ハリー・ポッターと呪われし末裔   作:九空揺愛

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アズカバンの囚人編
吸魂鬼


 

ダンブルドアに手紙を送ってから約1ヶ月が経ったが、一向に返信が送られてくる事はなかった。手紙という意味ではグリーングラスやマルフォイ、ポッターやグレンジャーからも送られてきた。後者の2人に関しては俺の住所を教えた覚えがないのだが、どうやって知ったのだろうか。

俺はダイアゴン横丁をめぐり、3年生用の教科書を揃えると漏れ鍋に戻る。すると、突然声を掛けられた。

 

「久しぶりザック!」

 

俺に声を掛けて来るやつなんて極わずかだ。それにこの声は毎年よく聞いている。声の方を見ると、案の定そこに立っていたのは

 

「ああ、久々だなポッター」

 

笑顔で立つポッター。その後ろではウィーズリーとグレンジャーが何やら口論をしているようだ。ウィーズリーの腕にはウィーズリーがよく連れているペットの大きなネズミ(モルモット?)がグレンジャーの腕にはこれまた大きなネコが収まっていた。

 

「ああ、あの二人はペットの件で最近喧嘩続きなんだ」

「ネコとネズミは確かにあまり合うとは言えないもんな」

 

その後、二人を仲裁しに行ったポッター。そしてこちらに気付いたグレンジャーは笑顔で手を振り、ウィーズリーは相変わらずなんとも言えない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇザック聞いてよ!ロンったら私のネコが凶暴で野蛮だって言うのよ!こんなに可愛いのにね!……ね、クルックシャンクス」

 

いつの間にか俺はポッター達の席でお茶……というよりかぼちゃジュースを飲んで座っていた。今は隣に座ってきたグレンジャーからウィーズリーの愚痴を聞かされていた。

それにしてもそのネコが可愛い……か。

人の感性はそれぞれだから何も言わないが。

 

「ザックは聞いてる?その……シリウス・ブラックについて」

「シリウス・ブラック……」

 

ポッターから出てきた言葉に俺はリピートする。確か現代魔法史に出てきた名前だったはずだ。ヴォルデモートの側近で13年前のポッターの家に襲撃した際にポッターの両親を裏切り、ピーター・ペティグリューと言う友を粉々にした……だったか。現在はアズカバンで収監されているはずだ。

 

「そのシリウス・ブラックがどうかしたのか?」

「最近そのシリウス・ブラックが脱獄したのよ。完全無欠のアズカバンから」

「なるほど、それで要所要所に魔法省の役人が目を光らせてるわけだ」

 

俺は目だけを動かして辺りを見渡す。一見普通の客に見えるが、時々辺りを見回す人々があちこちにいる。

 

「ザック?」

「……いや、何でもない」

 

気付けば俺は役人に対して鋭い視線を向けていた。視線を正面に戻す。

シリウス・ブラックが脱獄した理由が何か分からない。だがいくらなんでもこの狭い漏れ鍋にこの数いるのは少し変だ。

 

「ザックも気を付けてね?シリウス・ブラックはいつどこで現れるか分からないし」

「ああ、そうだな」

 

俺が立ち上がるとポッターとグレンジャーにそう言われ、俺は漏れ鍋の店奥に行った。

 

「アイザック・ラミレスだな?」

「……ああ」

 

やはり来たか。漏れ鍋店内で見回っていた魔法省の役人が時折俺を見ていたのは気付いていた。恐らく……いや、十中八九シリウス・ブラックについてだろう。

 

「君に問いたい事がある。我々に付いてきてくれるな?」

「名乗りもしない連中の所にノコノコついて行くわけないだろう?あんた達は小さい頃に知らない人について行っては行けないって教えて貰わなかったのか?」

 

俺の言葉に小さく舌打ちをする役人達。ポケットから魔法省の職員である顔付きの証明証を俺に突き付けた。

 

「我々は見ての通り魔法省の者だ。君の同行は義務付けられている」

「話ならここででも聞けるだろ。それともここじゃあ聞かれるとまずい話なのか?」

 

魔法省の役人達は俺に向ける視線を強める。その中の1人はそっと懐に手を入れた。俺もゆっくり後ろポケットに手を伸ばすと、

 

「おお、ここにおったのか!久しぶりじゃのうザック!」

 

突然俺の肩に手が置かれた。俺が後ろを向くと、長い髭を伸ばしたスラリとした大男、ダンブルドアが立っていた。ダンブルドアは俺と目が合うと微笑む。魔法省の役人達はダンブルドアを見ると、驚いたような顔を浮かべていた。

 

「ん?おお、これはこれは魔法省の。ザックに用があったのかのう?…………もしかしてなのじゃが、シリウス・ブラック脱獄にこの子が関わっていると考えているのではあるまいな?」

「いや、その……」

「違うのならよい。ささ、ザック。こっちに来なさい」

 

魔法省の役人達は項垂れる。俺はダンブルドアに連れられ、漏れ鍋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツ特急内

 

例え豪雨であろうとホグワーツ特急が止まる事はない。

新学期が始まり、多くの生徒を期待や不安と共にホグワーツへと向かう汽車の中。ガタゴトと振動に揺られながら、俺とグリーングラス、マルフォイは思い思いの事をしながら過ごしていた。夏休み前より更に大きくなったクラップ、ゴイルはもう俺たちと一緒に座れなかった為別のコンパートメントにいる。

 

「父上がシリウス・ブラック捜索の為に魔法省から吸魂鬼(ディメンター)をホグワーツに放って見張らせるらしい。全く、あんなおぞましいのを見ないと行けないと思うと反吐が出るね」

「やだな……早く捕まって欲しいよね」

 

マルフォイは顔を顰め、グリーングラスは不安そうに顔を曇らせていた。

かく言う俺は吸魂鬼(ディメンター)の事は見た事がない。詳細は以前本で読んでいたが、写真は載っておらず、説明では黒いフードを被ったこの世のものとは思えないおぞましい物だということだけだった。

 

「ところで、今年の『闇の魔術に対する防衛術』の担任って誰になるのかドラコは知ってる?」

「……リーマス・ルーピンというらしい。近くの車両に乗っているようだ」

「今年はちゃんと1年持つかなあ」

「どうだろうな」

 

グリーングラスの言葉も最もで、この列車に乗る誰もが思っているだろう。何せ今のところ入学して今まで1年間在籍した先生がいないのだ。

俺としても実戦が出来ないのは痛いので是非とも今年の先生はまともであって欲しかった。

 

ドォ……ン

 

「ん?」

「何……?」

 

不気味な音と共に突然停止するホグワーツ特急。マルフォイとグリーングラスが狼狽える。いつもならまだまだ距離があったはずだ。それに雨が降っているがまだ外が明るい。

 

「あ、ああ……!」

「ヒッ……!」

 

マルフォイとグリーングラスが小さく悲鳴をあげる。俺は眉をひそめて2人の視線の先を見る。そこにはユラユラ揺れる何かと細長いもはや人とは思えない体の何かが浮いていた。

 

吸魂鬼(ディメンター)だ……!」

「こ、これが吸魂鬼(ディメンター)……!」

 

マルフォイの必死の叫びがコンパートメント内に響く。俺たちは吸魂鬼(ディメンター)を見ているだけで寒気と自分の中の何かが消えていくような感覚に襲われる。

よく見ると俺たちの隣のコンパートメントで何かが起きているようだ。あれは……!

 

「ポッター!」

 

気付くと何故か俺はコンパートメントの扉を勢いよく開けていた。音に反応した吸魂鬼(ディメンター)はこちらを振り向くと、俺の中から何かを吸い取ろうとし始めた。

 

「な、何だ……身体が……」

 

身体から力が抜けていく。それどころか俺は近付きたくないのにどんどん吸魂鬼(ディメンター)に吸い寄せられている事に気付いた。俺の中で蠢くような酷い不快感が襲い掛かる。

すると俺の頭の中に俺の過去で最も残酷なあの記憶が蘇ってきた。母の絶叫。嗤う魔法使い達。自分自身が無力な事への屈辱感と壊れていく感情。そして憎しみ。あの時の記憶は今でも鮮明に覚えているが、その比じゃないぐらいリアルに記憶を引きずり出され、今それが行われているかのようだ。頭の中が憎しみに完全に包まれそうになったその時、

 

『今じゃ!』

 

俺の残された僅かな理性にダンブルドアの声が響く。

何が、"今"なんだ……?

俺の中の憎しみの侵食が一瞬止まる。その間その言葉の意味を考える。吸魂鬼(ディメンター)は確か人々の幸福な記憶を貪る生き物……そうか、この為に……!

俺は残された力で杖を引き抜くと

 

守護霊よ、来たれ!(エクスペクトパトローナム)!」

 

杖先から白い光が灯る。光はだんだん大きくなって行き、吸魂鬼(ディメンター)を包み込むと苦しむようにもがき逃げ去った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

俺は杖を下ろすとコンパートメントの扉に体重を預ける。呼吸は荒い。苦しい……。苦しい……。

俺はそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

「あ……!良かった!ザックが目を覚ました!」

 

俺はゆっくり顔を横に向ける。正面には心配そうに俺を見つめるグリーングラスと少しほっとした様な表情を浮かべるマルフォイが座っていた。俺はゆっくり起き上がる。

 

吸魂鬼(ディメンター)は……?」

「君が追い払ったんだよ」

 

俺の問いかけに対してコンパートメントの外から声が聞こえた。俺達は声の方を向くと、ヨレヨレの服を着た男性が立っていた。

 

吸魂鬼(ディメンター)を追い払ってくれてありがとう。私はリーマス・ルーピン。恐らく直ぐに私の事は知る事になるよ。そうだ!お礼と言ってはなんだが、これを食べるといい。気分が良くなる」

「これは……チョコレート?」

 

俺は受け取ったチョコレートとルーピンを交互に見ると、

 

「食べて。元気になる」

 

そういうとルーピンは廊下を歩いていった。今のが闇の魔術に対する防衛術の新しい担当か。

 

「お前たちは大丈夫か?」

「僕は大したこと無かったかな!」

「ドラコも十分震えてたでしょ」

 

何おう!と反論しようとするマルフォイ。どうやらこいつらは大丈夫そうだな。

俺はルーピンから受け取ったチョコレートを口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツに着き、各々準備を整え新入生歓迎会が始まる大広間に向かう。大広間に行くとスリザリンのテーブルが嫌に沸いていた。輪の中心を見れば先に行っていたマルフォイが気絶するフリをし、笑いを誘っているようだ。誰の真似か、などと考えるまでもない。吸魂鬼を前にして意識を失ったポッターの真似だろう。流石に2年連続でグリフィンドールに優勝杯を齎しただけあってポッターはスリザリン生達にとにかく嫌われている。その彼の醜態となれば喜んで然り、というわけだ。というか、お前もさんざんビビりまくっていただろ。

俺とグリーングラスはお互い見合わせてため息をついた。

俺達が席に着き、少しすると毎年恒例の一年生の入場と組み分けの儀式が始まった。

 

「あ、見て見て2人とも!あそこにいるあの子、実は私の妹なんだ〜!」

 

グリーングラスが嬉しそうに指を差す先には緊張しているのか、表情が固まっている女子生徒が立っていた。

 

「なんだグリーングラスの妹は緊張しているのかい?」

「そうみたい……大丈夫かなぁ」

 

マルフォイとグリーングラスがそう言って妹の行く末を見つめる。するとグリーングラスの妹が周りを見渡し始めた。そしてグリーングラスと目が合うと、妹の顔が綻んだ。

 

「どうやら緊張が解れたみたいだね。グリーングラスを見れてホッとしたって表情だ」

「お前たち姉妹は中がいいんだな」

「ま、まぁ……ね。あはは……」

 

マルフォイと俺の言葉に照れくさそうに頬をかいて笑うグリーングラス。

妹は結果的にスリザリンに入る事になり、グリーングラスの所に走って来た。

 

「お姉ちゃん!」

「アステリア!」

 

グリーングラス姉妹は抱きしめ合うと隣同士に席に着く。

 

「ザック、ドラコ、この子は妹のアステリア・グリーングラス!アステリア、自己紹介して」

「うん!はじめまして!アステリア・グリーングラスって言います。アステリアって呼んでください!よろしくお願いします」

 

アステリアはにこやかに自己紹介をすると、マルフォイと俺も各々自己紹介する。

 

「あ、貴方が、アイザック・ラミレス……!」

 

アステリアは俺の顔をまじまじ見ると俯いて黙り込んでしまった。どうしたんだ?

 

「あ、この子ザックのファンだからちょっと緊張してるみたい。気にしないであげて」

「俺の?」

 

驚いた。まさか俺にもファンがいるとは……。

ウィーズリーの妹のようにポッターのファンだと言うのなら分かる。だが俺の過去の話はただの悲劇でポッターのような英雄談ではない。

 

「この子にこれまであった学校の話をしてあげたらすっかりファンになっちゃったみたいで────」

「お姉ちゃん!!」

 

なるほど、よく分からんが過去のことではないようだ。

気付くと組み分けは終わり、食事が始まっていた。こちらも毎年恒例の各国の美味しい料理が並んでいる皿がテーブルに並べられており、どれも出来たてのように湯気が出ている。孤児院での食事はマトモな料理は出てこなかったからな。俺は久しぶりのホグワーツでの食事に感銘を受けていた。

食事を終えると、ダンブルドアが全校生徒に向けて夜礼を行う。大体が去年同様の注意事項と新任の先生の紹介だ。だが、今年はそれだけでは終わらないようだ。

 

「ホグワーツ特急での捜査があったようじゃから皆知っておろうが、我が校は今年アズカバンの吸魂鬼(ディメンター)達を受け入れておる。あ奴らは学校の入り口におるのじゃが……決してあ奴らに近づいてはならん。あ奴らに言い訳や願いは通じん。口実さえあれば、何の躊躇も容赦もなく皆に危害を加えるじゃろう。故に決して、あ奴らに危害を加えられる口実を与えてはならぬぞ?吸魂鬼(ディメンター)と意思の疎通は元来出来ぬ相談じゃからのう」

 

ダンブルドアがそういうと新入生歓迎会はお開きとなった。

 

 

 




次回もお楽しみに
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