魔王ヨシヒコと勇者モモンガ   作:カイバーマン。

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次にメレブが目を開けた時、そこはこじんまりとした質素な家の中だった。

 

「……知らない天井だ」

 

「あ、お目覚めになりましたか?」

 

「ん?」

 

未だ意識がぼんやりとしていて、どうして自分がこんな所で寝転がっていたのかさえよくわかってない様子のメレブに、何者かが近づいて声を掛ける

 

「どうして倒れたのか覚えてます? あなたはこの村に来る前、ゴブリンさん達に痺れ薬が塗られた矢を撃たれて気絶しちゃったんですよ」

 

それは栗色の髪を胸元辺りまで三つ編みに伸ばした、少女と女性の中間辺りの年頃と思える娘であった。

 

健康的に焼けた彼女の肌を眺めながらメレブはゆっくりと半身を起こす。

 

何故であろう、目を覚ました時に彼女が目の前に現れたその瞬間、自分の中に小さな火が灯ったかの様な不思議な感覚を覚える。

 

「もしやそなたは倒れた俺を介抱してくれたのかい? ありがとう、俺は魔法使いメレブ、そなたの名は?」

 

「エンリ・エモットです、そんなかしこまらなくて全然結構ですよ、私はただのこのカルネ村に住むしがない村の女ですから」

 

「……きゅん」

 

彼女はエンリと名乗ると朗らかに笑いかけてきた、なんと眩しい笑顔なのであろう。

 

思わずメレブが真顔で己の心情を思わず吐露してしまっていると、彼がエンリを前にうっとりしまっていると小さな少女が突然邪魔するかのように走って来た。

 

「キノコのおじさん起きた!?」

 

「おいなんだクソガキ、今こっちは大事なイベントが始まりそうなんだから邪魔するな、シッシッ」

 

唐突に叫びながら飛んで来た小さな子に対してメレブはすぐに不機嫌そうな声を上げながら手を軽く振って追い払う仕草をすると、そこへエンリが口を開き

 

「その子は私の妹でネム・エモットと言います」

 

「あーそうでしたかー! そういえば似てますねー! なんて可愛らしい妹さんだー!」

 

エンリの紹介を聞いた途端コロッと態度を変えて彼女の妹・ネムの頭を無理矢理撫でるメレブ。

 

撫でられてる方のネムはそれに対し「むー」と若干嫌そうな顔。

 

「そういえば、俺の仲間……この俺の下で働かせてる三人の舎弟はどこにいるのか心当たりは無いかな?」

 

「お仲間さんですか? それなら……」

 

ネムが撫でて来る彼の手を振り払って逃げ出していると、メレブはちょっと見栄を張りながら自分の仲間達は何処へ行ったのかとエンリに尋ねると、彼女はすぐに後ろへと振り返って

 

「あそこでジュゲムさん達と一緒に仲良くごはん食べてる所です」

 

「うわ気付かなかった! なんかゴブリン達に紛れてすげぇバクバク飯食ってやがる!」

 

ふと見るとそこには仲良く円を描いてゴブリン達と共に仲良く食事しているヨシヒコ達が

 

それも一心不乱に皆で食べており、行儀よく食べているのはセバス一人である。

 

そんな光景を見て思わずメレブが叫ぶと、ヨシヒコが気付いたのかまだ口の中にご飯を入れた状態で

 

「目が覚めたんですか、メレブさん、私達もこうして、メレブさんが起きるまで待っていたんです」

 

「いや口からポロポロなんか出てるし! てかぜってぇ待ってなかったでしょ俺の事! だって勝手に飯食ってんだもん!」

 

「ここにいるゴブリン達が食べていけとおっしゃってくれたので、お言葉に甘えました」

 

自分が寝てる間に勝手に食事してる事に対して、平然としているばかりで行儀の悪いヨシヒコにメレブがツッコミを入れる。

 

するとヨシヒコ達と一緒に食事しているゴブリン達の中の1匹が彼に話しかけ

 

「そういや兄さん、あんた人間の割に随分と変わってるな、普通は俺達を初めて見た人間は誰だって驚いたり怖がったりするモンなんだがな」

 

「私はお前達を怖がったりする事など無い、前にもこうして多くのゴブリンに囲まれた経験があるからだ」

 

隣に座ってるシャルティアからこっそり野菜のスープをパクリながら、ヨシヒコはふと随分前の出来事を思い出しながらメレブの方へ目をやる。

 

「いやー懐かしいですねメレブさん、確か前の世界でも私達はこうしてゴブリン達に囲まれた事がありましたよね」

 

以前別の世界にいたとある出来事を思い出し、今となっては思い出話の一つだとヨシヒコはやんわり微笑みながら呟く。

 

「あの時は1匹残らず全員この手で斬ってやりましたが」

 

「おいヨシヒコ……その言い方は誤解を招くから……! ていうかゴブリンさん達に囲まれてる中で笑顔で言うな……!」

 

「あーいいですよ全然、どうせ人間に悪さをしたゴブリンを殺したって事でしょきっと」

 

サラッとゴブリンにとってはとんでもない物騒な事をぶっちゃけるヨシヒコに、メレブが声を潜めながら肝を冷やすが、ゴブリン達はさほど気にしてはいない様子で上手く察してくれた。

 

「まあでも安心して下せぇ、俺達はその辺の野良ゴブリンと違って悪さはしねぇし、この村や住人に害を与えるような真似をしなければ手は出さねぇんで、まああの金髪ホクロのお兄さんは胡散臭かったから思わず矢で射ってしまいやしたが」

 

「ならば私のとある友人が言っていた言葉を教えてあげよう」

 

どうやらこの村にいるゴブリンは普通のゴブリンとは違うらしく、村を襲うどころか警護に務め住人達を護ってるらしい。

 

そんな良識あるゴブリンに対し、ヨシヒコはフッと微笑みながら優しく語り掛ける様に……

 

「人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ……」

 

「……エンリの姐さん、このお兄さん怖ぇ……前にこの村に来たルプスレギナって奴とおんなじ目してやがる……」

 

「ああ、俺達をいつ狩ろうかと静かに観察してる目だ……」

 

「こらヨシヒコ! いつの間にそんな怖い事言う人とお友達になったの! そんな子と付き合っちゃいけません!」

 

笑っていても目だけは全く笑っていないヨシヒコに、ゴブリン達が「この男は何かヤバい」と恐怖を感じてしまう。

 

これにはメレブも大慌てでヨシヒコとを叱りつけると、エンリは心配そうに彼を見て

 

「あの……あの人大丈夫ですよね? 私達の村のゴブリンさん達を急に殺そうとかしないですよね?」

 

「大丈夫! あのちょっと前にゴブリンのせいでトラウマが出来ちゃっただけだから! 普段はどんな魔物でも仲間にしちゃうぐらいよい子だから!」

 

「ど、どんな魔物でも……? それって逆に危ないんじゃ……」

 

ヨシヒコの事を若干警戒し始めたエンリに即座にフォローに回るメレブだが

 

魔物を仲間にする事が出来ると聞いて彼女が困惑しているので、慌ててメレブは話題を変える事に

 

「そういえば先……カルネ村に住んでいるとおっしゃっていましたが、もしやここがその村なのでございましょうか?」

 

「え? あ、はいそうですよ、ここが私達の村のカルネ村です、今は色々あってゴブリンさん達も一緒に住んでいます」

 

上手く話題を反らせた事でホッと一安心するメレブ

 

その間、ヨシヒコのご飯を無言で横取りするシャルティア

 

「お仲間の皆さんから話は聞きましたが、なんでもここに用があるから来たみたいですけど……ここって特に何もない寂れたただの村ですよ?」

 

「いやまあ……ちょっとよくわからない変なおっさんにここ行けって言われたもんでね、とりあえず来てみただけなんすよ……まあ今は、この出会いにマジ感謝」

 

「?」

 

こんな殺風景な村にわざわざ何しにやって来たのかと尋ねるエンリに、メレブはやや気持ち悪くニヤリと笑う。

 

その間、ヨシヒコ、自分の食事が減っている事に気付き、そして隣のシャルティアが明らかに自分の分を盗った事にも気づく。

 

「それにちょっと前に兵士に襲われて多くの村の住民が殺されてしまい、今はなんとか再興を試みてる所なんです」

 

「ほう、そんな事がこの平和そうな村で起こったと」

 

「はい、あの事件のせいで私の両親も亡くなり……今はこうして妹と二人でなんとかやっていこうと」

 

「あぁ……そんな悲しい事が遭ってもめげずに頑張ってるなんて……あの、もしよかったら俺が力になりますが? こう見えて俺、魔法使いなんで、それもかなり凄腕な魔法使い……」

 

「い、いえお気遣いなく……」

 

エンリとこの村のちょっと前にあった事件と悲劇を聞いてグイグイと自分をアピールし始めるメレブ

 

その間、ヨシヒコは食事を盗られた事でシャルティアと取っ組み合い開始

 

「ていうか兵士に襲われて、よく村は形を残せましたなー」

 

「あ、それは私達をお救いして下さったかの魔法詠唱者≪マジックキャスター≫がいましてですね」

 

「……え、なに魔法詠唱者って?」

 

「いや魔法を専門とする方達の事ですよ、知らないんですか?」

 

「あーウチの地元じゃ大体そういうのは魔法使いで片付けるんすよねぇ」

 

「はぁ……」

 

どうもメレブのいる世界とこの世界では魔法使いに対する呼称が違うらしい。これもよくある異世界同士でよくある細かな違いの一つである。

 

その間、ヨシヒコとシャルティアの喧嘩はヒートアップして、ゴブリン達が観戦して騒ぎ立てている。

 

「で? その恐らく俺には遠く及ばないであろう魔法使いがこの村の窮地を救ってくれたと? ふーん……」

 

「そうなんですよ、それに私達の為にあそこにいるゴブリンさん達を召喚出来る不思議なアイテムを下さったり、他にもいろいろ支援して下さったりと、本当に感謝してもし切れないほどの恩があるんです、その方には」

 

「ジェラシー……!」

 

誰だから知らないがその村を助けてくれた魔法詠唱者とやらにはエンリはとても恩義を感じているらしい。

 

そして嬉しそうにその恩人の事を語り出す彼女に、メレブは会った事もないその恩人に対してメラメラと嫉妬の炎を燃やしていると……

 

「私の分を返せぇ!」

 

「お前が先に私のを奪ったのでありんしょうがぁ!」

 

「てかさっきからうるせぇんだけどお前等! 喧嘩するなら外でやって頼むから!」

 

ヨシヒコとシャルティアの取っ組み合いが激しくないっていき、遂には立ち上がって戦い始めたので

 

ようやくメレブが二人の方へ振り返って声を上げるのであった。

 

「ですがメレブさん、彼女は私の分を横取りしたんです」

 

「その前に私の分を盗ったのはコイツでありんす」

 

「子供かお前等! 余所様の家なんだから少しは落ち着いて食べなさいよ全く!」

 

勇者一行としてはあるまじき低レベルの内輪揉めをしてしまうヨシヒコとシャルティアにメレブがお母さんの様に厳しく怒鳴りつけると、未だ一人で黙々と食べているセバスの方を指差して

 

「そんなに食いたいならセバスに分けてもら……おい、待て」

 

あの素敵な紳士の老人であれば食べ物ぐらい恵んでくれるだろうと思っていたメレブだったが、ふと彼が食べている食事の数に気付いた。

 

「よく見たら二人分食ってるぞコイツ、それもしかして……俺の分だろ」

 

「……おっしゃっている意味がわかりませんが?」

 

「クソジジィ……!」

 

猛禽類のような鋭い眼差しでキリッとしながら誤魔化そうとするセバスにメレブは頬を引きつらせて悪態を突く。

 

このセバスという男、一見良識ある常識人ポジションかと思いきや、流石はシャルティアの同胞、真面目そうに見えてかなりしたたかである。

 

そしてそんな三人を見てメレブだけでなくエンリも怪訝な様子で

 

「あの……本当に大丈夫なんですよね? なんかこう言ってはなんですが……少々普通の感覚とはズレた方達なのでは?」

 

「いやいやホント心配ないんで怖がらないで下さい! 確かにヨシヒコはちょっとお馬鹿で、小娘は偽乳でジジィはちょっとボケ入ってるんすけど! 基本は正義の味方ですから俺達! やる時はやる連中なんで!」

 

「は、はぁ……ってあれ?」

 

なんだか危ない連中を家に入れてしまったのでは危惧し始めるエンリにメレブがいらぬ心配はかけないと精一杯に弁明するのだが

 

エンリがふとヨシヒコ達の方へ目をやると

 

なにやらヨシヒコが勝手に自分の家に置かれているツボを両手で掲げて

 

ガッシャーン!と思いきり床に投げつけて割り出したのだ。

 

「はぁ!? いやあの、なにしてらっしゃるんですか!?」

 

「いや……ツボの中身が知りたくて」

 

「中身が知りたいって……それなら普通に中覗くだけで良いじゃないですか! 人の家のモノを壊さないで下さい!」

 

「……すみません」

 

突然の奇行に走るヨシヒコに思わず怒ってしまうエンリ。

 

彼は軽く頭を下げて謝罪するも、次の瞬間にはその割れたツボの隣にあった小さなタルを掲げて

 

パッカーン!とまたもや床に投げつけて壊す。

 

「いやだから! なんで壊すんですか一々!」

 

「まもりのタネを見つけた!」

 

「あ、おめでとうございます、じゃない!」

 

中から出て来た奇妙なタネを掲げて叫ぶヨシヒコにノリツッコミまでかましてしまうエンリ。

 

「お願いですから人の家のモノをこれ以上壊されては……ってまた勝手に!」

 

しかしヨシヒコは止まらない、勇者故に。

 

今度は勝手にあろう事か、人の家のタンスを豪快に開け始めたのだ。

 

「なんなんですかホントに!」

 

「エンリのしたぎを手に入れた!」

 

「取らないで下さい! 勝手に懐に入れようとしないで下さい!」

 

流石に自分の下着を持ち去ろうとする真似は頂けない、エンリはすぐに駆け寄って全力で彼からなんとか下着を取り返すと、ゼェゼェと息を荒げながらメレブの方へ振り返り

 

「全然大丈夫じゃないじゃないですか!!!」

 

「大丈夫です! ウチのヨシヒコはちょっと! 人の家のツボを割ったりタンスを開けるのが好きなだけなんです!」

 

「それを聞いた上で大丈夫だと思える人なんていません!!」

 

ハッキリとヨシヒコの生態を叫ぶ彼に負けじとエンリが反論すると、コレはマズいと思ったのか、メレブはおもむろに立ち上がって家の端っこにいどうすると、ヨシヒコ達に向かって

 

「ちょい、ちょいお前等、こっちに一旦集合」

 

「どうしたんですかメレブさん、なにかあったんですか?」

 

「なんでお前みたいなゴミムシの言う事を聞かなきゃならないんでありんすか」

 

「私はまだ食事中なので」

 

「いいから来いつってんだろがい!」

 

メレブがそう一喝すると、各々のダラダラした足取りで渋々といった感じで端っこにいる彼の下へ集まった。

 

するとメレブは声を潜めて三人にボソッと

 

「えー非常にマズイ事になりました……俺等、初めての村で早速警戒されまくってます」

 

「なんでですか? 私達は特に何も悪い事はしてないと思うのですが」

 

「ヨシヒコ、そっ……んなキラキラした目でよく言えるねぇ……!」

 

せっかく警告を促したのにヨシヒコ自身はキョトンとした様子でまるでわかっていない様子であった。

 

「主にあの方たちに警戒されてる原因を作ったのは、ほぼほぼヨシヒコ、お前だよ……!」

 

「どうしてですか、私はただゴブリンをいつ倒そうかと考えたり、ツボの中にアイテムが入ってないか確認しただけですよ」

 

「私もそれはまっこと道理に適っていると思うのでござんすが? 格下の雑魚を使って遊ぼうと考える事も、下等生物の所有物を強奪する事などなんら悪い事ではないぞえ」

 

「おい、おいおいおい……! なんでさっきまで喧嘩してたのに急に意見が一致してんだよお前等……!」

 

ヨシヒコは勇者として、シャルティアは下々の存在を見下す吸血鬼として

 

そんな正反対の二人がまさかここでウマが合うとは思っていなかったメレブは慌てて話を始める。

 

「とにかくだ……! ここではどうやら俺達の世界とはちょっと文化が違うらしい……! ここではきっと人の家で勝手にツボを割っちゃいけないんだよ……!」

 

「ツボを割ってはいけないって……随分とおかしな世界ですねここは」

 

「こんなクソ虫の言う事なんぞに耳を貸すでないぞヨシヒコ、下等生物の居所を蹂躙し本能の赴くままに破壊する、それは強者を目指す者であればなんらおかしい事はないでありんす」

 

「ホントどうした急に……! え? もしかして俺が気絶してる間になんかあったの君等……!? みんなでカラオケ行ったりとかして打ち解けた?」

 

コレが勇者一行の間で使われる会話なのだろうか……なんだかとてもいけない方向に進んでいる気がすると危惧するメレブだが、そこへセバスがおもむろに口を開き

 

「私はメレブの意見に賛同します、今の我々の状況では余計な騒ぎを起こさない方法を優先すべきです、ですからここは村の住人やゴブリンの警戒を解き、改めて我々を信用させるのがよろしいかと」

 

「やだこの紳士、すんごいイケメン……」

 

「ところでヨシヒコさん、先程あの村娘の下着を奪おうとしていたがあれは頂けません、男なら真っ向から女性と対峙し、正々堂々ベッドの上で奪……」

 

「言わせねぇよ! 何考えてんだこのエロジジィ!」

 

男気溢れるダンディな風格でハッキリと正論を言ってくれたセバスに感心したのも束の間

 

突然ヨシヒコに向かってド直球な下ネタアドバイスを言い出したのですかさずメレブがそれを阻止。

 

「あのホントふざけないで、マジで、俺今ちょっと、あのエンリって娘にときめきを感じているんだから」

 

そしてここで初めて、メレブがどうしてもあのエンリという村娘に警戒されたくない理由を語り始めた。

 

「正直もう完全に一目惚れしちゃって是非ともお付き合いとかしたいとか考えてたりするから、頼むから俺との彼女が結婚式を挙げるまで、そして温かい家庭を築き上げるまで何も問題行動を起こさないで下さい、以上」

 

「……現在進行形でこの中で一番ヤバいのは間違いなくお前じゃないかえ? 急に長々と痛い妄想語り出して頭沸いてんのか蛆虫」

 

「沸いてません、コレは決定された俺と彼女の未来ビジョンなんです」

 

「メレブさん、あの村娘に惚れたんですか? 私はもっと巨乳の方が好みなんですが」

 

「私はもっと尻が大きい方が好みですな」

 

メレブのやや痛い話にシャルティアが一人蔑む様な視線で見つめ、ヨシヒコとセバスは勝手に乳か尻かで盛り上がる始末。

 

そんな家の端っこでコソコソとやっている奇妙な4人組がいれば、当然エンリやゴブリンも不安に思う訳がなく。

 

「エンリの姐さん……あの連中どうにも怪しい、特にターバン巻いてるあの兄さんが特にヤバい、頭が……早い所村から出てってもらった方がいいかもしれねぇですぜ」

 

「うん、それもそうなんだけど……でもあの人達冒険者の類の人達らしいし、追い出そうとすると抵抗して村を襲ったりしそうで……」

 

「ハハ、心配いらねぇですよ、そん時は俺達が全員総出であの連中をとっちめてやるんで」

 

もはやヨシヒコ一行をこの村から追い払う事前提で話し合っているエンリとゴブリン。

 

その上ゴブリンに至っては暴れるヨシヒコを全力で迎え撃つとまで言ってのける。

 

「この村とエンリの姐さんを護るのが俺等の義務なんでね、多少の揉め事の一つや二つ、俺等が何とかしますんで、荒っぽい仕事は全部俺等に任せときゃいいんですよ」

 

「あ、ありがとうございますジュゲムさん……けど出来れば誰も傷つく事無く穏便に済めればそれで……」

 

自慢の力こぶを見せつけて相手が誰であろうとやっつけてみせるとアピールするゴブリンに感謝の意を伝えながら、エンリは出来る限り無理はしないでくれと彼にお願いしようとしたその時……

 

「お、お姉ちゃん! 大変大変!」

 

「え? どうしたのネム、そんなに慌てて」

 

そこへ急に慌てて家の中へと駆けつけて来たのは妹のネム

 

血相変えて慌てた様子で、何があったのかとエンリが尋ねると彼女は外を指差しながら

 

「ゴブリンのみんながたった一人の変なおじさんに倒されてるの!」

 

「ええ!?」

 

「そ、そいつは本当か!?」

 

彼女の話を聞いて周りの空気が一瞬にして変わった。

 

ゴブリンとはいえそれをたった一人で倒す人物とは一体……

 

エンリが思わず言葉を失う中、この家で待機していたゴブリン達はすぐに戦闘準備に入る。

 

先程までヨシヒコとシャルティアの喧嘩にバカ騒ぎしていた連中は、既に戦う漢の顔をしていた。

 

「嬢ちゃん、俺等を倒した奴は村に入って来てるのかい?」

 

「うん、さっきからみんなで頑張ってるんだけど、すっごい強くてみんな負けちゃって……」

 

「わかった、嬢ちゃんはエンリの姐さんと一緒に隠れてろ」

 

ネムの状況説明はたどたどしかったが十分だった。

 

敵は強い、それも自分達が何体いようが全く歯に立たない程の……

 

このまま行っても無駄死にする確率の方が圧倒的に高い事も嫌という程よくわかった

 

しかし彼等は一切迷わず歩を進め

 

「行くぞ野郎共ぉー! この村に入って来た不届き者にいっちょお仕置きかましにいこうじゃねぇかぁ!!」

 

「「「おー!!!」」」

 

死ぬとわかっていても戦いへと赴くのであった。

 

それがエンリ・エモットと、彼女の住む村を護る事を使命と化したゴブリン達の仕事なのだから

 

 

 

 

 

 

そしてそんなゴブリン達が熱く盛り上がってる中で、ヨシヒコ達はというと

 

「彼女と結婚したら、まず立派な家を建てて犬を飼いたいなー」

 

「それは楽しみな事、お前が幸せの絶頂を迎えたその瞬間に全てをグチャグチャに出来るのかと思うと今から笑いが堪えきれんでありんす」

 

「セバスさん、実は私は巨乳だけじゃなく……お尻も好きなんです!」

 

「それは男として生まれたのであれば至極当たり前の事です、男は女性を愛し、その体を欲する。胸も尻も、男は好きで当然なのです、なんら恥ずべきことではありません」

 

先程までのエンリ達の話を全く聞こえてなかった様子で、未だに勝手に自分達で盛り上がっている最中であった。

 

そして彼等がペチャクチャと喋っている内に……

 

 

 

 

 

 

「ゴブリーーーーン! 獲ったどぉーーーーーーー!!!!」

 

侵入者かと思われる男の雄叫びが村中に轟き始めるのであった。

 

次回、魔王四天王戦

 

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