「……ここは?」
「気が付いたようだね。ザック」
俺はぼんやりする視界の中、辺りを見渡す。周りには蛇の銅像がいくつも並んでおり、奥には巨大な人の顔が彫られていた。
「なるほど……ここが『秘密の部屋』か」
「その通り。秘密の部屋へようこそザック」
俺の後ろからぬっと現れたのはハンサムな青年だった。
俺は身体を動かそうとするも、どうやら大の字に縛り付けられているらしい。よく見ると、地面にはウィーズリーの妹が死んでいるかのように倒れている。
「ウィーズリーの妹が倒れているって事は、お前がトム・リドル本人って事か」
「ご名答。実に察しがいい。察しがいいが、僕は『記憶』だ」
「『記憶』?まぁいい。それで、お前はこれからどうするつもりなんだ?今度は俺がウィーズリーの妹の代わりをさせられんのか?」
俺の問いかけにクスクス笑うトム・リドル。いちいち小馬鹿にしたような態度にイライラする。
「残念ながら違うよザック。僕は君になるんだ。そして実質的にかの偉大なる魔法使いであるヴォルデモートが復活するんだ」
「?……どういうことだ?」
「おや?肝心なところで察しが悪いんだねぇ。僕の名前、本名は『トム・マールヴォロ・リドル』は組み替えると……」
トム・リドルは杖をペンのように空中を走らせ、自分の名前が浮き上がってくる。名前を書き終えるとサッと手で払う。浮き上がっていた文字は新たなワードへと組み替えられて行く。そして映し出された文字は、
『私はヴォルデモート卿だ』
そう、トム・リドルこそヴォルデモートだったと言うわけだ。
「まさか性懲りも無くまた俺の前に現れるとはな……」
「ああ、だが今度は去年とは違うのは分かるだろうザック?君は捕まってこれから僕と言う魂の器として生きていくんだ。この小娘の命を生贄に行う儀式だ」
「くっ……」
数時間前
「とうとう起こりました……」
突然集められた職員室で、現校長代行であるマクゴナガルがそっと話し始めた。
「生徒が二人、怪物に連れ去られました。『秘密の部屋』の中へです。……ホグワーツはもう……終わりです。生徒を家に返しましょう」
この場にいる全員が分かっていた。何を隠そう、あの文字を最初に見たのは、生徒ではなく教員達だったのだから。
『彼女達の白骨は、永遠に『秘密の部屋』に横たわることだろう』
あの廊下に新たに書かれた赤いペンキの文字。静まり返る職員室に、一人ひとりが漏らす悲鳴、呻き声が響いた。
そんな中、マダム・フーチがポツリと呟いた。
「誰ですか?一体、どの子が連れ去られたのですか?」
恐る恐る確認を取るように呟いた。マクゴナガルは全員から向けられる視線の中、そっとその名前を告げた。
「ジニー・ウィーズリーです。それと……アイザック・ラミレスです」
oh……と周りの人々は驚いたように顔を見合わせる。そんな中、占い学の教師であるシビル・トレローニーが口を開いた。
「ア、アイザック・ラミレスは本当に捕まったのですか?彼はその……『例のあの人』と同じ────」
「よしなさいシビル!」
マクゴナガルの怒声が職員室内に響き渡る。職員室内はシンと静まり返る。マクゴナガルは呼吸を整えるといつものように冷静な口調で続けた。
「あの子は『アイザック・ラミレス』です。それ以上でもそれ以下でもありません。例え『例のあの人』と同じ血が流れていようと、あの子はあの子。ダンブルドア先生もそう仰ってました。そしてそれを理由にあの子を拒絶してしまえばそれこそあの子は第二の『例のあの人』になってしまうでしょうと。まだ純粋な子供のうちに私たちで導いてあげるのです」
「そ、そうですわね……」
トレローニーは俯きながら引くと、マクゴナガルは教師陣の顔を見渡した。
「状況を整理します。今現在、この城の中で行方不明なのは、ジニー・ウィーズリーとアイザック・ラミレスだけです────」
マクゴナガルが喋り終わる前に突然職員室のドアが大きな音を立てて開かれた。
入ってきたのは笑顔を浮かべたギルデロイ・ロックハートだった。ロックハートは空気を察知出来ないのか、誰一人として笑っていない中、ヘラヘラと職員室内の教師達に笑いかける。
「失礼、ついウトウトしていたもので召集に遅れてしまいました。何か聞き逃してしまいましたかな?」
職員室内の空気が困惑から怒り一色に変わるのが教師陣全員が感じ取った。
マクゴナガルは小さくため息を吐き、スネイプはロックハートを居殺さんばかりに睨みつけている。
「どうなされたのですかみなさん?」
「これは、これは。まさに適任者のご到着だ」
流石に何かを感じ取ったのか、ロックハートの笑顔が少し引き攣る。
そんな中、スネイプが彼の前にやって来てそう告げた。
「まさに適任。ロックハート。生徒二人が怪物に拉致された。グリフィンドールの女生徒と、スリザリンの生徒一人ずつだ。『継承者』の言を信じるのなら、今彼女達は『秘密の部屋』にいるらしい。さて、いよいよあなたの出番というわけですな」
スネイプの言葉が進むにつれ、血の気が引いていくロックハートにスプラウトが追い打ちをかける。
「その通りだわ、ギルデロイ。いつも仰っていたではありませんか? 自分はとっくの昔に『秘密の部屋』を見つけていたとか」
「わ、私はその……あの……」
「そうですね。では、ギルデロイ。この件はあなたに全てお任せしましょう。伝説的な貴方の力に」
「あの……」
「あなたが実力を示す絶好のチャンスです。どうぞご自由に、お一人で怪物と戦ってください。誰も邪魔することはありません。『秘密の部屋』の場所はお分かりなのでしょう?では、お願いします」
絶望的な目で周りを見渡すロックハートに、最後通牒を言い渡すマクゴナガル。ロックハートは他の教師達の顔を見渡していき、助けを求めるも、誰一人としてロックハートを助けようとする空気は漂ってはいなかったのは鈍感なロックハートでも感じ取ったようだ。
「……よ、よろしい。で、では、部屋に戻って……支度をします」
ロックハートは声を震わせながら職員室から出て行った。
私は逃げるように職員室を飛び出し、闇の魔術に対する防衛術の準備室に飛び込んだ。当然今から行うのは秘密の部屋への戦いの準備などではない。この学校から避難するためだ。
私は確かにダンブルドアに匹敵する経験と修羅場、冒険を潜り抜けてきた────もちろん
……取り敢えずもう時間が無いし、早く荷造りしてここを立ち去ろう。どうせ教師どもは今頃私が戦うための準備をしていると考えているだろうし、ここにはやって来ないだろう。
ある程度荷造りが完了すると、準備室のドアが開き、誰かが飛び込んできた。
「あぁ……ポッター君とウィーズリー君か……わ、私は今取り込み中でね。要件なら急いでくれると────」
「先生!僕たち先生にどうしてもお願いしたいことがあるんです!どうかジニーとザックを助けてください!先生しかもう、この城で頼りになる人がいないんです!どうか先せ────」
ポッターとウィーズリーの言葉が止まる。驚いた様な表情を浮かべる二人だが、そんなことは気にしてはいられない。
「先生……どちらに行かれるんです?」
震える声で尋ねてくるポッター。はっきり言って今の私は彼らの相手をしていられるほど暇ではない。だから簡潔にかつ逃げるのだと分からないように遠回しに、
「あ~。その~。まあ、なんだね……私は緊急の用事が出来てしまってね……。だから仕方がないんだよ……」
「僕の妹はどうなるんです!?」
「あ~。妹ね。そう。そのことだが……まったく気の毒なことです。ですが……あ~。まあ、私も残念には思っているよ。そう。残念だ。この学校で一番そう思っていますよ」
「あなたは『闇の魔術に対する防衛術』の先生でしょう!? それなのに────」
「ああ、ハリー、ハリー、ハリー。そうなのですけどね。でも、職務内容にはこんなことは含まれてはいなかった。だから私は……行かなくてはいけないのですよ」
私は壁に貼った私の素晴らしい笑顔の写真を外していく。するとポッターが私の腕にしがみついた。
「先生はいくつもの困難と冒険を成し遂げて来たんですよね!?あの本の内容のように!?」
「本は誤解を招くものだ!ちょっと考えればわかることだろう?どうして私の本があんなに売れていると思う?それは本に書かれている話が、私こそがやったことになっているからだ。『チャーミング・スマイル賞』を受賞している、この私がね。それがどうだい?もし、本当の話を書いていたとしたら? 私ではなく、アメリアの醜い魔法戦士がやったと、本当のことを本に書いていたとしたら?結果は分かり切っている。誰も本を買いはしなかった。売り上げは半分以下だっただろう。要するに……真実なんてそんなものなのですよ……」
私がここまで言うと、遂に二人とも黙り込んだ。これでやっと作業の続きが出来る。
私は作業を再開すると、
「……嘘だったんだ。何もかも。自分は何も出来ない癖に誰かの偉業を、誰かの思い出を泥棒して、踏みにじって、自分の思うように作り替えたんだ」
「何も出来ないなんてことは無い!」
まったく喧しい。荷造りの邪魔にしかならない。こいつらもヤるか。
「『忘却術』は大得意なんだ。本の内容をバラされると売れなくなってしまうからね。だから君たちも……忘れてもらいますよ!」
ローブの中の杖に触れ、私が振り向いて杖を構える前に彼らの杖が私に向けられていた。
「そんな事させない。杖を下ろして」
「わ、私にどうしろというのだね?」
「一緒に来て。あなたは教師としての義務を果たすべきだ」
私は二人に杖を突きつけられながら準備室を追い出され、どこかに連れて行かれた。
「……ん」
「おや?起きたかいザック」
俺は再び目を覚ます。どうやら寝ていたようだ。
「儀式には時間がかかってね。小娘が完全に弱るまで魔力を吸い尽くさないといけないんだ。ま、あと10分と言ったところさ。それまで君には眠ってもらってたんだけど、暇だったので君の過去を見させてもらったよ」
なんだと?こいつ……。
相変わらずニヤニヤ笑うトム・リドル。やつは俺の頬に触れる。
「君って綺麗な顔をしているね。まるで女の子のようだ。この黒い髪はゴーント家の血を強く受け継いでいる証拠だ。そしてその赤い瞳は母、ペトラの瞳だね。これもゴーント家特有の目だ。まだ君のその目には何も宿ってないようだが……まぁいい。それより」
トム・リドルは後ろを振り向き、
「隠れているのは分かっているよハリー。君とも話がしたかったんだ」
トム・リドルがそういうと、足音が聞こえてきた。
「トム?一体何をしているの?それに何で君がここに……。君は50年前の人物のはずだよね。君はゴーストなのかい……?」
「『記憶』だよ。日記の中に50年間残されていた記憶が僕だよ」
ポッターの質問にトム・リドルは答える。だんだんと近づいてくるポッターの足音は突然早くなる。
「ジニー!死んじゃ駄目だ!お願いだから目を開けて!」
ポッターは倒れているウィーズリーの妹に近づき、軽く揺するも当然反応はない。ポッターはトム・リドルの方を見ると同時に俺とも目が合った。
「ザック!良かった!ザックは無事なんだね!」
「ポッター逃げろ!こいつは────」
「
トム・リドルがポッターの杖を俺に向け、呪文を唱えた。俺の口はチャックにでも閉められたかのように固く閉ざされ、喋ることか出来なくなった。
「トム、一体ザックに何をしたの?」
流石のポッターも今の一連の出来事に不信感を抱いたようだ。トム・リドルはクスクス笑いながらポッターの質問に答えた。
「少し黙ってもらったのさ。お口チャックとはよく言ったものだろう?」
「杖を返してトム。これから必要になるかもしれない」
「いや、君には必要にはならない」
ポッターがトム・リドルに手を伸ばすも彼はくるくるとポッターの杖を弄んでいるだけだった。
「僕はこの時をずっと待っていたよ、ハリー・ポッター。君と話せるこの時をね」
「いい加減にしてくれ!」
ポッターはいよいよ我慢の限界のようだ。
「君は分かってないようだけど、ここは『秘密の部屋』だ。話なら後で出来る。今はそれよりここを出なくちゃ。杖を返してくれないか?トム」
「今ここで話すんだよハリー」
トム・リドルはそう言った。