ロックハートの初授業から数週間経ったハロウィンの日、僕はコリンとロックハートに追いかけまわされる日々を過ごしていた。ロックハートの初回の授業は、ロックハート自身に関する下らないテストをして、その後ピクシー妖精を放つ頭のおかしい授業が行われた。
ハーマイオニーがどうにかしてくれたけど、放った張本人であるロックハートは慌てて自分の部屋に逃げ込むしあの日は最悪だった。
そして今、僕とロン、そしてハーマイオニーは、ハロウィーンパーティーが行われている大広間に向かっていた。まだ残っているかもしれないパーティーのデザートにありつくためだ。そんな道中、
「あそこにいるのってもしかして……」
「どうしたのハリー────げっ」
「ザックじゃないかしら?」
ロンは相変わらず苦い顔をするが僕とハーマイオニーは笑顔でザックの元に走る。ザックはそのまま振り向くと少し驚いたように目を見開く。
「お前たちか」
「ハッピーハロウィーン!ザックは何してるの?」
「…………いや、何でもない。何かが聞こえて……気になってな」
「聞こえるって何が?」
ザックは少し考えるように手を口に添えると、 何でもないって言って立ち去っていった。
「妙なやつだよなぁ……遂に耳がおかしくなったのか?」
「ロン!」
「あー、もう。悪かったって!」
ロンは相変わらずスリザリンの生徒に対しての対応は悪い。確かに基本的なスリザリン生は嫌な事をしたり言ったりしてくるため、僕も相応の態度だろう。でも、ザックは僕たちを何度も助けてくれているのに。
……したい。
「え?」
「どうしたのハリー?」
……ろしたい。
「え、何?どうしたのよハリー?」
「ロン、ハーマイオニー、何か聞こえないかい?」
「ハリーまで何言ってるんだよ!ラミレスの真似する必要ないって!」
ロンはそういうが、僕には微かに聞こえていた。シー、シーという音ともに何かの声が。
僕は壁に耳を当て、微かにする音の方へ進んでいく。後ろでロンとハーマイオニーも僕の後を着いて来る。そして、
「これは……!」
「ミセス・ノリス……!」
「あ、ああ……」
僕とハーマイオニーが松明にぶら下げられたフィルチの猫であるミセス・ノリスを注視していると、ロンが壁に向かって指差していた。
僕とハーマイオニーもその先を見た。
『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けろ』
そう書かれた壁の文字は赤く、まるで血文字の様だ。
あまりの出来事の連続に僕たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。
「まずいわ。こんな所を見られたら、私たちがやったと思われ────」
そう言うもあまりにも行動が遅すぎた。
「継承者の敵よ、気を付けよ!次はお前達の番だぞ、この穢れた血め!」
マルフォイの喜悦を含んだ声が廊下に響く。廊下にはハロウィーンパーティーを終え、寮に戻る最中だった各寮の生徒たちが集まっていた。
そんな中、マルフォイ余程気分が昂揚しているのだろう。彼は廊下中に響く声で喚き、その声を聞いて何事かと管理人のアーガス・フィルチや教師達がそこに飛び込んできた。
「わ、私の猫が!ミ、ミセス・ノリスが!一体何が!?」
フィルチはミセス・ノリスを大事そうに抱き上げ、僕を見付けると「お前がやったんだ!」と喚き始め、僕に詰め寄って来た。
「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん、君達もじゃ」
「校長先生、私の部屋が開いてます。すぐ上です」
「ありがとう、ギルデロイ」
僕たちはロックハートの部屋に入り灯りをつける。壁一面に張られたロックハート先生自身の写真が、突然の来客に慌てふためく様子を後目に、ダンブルドアはミセス・ノリスを机に置いていた。
顔がくっつくかもという距離でミセス・ノリスを調べだすダンブルドアの横で、ロックハートが話し出す。
「猫を殺したのは呪いに違いありません! 多分『異形変身拷問』の呪いでしょう!私がその場にいなくて残念です!反対呪文を知っている私なら、猫を救ってやれたのに!」
僕たちはハーマイオニーに目を向けた。ハーマイオニーも聞いたことがないのか両肩を軽く上げていた。そんな終わりが見えない与太話の横で、ダンブルドアは呪文を唱えながら杖で猫を叩いてみるも効果は特になかったみたいで、相変わらず猫は固まっていた。
「アーガス、猫は死んでおらんよ」
「死んでいない……?」
「そうじゃ。死んではおらん」
「な、なら一体……?」
フィルチは再び僕の方へ歩いていくと、胸倉を掴みあげて怒鳴り散らした。
「貴様!一体ミセス・ノリスに何をした!?」
「だ、だから何も────!」
「あ、あいつだ……!」
突然のロンの言葉にその場の人達は一斉に彼に視線が集まった。そのおかげで僕を掴んでいたフィルチの手の力も弱まる。そのままロンはダンブルドアに告訴するが如く声を張り上げた。
「先生!あいつです!ラミレスです!ラミレスがやったに違いありません!」
「ロン!?何を言って────」
「ハリー!あの時、全校生徒は大広間にいた!大広間以外にいたのは僕たちとあいつだけだ!僕たち以外なら必然的に怪しいのはあいつだけだろ!?」
ロンは興奮気味に僕に言う。マクゴナガルも、ロックハートも驚いたような顔を見せる。そんな中、ダンブルドアは真剣な眼差しでロンに尋ねた。
「……ウィーズリー君。君たちはラミレス君に会ったのかの?」
「はい、ダンブルドア先生!間違いありません!あいつはフラフラあの廊下の近くを彷徨ってました!それにハリーが声を掛けた時も歯切れが悪かった!いかにも怪しい動きでした!それにあいつはスリザリンで、『ゴーント家』の『例のあの人』と同じ血が流れています!」
ロンのボルテージは留まることを知らず、理由と推理をこれでもかと吐きつけた。ダンブルドアはある程度聞くと、ロンを宥める。
「ウィーズリー君。君の推理は憶測でしかない。筋は通っていようが、証拠は必要じゃ。それに君は思い込みも激しい様じゃの。それは大変危険なものじゃ」
「でも────!」
「まずは話題に出たラミレス君を呼ぶところからじゃな。スネイプ先生、お願い出来ますかの?」
「仰せのままに」
ダンブルドアはスネイプにザックを呼んでくるように頼むと、スネイプはロックハートの部屋を後にした。
それからそれほど時間は経たずにスネイプに連れられてザックがやって来た。
ザックは中に入ると、部屋の中を一瞥しダンブルドアの元へ進む。
「お呼びですか?ダンブルドア先生」
「よく来たのう、ラミレス君。君に1つ質問があったのじゃよ。何、大したことでは無い。ちょっとした調査じゃ。おっとその前に、君にはこのミセス・ノリスはどうなっているように見えるかの?」
「……そうですね」
ザックはミセス・ノリスの首筋や足首、お腹などを触ってから、
「見た感じ死んではないですね。硬直しているというか、石化しているというか……」
「そうじゃな、わしも同じ結論じゃ。今回はその件で君に話が聞きたいのじゃよ。あの時、君はどこで何をしておったか教えてくれるかの?」
「……」
ダンブルドアの質問にザックは黙り込む。数分の間、ダンブルドアとザックは見つめ合うと先にザックがため息を吐いて喋り始めた。
「声が聞こえてきたんです。大広間で食事をしている時に」
「声、かの?」
「はい。『殺す』だとか『引き裂く』だとかって声がです」
「僕も聞こえました!」
ザックの言葉に僕も同意する。ダンブルドアは驚いたように僕の事を見る。ダンブルドアは何かを納得したように頷くと、
「ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャーさん、それにラミレス君、もう帰ってよいぞ」
「何をおっしゃるんですか!?私の猫が石にされたんだ!刑罰をあたえなけりゃ収まらん!」
フィルチは珍しくダンブルドアに食ってかかるも、ダンブルドアは落ち着いた口調で宥める。
「アーガス、君の猫は治せるよ。今温室でマンドレイクを育てておってのう。それなら薬を作ることができる」
ダンブルドアがそう言うと、フィルチは僕を睨み付けながらもここは引き下がった。
数日後
「閲覧禁止の棚の本の閲覧ですね。許可書を見せてください?」
俺はサインされた許可書を提出すると、マダム・ピンスは眉を潜めた。
「またロックハート先生のサインですか……」
「また、と言いますと?」
「先程もロックハート先生のサインで閲覧禁止の棚に行った生徒がいたのですよ。まぁ、規則ですから許可はしますが……」
マダム・ピンスから証明書を受け取ると、閲覧禁止の柵の中に入って行った。
基本的に閲覧禁止の棚には闇の魔術の本や学生として不適切な本が多く置かれている。そういった本を読むには先生のサインが必要となってくるのだが、当然普通に理由と用途を聞かれる。そこで俺はロックハートの存在を思い出した。あいつに頼めば適当に話をしてもサインしてくれるだろう。そう思っていざ闇の魔術に対する防衛術の教室に行き、ロックハートに話を聞いてみると、用途だとか理由など聞かずにファンへのサインのごとくササッとサインしてくれた。ここまで来ると俺も変な笑いが出た。
「これが闇の魔術か」
確かに用途を聞かれるレベルの呪文の数々が羅列していた。それだけではなく、歴代の闇の魔法使いとされてきた人物の著書や非人道的な魔法論の論文なども置かれている。
「魔法界の矛盾、著者:ゲラート・グリンデルバルド……か」
ヴォルデモートが現れる前の闇の魔法使い。その恐るべき人心掌握力は許されざる魔法の一つである服従の呪文の域にまで到達していたのではないかと言われていた。
現在は自身の作り上げたヌメルンガードと呼ばれる監獄要塞に囚われているのだとか。
「どうでもいいな」
本を戻すと、もう1冊の本を引き出した。
「サラザール・スリザリンの偉業か……」
俺は何冊かの本を借り、図書室を後にした。
「ドラコ、ようやくその時が来たね」
「ああ、僕たちがポッターを、グリフィンドールを倒す時が来た。寮対抗クィディッチでスリザリンの栄光を取り戻すんだ」
毎年行われているクィディッチの大会が今年も開催された。2年前までクィディッチ最強の寮はスリザリンだったのだが、その輝かしい歴史は去年のある出来事で崩れ去った。
『新シーカー、グリフィンドールの希望の星!ハリー・ポッターの登場でスリザリン初戦敗退!!』
去年の校内新聞に張り出された一面の記事にはポッターが手を振っている写真がデカデカと貼られており、ここぞとばかりにスリザリンの批判とも取れる文章が書かれていた。
「おい、ラミレス」
マルフォイは俺の方を向いてこちらに歩いてくると、拳を向けた。
「勝ってくる」
「ああ」
俺はマルフォイの拳を拳でコツンとぶつけると、グラウンドに走っていった。
「ねぇ、ドラコたちは勝てるよね?」
「どうだろうな。俺は預言者じゃない。勝てるかどうかはこれまでの練習の成果にかかってくるだろうな」
俺はグリーングラスと共にスリザリンの応援席に行き、席に座る。グリフィンドールもハッフルパフもレイブンクローもグリフィンドールチームへの応援が多い中、スリザリンの席は応援というより相手チームへのブーイングが多かった。隣では声を張り上げて応援するグリーングラス。どこもかしこもやかましくて仕方がない。
「握手をして!」
歓声の中、マダム・フーチの指示で両チームのキャプテンが握手をする。
お互いがお互いの手を握りつぶそうとした後、両チームの選手たちは箒にまたがった。
「笛が鳴ったら開始です!ピーッ!」
マダム・フーチの笛の音で、試合はついに開始された。高く放られたクワッフルをチェイサー達が奪い合う。
そんな中、ポッターとマルフォイは空高く飛び上がる。
「どうだい?傷物!」
マルフォイは嘲るようにポッターを煽る。ポッターはそんなマルフォイを無視してスニッチを探す。すると、正面からブラッジャーが飛んできた。ポッターはスレスレの所を躱すも俺はある異変に気付いた。
ブラッジャーの一つが突然、ポッターだけを狙うように飛び始めたのだ。
ブラッジャーは本来、一番近くにいる選手に向かって飛ぶ性質がある。そのため両チームのビーターは、その棍棒で相手チームに向かってブラッジャーを飛ばす。でも今回の試合では、いくらグリフィンドールのビーターである双子のウィーズリー兄弟がブラッジャーを殴りつけよとも、一向にポッターから狙いを外そうとはしない様子だった。
マルフォイもブラッジャーの変化に気が付いたらしい。ポッターの近くいると自分も危ないと考えたのか、ポッターから完全には離れないまでも、ある程度距離を取っていた。
「バレエの練習か?ポッター?」
そんな皮肉にポッターはムッとするも、少し驚いたような顔になる。それもその筈だ。マルフォイの後ろにスニッチが呑気に飛び回っているのだ。マルフォイは慢心しきってその事に気付いていない。
「あのバカ。悪い癖が出てるな」
「ドラコ!後ろ!」
その瞬間ポッターの後ろに飛んでいたブラッジャーが戻ってきた。その気配を察知したポッターは躱すと、突然目の前に現れたブラッジャーにマルフォイは驚き、顔スレスレの所を通り過ぎた。
その一瞬の隙をポッターは見逃してはいなかった。マルフォイが怯んだ隙を狙い、一気に加速する。
「なっ!?クソっ!」
マルフォイもスニッチに気付き、自身も加速する。瞬発力も2000よりも2001の方があるようで直ぐにポッターに追い付くと、スニッチの正面の位置をタックルして奪い取る。
スニッチはグラウンドの溝の中に入り込む。それに追うようにマルフォイとポッターも溝の中に入って体勢を低くする。溝の中は角材の障害物が多く、少しでも顔を上げれば顔面衝突は避けられず、超スピードの為に下手すれば頭と身体が永遠の別れを告げる事になるかもしれない。
「追いつけないだろポッター!」
こんな状況でも煽ることを忘れないマルフォイ。ポッターはマルフォイ、スニッチ、ブラッジャーと集中しなければならない物の多さにイライラしながらも障害物を利用してマルフォイに追い付く。
「追い付いたぞマルフォイ!」
「いい気になるなよ!?」
マルフォイとポッターは正面を奪い奪われまいと押し合いながら飛び回る。そんな中後ろにいたはずのブラッジャーがいつの間にかいなくなっていた。
どこに行ったんだ、そうポッターが思っていると、突然正面から件のブラッジャーが現れた。咄嗟の対応にポッターはギリギリ躱すも、マルフォイは躱しきれず障害物に箒の先端がぶつかってしまい溝から弾き出された。
クルクル回転しながら箒から投げ出されるマルフォイは倒れ込む。
「ああー!ドラコ……」
「どうやらここまでのようだな。点差は20対160で圧倒的だが、スニッチを取られれば逆転負けになる。あと20点は取らないとな」
「そうだよね。諦めないで!スリザリン!」
ポッターは溝から出ると、スニッチに向かって右手を伸ばす。あと数センチの所でブラッジャーがポッターの右腕に直撃した
「ぐっ……!」
ポッターは右腕の激痛に耐えながら左手を伸ばした。
「ハリー!……ッ!この野郎!」
しつこくハリーを狙うブラッジャーにビーターの双子のウィーズリー兄弟の片割れが棍棒を力いっぱい振るった。
スルッ
「なっ!?」
ブラッジャーは棍棒にぶつかる寸前にするりと躱したのだ。
「そ、そんな馬鹿な!?ブラッジャーが棍棒を躱すなんて……!気を付けろハリー!そいつはヤバい!!」
ブラッジャーはなおもポッターを狙って飛び回る。ポッターはもうブラッジャーを気にせず左手と抱える箒に力を込める。そして遂に。
「とっ……た!!」
ポッターの左手が、スニッチをとらえた。そのままバランスを崩したポッターは箒から投げ出され転がり落ちた。
170対160
スリザリンは2年連続、初戦のグリフィンドールに敗れたのだった。
次回をお楽しみに!