この素晴らしい現代風カズめぐをリレー小説で!   作:勾玉

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この素晴らしい学校生活に幕開けを!【執筆者:勾玉】

「はぁ~…やっぱりブランクあるとキっツイわぁ…」

 

俺の名前は佐藤和真。現在進行形の高校生。ただいま学校を終えて直帰の真っ最中。

 

突然だが、俺は一般的な高校生とはちょっと異なる経歴をもっている。

なんと、二週間ほど前まで異世界でファンタジーな生活を送っていたのだ。

そして異世界で魔王を倒して華々しく英雄となった俺は…、こらそこ、可哀想な人を見る目で俺をみるんじゃない。

 

…で、日本に帰ってくることができたわけだが、今は日本の学校に通いながら、学校にほど近いマンションの一室で一人暮らしをするようになったわけだ。

 

 

「あぁ~、やっと家まで着いた…えーっと鍵は…」

俺は懐から自宅マンションの鍵を取り出し、ガチャガチャと玄関の扉の鍵を開錠する。

 

 

「はぁ~ただまぁ~っと、やっと一人でグダグダでき…」

 

 

…あ、そうそう。それともう一つ重要なことがあって…

 

「帰ってきたわねカズマ!遅いわよ!エアコンのリモコンが見つからなくて茹で上がるところだったんですけどー!」

ノースリーブ姿でへそを出しながら寝転がりガリガリ君を片手に雑誌を読みふけっている駄女神様は言う。

 

「カズマ、おかえりなさい。あ、カズマの好きなモナカを買ってきて冷凍庫に入れてますけど、食べます?」

黒いワンピース姿で漆黒の猫を膝に置きスイカバーを片手にテレビのリモコンをいじっている紅魔族の娘は言う。

 

「…カ、カズマ!昨日カズマから借りた五等分の花嫁だが、続きを…早く続きを読ませてくれぇぇ!」

肩が露出した薄手のブラウス姿で金髪の変態娘が荒ぶる。傍らには積み上げられた漫画と雪見大福。

 

 

 

「…うん、お前ら、なんでひとんちに勝手にあがってんの?」

 

そう、俺の異世界でのパーティーメンバーもおまけで日本についてきてしまいました。

 

 

 

「なんでって…カズマが何かあったらって言って私達に合鍵渡したんでしょ。私達が勝手に上がってるのは当然でしょ」

アクアがガリガリ君をひょいひょい揺らしながらムカつく態度で応えるが、

「当然じゃないわ!何かあったら、って言ったろ!見るからになんもねぇじゃねぇか!わざわざグダグダするためにうちに来たのかよ!」

「ちょっと失礼ね!私たちは別にグダグダするためだけにカズマの家に来たわけじゃないわよ。ね!めぐみん!」

「いえ、アクアはカズマの家にグダグダしに行きましょう!って言ってましたよ。それを聞いてダクネスが明日から始まる学校生活のこと色々カズマに聞いておいた方がいいな、って言ったんです。」

俺はじとーっとアクアを見やる。

「そ、そうだったかしら…まぁ私は学校生活とか余裕よ、余裕!元々日本の女神だったしね!教科書に載ってもいいレベルよ」

アクアがばいーんと胸を張って得意げに言い張るが、俺としてはめぐみんやダクネスよりもアクアが一番不安なのだ…

 

そう。こいつらも日本で学校に通うことになったのだが、こちらの世界に慣れるための時間が必要だということで俺よりも遅れて学校に転校してくることになった。しかも、こいつらの転校先が俺と同じ高校ときたものだ。

体格的にダクネスやアクアは超高校級だが、めぐみんとかロリ過ぎないだろうか。

「…おい、今私に対して無礼なことを思っているな」

俺がめぐみんの胸部を凝視していたことに目ざとく気付いためぐみんが低い声でうなる。

 

 

「いや、しかしお前ら…」

 

外見からして…

 

「ダクネスは外国人とか言えば100歩譲ってなんとかなるかもしれんが、アクア、お前、その青髪とか絶対ヤバいって。日本の学生としては目立ちすぎだぞ。他の学生に合わせて髪黒くした方がいいだろ」

「何言ってんの、この青髪は私のアイデンティティよ。そもそも人々が神様に合わせるならともかく、何で女神が人間に合わせないといけないんですかー…冷たッ!?」

ガリガリ君がアクアの手に落下したようだ。どうやらヘラと接している部分の氷が溶けたようだ。ざまぁ。

「お前は初日から生活指導の先生に捕まって指導確定だな。めぐみんも瞳が赤いとか、この国だと病気を疑われるレベルなんだけど」

「まぁ、私もこの瞳が紅魔族のアイデンティティですから。それに、その指導とかで捕まりそうになったら我が最強魔法で窮地を脱しますのでご心配なく」

「誰もお前のことは心配しねぇよ!学校の方が心配だわ!」

とんでもないことを言い出したロリっ子に本気で突っ込む。こいつは窮地ではテンパり癖があるのでマジで爆裂魔法をぶっ放ちかねない危うさがある。

 

「いいか、めぐみん。他二人は大丈夫だろうが、お前の爆裂魔法は超超超危険だ。絶対この世界で使うなよ?いいな?絶対だぞ?」

「わかってます。私も日本のテレビとかを見てこの世界のことをいろいろと学んだのです。それが芸人風の前振りだということもきちんとわかって…」

「ちっげーよっ!!!いらんことばっか学んでんじゃねーよっ!!」

 

全く…せっかく日本に戻ってきたってのにノリが前の異世界と変わらないのは如何なものか。

 

 

「…ってかお前ら流石に馴染みすぎだろ。まだこっちの世界に来て二週間くらいだろ。」

 

俺がこいつらの世界に行ってすぐの頃なんてそれは酷いホームシックになったものだ…

異世界なのに土木作業やらされたり、でかいカエルに喰われそうになったり、飛来するキャベツとかいう意味不明な存在を追いかけまわすことになったり…

 

なのにこいつらときたら既に個人のスマホを所有しているだけではなく、すでにLINEとか使ってやがる。

俺ら四人のグループトークで、ダクネスが謝罪の言葉を楽天パンダのスタンプ(動く)でしてきやがった時なんて俺は壁にスマホをたたきつけたくなったものだ。アクアがめぐみんとダクネスと三人で撮った写メを授業中に送り付けて来て『スタバなう』とかメッセージを添えたのを見た時なんて授業中にもかかわらずスマホを床に叩きつけてしまった。そして先生に怒られた。

 

「まぁ、私達もできるだけカズマの手を煩わせないように、早くこの世界に慣れようとしているんだ。多少失敗もあると思うが、大目に見てやってくれ」

ダクネスが俺に向けて優し気な微笑みを浮かべる。

「ダクネス…」

 

それに対して俺は。

「…お前、少女漫画が好きなんだな…」

「なぁ!べ、別にいいだろうッ…!」

ダクネスの傍らに置かれている別冊マーガレットを見て、それを指摘せざるを得なかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

仮にもお客様である三人娘に飲み物でもだしてやろうとキッチンへと向かったところ、めぐみんが俺の後をトテトテとついてきた。 

 

とりあえず、人数分のコップを…

「…なんだこれ」

まだほとんど使われていないキッチンで初めて目にした物があった。

 

「あぁ、それはカズマの家にあったら便利だと思って私達で買って来た全員分のコップです。その端っこの緑のやつがカズマのですよ。結構可愛くないですか?」

「お前ら、俺んちに居座る気満々なのな」

 

ちなみに、俺が一人暮らし用のマンションを天界の便宜で用意してもらったのと同じように、こいつらにも三人一室のマンションが用意されている。

こいつらのマンションに必要な備品の買い出しに付き合ったとき部屋の中を見させてもらったが、俺のマンションよりもだいぶ広くて良いとこだった。オートロックだし。

何で魔王を倒した俺よりいい部屋を用意してもらってるんだよと、腹立たしいことである。

 

「なんだか異世界で暮らしてた時の方が数倍はいい暮らしだった気がする。学校に行かなくてもよかったし…。こんなことなら魔王討伐で与えられた願いを叶える権利は別のことに使っておけばよかったよ」

 

そう、俺は魔王討伐を成し遂げた見返りとして、こいつらと一緒に日本で暮らすことを願ったのだ。そのお陰で今はテレポート先の一つを日本に登録して、異世界と日本を行き来することができるようになった。

ちなみに、めぐみんは日本にいる間ずっと爆裂魔法が撃てないとボンッってなりそうなので、定期的にテレポートで異世界に送って爆裂魔法を撃たせている。

 

そして、俺がなんでそんなことを魔王討伐の見返りとして願ったのかというと…

 

「『俺がお前たちの世界のことを良く思ったように、お前たちにも俺の世界を好きになって欲しい』…でしたっけ?」

「うげ、やめろよ…他人の口から聞かされると俺がどんなに恥ずかしいこと言ってたのか自覚して悶絶したくなるから」

くそ、少し顔が熱っぽい。

「ふふ…あなたがそう言ってくれたこと、私はすごく嬉しかったんですよ。多分、ダクネスも。それで、私もダクネスも本気でこっちの世界を知ろうとしているんです」

 

…こいつらがこっちの世界に異様に馴染んでいるのも一応、努力の証ということだろうか。

 

「さぁ、飲み物を持っていきましょう」

 

そう言って、めぐみんは全員分のコップを蛇口の水で軽くすすぎ、製氷機で作った氷をコップに入れる。ついでに冷凍庫の中の俺の分のモナカを手渡してくれた。ってかこれ俺の好きなチョコモナカジャンボじゃなくてモナ王じゃねーか。…まぁいいか。

 

めぐみんは氷を入れたコップに飲み物を注ぎ、紙包装されたストローの包装を器用に破いて口を付ける部分の包装だけを残したストローをコップにさして…

 

「…流石に馴染み過ぎじゃないか」

「紅魔族はとても頭が良いのです」

 

 

ならチョコモナカジャンボを買ってきてほしかった。

 

 

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俺たちはテーブルの上にプリントを広げて確認作業に明け暮れている。

明日から俺の学校に転校してくるこいつらの持ち物チェックだ。

 

「制服はこの前買ったな」

ダクネスがそう言うのを聞いて、俺は。

「アクア…お前の年齢でよく制服を着ようと…「あらカズマさん、神のグーをご所望のようね」」

アクアが拳をパキパキならす。

「悪い悪い…制服といえばこのネタを使わざるを得ないと思って…ほれ、俺のモナカひとかけやるから」

俺はそういってアクアの口にモナ王をひとかけ突っ込む。

アクアは不服そうに口をもごもごさせている。

 

「…うん、持っていくものは全て揃えてるな」

ダクネスが手元のチェックリストに全てチェックをし終えて満足そうな顔をする。

「ところでカズマ、予定表に書いていたこれなんだが…」

そう言ってダクネスは俺の前に予定表を示す。

「この中間試験とは何の試験をするのだ?」

「げ…」

アクアが声を漏らす。

「げ…じゃねーだろ。学生なんだから当然試験はあるだろ」

「えぇ…わたしは神様よ…」

そういって口をすぼめる神様。

「お前がこっちの世界で学生やりたいって言ったんだろ」

「だって、めぐみんもダクネスも学生やるって言ったんだもん!独りは寂しいじゃない!」

「じゃあ勉強するんだな」

そう俺がいうとアクアは懐をごそごそして一枚のカードを取り出す。

「これ見てよ。私の知力、8よ!8!レベル47なのに知力8よ!」

「お前、開き直りやがったな…ってか冒険者カードまで持ってきたのかよ」

なんか俺達が異世界との間を行き来しているせいで科学と魔術が交差してしまうのではなかろうか。

「仕方ないわね…試験を作る先生を私の最強宴会芸で虜にしている隙に…」

「てめぇ…不正したらマジで許さねぇからな」

だいたい俺だって引きこもりだったうえに長いこと異世界にいたのだ。まず間違いなく赤点だ。こいつは絶対に道連れにしなければならない。俺が赤点でアクアが学年トップとか絶対阻止しなければならない。

 

「数学…ふむ。領主代行にも就いていたし会計なら心得はあるのだが役立つだろうか…理科…理科…?」

ダクネスは試験のプリントを熱心に読んでいる。

「ダクネスは…読めねーな…。真面目な勉強できるキャラともとれるし、脳筋バカともとれる…」

俺はじっとダクネスの方を観察していると、ダクネスがこちらに気づき、

「む…今私を見て、エロい体しやがってこのメス豚が、と思っているか」

「思ってねーよ!!全然思ってねーよ!!」

 

「へー花火大会とかあるんですね。これなら爆裂魔法のひとつやふたつ…」

「できねーよ!死人が出るわ!ってかサラッと雑誌読んでんじゃねーよ!」

 

「あ!出店も結構でるのね!ねぇねぇ、ウィズを呼んできてあげましょうよ!」

「日本で魔道具売ろうすんじゃねー!」

 

そんなこんなドタバタしていると、日はどんどんと沈んでいって…

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

辺りはすっかりと暗くなり、三人娘を家まで送っている道中、俺達は道端のコンビニに立ち寄った。

 

 

コンビニの籠を片手に弁当コーナーを眺めるダクネス。何だか私服と相まって授業帰りの女子大生感がすごい。いや、実際女子大生に相応する年齢か。

そんなダクネスの横にアクアがトテトテと寄っていく。片手にはカップ麺。

「ちょっとダクネス、このカップ麺見て!爆裂ラーメンの味を完全再現ですって!もう何だかここまでネタに走ると頭おかしいのを通り越していっそ清々しいわね!」

「アクア、この前ネタ商品を買っていって結局半分も食べれずに捨ててしまっただろう。戻してこい。それより、このぶっかけ蕎麦というのはどんなものなんだ」

「おっ、ダクネスいいところに目を付けるわね!そうね、日本に来てお蕎麦を食べないなんて、アルカンレティアでアルカン饅頭を食べないくらい愚の骨頂だわ。これはね…」

ダクネスとアクアがキャイキャイとコンビニの商品を手に騒ぐ。

 

「…あいつらまじで馴染んでるな。本当にこっちの世界に来てまだ二週間かよ」

俺はダクネスとアクアがコンビニの弁当コーナーで駄弁っているのを横目に雑誌コーナーに移動する。確か今日は週刊マガジンの発売日だ。

俺は目的の雑誌を見つけてパラパラと読み始める。と、そんな俺の横にぴたっとめぐみんがくっ付いて俺の手の中の漫画を眺める。

………

「…めぐみんさん、同じ雑誌、そちらにまだありますよ…」

ヘタレな俺は周りの目を気にしてちょっとキョどりながら言う。

「いいじゃないですか。どうせ私はカズマの読むやつしか読みませんし」

いや、こんなくっ付かれると緊張して漫画の内容が頭に入ってこないんですが…

だからといってこの状況から離れるのも何だか勿体ないので俺はそのまま漫画のページをめくる。

 

うん。めぐみんの感触とめぐみんの匂いばかりに意識がいってしまって漫画の内容が全然頭に入ってきません。

 

俺は漫画の内容を理解することを諦めてめぐみんが読むペースに合わせてページをめくる役に徹することにした。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

「…あ、ちょっとめくるの待ってください」

「ん、わりぃ」

「………ごめんなさい、いいですよ」

「お、おう…」

「…」

「…」

 

 

「…結構いい感じの引きで終わりましたね。来週が楽しみです」

「引きって…まじでお前ら馴染んでるよな。さてと、俺は飲み物買ってくるけど、めぐみんも何か買ってく?」

「んー、いえ。必要なものはスーパーの特売で揃えたので…私は外で待ってます」

そんな主婦じみたことを言ってめぐみんはコンビニの入り口に向かって歩いていった。

 

アクアとダクネスは…

「ダクネス、私これがいいわ。スミノフアイス。やっぱり異世界と違って日本はオシャレなお酒が豊富よね」

(おいアクア、私達はこっちの世界ではまだ飲酒が禁止されている年齢なんだぞ)

(大丈夫よダクネス、私の実年齢は……まぁ神様ですから人間の法律が適用されないの。それにこのコンビニは店員さんがチョロいのよ)

(だからといってなぁ…)

 

…こいつらまだ少し時間かかりそうだな。

 

コンビニの外をチラリとみるとめぐみんは宵闇の中、ぼやっと道行く人々を眺めている。

 

…待たせちゃ悪いか。

 

俺は飲み物を買ってコンビニの外にでた。

 

 

 

「…悪いなめぐみん、アクア達まだ買い物してるみたいだったよ」

めぐみんは俺の方を見て苦笑する。

「なんでカズマが謝るんですか」

 

コンビニの明りで小柄なめぐみんの輪郭がほんのり照らされる。

 

「…一緒に待ってくれるんですよね?」

「お、おう…」

 

そのままめぐみんは、改めて正面の道端の方に目を向けた。

 

「…」

「…」

 

街灯に照らされた夜道。自動車の通る車道。ビジネスバックを片手に速足で夜道をいくサラリーマン。人々の手元にはスマートフォン。イヤフォンを付けて歩くあの人が見ているのは映画だろうか。科学技術と合理主義を練り込んで組み上げたような光景を、

 

魔術的で幻想的なめぐみんの真紅の瞳が写し出す。

 

「私の住んでいた世界と全然違う…」

 

めぐみんの口からぽろりと言葉が漏れる。

 

俺にとっては懐かしささえ感じる目の前の風景も、彼女の目には異質なものであふれかえる異世界だ。

この世のものではない美しく真紅に輝く彼女の瞳は、彼女とこの世界との絶対的な差を示しているようで。

俺はなんだかその少女がとても遠い存在のように思えてきて。

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたのですか?カズマ?」

 

めぐみんは俺の方にキョトンとした顔を向ける。

 

無意識に俺はめぐみんのその小さな手を握っていた。

 

「…え?あ、わ、悪い…!」

 

衝動。それが俺の不安からきたものだと理解して、俺は全身から恥ずかしさが溢れ出し、急いで手を引っ込めようと…

 

…するが、離れつつあった俺の手を今度は逆にめぐみんが握り返す。そのままグイっと引っ張られ…

「え…」

よろけた俺は、人形のように均整の取れた美貌を持つ少女の口元に吸い込まれるように…

 

「ッ…」

 

唇と唇が重なる。

「…」

彼女の柔らかな感触。

「…ン」

微かな震えも敏感に伝わってくる。

 

「…」

「…」

「…ぱぁ」

そっと唇を離してめぐみんが息をつく。

それは僅か数秒の優しい口づけだった。

 

「お、おまっ…」

往来での口づけ。偶然にも周りに人影はなかった。いや、彼女の計算か…?

 

「えへへ…久しぶりでしたね。こっちの世界に来てからドタバタしていてあまり二人きりの時間もとれませんでしたね…」

いたずらっ子のようにはにかむめぐみんの頬にはほんのりと朱の色が浮かんでいる。

 

そして、めぐみんは俺から目線を逸らして、うつむき加減で述べる。

「私にも、カズマが遠い存在に感じて、いつかカズマが私の元からいなくなるんじゃないかって。不安で不安で、眠れなかった日があります…たくさん」

 

 

「私の世界とカズマの世界は全然違ってて…大きな壁があるみたいです。でも…私達はその壁を越えて、今ここで、こうして手を握っている」

俺と繋ぐその小さな手にめぐみんはきゅっと力を込める。

 

「どんな世界にいても私はカズマの手を放しませんよ。カズマも、ずっと…私の手を放さないでくださいね…」

 

【挿絵表示】

 

 

 

そして…

 

 

 

 

「カズマが過ごした世界でまた一緒に始めましょう。一から…いえ…ゼロから!」

「うん、越えちゃいけない世界の壁まで越えちゃってるな!!!」

 

 

 

 

コンビニの明かりが漏れるほの暗い駐車場、時折道端を横切る車のライト、人々が生活する家からはテレビのバラエティ番組が発する笑い声が小さく漏れている。

 

そんな世界の只中で、異世界の少女は幻想的なルビーの輝きを放つ瞳を細めてくすくす笑う。

 

 

「学校生活…楽しみですね」

 

 

繋いだ手を通して伝わってきたものは、世界が違えど変わることは無い彼女の緩やかで力強い情動だった。

 

 




リレー小説のトップバッターを務める勾玉です。
カズめぐタグを付けた小説で、恋愛描写よりもネタに走る生き物です。ごめんなさい。

さて、私は風呂敷を広げるだけ広げましたが、これ以降の展開は全く予想がつきません。ですので、一読者としてこの物語の行く末を見守りたいと思います。

読者の皆様につきましては、二話目以降、是非ともお付き合いのほど、よろしくお願い致します。


※アクア様がお酒を買おうとする場面がありますが、人間は日本ではお酒は二十歳になってからです!

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