ここから不定期更新となります。一応最低でも週に1話は投稿する予定ではありますので、今後もよろしくお願いします。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
マルフォイとグリーングラスは悲鳴を上げる。俺たちは木の根の中のような所に落ちたようだ。比較的柔らかめの根のおかげなのか幸い怪我はしていない。
「ふぅ……ぜ、全然怖くないね!こ、こんなの普通だよ!」
マルフォイは強がりを言う。しかし、どう見てもバレバレな事は俺もグリーングラスも一目で分かる。
「それにしてもここは何処なんだろ……次に進む為にもゆっくりしていられないし────ちょっ、何!?」
グリーングラスが反応するとその変化は訪れた。根だと思っていた柔らかい蔦は触手のようにうねうね動きだし、腕や足更には首にも絡み付いてきた。
「ひゃあ!な、何なんだよこれ!?」
「な、何……これ。気持ち悪いよぉ……!」
マルフォイとグリーングラスは触手に抵抗しているからなのか俺以上に触手に絡みつけられていた。
俺はこんな時にこそ冷静に考える事にする。
するすると登ってくる触手に気持ち悪さを感じながらも1つの解答に辿り着いた。
「二人とも動くな!これは『悪魔の罠』だ!もがけばもがくほど殺される可能性が高くなるぞ!」
「あ、悪魔の罠?」
「ラ、ラミレス!どうすればいいんだよ!?」
「落ち着け!とにかく動くな!じっとしていれば解放してくれるはずだ!」
「な!?抵抗せず殺されるのを待てって言うのか!?」
「違う!黙って見ていろ!」
俺は目を瞑りピタッと動きを止める。すると俺の体が触手に飲み込まれて行く。
「ザック!」
グリーングラスは悲鳴じみた声で俺の名前を叫んだ。俺の体は直ぐに触手から解放され、下の空間に着地する。
「俺は大丈夫だ!とにかく微動だにするな!殺されるぞ!」
「う、うん……!」
「こ、こんな所で死にたくないし……な」
グリーングラスとマルフォイは目を瞑り、悪魔の罠から解放された。取り敢えずこの2人は無事みたいだな。次の部屋に行くと、広い空間に1本の箒、そして無数の何かが空中を飛んでいた。
「あれは……鍵?」
「なるほど。あそこから本物の鍵を手に入れないと先に進めないって事か。マルフォイ」
「な、なんだよ」
俺がマルフォイの名前を呼ぶとビクッと反応する。箒を取りマルフォイに押し付けた。
「な、なんだよラミレス!僕はやらないからな!?」
「お前、幼い頃からクィディッチのシーカーやってたんだろ?なら箒の技術はこの中で1番上手い」
「な!?なんで僕が────」
「お前、箒の技術はポッターより上なんだろ?あの時だって自分がスリザリンのシーカーなら負けなかったって言っていたじゃないか」
「うっ……」
俺は更にマルフォイに箒を押し付ける。
「ポッターならやり切ったと思うぞ?」
「────!」
「ウィーズリーもグレンジャーも授業を見る限りでは凡人と大差ない。だがポッターは天才だ。あの中でここを突破出来るのはあいつだけしかいない。お前はポッターに負けてもいいのか?」
そこまで言うと、マルフォイは俺の手の箒をひったくり跨った。
「そうだ。ポッターに出来たのなら僕にだって出来るはずだ。僕はクィディッチのクラブチームのシーカーだったんだ。昨日今日始めたポッターなんかに負けてたまるか!」
マルフォイは一気に飛び上がると、鍵たちを一瞥する。そして一際羽のボロボロなやつを見つけた。あれだけ他の鍵たちとは明らかに違う。あれしかない。マルフォイは手を伸ばして飛んでいく。すると突然飛んでいた鍵たちがマルフォイに襲いかかってきた。マルフォイは逃げながらボロボロ羽の鍵に向かって行く。
(スニッチと違って何処に逃げようとしているのか手に取るように分かるぞ!これなら!)
マルフォイは箒の上に立ち、手を伸ばした。
「あれって……!」
「ああ。グリフィンドールvsスリザリン戦でポッターが見せたやつだな」
マルフォイは少しずつ足を前に出し手を伸ばす。そして意を決して鍵に飛びついた。
「
真っ逆さまに落ちるマルフォイをグリーングラスは魔法で寸前に止めて着地させた。
「良くやったグリーングラス」
「素直にありがとうっていいなよ……」
「お前ら、早く次の場所に行くぞ!鍵共がそいつを取り返そうとこっちに来てるぞ!」
俺は二人にそう叫ぶと、一斉に俺たちを串刺しにしようとしているのかの如く落ちてくる。
「うぎゃああああああ!」
マルフォイは頭を手で守りながら扉の鍵を開けに走る。扉の前についたマルフォイだったが、パニックになって手がおぼつかない。
「
俺は防御呪文を掛けて少しの間の時間稼ぎのバリアを張る。
「早く開けろ!」
「やってる!」
「ちょっと貸して!」
グリーングラスがマルフォイから鍵をひったくるとガチャガチャっと扉の鍵を開けた。
マルフォイとグリーングラスが先に中に入ると、俺は防御呪文の内側から吹き飛ばしの呪文を使って鍵を吹き飛ばし、扉の中に飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……どうだ。ポッターだけじゃない……僕だってあれぐらい容易いさ!」
マルフォイは肩で息をしながらドヤ顔を浮かべる。俺とグリーングラスは顔を見合わせると、グリーングラスは笑い出した。俺も少し笑ってみせると、マルフォイは混乱したように俺たちの顔を交互に見つめた。
「な、なんだよ!何が可笑しいんだよ!?」
「違うよドラコ。こんな時でもドラコは変わらないなぁーって思ってたら面白くて。ふふ」
「ま、気にするな。寧ろそこがお前の長所だ」
マルフォイは訳が分からなそうに頭にハテナマークを浮かべて飛び出た石の上に座り込んだ。俺たちは息を整えるために少し休むと、再び先に進んだ。
「何だ?ここ……」
「何かをした後なのかな?」
「恐らくな。どうやらここの部屋に仕掛けはない────ん?あれは……」
俺の視線の先には2つの人影が浮かんでいた。1つは座り込んでおり、もう1つは倒れているのか?俺はほか2人に杖を構えるように言うと、杖を持って警戒しながら近づいて行く。
「────!」
すると、その人影が突然動き出した。杖を構えている様な影に俺たちは警戒を強めて杖を握る手を強める。
「誰!?そこにいるのは!?」
向こうはそう叫ぶ。……どこかで聞いた事ある声だな。
「俺はアイザック・ラミレスだ!お前は誰だ!」
「ちょっ!?ザック何言って────」
「ザック !?私よ!私!ハーマイオニー・グレンジャー!」
「グレンジャーだと?」
なるほど、道理で知っていた声なわけだ。マルフォイは向こうの方を睨みつけると、声の言っていた通りグレンジャーが走って来た。
「ザック助けて!ロンが気を失ってるの!ロンは魔法使いのチェスで犠牲になって……」
俺たちはグレンジャーに連れられ、ウィーズリーの元に行くと、ある事に気付いた。
「おい。ポッターはどこだ?」
「ハリーは……」
グレンジャーに話を聞くと、俺は指示を出した。
「マルフォイ、グリーングラス。お前達はグレンジャーとウィーズリーを出口まで運んでやってくれ。俺はポッターの所に行く」
「は?なんでこの僕がウィーズリーとグレンジャーなんかを────」
「分かった」
グリーングラスはグレンジャーの元に言ってウィーズリーを持ち上げようとする。
「ラミレス。僕は嫌だね。ここまで来たのにポッターを捕まえられないなんて────」
「マルフォイ。……頼む」
「……はぁ分かったよ」
マルフォイはやれやれと両手をヒラヒラ振るとグリーングラスの方に歩いて行った。俺は次の扉の方を向き直すと、扉を開けて先に進んだ。
「ご機嫌よう。ポッター」
「貴方は……!?なんで貴方が……!」
そこに立っていたのは黒い長髪の男ではなく、ターバンを巻いた男、クィレル先生だった。クィレル先生はいつもの頼りない喋り方と挙動不審な動きをしておらず、いつになく堂々と部屋の中央に立っていた。
僕は2、3度見をするもその姿は変わらない。
「スネイプは……だってスネイプはクィディッチで僕を殺そうとして────」
「確かに彼にはハマり役だが、スネイプではない。私が殺そうとしたのだ」
クィレルは言い聞かせるように言う。
「スネイプは寧ろ反対呪文で邪魔していたのだ。あの時目を離さなければ、上手くいっていたのに!」
クィレルは地団駄を踏むと、後ろに置いてある鏡に目を向けた。
「見える……私があの方に渡す瞬間を。だがあの石は、賢者の石は、どうやって手に入れる!」
その子を使え
何処からともなく声が響く。僕はその声に何処か懐かしさを覚える。すると、クィレルが勢いよく振り向いた。
「ここへ来いポッター!早く!」
クィレルはそう怒鳴る。僕は混乱しながらもクィレルの所まで行くと、目の前の鏡『みぞの鏡』の前に立つ。
「簡潔に、お前は何が見える?」
僕が以前見た時は両親と共に自分が幸せそうに写っていたのだが、今回は違った。鏡の中の自分は突然ポケットから何かを取り出すと、それを僕に見せつけた。鏡の自分が持っていたのは燃える炎のように真っ赤な石だった。僕にはその石の正体が直ぐに分かった。『賢者の石』だ。すると鏡の中の自分は自分自身のズボンのポケットの中に石を戻した。その瞬間、僕のポケットに突然重みを感じ、クィレルにバレないようにさり気なくポケット外から触る。このゴツゴツした感じ、間違いない。今僕の手元にそれがある。鏡の自分に目を戻すと、鏡の中の自分はパチンとウィンクした。
「どうした!何が見える!?」
「ぼ、僕とダンブルドアが握手してる!グリフィンドールが優勝して────」
嘘だ!
再び声が聞こえてくる。それを聞いてクィレルは怒鳴り散らした。
「本当のことを言え!」
俺様が直々に話そう!それぐらいの力ならある!
クィレルはその声に戸惑いつつも頭のターバンを外していく。ターバンの布が取れた時僕は声にならない悲鳴をあげた。クィレルの後頭部にもう1つ顔があったのだ。顔は苦しそうに顔を歪めながら僕を鏡越しに見つめていた。初めて見る顔のはずなのに僕にはその正体を知っていた。
「ハリー・ポッター……また会ったな……」
「ヴォルデモート……!」
ヴォルデモートはニヤリと笑うと続ける。
「そうだ。見ろこの姿を……人の体を借りねば生きていられない、寄生虫のような様を!あの時、辛うじて生き延びたが身体だけは留められなかった……」
ヴォルデモートは悔しそうに呟くと、僕のポケットを凝視する。完全にバレてる!僕は出口に向かって逃げようとすると、クィレルが指を鳴らした。その瞬間部屋の周囲に炎に包まれた。
「何処に行こうとしているのだハリー。まだ話も終わっていないのだぞ?そうだ、そのポケットにある石を俺様に渡せばお前の両親に会わせてやろうではないか!お前と俺様が揃えば全て思いのままになるだろう。だからその石を渡せ!」
ヴォルデモートの話を聞き、僕は無意識にみぞの鏡を見た。両親に会える。あの鏡を見てからその気持ちが強くなっているのは確かだ。両親と過ごしたのだって1年間だけで、その瞬間の事はほぼ覚えていない。もっと一緒に過ごせたらなんてこれまで何百回と考えてきたものだ。
僕は思わずポケットから石を取り出した。炎のように赤く染まったその石には部屋の周りの炎が写ってメラメラ燃えているようだった。
「それだハリー。こちらに来て、クィレルに渡せ」
ヴォルデモートの声が聞こえる。僕は歩きだそうとすると、みぞの鏡の両親の顔が悲しそうになり、消えていった。その瞬間僕の中の意識が戻っていく。そして叫んだ。
「やるもんか!」
「殺せ!」
その瞬間、恐ろしい叫び声が木霊していた。その叫びを聞けば対峙したことのあるほとんどの魔法使いは恐怖に縛られて動けなくなり、あるいは我先にと逃げ出す事だろう。
何せそれはかつて魔法界全土にその名を知らしめたヴォルデモートの雄叫びなのだから。
だが僕は逃げなかった。
ヴォルデモートの寄代となっているクィレルの腕にしがみつき、彼に石が渡らないように必死に抵抗した。
その時だった。
「あ、あああ────!!?」
僕が触れた瞬間、クィレルの皮膚が溶け、肉が焼け、灰のように砕けていく。クィレルは絶叫を上げると痛みからくる拒否反応なのか僕から離れた。僕は彼の腕に飛びつき、こうして痛みを与え続ける事で彼を止める。
「何をしている愚か者!早く石を奪え!」
ヴォルデモートの叫びがクィレルの後頭部から、絶え間なく響く。クィレルは僕が落とした賢者の石に狙いを変えるとそれに手を伸ばし飛び付いた。
その瞬間だった。
「
賢者の石はクィレルの手に修まる前に飛び出した。そのまま出口の方に飛んで行くとパシッと言う聞き心地のいい音が響いた。誰かが賢者の石をキャッチしたのか?
「なるほど。やはり貴方だったようですねクィレル先生」
「お、お前は……!ア、アイザック・ラミレス……!?」
僕はクィレルの零した声を聞き、僕は出口の方を見た。そこにはもう一人の友達が立っていた。
次回賢者の石編最後です