そこへ突然、空から光が……

 

 

ヨシヒコォー! ヨシヒコォー!!

 

「「!?」」

 

「あ、やっとおいでなすったか」

 

「これで次に向かうべき場所がわかりますね」

 

突如天から雷が降って来たかと思いきや空に浮かぶ大きな雲がパックリと割れる。

 

そして上空から聞こえる声が勢いよく飛んで来て、セバスとシャルティアが素で驚く中、メレブとヨシヒコは慣れた様子で動じずに空を見上げた。

 

すると後光をバックにし、雲の上からニュっと……

 

「どもーーー!! 仏でゅぇ~~~~す!!!」

 

早朝からいきなりハイテンションな様子で、ヨシヒコ達を導く存在、仏がノリノリな様子で現れたのだ。

 

これには初めてお目にかかるセバスとシャルティアも唖然としているが、それをよそに仏は出てきた時は笑ってたのにいきなりキリッと真顔に戻り

 

「ヨシヒコよ、無事に異世界へと降りたようだが、またしても波乱に巻き込まれたみたいだな、しかしそれこそが勇者の宿命、前へ進めばその度にお前には幾度も大きな壁が立ちふさがり……ってあれ? ヨシヒコ~?」

 

「……」

 

威厳のある声でヨシヒコに語りかけようとする途中で仏は気付いた。

 

彼がさっきから自分のいる方向とは全く別の所を見つめている事に

 

自分を探してるかのようにキョロキョロしているヨシヒコを、仏は目をぱちくりさせながらゆっくり問いかける。

 

「ん~これはまた? またですか? ヨシヒコ、ヨっ君だけ~私の事見えてない、的な?」

 

「……すみません、声は聞こえるんですがやっぱり見えません」

 

「おいもういい加減にしてよ! なんなんホント! もしかして私が悪いの!? 泣くよ! 仏泣いちゃうよいいのヨっ君! 仏見てくれないと泣いちゃうよ!」

 

ヨシヒコは空に浮かぶ仏を何故か肉眼で見ることが出来ない。

 

その事に毎度毎度嘆く仏をほっといて、メレブは慣れた感じで袖の奥からガサゴソとある物を取り出すと

 

「はいヨシヒコ、これ被れば多分見れるぞ」

 

「はい」

 

と言って取り出した物をヨシヒコの頭にカポッとハメてみた。

 

黒くてゴツゴツし、大きく口を開いた、いかにも強そうな怪獣の頭部を

 

「お~それはもしや……ゴジィィィィラァ……!」

 

「見えます……! 仏の顔がはっきりと!」

 

「おー怖っ! てかもはや目に掛けるモノじゃ無くなってるよね完全に、それもう被ってるだけだよね」

 

今もなお怪獣界のトップに君臨し続ける怪獣王の頭を被りつつ

 

驚いた様子でこちらを視認出来ている様子のヨシヒコに苦笑しながら

 

仏は困ったように耳たぶを触りながら首を傾げる。

 

「いや~あのさ、ゴジラは誰でも知ってる人気者だよ? 私もまあまあ知ってますよ、でもね、それはどうかなと思う、だって勇者が被るモノじゃないでしょゴジラ、アイツ基本的には人類の敵とかそういう設定じゃなった、あれ? 味方になる時もあるんだっけ? ちょっと私そこまで詳しくないからわかんないけど」

 

「いいだろうもうヨシヒコこれでお前の事見えんだから! つべこべ行ってないでお告げ言えよ!」

 

ヨシヒコの被るヘルメットに疑問を持ちかける仏だが、メレブがめんどくさそうに流しながら話を進めようとする。だが仏は「うるせぇな……」と小さく舌打ちしながら

 

「お告げ下す前にやる事あんだよこっちは! 勝手に段取り仕切ってんじゃねぇよバカヤロー!」

 

「やる事ってなんだよ! お前はただお告げをするだけの存在で良いんだよ!」

 

「イヤだわお告げするだけの存在とか! 意地でもここで喋り続けてやるわ!」

 

苛立つメレブを一喝すると仏はすぐに口元に微笑を浮かべると

 

さっきからこちらをずっとポカンとしている表情で見上げているだけのセバスとシャルティアの方へ視線を向けた。

 

「おいーっす! オラ仏! よろしくな!」

 

「……」

 

「……よろしくお願いします、いやはや申し訳ない、色々と驚かされてしまい言葉を失ってしまいました……」

 

「なにもー! ちょっと堅くない!? もうちょっと肩の力落としてリラックスしようぜー!」

 

こちらに向かって両腕を上下に振り上げながらウキウキした様子で話しかけて来る仏に圧倒されるセバス、シャルティアに至っては微動だにしない。

 

それでもなお仏の一方的なトークは続き

 

「なんかもうこっからずっと見てんだけど、君等二人がね、仲間になってくれんでしょ? ヨシヒコの?」

 

「ええ、おっしゃる通りです、我々とヨシヒコさんの目的は一致しておりますので、彼等と共に魔王を討ち滅ぼす所存です」

 

「んふ、聞こえなかった? もっかい言うよ? ”ずっと見てたんだぜ”、私?」

 

「……」

 

最初はにこやかに挨拶を仕掛けて来た仏であったが、どこか意味を含んだ言葉を漏らしながら笑いかけて来る彼に、セバスは険しい表情で黙って見上げ続けた。

 

すると仏は彼の反応を愉しんでるかの様にヘラヘラ笑ったまま

 

「まあでもご心配なく、別にね、君達にどんな思惑があろうが、私がそれでどうこう言うつもりは無いんで、お好きにしてどうぞ」

 

「そうですか……」

 

「あ、でもコレだけは一つ教えておいてあげる」

 

明らかにこちらの企みを見透かしている様子の仏だが、それでこちらに手を加えるつもりは毛頭ないらしい。

 

ヨシヒコを自分の組織の為に利用しようとしているというのに何故……疑問に思うセバスに仏は自分の手の平を指でなぞりながら適当な感じで呟く。

 

「その勇者さ、お前等の手の平に収まるほど甘くないぜ?」

 

「……」

 

「はいじゃあお告げいきまーす!」

 

「え、今のなに? なんかこっち側に言ってたぽいけど、俺等全然わかんないんだけど?」

 

いきなりコロッと態度を変えてお告げを始めようとする仏に拍子抜けするメレブ。

 

セバスの表情が更に険しくなっている所からなにかを伝えたみたいだが、仏はしれっとした表情で「いいからいいから」と勝手に話を進める。

  

「ヨシヒコよ、この世界には呪いが掛かっていると伝えた筈だが、どうやら一つ誤りがあったみたいだ」

 

「誤りとはなんですか?」

 

「正確にはこの世界にかかったのは『呪い』ではない、『波動』というモノだ」

 

「波動……」

 

ヨシヒコが静かに呟くと、仏は更に話を続ける。。

 

「波動とは呪いよりもずっと強力であり、それこそ魔王の中の魔王のみが扱う事が出来ると言われている、そしてこの波動はなんと、「魔王を脅かす一定以上の力を持つ強者は、たちまち力を失ってしまう」という恐ろしい効果があるのだ」

 

「なるほど、ではやはりセバスさんが影響を受けた異変とやらは、魔王によって起こされたモノだったみたいですね」

 

「その様ですな……」 

 

仏の話を聞いてヨシヒコもセバスもこれでようやく疑惑が確信に変わった。

 

やはり異変を起こした黒幕は、全て魔王の仕業だったみたいだ。

 

つまり解決するにはその波動とやらを起こした元凶、つまり魔王をまず倒す事が先決であろう。

 

「ヨシヒコよ、まずは力を手に入れるのだ、今のお前達では魔王の足元に及ばぬ、今から「ちわ~す!」って会いに行っても、「ウチ新聞いらないんで!」とか怒鳴られて魔王の城にさえ入れてもらえないであろう!」

 

「ではまず私はどうすればよろしいのですか、教えて下さい仏」

 

「ここから南西にある村へと向かうのだ、村の名前はカルネ村という」

 

「カルネ村……我々がまず向かうべき場所はそこなのですね」

 

「うむ、お前そこで魔王の新たな情報を知る事になるであろう!」

 

ビシッと右の方へ指を指し示す仏、それに釣られてヨシヒコも左の方へ振り向くと

 

「失礼……南西はあっちです」

 

と言ってセバスが右の方向へ指差した。

 

思いきり左を指差してしまった仏はバツの悪そうな顔で腕を下ろして

 

「うんまあその……頑張れ! みんな頑張れ!」

 

「うわ! アイツまた道間違えた! やだも~超だっせ~!」

 

「うるせぇぞバカヤロー! あのね私! ココの世界よく知らねぇんだから! 初めてなんだもん! 仏初めてなんだもんこの世界!」

 

冷ややかにメレブに指摘されて下唇をブルブル震わせながら言い訳を始める仏。

 

すると天に浮かぶ仏の姿が徐々に薄くなっていく。

 

「ではさらばだヨシヒコー!」

 

「うわ逃げやがった! おい! 道順ぐらい覚えとけ! 仏のクセに!」

 

ゆっくりと消えながらこちらに嬉しそうに手を振って消えていく仏

 

メレブがしかめっ面で呆れた後、ふとセバス達の方へ視線を戻す。

 

「ちなみにアイツが俺達の世界からこっちの世界に魔王を逃がした全ての元凶です」

 

「なんと、そうだったんですか……?」

 

「あの妙に顔のデカい男のせいで私等は異変に巻き込まれたのでありんすか……!?」

 

「そうなのよ、だから次アイツ出てきた時は、二人共ガンガン責め立てていいから」

 

メレブからの思わぬ情報にセバスとシャルティアが絶句する中、お告げを聞き終えたヨシヒコは被っていたゴジラヘッドを取る。

 

「どうやらまた、我々は大変な旅に出る必要があるみたいですね、メレブさん」

 

「ホントだな、しかも今回は更に、以前よりも更に辛くなる旅になるやもしれん」

 

ヘルメットを受け取りながらメレブはチラリとセバスとシャルティアの方へ目を見る。

 

「前の旅で出来た新たな仲間二人とは最初からいい感じだったけど、今回はそうはいかんみたいだからな……」

 

「大丈夫ですよメレブさん、共に旅を続ければ、徐々に絆は強まっていきます」

 

セバスとシャルティアというこれまた怪しい仲間が出来たヨシヒコ。

 

初っ端から不安だと呟くメレブをよそに、ヨシヒコは前向きに考えているのだ。 

 

「魔王の前に辿り着く頃にはきっと、ムラサキやダンジョーさん、それに女神やダクネスがいた頃よりも負けないパーティーになっている筈です」

 

「うんまあ……そうなる事を願ってみるよ、期待できないけど」

 

ハッキリと言いながら頷いて見せるヨシヒコに、メレブは苦笑しながらぎこちなく返事し終えると

 

彼等は早速南西のある街へと向かい歩き出すのであった。

 

 

「それでは早速仏が言っていた、カルネ村とやらに向かいましょう」

 

「その村の名前には覚えがあります、あまり大きな村では無かった筈ですが」

 

「このわらわがこんな朝から歩かされるなんて……テレポートがあれば一瞬だというのに」

 

「ほほう、この世界でもルーラの様な呪文はあるのか」

 

「……ルーラとはなにかえ?」

 

ワイワイと談笑を交えながら、ヨシヒコ達は南西にある村『カルネ村』に向かう為に山を下りて行く。

 

新しき仲間が加わったヨシヒコの冒険はまだ始まったばかり、果たしてこの先どうなる事やら……

 

 

『セバスチャンがなかまにくわわった』

『シャルティアがなかまにくわわった』

 

「い、今変な音楽が空から降って来た様な気がしたでありんすが!?」

 

「……私もです」

 

「気にしないで下さい、よくある事です」

 

「ん~~まあ最初は驚くだろうけど次第に慣れるから、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな彼等を心配そうに木陰から見つめる者が一人

 

「兄様、兄様は今回も異世界で魔王と戦うのですね、ならばヒサがやる事は一つです」

 

隠れていた木の上からバッと姿を現してヨシヒコ一行を見送るのはヨシヒコの妹であるヒサ

 

「今回また、ヒサも兄様と一緒に魔王を倒せるよう強うなろうと思います! この異世界で己を鍛え上げ! 今度こそ兄様の隣で共に戦いとう思います!」

 

そう強く決意を露わにして強くなることを決心するヒサ、だがそこに

 

「娘ヨ、コンナ所デ何ヲシテイル……」

 

「は! あなたは!」

 

ヒサの方へのっそのっそと歩いて来たのは、ライトブルーの甲冑に身を包ませたアリとカマキリが合体したかの様な外見の昆虫騎士、四本のある手の内の二本は斧を携え、残る二本は剣が握られている。

 

「我ノ名ハ、コキュートス、ナザリック地下大墳墓、第五階層守護者……ココハ我等ノ拠点近ク、緊急事態ノ為、近ヅク者ハ誰デアロウト斬リ伏セルノミ……!」

 

「なんと悪そうな御方! は! つまり勇者である兄様の敵!」

 

わざわざ丁寧に自己紹介までしてくれる誇り高き武人・コキュートスに、ヒサはこれは兄の脅威となるに違いないと察し、華奢な身なりで拳を構える。

 

「兄様の下へ行かせませぬ! ここでヒサが戦って時間を稼ぎます!」

 

「我ヲ前ニシナガラ逃ゲズニ立チ向カウカ娘……ソノ粋ヤ良シ、ナラバ我ハ、武人トシテ貴様ノ勝負受ケテヤロウ」

 

ヨシヒコが見てない所で始まるもう一つの戦い。

 

ナザリック守護者・コキュートスVSヨシヒコの妹・ヒサ

 

 

二人の戦いの決着は

 

 

次回へ続く。

 

 

 

 

 

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