この素晴らしい現代風カズめぐをリレー小説で!   作:勾玉

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この素晴らしいデートに永遠を!【執筆者:リルシュ】

 

「デートか…」

 

 

めぐみんと2人で出かける約束を取り付けたその日。

俺は帰宅してからずっと明日の予定について頭を悩ませていた。

異世界にいた時も、結局魔王を倒すまでにまともなデートなんて片手で数えられるぐらいしか出来てなかった気がする。

大抵は途中で邪魔が入ったり異世界流のルールというか常識なんかに流されたりして…

まぁ、こちらの世界ならばそうそう変な展開にはならないだろうが。

引きこもっていたとはいえ、一般常識程度なら心得ている。

向こうの世界にはいつでも帰れるし、デートは日本で楽しみたい。

というか、めぐみんもそれを望んでいるはずだ。

 

 

「遊園地…水族館…動物園…映画館とかゲーセンもありか」

 

 

ありきたりな場所を思い浮かべては、めぐみんとそこで過ごす空想を広げてみる。

…うん。

アイツとなら、結局どこ行っても退屈しなさそうなんだよな。

 

 

「ま、時間はたっぷりあるんだし、これからいろんなとこ連れて行ってやれば…ん?」

 

 

ゴロンとベッドに横になると、携帯が僅かに振動しSNSアプリに着信があった事を知らせてきた。

通知欄を見れば、めぐみんの名前が…

 

 

「まさかドタキャンじゃないよな?」

 

 

これだけ期待させておいてそんなことされた日には、とても口では言えないような凄いことをお見舞いしてやるしかなくなるのだが。

めぐみんは本人の意思じゃないが前例があるし、ちょっと怖い。

おそるおそるメッセージを確認すると…

 

 

「どうしましょう。楽しみ過ぎて眠れません。カズマもどうせまだ起きてるんですよね?」

 

 

そんな不安は一瞬で杞憂に終わることになった。

 

 

「起きてるよ。明日はハメを外しすぎないようにな。何度も言ってるが、こっちの世界じゃ色々勝手が違うんだぞ?何をどう間違っても爆裂魔法は御法度だ。分かってるよな?」

 

 

「あの…実はその事で相談が…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「エクスプロージョンッ!」

 

 

うん。

そうだよね。

よくよく考えれば、1日中デートするという件でテンションが高まってるコイツが、爆裂欲求に耐えられるわけがなかった。

 

 

「はァっ…気持ちいいっ…ですっ。スッキリしましたよ、カズマ。付き合ってくれてありがとうございます。パタリ」

 

 

なんて字面だけ見れば色気があるようにも感じられるセリフを呟き、めぐみんは後ろに控えていた俺の胸元に倒れ込む。

 

 

デート当日の早朝。

彼女のお願いで異世界にテレポートし、爆裂魔法を撃たせてあげていたのだ。

 

 

「いや、もうお前に爆裂魔法をずっと我慢させるのは死刑宣告みたいなもんだから、こうなる可能性は考慮してたけども」

 

 

せっかくのデートの始まりが爆裂魔法というのもどうなのだろうか?

俺たちらしいといえば、らしいのかもしれないが。

 

 

「仕方ないじゃないですか。私にとって爆裂魔法をぶっぱなすのは、衣食住に匹敵するぐらい生きる上で欠かせない行動なのです」

 

 

「分かってるよ。だからこうして付き合ってるんだろ。でも今日の本番はこれからなんだからな。ほら、帰るぞ」

 

 

ぐったりと力が抜けて全体重をかけてくるめぐみんの体を、丁寧におぶってやった。

うーん慣れたもんだな。

コイツをおんぶするのも。

 

 

「よしっ…テレポート!」

 

 

と言うわけで、めちゃめちゃ便利な魔法のおかげで無事日本に戻ってこれたのは良いのだが…

 

 

体がだるい!

テレポートの魔法に加え、めぐみんが自力で動けるようにとドレインタッチで分け与えた魔力消費で上手く力が入らない。

だからと言って、せっかくのデート時間をここでダラダラ過ごす訳にもいかないが。

 

 

 

「カズマカズマっ!まずはどこに行くんですか!私もこの2週間ちょっとの間で色々と日本を回りましたけど、男女のデートスポットに当てはまりそうなところはなるべく避けてきたつもりなので、ワクワクしますよ!」

 

 

 

本当に楽しみなんだろう。

瞳をキラキラと紅く輝かせながら早口でそう捲したてる彼女が、グイグイと迫ってくる。

 

 

 

「顔が近いぞ落ち着け。俺だってなんにも考えてないわけじゃ無いんだから。今日はカズマさん立案企画の日本体験スペシャルコースを連れまわしてやろう」

 

 

 

「おぉー!」

 

 

 

純粋な感心の声を上げて拍手してくるめぐみんを見ていると、若干大げさに言いすぎたかと不安になるが今更プランの変更が出来るわけもないので、まず最初の場所に連れていくことにした。

 

 

 

「着いたぞここだ」

 

 

 

道中見かけた異世界ではお目にかかれないような施設や道具の件で質問されることも無く、無事にたどり着く。

スマホなんかも早々に使いこなしていたし、本当にある程度はこの世界についての知識も得ているんだろうな。

 

 

 

「ここはゲーセンという場所ですね!」

 

 

 

「え?ここも知ってるのか?」

 

 

 

ピカピカチカチカと、彼女達の世界では滅多にお目にかかれないであろう電子の光で溢れる室内。

様々な筐体から溢れ出る機械的な音が絶えず聴覚を刺激する場所。

ゲームセンターという場所に、俺はめぐみんを連れて来ていた。

 

 

 

「はいっ!来るのは初めてですけど、アクアから聞いたことがあります。その時カズマがこういうのには詳しいと聞いて、あなたと一緒に行けるまで訪れるのはやめておいたのですよ」

 

 

 

と、彼女はなんとも嬉しいことを宣言した。

予定では見慣れぬものに囲まれて右往左往とするめぐみんを眺めるつもりだったのだが、こんな風に期待されるのも悪くない。

 

 

 

「よーし任せておけ。ゲームセンターに来るのはかなり久しぶりだが、ビデオゲームの類なら俺の独壇場だ。かっこいいところをたくさん見せてやる!」

 

 

 

嬉しそうな笑顔で俺の意気込みに頷いた彼女を連れ回しながら、様々な筐体を巡っていく。

 

 

アクアからゲームセンターという存在だけは聞かされていたらしいが、本当にそれ以上の知識は仕入れていなかったようだ。

 

 

普通のアーケードコントローラーを扱う筐体からガンシューティングのような体感型のものまで、新しいゲームに触れる度に興味津々に俺に説明を求めてくるめぐみんの姿には、年相応の可愛らしさも相見え思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「それにしても凄いですねカズマ。どのゲームでも手馴れた様子で軽々と…かっこいいです!」

 

 

「ふっ…まぁな。俺にかかればこの程度わけないぞ」

 

 

少し調子に乗ってみたら、背伸びしためぐみんがニコニコしながら無言で頭を撫でてくれた。

しかしこれじゃ恋人というより親子っぽくないか?

しかも年の差を考えると立場が逆転している。

…嬉しくない訳じゃないから、周りの視線が気になるまでしばらくこのまま甘えて撫でてもらうけど。

 

 

「お?カズマカズマっ!あれはなんですか?何やら人形のようなものがたくさん中に入っていますが…」

 

 

それから程なくして、俺の背後に視線を移しためぐみんが頭撫でを中断し、そちらに歩み寄っていく。

そこにはゲーセンデートと言えばお約束の、あるゲームが設置されていた。

 

 

「あぁ、これはな、クレーンゲームって言うんだ」

 

 

「ほほぅ…どうやらあのアームを使って、中の商品を掴んで手に入れることを目的とするゲームだとお見受けしましたよ!」

 

 

流石に慣れてきたのか、めぐみんは俺が詳しい説明をする前にそう言い当てた。

 

 

「概ねその通りだな。因みにゲーセンでデートする男女にとって、このゲームはほぼ避けては通れない道だ」

 

 

「なるほど!では、今度は私からチャレンジしますねっ!何か手に入ったら、カズマにあげますよ」

 

 

だからそれは立場が逆転しているような気もするのだが…

 

 

「お、おぅ。さんきゅ」

 

 

腕まくりまでしながらやる気満々のめぐみんを見ていると、そんな理由で横槍を入れる気にはなれなかった。

 

 

しかし、このゲームはシンプルに見えても店員の絶妙なバランス調整により、取れそうな装いを見せながら中々取れないというイジワルな仕様になっている事がほとんどなのだ。

さて、天才魔法使いさんのお手並み拝見と言ったところかな。

 

 

………

……

 

 

「くっ…ダメでした」

 

 

流石にゲーセン初日の初心者にそんな簡単に獲物をゲットさせてくれる訳もなく、見事に小銭を次々と筐体に飲み込まれていっためぐみんが、とぼとぼと悔しそうに唇を噛み締め俺の元に戻ってきた。

 

 

「まぁそう落ち込むな。それが普通だ。簡単に取れるようになってないんだよ」

 

 

「…カズマなら取れますか?」

 

 

「んー。たぶん」

 

 

俺の観点から言わせてもらうと、無理やり掴もうとしているのがいけないと見える。

あの配置なら、アームが開く時の押し出す力を使えばめぐみんの狙っていた人形…まるでちょむすけのような黒猫のあれは、手に入れられるはずだ。

 

 

「流石に少し悔しいので、お手本を見せて下さい!」

 

 

「おう。任せとけ。惚れ直すなよ?」

 

 

めぐみんの頭を軽く撫で、彼女の期待が詰まった眼差しを背に、俺はクレーンゲームのボタンに手を伸ばした。

 

………

……

 

 

「くくく…さすが俺、数年のブランクも障害にならないということを証明してしまったな」

 

 

1発。1発だ。

めぐみんが頑なに狙っていた黒猫の人形は、狙い通りの方法で穴に吸い込まれ、俺の手に抱かれることになった。

彼女が位置をいい感じにずらしてくれていたのもあるが。

そういう意味では共同作業と言えるだろう。

 

 

…しかしなんでだろう?

以前にも、めぐみんにUFOキャッチャーで取れた商品をプレゼントした記憶があるような…。

 

 

いや、彼女と一緒に日本に来たことは無いのだから、絶対に初めてのはずなのだが。

デジャヴというやつだろうか。

 

 

「おぉぉぉぉ!!!流石ですねカズマ!ゲーセンでなら、あなたに敵はないようにすら思えますよ!」

 

 

そんな事を考えていたら、駆け寄ってきためぐみんがとんっと背中を叩いて健闘を称えてくれた。

 

 

「あったりまえだろ。ここは俺に任せておけ」

 

 

まぁ細かいことはいいか。

今は好きな女の子に褒めちぎられるという、良い気分をたっぷり味わうとしよう。

 

 

「へいへいそこのにいちゃんよぉ!」

 

 

そんな幸せ空間を満喫していたら、なにやらチャラチャラしたいかにもな男達がどこからともなくゾロゾロと現れた。

年齢は俺やめぐみんと大差なく見えるが…

ふむ。何やらめんどうな匂いがする。

そう、これはデート中の男女に絡んでくるこれまたお約束のしょうもない男たちの匂いだ!

 

 

「よしめぐみん。ここはもういいだろ。次の場所へ行こうぜ」

 

 

「そうですね。十分楽しみましたし」

 

 

「ちょっぉ!待てって!話ぐらい聞いて行けよ!」

 

 

彼らを意に介さずにくるっと背を向け歩み始めたのだが、がっしりと肩をつかまれてしまった。

以前の…異世界に向かう前の俺だったら、ここで尻込みしガクガク震えて動けもしなかっただろう。

だが、今は違う。

あの世界で、文字通り命を懸けた死線を潜り抜けてきた今となっては、人間のチンピラなど恐るるに足らず。

それに冒険者カードの効力はこちらの世界でも生きているようなので、多少魔力不足で怠くても一般人に引けを取ることはないのだ。

ぶっちゃけ空飛ぶキャベツの方がはるかに怖い。

 

 

「はいはい分かりましたよ。なんで絡んできたのか目的は言わなくていいんで、決着付けるならゲーセンらしくゲームで勝負をつけましょう」

 

 

「はぁ?…いや、そりゃねがったりかなったりだが…いいのかお前?」

 

 

「もちろん」

 

 

物わかりの良さに一瞬たじろいだチンピラどもだが、俺の返事にニタりといやらしい顔を浮かべてうなずいた。

 

 

「なら、勝負するゲームも俺たちが決めていいよな」

 

 

「お好きにどうぞ」

 

 

負ける気はさらさら無いので適当に返事を返すと、彼らは肩を組んで相談をしはじめる。

どのゲームにするかで話し合いをしているようだが…

 

 

「カズマカズマっ」

 

 

「ん?あぁ、ごめんなめぐみん。暇だよな」

 

 

ちょいちょいと袖を引っ張ってきためぐみんが、心配そうにこちらに視線を向けた。

 

 

「…どうした?まさか俺が負けるとでも思ってる?」

 

 

「いいえ。カズマがゲームで負けるなんて微塵も思ってないですが、ああいう輩は総じて卑怯な手段をとると相場が決まっているのです。くれぐれも油断しないでくださいね」

 

 

「分かってるよ。お前とゆんゆんの勝負で見慣れてるし。ありがとな、めぐみん」

 

 

「いえ、カズマを想っての事で…って、おい。私で見慣れているとはどういう意味なのか聞こうじゃないか!」

 

 

彼女のかわいい声援を背に、俺は戦場へと赴くのだった。

 

 

………

……

 

 

 

あまりにも一方的だったので結果からあっさり言ってしまうが、圧勝だった。

格ゲーでも落ち物パズルでもレースでも、彼らはゲーセンを根城にしているチンピラではないのだろうかと疑うほどに弱かった。

 

 

 

「グッ…!だ、だめだぁ!勝てねぇ!なんなんだコイツは!化け物かっ!?」

 

 

 

「ふっ…修行が足らんな。出直しておいで」

 

 

 

玉座に居座る王のように、跪くチンピラどもの中央にふてぶてしく居座っていたら、背後からパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

 

 

 

「魔王みたいですね!カッコイイですっ!」

 

 

 

素直に喜んで良いのか困る褒め方をしてくれるめぐみんに、どんな表情で返事をするか悩んでいたその時。

 

 

 

「待て…最後はあの…ガンシューティングで勝負だ」

 

 

 

今までの戦果で既に冷や汗をダラダラと垂れ流していたチンピラのトップだと思われる男が、震える手で一つの筐体を指さした。

 

 

「俺たちにも予定があるから、それで最後な」

 

 

「あぁ…分かってる…」

 

 

…?

どうしたんだろうコイツ。

切羽詰まっているというか…挙動不審というか…

 

 

「さぁ…コントローラーを取れよ」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

明らかに様子がおかしいそのチンピラに言われるがまま、俺は銃型のコントローラーを手に取り画面へと視線を向けた。

 

 

…あれ?敵感知スキルが反応してる…

 

 

「カズマっ!危ないですっ!」

 

 

慌てたようなめぐみんの叫び声で、反射的に様子がおかしかったチンピラの方へと視線を向ける。銃型のコントローラーを振りかぶってる彼の姿が目に映った。

 

 

「っ!」

 

 

だから仕方がない。

それは身の安全を守るための反射行動だった。

そのチンピラにとっさに銃を構えた俺は、

 

 

「スパークッ!」

 

 

雷の初級魔法を発動してしまった。

玩具である銃型のコントローラーが、バリバリという本来ならあり得ない故障を疑うレベルの電撃音を響かせ、先端から迸った鋭い稲光がチンピラに襲いかかる。

 

刹那の光が振りかぶっていた凶器を穿ち、それを取り落としたチンピラがビクリと跳ねて腰を抜かした。

 

 

「っ!?」

 

 

何が起きたのか完全には把握しきれていないのだろう。

彼はポカンと呆けた顔で俺に視線を送っていた。

まずい。

完全にやってしまった。

幸い威力が低い初級魔法の…それもゲーセンの騒音と光に紛れるものだったので、チンピラの意識もあるし気が付いたのもその取り巻きまでぐらいだが、クリスの…エリス様の仕事を増やしてしまった。

 

 

「おい…見たか?今の…」

 

 

「あ、あぁ…いまアイツの銃から…」

 

 

「カズマ!今がチャンスですよ!逃げましょう!」

 

 

打開策に思考を巡らせ足を鈍らせてしまっていたが、めぐみんのその声にハッと我に返る。

彼女はとっさの判断で俺の手を取り、強く引っ張ってすぐにでも走りだせそうな体勢に移行していた。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 

踵を返した瞬間、魔法を目の当たりにしたチンピラの弱々しい声が聞こえた。

 

 

「な、なぁ!お前今…この玩具から本物の電撃?みたいなの、撃っただろ?」

 

 

その核心を突いた一言に、足が止まってしまう。

言い訳を必死に考えてグルグルと思考を巡らせていると、

 

 

「か、かっけぇぇ!!! 」

 

 

……は?

 

 

「どうすればそんな芸当ができるようになるんだ!?」

 

 

「いや、どうすればって…」

 

 

「あ…すまん。そうだよな。まずはいきなり殴りかかろうとしたこと謝んなきゃな。ゲーマーの風上にも置けない最低な行動だった…本当にすまん…けどすげぇなアンタ。頼めた義理じゃねぇのは分かってるけど、よかったら俺たちにゲームの指導をしてくれないか?あ、いや。してくださいっ!!!」

 

 

「いやいやいやだからちょっと待てって!」

 

 

いきなり話がぶっ飛びすぎだ!

なんでそんな簡単に受け入れられるんだよ!

俺、本当に日本に帰ってきたんだよな!?

 

 

「あの…なんだか面倒ですし、早く次の場所に行きませんか?」

 

 

そうだよ!

今日はせっかくのめぐみんとのデートなんだぞ!

こんなところで見ず知らずの男達に時間を使うつもりは…

 

 

「そう言えばそっちの女の子は?アンタの…妹か?」

 

 

「いやちがう。まぁその…デート中なんだよ。なんだお前ら?めぐみんと俺がイチャイチャしてるのが気に食わなくて絡んできたんじゃないのか?」

 

 

デート中と言われ少しだけ気分が良くなったのか、ふふんと口端を上げためぐみんが腰に手を当て薄い胸をそらし自慢気なポーズをとる。

 

 

「え?違う違う。この辺のハイスコアを根こそぎ塗り替えてるアンタのゲームの腕に挑戦するために…」

 

 

「だいたい俺らロリコンじゃねぇし…」

 

 

「おい!今の発言について詳しく聞こうじゃないか!」

 

 

「待て落ち着け!もうこれ以上ここで時間を使ってられねぇって!行くぞめぐみん!」

 

 

「待ってくださいカズマ!今コイツらに目にものを見せて…!」

 

 

 

俺のよく知る日本のはずなのに、まるであの異世界にいた時のように、店員が駆けつけてくるまで無駄にドタバタと騒いでしまうのだった…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「着いた。次はここ。デートといえばの定番、遊園地だ」

 

 

「おー!何やら興味をそそられるような建造物や…あれは乗り物なんでしょうか?とにかくワクワクしますねっ!」

 

 

ゲーセンでなんとかめぐみんを落ち着かせ、チンピラたちをあしらった後。

本当は某夢の国みたいなでっかいテーマパークにでも行こうと思っていたのだが、初遊園地という事だし時間の都合もあるので、とりあえず地元の小規模な場所に連れてくることにした。

さっきの場所で思っていたより時間を取られ、既にお昼過ぎになってしまっていたが、それでもこんな風に瞳を光らせ期待してくれている彼女の姿にこっちまで嬉しくなってくる。

 

 

「カズマ!あれはなんでしょうか!すごく気になります!」

 

 

小規模と言っても、事前に調べた限りでは遊園地の定番アトラクションは一通り抑えてあった。

今、めぐみんが興味津々に指を差したものも、遊園地でデートするなら欠かせないものだ。

 

 

「あぁ。観覧車だな」

 

 

「観覧車…」

 

 

紅魔族の琴線にでも触れたのだろうか。

口をポカンと開けて瞳を紅く光らせながら、めぐみんはひたすらそれを見上げていた。

 

 

「あー…楽しみそうにしてるところ悪いけど、あれは締めに乗るのがお約束ってやつなんだよ。まずは他の所から見て回らないか?」

 

 

「そうなんですか?分かりました。カズマがそう言うなら、お楽しみにとっておきましょう!」

 

 

素直に言いながらニコッと微笑むめぐみんの手を取って、俺は是非コイツとなら行ってみたいと思っていたあるアトラクションの前まで赴いていた。

 

 

「あの…カズマ?」

 

 

「はいカズマです」

 

 

「この不気味な建物はなんでしょうか…?」

 

 

そうです。お化け屋敷です。

 

 

「どうしためぐみん?声が震えてるぞ?大丈夫大丈夫とっても楽しい場所だから」

 

 

「嘘ですよね!?この看板『お化け屋敷』って書いてありますよ!?私だってもうこれぐらいの日本語は読めるんですからね!」

 

 

「え?お化けこわいの?」

 

 

「んなっ…!ぜ、全然怖くなんてないですよ!えぇ!怖くなんてありませんとも!」

 

 

正直俺も得意とか好きなわけじゃないんだが、今の反応を見る限り、めぐみんとなら絶対に楽しめるという確信がある。

異世界の屋敷にいた時の人形事件を乗り越えた今となっては、そんじょそこいらの恐怖体験じゃ屈しない自信もあるし。

 

 

「真意はともかく、遊園地でデートする男女ならお化け屋敷も中々王道な道だと思うぞ」

 

 

「うっ…本当ですか?そう言えば私を誘導できるとか、企んでませんか?」

 

 

「企んでないさ。それにいざとなったら俺が守ってやろう。抱きついちゃってもいいぞ」

 

 

「なるほど。真の目的はそれでしたか。納得です」

 

 

ちょっとした冗談だったのに、じとっーと睨まれてしまった。

 

 

「…けど、確かにカズマが一緒なんですもんね。怖がることありませんでした。もう随分前の話になりますけど、あなたは屋敷で動く人形に襲われたとき、最後まで決して私を見捨てませんでしたからね。今回もしっかり守ってくれるんでしょう?」

 

 

 

えへへとはにかむめぐみんが、俺が思い出していたのと同じ過去の話題を持ち出して、そっと腕を組んできた。

 

 

どうしよう。コイツ可愛すぎるんですけど。

 

 

 

「当たり前だろ。ずっと傍にいてやるから安心しろって。それに今回はただのお遊びだ。本物のお化けが出てくるわけじゃないんだし、あの時の体験に比べたら月とスッポンぐらいの恐怖度の差だって」

 

 

「そうですよね。頼りにしてますよ、カズマっ」

 

 

結果的に、私のそばを絶対に離れないでくださいという彼女の言葉に約束することで、お化け屋敷への第1歩を踏み出すことになったのだった。

 

 

「中々雰囲気あるな…」

 

 

「…そ、そうですね」

 

 

入口のスタッフにニヤニヤされながら行ってらっしゃいと言われ、恐怖よりも楽しみが勝る心境で臨んだものの…

 

 

暗闇の中にポツポツ点る蝋燭のように小さく頼りない配色の光源。どこからともなく響く水滴の滴る音。そして2人並んで歩くのが精一杯といった程の狭い通路。

 

 

…怖さを楽しむための場所なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、作り込まれた恐怖というものを甘く見ていたかもしれない。

これは人工のものだと頭では理解出来ていても、体が震えてくる。

 

それは紅魔族であるめぐみんも同様らしく、ぎゅぅと先程から痛いほどに腕を絡ませて無言を貫いていた。

 

 

「おいめぐみん。あんまりうるさくしたら怒られるけど、だからって一言もしゃべるなってわけじゃないんだぞ」

 

 

「え?…へ?あ、な、何かいいまひたか、かじゅまっ???」

 

 

ダメだこりゃ。

よく見りゃ膝もガクガクと震えておぼつかない。

予想以上に堪えているようだ。

 

 

「ぜ、絶対離れないで下さいよ?」

 

 

「わかってるわかってる。お前の身体の感触も楽しめるし、離れてと言っても離れない」

 

 

「は、はいっ…ありがとうございます」

 

 

おっと。

ちょっとしたセクハラにもツッコミをいれる余裕すらないようだ。

いつもの勝気な様子と打って変わってしなだれ、暗闇の中弱々しく光る深紅の瞳に見上げられ…

 

 

俺はこんな場所だと言うのに少しドキドキしてきてしまった。

いや、有り体にいえばちょっとムラムラしてきた。

 

 

僅かな明かりしかない暗闇の中で、好きな女の子にそっと添い遂げられ身体が密着した状態で、「離れないで」と言われる場面を想像してみてほしい。

これはかなりくる。きます。ヤバい。

 

 

どうしよう。

キスぐらいなら許されるだろうか。

 

 

「…カズマ?」

 

 

足を止めたことを不審に思ったのか、めぐみんが不安そうな声を出して腕をくいっと引っ張ってきた。

 

 

あぁーもうっ!

コイツが可愛すぎるのがいけないんだからな!

俺は悪くない!

 

 

「んっ!?」

 

 

心の準備がまだ出来ていなかったであろう彼女の顎に手を添えて、少しだけ上を向かせる。

驚きに目を見開くめぐみんの顔をしっかりと網膜にやきつけてから瞼を閉じて、俺は唇を押し付け重ねた。

 

 

「あぅっ!?」

 

 

柔らかく温かい感触が口から全身に伝わり、体が熱くなるのが分かる。

 

くちゅり…

と、彼女の方から舌を差し込んできたのが分かって、俺の興奮は一気に高まった。

 

 

「あふっ…かじゅっ…かずまぁ…」

 

 

甘い声を漏らしながら、キスによる交わりでトロンと瞳を惚けさせるめぐみんの姿にもう辛抱たまらなくなった俺は、自らの服に手をかけ…

 

 

「あのぉ…お客様?ここはそのような事をする場では無いのですが…」

 

 

幽霊の姿に扮し苦笑いを浮かべるスタッフの声で、正気に帰るのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「…カズマのばか」

 

 

恥ずかしいやら情けないやらで、スタッフの方に深々と謝罪したあと逃げるようにお化け屋敷を後にした。

 

 

「ご、ごめん」

 

 

これに関しては俺が悪いのだろう。

お前が可愛すぎるのがいけないんだとか、ちょっとこの空気では言いにくい。

 

 

「………」

 

 

…でもこいつ、自分の唇をそっと撫でながらぽっーとして、満更でもなさそうな…

 

…って、ダメだダメだ!

なんかまた変な気分になってくる!

 

 

「な、なぁめぐみん。気分転換に…そうだな。ジェットコースターとか乗ってみないか?」

 

 

「ジェットコースター?」

 

 

そうそうと頷きながら俺が指さした乗り物。

ハイスピードでレール上を爆走するそれを見て…

 

 

「是非!行きましょう!」

 

 

瞳をキラキラさせて無邪気な表情を浮かべてくれるのだった。

 

 

この手の乗り物に身長制限があったことを思い出してヒヤッとしたものの、流石にその基準はクリアしてた興奮気味のめぐみんの隣に腰掛けつつ、俺はコースターが発進するのを待機していた。

 

 

「むっ…1番後ろですか」

 

 

めぐみんが足をパタパタさせ、頬をふくらませる。

 

 

「そんなに拗ねるなって。ジェットコースターは最後尾が1番スリルを感じるらしいぞ」

 

 

彼女は先頭が良かったのかもしれないが、昔ネットの記事で読んだことがある知識を披露すると、途端に瞳の輝きを取り戻した。

 

 

「ほぅ…まぁ、カズマがそう言うなら、信じてみましょう」

 

 

安全バーが降りてきて車体が動き出しても、鼻息を荒くしソワソワと落ち着かない彼女の様子にほっと笑みを浮かべてしまった。

 

………

……

 

 

「はぁぁぁ!スッキリしましたねー!中々の爽快感です!」

 

 

「そうか。お気に召したようでよかったよ」

 

 

コースターがスピードに乗った瞬間、テンションが高まったのか、

 

 

『おぉぉぉぉ!!!かずまぁぁぁぁぁ!!!これはぁぁぁぁっ!凄いですねぇぇぇぇ!』

 

 

などと大声で叫びながら何度も俺の名前を呼びかけてくるのは、恥ずかしいからやめて欲しかったけどな。

 

 

「カズマカズマっ!次はあれが気になるのですが!」

 

 

グイグイと、すっかりテンションが高まっている彼女が次に興味を示したものは…

 

 

「コーヒーカップか。確かにあれも、カップルで乗ってる人が多い気がするな」

 

 

「ぐるぐるぐるぐると、真ん中のハンドルのようなものを回すと乗り物ごと回ってますね…あれですね!より多く回転させられるかを競っているのでしょうか!」

 

 

「いやちがう。そんなくだらない争い、俺はゴメンだぞ」

 

 

勝負師気質のめぐみんが意気揚々とそちらに向かうのを、手を取りとどめる。

 

 

「む。しかしやるからにはハイスコアを目指したいのですが」

 

 

「ここはもうゲームセンターじゃないからな?」

 

 

それにコーヒーカップはただ力任せに回せば良いってわけじゃないはずだ。

俺も詳しくは知らないけど。

 

 

まぁ、彼女が興味を示してくれたことは事実なので、コーヒーカップの乗り場へは向かった。

ジェットコースターの息抜きにもちょうど良いだろう。

 

 

そう思ってたんだが…

 

 

ガシッ!!

 

 

カップに乗り込んだ途端、ガッチリと両の手で彼女がハンドルを掴むのを見て、イヤな予感をひしひしと感じる。

結論から言うと、俺はめぐみんの事を甘く見すぎていた。

 

 

「…あのー。めぐみん?なんでそんなに気合バッチリでハンドルを握って…」

 

 

「私は…自分にできることには全力で取り組む女なんです」

 

 

「ちょっと待て!なんでこう、くだらないことにだけそんなにやる気出すんだよ!だったら普段からもっと役に立つような」

 

 

俺の言葉は1度そこで区切れた。

相変わらず瞳をメラメラと燃やしていためぐみんが、見た目からは想像できない腕力でハンドルを回し始めたのだ。

グイッと身体が真横に引っ張られる感覚と共に、俺の体は椅子をスライドし真正面に座っていたはずのめぐみんの横にまで移動していた。

 

 

「ばか!危ないだろ!お前少しは遠慮して」

 

 

グルンっ!

 

 

あぁ、だめだ。

何が楽しいのか、うぉぉぉぉとジェットコースターの時と同じように叫びながら、彼女は夢中になってコーヒーカップを回し続ける。

下手に喋って舌を噛んだりしたら嫌なので、仕方なく俺はめぐみんの真横で大人しくすることにした。

高速で回転する景色を見て酔わないように、心の底から楽しそうに笑う彼女の横顔を、時間いっぱいじっーと見つめてやろう。

こんなに楽しそうにしてくれるなら、多少の無茶には目を瞑ってもいいかと思ってしまう俺自身に、本当にめぐみんに対しては甘くなってしまったなと苦笑を漏らす。

 

 

「ふははは!どうでしたかカズマ!きっと最高回転記録を塗り替えてやりましたよ!」

 

 

「そ、そうだな。凄いな。でも次からは1人で乗ってくれ」

 

 

コーヒーカップがぶっ壊れるんじゃないかと思うぐらい思う存分グルグルさせて、スタッフに若干引かれているめぐみんに手を引かれながら、俺は深呼吸して気分を整えていた。

いくら視点を固定していたとはいえ、無影響というわけにはいかなかったようだ。

 

 

しかし、結構日が落ちてきてしまったな。

夕日の照らす園内が、どことなくノスタルジックさを醸し出している。

あんまり夜遅くなっても明日に響くし、次で最後にしておくか。

 

 

「カズマっ!あの、そろそろ観覧車に乗りませんか?」

 

 

先導していためぐみんがくるりと振り返り、ニコッと微笑みながらそう言った。

どうやら彼女も同じ事を考えていたらしい。

 

 

「そうだな。行こうか」

 

 

断る理由もないし、早速乗り場まで向かう。

そんなに大きな観覧車ではなかったが、今日1日を振り返って語るぐらいの時間は確保できるだろう。

係の人に2人で乗ることを告げたら、お化け屋敷の時と同じように意味深にニヤニヤされたが気にせず乗り込んだ。

 

 

「ふぁー!楽しかったですねぇ」

 

 

ボフンと勢いよく椅子に座っためぐみんの振動で、グラっと僅かに観覧車が揺れる。

…まぁ、大騒ぎしなければ大丈夫だろう。

俺も彼女を見習って、その正面に腰を下ろした。

 

 

「…隣、来てくれないんですか?」

 

 

チラリと横目でこちらの様子を伺いながら、めぐみんが呟く。

その素直な要求に、ドキッと胸が高鳴った。

 

 

「あぁー…うん。そうだな」

 

 

この狭い空間の中で2人っきりという事実を自覚してしまいまごつく俺の代わりに、彼女の方が立ち上がり隣に場所を移してきた。

 

 

「やっぱりこっちの方が良いですよね」

 

 

「お、おぅ」

 

 

それほど密着する必要は無いぐらい座るスペースには余裕があるはずなのだが、めぐみんはぴったりと肌と肌が触れ合う至近距離を陣取っていた。

その方がこちらとしても嬉しいことは否定できないのだが。

 

 

「そう言えば昼飯食い損ねたな」

 

 

俺達が乗っている観覧車が園内を見渡せる程の高度まで来た時。

ドキドキして頭が回らず話題が思いつかなかったので、そんな空気の読めないことを言ってしまったが、

 

 

「ふふ。そうですね。カズマと遊ぶのが楽しくて、すっかり忘れてしまいました」

 

 

めぐみんはそんなことを恥ずかしげもなく言い切ると、頭を肩に預けてきて更に距離を縮めてきた。

 

 

…こちらのうるさい心拍音が聞こえてないか、少し不安になる。

 

 

「すごい景色ですよね。こんなに高い場所にいるのに、まだまだ見上げるほど大きな建物が沢山あります」

 

 

彼女の世界では、それこそ城レベルの規模を持つような珍しい大きさのビルが、こちらでは当たり前のように立ち並んでいる。

めぐみんは外の景色をじっくりと、その深紅の瞳に焼き付けていた。

 

 

「お前さえ良ければ、これからも色んなところに連れて行ってやるよ」

 

 

そんな彼女の姿を見ていたら、自然と口が動いていた。

今までこの世界に特に興味なんか持っていなかったが、コイツと一緒なら行けるとこまで行ってみるのも悪くない。

日本を巡り終わったら海外なんかにも足を伸ばしたりして…。

 

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 

柔らかな笑みを携えためぐみんが、吐息が当たるほどの至近距離で俺を見上げる。

 

 

「最初は見慣れないものばかりで正直不安もありましたけど、カズマが私たちの世界を好いてくれたように、私もこの世界の…カズマが生まれてきてくれたこの世界の事が、段々と好きになってきましたよ」

 

 

「そうか。そりゃ嬉しいな。でも、俺だってまだお前たちの世界を隅から隅まで行き通ったわけじゃないからな。いつかお前のオススメの場所とか、まだあるんなら紹介してくれよ」

 

 

「分かりました。候補を考えておきます」

 

 

お互いに笑みを見せあう。

いい雰囲気だ。

俺たちが乗っている観覧車は、ちょうどてっぺんに行き着こうとしていた。

 

 

…やるしかないだろう。

 

 

「めぐみん」

 

 

「はい?」

 

 

「…実はな、遊園地デートで観覧車に乗った男女は、頂点まで来たら…その…キスとかするのがお約束だったりするんだが」

 

 

両想いだとは分かっていても、こういう提案をするのは気恥しさがあるもんだ。

そのうち慣れたりするのだろうか。

…いや、全然慣れる気がしない。

 

 

「キス…だけなんですか?」

 

 

鎖骨にめぐみんの手が優しく触れた。

俺が言った言葉以上に平気で大胆な発言をするのも、こいつらしいというかなんというか…

 

 

「そうだよ。エロみん」

 

 

「む…その呼び方はやめて下さい。私がこんなことするのは、あなただけなんですから」

 

 

知ってる。

そのセリフが聞きたくて、意地悪を言ったようなもんだ。

 

 

 

「お前、夕日が似合うな」

 

 

 

「カズマこそ、中々男前に見えてますよ」

 

 

 

夕暮れの光に照らされた観覧車の中、俺たちは静かに唇を重ねた。

 

 

ガタンッ!!!

 

 

「「んっ!?」」

 

 

全身に幸福感が満ち溢れそうになったその瞬間、

突然異音とともにグラグラと揺れる観覧車。

 

何が起きたのかついていけずに不安になる俺たちの耳に、機械の不調を伝える園内放送が流れ込んできた。

一時的に停止してしまっただけで、大きな事故にはならないらしいが…

お互いきょとんと相手を見つめてしまっていたが、事態を把握するとどちらからともなく笑いだしてしまっていた。

 

 

「おいおいおい。勘弁してくれよ。どうして俺たちにはこういつも邪魔が入るんだよ」

 

 

「ほんとですよね。まったく。せっかくおふざけ無しでカッコイイカズマが久々に見れたというのに」

 

 

 

園内放送の宣言通り観覧車はすぐに復旧して動き出したが、俺たちがいた場所は頂上をすぎて地上に向かってしまう段階の所だったため、どうにも気分が上がらずめぐみんは少しだけ距離をとって座り直した。

 

 

 

「カズマがさっきも言ってましたけど、お昼から何も食べてないのでお腹が減っちゃいましたね。何か晩ごはんの予定はあるのですか?」

 

 

「あーいや。そこまで考えてなかったなぁ」

 

 

というか、昨日の段階で周辺の飲食店を調べたら既に満席だったからなのだが。

ちょっとカッコつけた場所ばかり探していたのが悪かったのかもしれないな。

 

 

「そうだ。この前お前が作ってくれたカレーがまだ余ってるから、家で一緒に食べようぜ」

 

 

寝かせると美味しくなると言うし、デートの締めに彼女の料理を食べるというのも悪くない。

とっさの判断にしては中々粋なことを言えたんじゃないかと内心自賛していた俺に、めぐみんがコクリと嬉しそうに頷いてくれた。

 

 

いきなり背伸びする必要は無いのかもしれない。

俺たちは俺たちらしく、ゆっくり一緒に進んでいけば良い。

 

 

観覧車から降りて、頭を下げて謝罪するスタッフにめぐみんと腕を組んでる姿をたっぷり見せつけながら、次の休日の予定を考え俺は帰路に着くのだった。

 

 

 

END

 




皆さん大変長らくお待たせしました!
リレー小説アンカーを務めさせていただいたリルシュです。
SS形式のカズめぐメインな現パロは初めて書いたので、カズめぐらしさを保ちつつ現代の施設でイチャイチャさせる…
ということが中々思うようにいかず難しかったですが、今の自分の力を出し切ったつもりです。
次にこのような機会があれば、腕を磨いてまた挑戦させていただきたい所存です!

企画主の勾玉さん、参加者のめむさんとピカしばさん。

そしてここまで読んでくださった読者のみなさん、本当にありがとうございました!

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