ハリー・ポッターと呪われし末裔   作:九空揺愛

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ちょっと短めです。


決闘クラブ

 

 

170対160

 

スコア表に記されたどうしようもない結果に、背中を強く打ったマルフォイは体を動かす事も出来ず目だけでその事実を突きつけられていた。

あんなに大口叩いたのに負けた……。ニンバス2001を用いたのに負けた。勝つことが約束された試合だったのに……。悔しい気持ち惨めな気持ちが立ち込める。

そんな中、スリザリンの敗北が嬉しくて仕方がないのか、他の三寮の歓声が盛大に包み込んだ。

 

「ドラコ……」

「慢心……だな。勝てるチャンスは間違いなくあった。ニンバス2001という箒の優位性から慢心が生まれたそれだけだな」

「ねえザック。ドラコの元に行こう」

「……そうだな」

 

俺たちは観客席を抜け、倒れているマルフォイの元に行く。

 

「…………あぁ……ラミレスに……グリーングラスか……」

 

力無く俺達の名前を呼ぶマルフォイ。グリーングラスは持っていたひざ掛けを畳んでマルフォイの頭の後ろに挟む。

 

「お疲れ様。ドラコ……。試合は負けちゃったけど、凄かったよ」

「……ああ」

 

マルフォイは朦朧とした意識を保ちながら俺を見る。

 

「……ラミレス。……ぼ、僕の敗因は……なんだ?」

「そんなの自分が一番分かってるんじゃないのか?」

「……は、はは……そうだな」

 

マルフォイはそのまま目をつぶった。完全に意識を手放したのだろう。俺とグリーングラスは顔を見合わせると、気絶したマルフォイを背負ってクィディッチ場を後にした。

あとから聞いた話だが、グリフィンドール側で同じく倒れていたポッターも右腕の骨折と言う重症だったが、駆け付けたロックハートに痛みを和らげるとか何とかで右腕の骨そのものを消してしまうという事故が起きていたとか。やっぱりあいつはダメだな。

 

 

それから2ヶ月が過ぎようとしたある時だった。

 

 

「皆さん集まって!さあ、私の声が聞こえますか?私の姿が見えますか?結構結構!ダンブルドア先生から私がこの決闘クラブを開くお許しを頂けました。私自身が数え切れない程経験してきたように、自らの身を守る必要がある万一の場合に備えて皆さんをしっかり鍛え上げる為です!」

 

大広間で生徒達を見渡しながら演説しているのはロックハートだ。やつは金色の舞台の上に立ち、いちいち大げさな挙動を加えながら、まるで芝居のように話す。

この2ヶ月の間、何人も『継承者』による被害者が出ていた。医務室にあるベッドの半分ほどが石化した生徒で埋まった中始まったのが今回の『決闘クラブ』と言う茶番だ。

午後の授業がこの無能の立ち上げた決闘クラブの実技演習に変わったと聞いた時は、この学校の正気を疑ったが、参加は強制のため出ることになった。

 

「では助手のスネイプ先生をご紹介しましょう。訓練を始めるにあたり短い模範演技をするのに勇敢にも手伝って下さるというご了承を頂きました。しかし若い皆さんにご心配をおかけしたくないので先に言いますが、みなさんの魔法薬の先生を消したりはしませんよ?ご心配めされるな!」

 

ロックハートは案外、他人の神経を逆撫でする事に関して天性の才能を持っているのかもしれない。コケにされたスネイプの形相は鬼のように歪み、教師という立場がなければ今すぐにでもロックハートに呪いをかけてしまいそうだと彼のファン(もはや信者の域の人達)以外は思っただろう。ぶっちゃけあいつはスネイプにぶっ飛ばされた方がいい薬になる気すらする。

 

「御覧のように、私達は作法に従って杖を構えます」

 

二人は杖を顔の前にサッと立てると、素早くなぎ払うように杖を振って深くお辞儀した。

 

「三つ数えたら術をかけます。いきますよ?1……2……3!」

 

そう数え終えるとロックハートはニコリと笑って杖を下ろした。なんのつもりか余裕すらあるその動き。だがその隙をスネイプは見逃さなかった。速攻で撃ち込んだ武装解除呪文がロックハートを捉え、壁際までぶっ飛ばされた。

 

「な、なるほど……!生徒にその術を見せたのはお見事でした。が、あまりにも見え透いていた。止めようと思えば、簡単に止められて────」

「まずは生徒達に、有効的な術の防ぎ方を教えた方がよろしいのではないですかな?吾輩は貴殿が回避出来るまで何度でもやってもよいのですが……いかがかな?」

「い、いえ!模範演技はこれで十分!これから皆さんの所へ降りて行って二人ずつ組んでもらいます。スネイプ先生、お手伝い願えますか?」

 

ロックハートとスネイプの二人は生徒達の群に入り、二人ずつ組ませていく。

どうやら生徒の方で好きな生徒を選ぶ事は出来ないらしく、組もうとしていたポッターとウィーズリーは離されていた。

 

「ウィーズリー、君はフィネガンと組みたまえ。ポッターは……ふむ、ラミレスだ。かの有名なポッターとラミレスがどう捌くのか拝見しよう。グリーングラスはグレンジャーと組みたまえ……」

 

その瞬間、大広間がざわざわとざわめき始めた。

 

「生き残った男の子と悲劇の少年の戦いだ……」

「魔法界のビッグネーム対決……!」

 

そんな感じのワードが飛び交う。そんな中、マルフォイが俺の肩に手を置く。

 

「やったなラミレス。君ならポッターなんて一捻りだろう?」

「まぁ、スネイプもそれを承知で組んだんだろうな」

 

俺とポッターは舞台に上がると、

 

「ザック、いい勝負にしよう。負けないからね」

 

そんな呑気な事を言うポッター。俺は何も言わずに杖を構えた。

 

「それでは、行きますよ?ルールは杖を奪うだけ!杖だけですよ?大怪我する2人を見たくないですからね」

 

そんな事は分かってる。だが、少し小手調べとしてポッターの実力を見てみるのも面白いかもしれない。向こうも自信満々に杖を構える所を見ると、去年1年間で会得した術を試すチャンスとみているのかもしれない。

 

「1……2……3」

リクタスセンプラ(笑い続けよ)!」

 

開幕と同時にポッターの呪文が飛んでくる。基本魔法集の魔法だ。小手調べとして使ってきたのだろうが、この程度なら無言の反対呪文でどうにでもなる。

俺は放たれた銀色の閃光を弾き飛ばす。ポッターは驚いた様に目を見開くも杖を持つ力を強める。

 

エヴァーテ・スタティム(宙を踊れ)!」

 

これも基本魔法集の魔法だ。ジャブにしても弱すぎる。

 

「くっ、エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

やっと実戦レベルの呪文が飛んで来たが、所詮は2年生レベル。大した威力はない。

 

「なんで、反撃しないんだい?」

 

ポッターは反撃しない俺に語調を強くしながら問うて来る。ジャブ2回と正面攻撃1回程度で何をいってるのだろうか。

返事をしないでいると、ポッターの眉が釣り上がる。

 

「ザック、本気で来いよ。それともザックは僕が怖いのかい?」

「……」

 

安い挑発だな。俺は心の中で溜め息を吐く。まあ、ただの2年生なんてこんなものだろう。それにポッターが特別、呪文の勉強を率先してやっている訳でも無さそうだし、期待するだけ無駄という訳か。

 

「ハリー!そんなやつぶっ飛ばしちゃえ!」

 

外でウィーズリーが叫ぶ。スリザリン以外の寮の生徒達は気が付くとポッターの応援の声が溢れていた。

 

「ミスターラミレス……ポッターの魔法を無言反対呪文で無効化するのは流石だが、参加している以上真面目にやらぬか。それとも、やる気のないなら出ていっても構わんぞ?」

「いえ、分かりました」

 

スネイプに指摘された。その気でやればポッターを再起不能にしてしまいそうだが……仕方がない。

 

エクスペリア(武器よ去)────」

サーペンソーティア(ヘビよ出よ)!」

 

外野から放たれた光が蛇となって舞台の上に現れる。出てきた蛇は日本のマムシとかいう種類の蛇で強い毒を持っていたはずだ。

これを放ったのは、

 

「マルフォイ、お前……」

「おいポッター!お前にこの蛇をどうにか出来るか?ま、お前相手にラミレスが出るまでもないだろうさ!」

 

マルフォイが放った蛇がしゅるしゅると舞台の上を這い回ると、スネイプが出てくる。

 

「動くなポッター、外野からのものだ吾輩が追い払ってやろう」

「いえいえ私にお任せあれ!」

 

スネイプの声を遮り、蛇の前に躍り出たロックハート。先程の模擬戦で披露してしまった無様な姿とイメージを返上したいのだろう。正直どうなるかは分からないが、この無能教師のやる事だ。間違いなく事態がいい方に進むとは思えなかった。

案の定、放たれた呪文では蛇をどうにかする事は出来ず、むしろ変に刺激してしまった事で興奮状態となっていた。

このままでは近くにいる生徒に飛びつかないとも限らない。

俺は心の中で舌打ちすると、

 

やめろ

 

囁くように一言告げる。誰にも聞こえないように蛇に向けて言った言葉に気づいたのか蛇はこちらを向くと、威嚇しながらこちらにやってくる。

蛇語(パーセルタング)

限られた人間にしか使うことの出来ない特殊な言葉。

ダンブルドアには誰にもこれを使っている所を見られてはならないと言われているが、この事態だ。やむを得ないだろう。

蛇は順調にこちらに近づいてくる。いいぞ、そのままこっちに来させてから落ち着かせれば────

 

ザックに手を出すな!去れ!

 

俺はばっと顔を上げる。なんとポッターがこちらに歩きながらシーシーと喋っていたのだ。

 

どういうことだ?

 

ダンブルドアがかつて俺に告げたのは蛇と喋る力は殆ど存在しないという事だった。蛇と喋る力を、こいつも蛇語使い(パーセルマウス)だと言うのか?とはいえ、しまったな。こっちに向かっていた蛇はポッターの方に振り返ってしまった。

 

動くな!

 

ポッターの一言に蛇は大人しくなると、スネイプがすかさず蛇に呪文を唱え、蛇は灰のように消えていった。

気が付くと決闘クラブの会場は静まり返っている事に気づいた。そんな中、1人の生徒が叫び出す。

 

「い、いったい何の冗談だ!」

 

向けられたのは敵意。

彼らは皆、まるで恐ろしいものを見るような表情をしている。ポッターは置かれている状況が分からないのか、訝しみながら周りを見ている。

 

「ハリー、こっちに来て」

「はやくここから出ましょう」

 

ウィーズリーとグレンジャーに引っ張られるように舞台から下りると、静まり返る会場の中立ち去っていった。

 

「あいつ……蛇語使い(パーセルマウス)だったのか……」

「嘘だろ……やっぱりハリー・ポッターが『継承者』なのか?」

「でも蛇語使い(パーセルマウス)に碌な魔法使いはいないって……」

 

なるほど。とこの状況から以前ダンブルドアに言われた事を思い出し、俺の中で合点が行く。

俺は相手が居なくなり居る意味の無くなった舞台を下りる。

 

「お、おい……ラミレス……」

 

マルフォイとグリーングラスが俺のところにやって来る。静まり返る会場から自然消滅するが如くどんどんと生徒たちが出ていく。

俺たちもその流れに入り、スリザリン寮に戻る。

 

「……ねぇザック」

 

スリザリン寮の談話室の一角で突然グリーングラスが声をかけてきた。

マルフォイもグリーングラスと目配せすると、

 

「ザックも蛇語使い(パーセルマウス)なんじゃない……?」

 

恐る恐る問いかけてくる声に若干の震えがあった。

まさか俺の声も聞こえていたとはな。誰にも聞こえないように細心の注意をはらって使ったつもりだったが。

 

「そうだ」

「……!」

 

一瞬の驚きが目に浮かぶ2人。当然といえば当然だ。『継承者』事件が起きてる今、蛇語使い(パーセルマウス)なんて怪し過ぎる。いくら純血な2人であっても狂人に等しい行為を繰り返している『継承者』かもしれない俺と一緒にいたくないだろう。

 

「でも……ザックはやってないんだよね?」

「……お前たちの想像に任せる」

 

俺はそう告げると寝室に向かった。

 




次回をお楽しみに
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