「ただまー」
「おかりー、カズマさん随分と遅かったわね」
クリスとのゴタゴタはありつつも俺は無事に家に着いていた。
家の中ではカレーの匂いが充満していて、食欲をそそると共に少し懐かしい気持ちにもなる。
「おかえりなさいカズマ、もう少ししたら出来上がるのでリビングで待っていて下さいね」
キッチンからプイッと顔を出して来た赤いエプロン姿のめぐみんがそれだけ言って顔を引っ込めた。…可愛い。
俺は短な廊下を歩きリビングへと向かう。
「ねぇねぇカズマさん、私達より早く学校から出たのにどうして帰ってくるのが遅くなったの?」
「あぁ、帰る途中でアイスを買っててな、それと帰る途中でクリスに会った」
「く、クリス!?この世界でクリスに会ったのかカズマ!!どういう事だ、今なら誰でもこのニホンに来れるのか!!」
凄い剣幕でそう言ってきたのはダクネスだ。
しまった、言うべきではなかったかもしれない。
「いや、俺の願いが『俺にとって大切な人も一緒に』って感じだったはずだから多分そこに同じ盗賊団として命を預けあったクリスもふくまれてたんじゃないかな??」
クリスはエリス様として俺達の監視の為に日本に来てるわけだが、そんな事言えるはずも無く、その場で思いついたそれっぽい理由を重ねた。いや、消して間違いでは無いはずだ。俺は魔王を倒した後もこの3人と暮らしていきたいと望んでいたのだから…。
「そ、そうか…大切な人か。ふふ…」
「何だよ…」
「いや、カズマがそんな照れ臭い事を言うのは魔王城への道中以来だな」
またコイツは恥ずかしい事を…
「ねえねえダクネス!その話を詳しく聞かせてちょうだい!!」
「あぁ、私がカズマとめぐみんとでアクアを追っていた道中でカズマが…」
「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
「カズマさんどうしたの!?実は日本に戻ってくる時、頭パァになっちゃってたとか!?ごめんなさいカズマさん、事例が無いから大丈夫だと思ってたのだけれどしっかりと忠告はしておくべきだったわね…。」
「おい待てアクア、パァって何だ?あっちに転生する時も似たような事言ってたよな。エリス様は知ってたのか!?あの人も知ってて黙ってたのか!!」
「ちょっと待って落ち着いてカズマさん、エリスは何も知らないわ。あの子は純粋で優しいから、そんな事を知ったら飛ばせないわよ。あの世界に転生する時にパァになる可能性があるってのも最近伝えたばかりなのよ。その時もね……」
「あの、盛り上がってる所悪いのですがカレーが出来上がりました」
怒り心頭の俺とそれにビビってアタフタするアクアの間にカレーの入ったお鍋を持っためぐみんが割り込んできた。
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「3人とも落ち着いて下さい、隣の人に迷惑ですよ」
「す、すまないめぐみん。私がしっかりと静止役に回る事が出来ていれば…」
いつもは爆裂魔法で街中の人々に迷惑をかけまくっているめぐみんがやれやれといった顔でそんな事を言っていた。
「にしてもこのカレーは美味いな。昔母さんに作ってもらったカレーを思い出すよ」
「本当ね、めぐみんのカレーはお母さんの味って感じがするわ!」
「そ、そうですか…ありがとうございます…」
めぐみんが頬を赤くして目線を逸らす。
にしても本当に美味い、めぐみんだから味の心配はしてなかったがまさかここまで美味しいとは思わなかった。
「この世界の野菜は逃げたりしないので下処理が凄く楽なんですよ。しかもここの野菜はあっちの活きの良い野菜と同じぐらい新鮮で調理のしがいがありました!」
「ほんと、元の世界に戻ってきたんだなぁってしみじみ思うわ。まさか野菜が暴れないだけでここまで安心感を得られるとは…」
「この世界に来て1番最初に野菜を見た時、顔をぐちゃぐちゃにして泣いてましたもんねカズマは」
「玉ねぎの汁が目に入っただけです…」
「そういう事にしといてあげますよ。」
めぐみんは俺の歯切れ悪い言い訳にクスクスと笑いながら「でも…」と続けて、
「そうやってこの世界でのカズマを知っていく度、なんだかあの世界での冒険が恋しくなってきます」
めぐみんは目線を下に落とし、少し寂しそうな笑顔に変わる。
「今は学校の事で色々と忙しいけど、落ち着いたら皆でまた冒険するのもありかもな…」
「はい、落ち着いたらまた皆で冒険しましょう…」
紅い瞳を輝かせ、無邪気に彼女は頷いた ━━
「なあカズマ、冒険に行くなら以前から気になっていた触手モンスターを…」
「ねえねえカズマさん、本気で言ってるの?私は嫌よ!お金も沢山あるんだし冒険なんて行く必要無いじゃない!私は家でダラダラして待ってるから!!」
「めぐみん、俺もう冒険したくなくなってきたわ」
「えっ」
━ 翌日 ━
「なあカズマ、昨日はテンション上がっちまって流してたけど許嫁ってどういう事だ?お前の家実は結構な名家だったのか?」
「それな!許嫁とか婚約者とかって今時聞かないもんな。付き合ってるわけじゃないんだろ?」
俺は早朝から学校で質問攻めに会っていた。
「うーん、どう言えば良いんだろうな。許嫁とか婚約者とかも言葉の綾というか、もう色々進んでるんだけどまだ付き合ってないっていう不思議な関係?」
「なんでカズマが疑問形になるんだよ、そこははっきりしないと可哀想じゃないか?あっちはあんなに好きだって言ってくれてるのに。お前はめぐみんさんの事を好きじゃないのか?」
「いや、滅茶苦茶好きだ。大好きだ。俺以上にめぐみんが好きな奴は居ないと断言出来る。」
反射的に反応してしまった。なんだろう、モヤモヤする。
「そ、そうか…すまんな疑って。なら何で付き合ってないんだ?相思相愛なのは確実なのに」
「いや、それは…」
痛い所を突かれて目線を逸らす。
「なるほどなぁ…何となく分かっちまったよ」
他の奴らもうんうんと分かりやすく深い相槌を打つ。流石いつも俺と一緒にゲームしてるだけの事はあるな俺の事をよく分かっている。
「よし!俺達に任せとけ!!お前のそのヘタレた根性でもめぐみんさんと付き合える様に俺達も助力してやるさ!!!」
この瞬間俺はアクア達がやらかす時と同じ嫌な予感が頭を過ぎった。━━━━━
━━━「なあアクア、一緒に飯食べないか?」
昼休みの時間になり、俺は一緒にご飯を食べようとアクアに声をかけていた。
「あ!か、カズマさん!!今日は先約が合ってカズマさんとは食べられないの、ごめんね!」
「そっか、じゃあ仕方ないダクネスにでも…」
「あああああああああぁぁぁ!!!ダクネスも一緒に誘われてるの!だから、ダクネスもカズマさんと一緒は出来ないのよ!」
アクアが汗をタラタラと垂らしながら捲し立てる。なんだか怪しい。
だが、ダクネスも無理だとするとめぐみんも誘われてると考えるのが妥当か。女子同士での交友みたいな物なのかもしれない。
仕方ない大人しく男同士で食べるか
「なあお前ら一緒に飯を……」
「あ、カズマ!すまねぇな、今回は定員オーバーなんだ!!申し訳ないんだが他当たってくれ!」
なんだこの状況は。
見渡して見ると既に食べる為のグループが固まっており、俺の食べる為の席すらも無くなっていた。
仕方ない、屋上で1人飯かと思っていたその時、
「「あっ」」
ふと同じくボッチになってた紅い瞳の仲間と目が合った。
・・・・・・
「俺もお前も随分と除け者にされたもんだよな」
「そうですね、でも私はこうしてカズマと2人でご飯を食べる事が出来てるので満足ですよ?」
そう言って、本当に幸せそうにめぐみんははにかんだ。
その顔を見てると、ハブられた結果とはいえこいつと2人で昼飯を食べるのも悪くない様に思えてくる。
「まあ、そうかもな…。意外と俺達今まで2人きりで飯とかあんまり無かった気がするし、よく良く考えれば屋上で女の子と2人飯って凄く青春って感じがしてきた!」
「セイシュン?が何なのかはよく分かりませんが、確かにこれまで2人きりでって事自体少なかった気がします…。これからは意識して2人きりで何かをする機会を増やしていきましょう」
俺はめぐみんに「そうだな」と言って笑いかけた。
それ以降は、学校の授業はどうだとか、この世界にはそろそろ慣れたかとかをお弁当の具を交換したりしながら語り合った ━━━━━
━ 放課後 ━
「それにしても、今日いきなり2人きりってのを実行するとはなぁ…」
俺は終礼後、めぐみんに誘われて2人で帰っていた。
2人で行動する機会を増やしていく事に賛成はしたものの、まさかその日のうちからになるとは思っていなかった。
「良いじゃないですか。私だって、カズマと2人きりで居ることに緊張しないわけじゃないんですよ?」
そう言うとめぐみんは紅く輝く瞳を隠すように目線を下に逸らした。こういう所は本当にずるいと思う、女の子ってヤバい。
「あ!そうだ!!アクアとダクネスはどうしたんだ?今日は昨日に比べて自由だっただろうし、皆で帰ろうって言い出しそうなもんだけど」
「あの2人には先に2人で家に帰って下さいと言っておきました。」
「そっか…あ!昨日はああ言ったけど明日は学校も休みだし皆で冒険でも…」
「行くか!」と言おうとした間からめぐみんが、
「その明日の休みについてなんですが…」
と、めぐみんはそこで1度切り軽く息を整え、
「その…」
珍しくめぐみんが歯切れ悪く顔を赤くしつつもしっかりとこちらの目を見て、
「明日、私と1日デートをしませんか?」
青春の幕開けを告げた。
非常に遅れてしまった事を先にお詫びします。第3話を担当させて頂いたピカしばと申します。他の皆さんがこのすば小説書きの重鎮さんばかりの中1人変な奴が混じってしまった事をお許しください。
最後のアンカーはリルシュさんです、きっと綺麗に締めてくれると思います!