回復チートでニセコイに転生   作:交響

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10話

 

 

 

「…………」

 

 

 万里花との映画館デートを終え、一日が経った。

 今日はバイトなどの予定も無かったので、お昼くらいまで寝ていようと惰眠を貪っていた。

 …………貪ろうとしていたのだが、朝に一度目が覚めた時につい、いつもの癖で回復(チート)をうっかり使ってしまい……。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 目が覚めてしまったというわけだ。

 時計を確認すると、朝の8時15分といったところだった。

 ……折角の休みなのだからもう少し布団の温もりを味わっていたかった……。

 

 

「起きるか……」

 

 

 布団の中で眠気が沸くまでゴロゴロしようかとも考えたが、そこまでして眠らなくても良いので、諦めて身体を起こす。

 回復(チート)によって身体の怠さも抜けているので、布団を抜け出す動きはスムーズだ。

 肩を軽く回しながら立ち上がり、ふと、いつもは何も置かないようにしているテーブルに物があるのに気付き視線を留める。

 

 

「ああ……。プリクラか」

 

 

 テーブルにあったのは昨日万里花と撮ったプリクラであった。

 プリクラをどうしようか迷って、そのまま放置して忘れていたらしい。

 

 

「……どうしようかなぁ」

 

 

 携帯に貼る……のは目立ちそうだし、携帯を使っているうちにプリクラがボロボロになってしまいそうなので却下。

 かといって家にある家電や壁に貼るのも何か違うような気がする。

 

 

「…………」

 

 

 何か無いかと部屋の中を見回して――、まだ使っていない新品のノートが目に入った。

 変なところに貼るより、こういうノートなどに思い出として保存しておくのも良いかもしれない。

 

 特に他に良い場所も思いつかなかったのでノートに貼っておくことにした。

 写真の向きだけ気をつけて、ささっと作業を行う。

 ……変な顔をしている俺の部分を切り取りたくなったが、ぐっと我慢して全て貼る作業を完了させた。

 

 

「これで良し」

 

 

 もし次に撮る機会があったとしても、こうして保存しておけばプリクラの保管場所には困らないだろう。

 

 

「朝の用意でもするか」

 

 

 特に必要とも思えないが、万里花と約束してしまったので出来るだけ摂らねばなるまい。

 何か無いかと冷蔵庫を開けてみる。

 

 

「…………」

 

 

 何もなかった。

 考えてみれば当たり前のことで、今まで必要としていなかったのだから、冷蔵庫に食品が入っていると思う方が間違っている。

 ……早起きしたのは買い物のためと考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食生活を改めて数日が経った。

 ……改めたといっても、前とさほど変わっていないかもしれないが。

 一応、最低でも2食(朝、夜。昼、夜など)は摂るようになったので、改善していると思いたい。

 

 夏休みに入ってしばらく経ち、俺は学校の宿題などやらなければいけない物を片付け終わっていた。

 夏休みという長い休みの期間ではあるが、やりたいことの無い自分の無趣味さに泣けてくる。

 今は何も考えないままネットの海を彷徨っている。特に面白くなくても、動画などは見て居られるので時間潰しには都合が良かった。

 …………PCは中学の終わりくらいに買ったが、無かった時の夏休みは何をしていたっけ……?

 

 …………。

 そうだ。

 回復(チート)を使って遊んでいたんだ。

 無限に走っても疲れることが無いので、山の中まで走ってみたり、隣県まで走ってみたり……。

 走ってばっかりだな。

 

 

「あっつい……」

 

 

 部屋に座っているだけで暑いとは、本格的な夏の訪れを感じる。

 ネットを見るのも良いが時間もあるし、今日はどこか涼しい場所にでも行こう。

 

 考えた結果、近所で涼しい場所といえば図書館くらいしか思い当たらなかった。

 が、本を読みながら涼しめると考えれば結構良い場所なので、今日は図書館に行くことにする。

 

 

「……行くか」

 

 

 一言呟き、着替えを始める。

 図書館にラノベは無いと思うが、面白い小説くらいは何冊かあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館に辿り着いて10分。

 俺は涼しさが身体にしみてきて気持ちよくなっていた。 

 正直なところ、本を読む必要を感じないくらいだ。

 

 今居る凡矢理図書館は、名前の通り凡矢理にある図書館である。

 本の蔵書数はそこそこの数だが、図書館の広さは中々のものだった。

 

 町の人からの人気はあまり無いようで、図書館内はとても空いている。

 ぱっと見たところ、視界に入るのは4、5人といったところだ。

 テーブル席を1つ占拠したところで、他の人の迷惑になることもなさそうだ。

 

 

「…………」

 

 

 ちら、と時計を見ると丁度お昼の時間を指していた。

 図書館内の張り紙によると閉館時間は午後7時と書いてあった。

 さすがにその時間まで滞在する事は無いだろうが、一応心の中に留めておく。

 適当に本を選び、涼しさを堪能することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………む」

 

 

 2冊ほど本を読んで視線を上げると、時計の針が5時を指していた。

 ……そして正面の席に葉月さんが座っている事にも気が付いた。

 いつの間に……。

 

 

「おや、お気づきになられましたか」

 

「……はい。いつからそこに?」

 

 

 本に集中していたとはいえ、ここまで接近されても気が付かないものかなぁ……?

 葉月さんの特殊技術のせいでなければ、もし悪い人間が近付いて来ても俺は気付けていないということになる。

 ……多分、葉月さんの技術(ちから)だろう。

 

 

「倉井様が本を読み始めてから30分程経ってからです」

 

「…………そうなんですか」

 

 

 ほとんど最初からじゃないか。

 それにしても、護衛とはいえ四六時中俺に付いていないといけないのは大変な仕事だな……。

 ある意味俺はストーカーされているとも考えられるが、特に隠したいプライベートも無いし助けても貰っているので気にする事はない。

 

 

「いえ、四六時中付いて回ってはいませんよ?」

 

「え。そうなんですか?」

 

 

 ……簡単に心の中を読まれていることは、ここでは気にしないことにする。

 

 

「はい。近くには居ますが、倉井様を視界に入れている時間はそこまで多くないのです」

 

「……なるほど?」

 

 

 見ていなくても護衛が出来るのか突っ込みを入れたくなったが我慢した。

 きっと忍者パワーでなんとかしているのだろう(諦め)。

 

 

「ちなみに、こうして顔を合わせている理由はあるんですか?」

 

「ええ。万里花お嬢様から連絡が来ている事をお伝えしに来たのですよ」

 

 

 …………。

 

 

「……それって、もっと早く教えて貰えなかったんですか?」

 

「そうすることも可能でしたね」

 

 

 ……いや、携帯の電源切っている俺も悪いんだけどさ……。

 ポケットから携帯を取り出していると、葉月さんがこちらを見て微笑んでいる

 

 

「……なんですか」

 

「お気になさらず。ちなみにお嬢様への返事は後でも問題ないものですよ」

 

「……そうですか」

 

 

 だから連絡が来ているのにも関わらず俺に教えなかったのか。

 携帯の画面を見るとメールが1通届いていた。

 差出人は勿論万里花だった。

 

 

「…………」

 

 

 メールの内容を要約すると、明後日(あさって)買い物に一緒に行きましょう。というものだった。

 特に断る理由もないので、了承の旨を伝えるためにメールをぽちぽちと打ち込む。

 

 

「それにしても、この内容で――」

 

 

 視線を上げると、葉月さんは既に姿を消していた。

 ……用事が済んだからとはいえ、立ち去るスピードがおかしくないか?

 

 万里花のメールにしても、葉月さんが言ったようにすぐ返さなくても問題は無いものだったし……。

 もしかして会話をしたかっただけとか?

 うーん、謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は飛んで約束の日。

 万里花から買い物の誘いを受けた俺は、彼女との待ち合わせ場所に向かっていた。

 ……のだが、いつの間にか高級車に乗っていた。

 いや。

 道を歩いている途中、本田さんに車に乗せられたので、いつの間にかというのは語弊があるかもしれない。

 

 

「……なぁ」

 

 

 高級車の後部座席で身を縮ませながら、当たり前のように隣に座っている万里花に語りかけた。

 

 

「どうされました?」

 

 

 身を縮こませている俺を、不思議そうな目で見ながら万里花が返事をする。

 

 

「……車で向かえに来てくれるなら言ってくれれば良かったのに……」

 

 

 ちょっとした不満を万里花に投げかける。

 なんだか誘拐されたような気分だったのだ。

 

 

「サプライズです。驚きました?」

 

 

 いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべる万里花。

 そんな彼女の表情を見ると怒る気も無くなった。

 

 

「……驚きました。誘拐されるのかと思ったよ」

 

「ふふ。迎えは本田でしたのに?」

 

「そういう気分だった。ってだけだ」

 

 

 ふぅ、と息を吐きつつ、身体の緊張をほぐす。

 本田さんに案内された車がいかにも偉い人が乗っています。と言わんばかりの車だったので、橘さんが乗っているのかと少し緊張したのだ。

 実際にはそんなことはなく、運転している本田さんと隣に座っている万里花以外は居なかったのだが。

 

 

「で、今日は何を買いに行くんだ?」

 

「言ってませんでしたっけ?」

 

「……万里花が秘密って言ったんじゃないか」

 

「そうでした」

 

 

 口に手を当て、悪戯っぽく笑う万里花。

 なんだかおかしくて、つられて俺も笑った。

 一昨日彼女とやりとりしたメールでは、買い物に行かないかという誘いだけで、目的と場所の話はしなかったのだ。

 

 万里花曰く、着いてからのお楽しみです。と教えてくれなかったのだ。

 これが知らない相手ならいざ知らず、相手は万里花なので特に尋ねることはしなかったのだ。

 

 

「どこに行くと思いますか?」

 

「うん? ……そうだな、服屋とかかな」

 

「ちょっと惜しいですわね。服を見に行くというのは合ってますよ」

 

「服屋さんなのか?」

 

 

 惜しいというのは、なんでだろう?

 ……服屋の高級店では名称が違ったりするのだろうか。

 

 

「車で行くくらいだから遠いのか?」

 

「はい。駅から行くとしたらタクシーを呼ぶ必要があるくらいの距離なので、最初から車で行こうかと」

 

「なるほど」

 

 

 俺としては楽をさせて貰っているので文句はない。

 が、何もお返しをしないというのも気になるので、後で何かお金を多く払うとするか。

 

 

「いえ、私の我侭なので気になさらなくて結構ですわ」

 

「…………なんで考えてる事がわかるんだ?」

 

 

 もしかして心の中を読むのは、橘家では当たり前の技術なのか?

 

 

「何やら考えごとをしている様子でしたので、お金の事を考えていらしたのではないですか?」

 

「……その通りだ。はぁ……万里花には隠し事ができなさそうだよ」

 

 

 内心を読まれすぎてため息が出てしまう。

 過去に考えている事が顔に出ると言われた事があったが、ここまでだとどうしようもないな……。

 

 

「悪い事を考えていたわけではないのですから。そんなに落ち込まないで下さい。ほら、お飲み物はいかがですか?」

 

 

 万里花が指し示した方向には冷蔵庫があり、中には水からお酒まで、様々な飲料水が入っていた。

 

 

「……車の中って冷蔵庫があるんだっけ?」

 

 

 お金持ちの車はよくわからないなぁ……。

 まぁいいか。とジュースを受け取りながら考えることを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は特に何事も無く車は進み、何時の間にか地下駐車場まで進んでいた。

 万里花との談笑を楽しんでいたとはいえ、少し集中しすぎたな。

 停車したのを確認し、車のドアを開けようと腰を上げると、回り込んでいた本田さんがドアを開けてくれていた。

 

 

「……早くないですか」

 

「仕事のうちです」

 

 

 さらっと言ってのける本田さんに格好良さを感じざるを得ない。

 俺も回復チートではなく運動系チートをお願いしていたら同じような事ができたのだろうか。

 

 

「さ。行きましょう」

 

「おう。……どこから行くんだ?」

 

 

 目に入る範囲にはお店の入り口が見当たらない。

 周りに駐車している車も少ないので、わざわざ入り口から遠い場所に駐車したとは思えないが、そうだとすれば一体どこに入り口があるのだろう?

 

 

「こちらです」

 

 

 本田さんに案内されるままに進んだ先にあったのは太い柱だった。

 よく見ると回転式のドアノブが付いている。

 俺と万里花が近付くのを確認しながら、本田さんはドアノブを捻りドアを開けた。

 そこは四角い正方形の部屋で、部屋にあるのはエレベータだけだった。

 

 

「……なんで柱の中にエレベータがあるんだ? 今から行く場所は普通のお店じゃないのか?」

 

「お店ですわよ? 何かおかしいですか?」

 

「……おかしくは、無いのか?」

 

 

 部屋に入ってすぐの時は気が付かなかったが、部屋の四方に監視カメラが設置されている。

 ……俺が今から行く場所は普通のお店なんだよな?

 

 

 

 

 

 

 

「……普通のショッピングモールだ」

 

 

 エレベータを降りた先は地下街になっていた。

 地下ではあるが、天井が高いので息苦しさを感じさせない。

 

 

「こっちですわ」

 

 

 俺の腕を引っ張りながら進む万里花。

 その足取りに迷いはないので、彼女はここに来たことがあるのだろう。

 

 

「そろそろ何を買いに来たのか教えてくれるのか?」

 

「ええ。これです!」

 

 

 万里花が手を大きく広げながら指し示した方向を見ると、そこは水着売り場だった。

 …………水着売り場だった。

 

 

「…………服屋で惜しいってのは、こういうことか」

 

「ささ。行きましょう?」

 

 

 腕を引っ張られ、有無も言えずにずんずんと店内に入ることになった。

 ……ちょっと待って。

 これって……、今から万里花の水着ショーが開催されるということか……?

 え、ちょっと。

 

 

「待て万里花。一体何を始める気だ……!」

 

「何って、水着を選ぶんですよ?」

 

「……誰の水着を、だ?」

 

「私のに決まってますわ。折角の夏ですから蓮様に私に似合う水着を選んで貰おうかと」

 

「……う。……そうか」

 

 

 水着は海に行った時に公開した方が良いんじゃないかとか、一緒に選ぶのは恥ずかしい等の言葉を口から出そうになるのを飲み込む。

 買い物に付き合うと言ったのは俺なのだから、ここで文句を言うのはお門違いだろう……!

 でもまぁ、照れることに違いはないが……。

 顔が強張りそうになるのをなんとか耐える。耐えれてるかな……。

 

 万里花に引っ張られながら、ゆっくりと付いて行く。

 本田さんは店の前で待っているようだ。

 水着店の客数は少なく、……というより会計に居る店員以外に人は見当たらなかった。

 

 

「…………」

 

 

 万里花の向かう先を追っていると、どんどん布面積が少ない水着コーナーの方に行っている気がする。

 ……と思ったが、通り過ぎただけだったのでその心配は杞憂だった。

 

 

「ふふ。落ち着いてないと不審に思われますわよ?」

 

「っ。不審に見えるか?」

 

「緊張しているようには見えますね」

 

 

 意識して緊張しないようにしていたが、無駄な努力だったようだ……。

 

 

「……万里花は大丈夫なんだな」

 

「そんなことはありませんよ。ただ、蓮様の好みを知る方が重要なだけです」

 

 

 そんなことは無い、と言う万里花の微笑みはいつも通りに見え、俺から見れば緊張が見られない。

 

 

「水着の好みね……」

 

 

 水着の好み……考えたこともなかったな。

 俺がイメージする女の水着といえば、一番はビキニタイプのものだった。

 次にイメージするとしたら…………。

 …………ヒモ?

 

 

「いや違くて! さっき通った場所にあったのが頭に残ってただけで!」

 

「……誰に言い訳しているんですの?」

 

「……自分です」

 

 

 冷ややかな目で見られているが……今のは仕方ないな……。

 気を取り直そう。

 何もここは水着売り場なのだから、無理に自分の頭の中にあるものだけで水着の好みを考えなくても良いだろう。

 

 

「その、俺が全部選ぶのか?」

 

「そうですね……。好きな水着のタイプを言ってくだされば試着しますわ。その時に感想を言って頂ければそれで構いません」

 

「……試着するって、いや、しなきゃ駄目なのはわかるんだけど……」

 

 

 ある意味水着の種類によっては下着と同じくらいの格好になるわけで……。 

 

 

「……俺も見ないと駄目か?」

 

「見なきゃわからないじゃないですか」

 

 

 呆れた風にいう万里花だが、こちらとしては目に毒というか……。

 

 

「……ほら、更衣室の中の鏡で万里花が確認するだけじゃ駄目か?」

 

「蓮様にも見て貰わないと似合ってるかわかりません」

 

 

 にっこりと。

 まるで断ることは許しませんよ。と言われているかのような威圧感だった。

 

 

「で、でもな? 万里花の肌の露出も多くなるわけだし、それに俺に見られるの恥ずかしくないか?」

 

「水着ですから露出が多くなるのは当たり前です。今ここで恥ずかしがっていたら海でなんて着れませんよ?」

 

 

 ……うぐ。

 確かにその通りではあるが……。

 

 

「ほら。早く選んでくださいな。じゃないと、こんなの着ちゃいますよ?」

 

 

 万里花が手に取ったのは、胸の先っぽあたりにしか布地がない水着だった。

 ……駄目だ!

 そんな過激なの見せられたら俺が何をするかわからない!

 出来るだけ布地が多い水着を選び、万里花がその水着に着替えている間に似合いそうな水着を探そう!

 万が一にもあんな過激なのは駄目だ――!!

 *1

 

 

 

 

「どうですか? 似合います?」

 

「うーん……」

 

 

 今万里花に着て貰っているのはワンピース型の水着だった。

 肩の露出以外はあまりなく、見る分には一番平常心でいられそうだが……。

 

 

「あまり似合ってない気がする」

 

「そうですか……」

 

「悪い。選んだの俺だけど違うのにしてくれるか?」

 

「もちろんです」

 

 

 微笑みを浮かべ、気にしていなさそうな様子の万里花だが……。

 …………。

 

 

「……なぁ、万里花が好きな水着(みずぎ)()てみてくれないか?」

 

「私が着たい、ですか?」

 

「ああ。正直、俺は女子の水着の種類とか詳しくないし、万里花が着たい水着の方が似合ってると思うんだ」

 

「うーん……。わかりましたわ。でも、似合ってなかったらちゃんと言ってくださいね?」

 

「それは、うん。わかった」

 

 

 万里花の服のセンスを見る限りその心配はいらないと思うが頷いておく。

 水着から元の服装に戻った万里花が更衣室から出て来た。

 

 後ろから水着を選ぶのを眺められると万里花も居心地が悪いと思うので、大人しく更衣室の前で待つことにする。

 他に客が居れば迷惑になるので移動するが、今のところ店に人がいる様子はない。

 ……人目を気にしなくて良いのはありがたいが、この時期()なのに大丈夫なのだろうか。この店。

 

 

「着替えて来ますね」

 

「えっ。……早いな」

 

 

 万里花がシャッとカーテンを閉めると、ごそごそという音が聞こえてきたので、慌ててその場から離れる。

 うーむ……、大胆というか肝が据っているというか……。

 今度は俺が選んだ水着ではないので、どんな水着なのか少しドキドキする。

 

 

「お待たせしました!」

 

 

 バッ! と片手を上げながら万里花が訊ねてきた。

 彼女が着ている水着は赤色のビキニで、先程のワンピース型の水着と比べると露出差が激しい。

 ……ビキニだから当たり前かもしれないが、彼女の豊満な肉体をこれでもかという程に見せつけて来る。

 

 

「どうですか蓮様」

 

 

 今までに何度か万里花の柔らかな部位に触れたことはあったが、改めて視覚的に見るとその強烈さがわかる。

 

 

「……蓮様? ……蓮くん?」

 

 

 特に万里花の胸の谷間など、なぜここまで魅力を感じるのかがわからない。

 ネットなどで彼女よりもでかい胸の持ち主の谷間を見てもここまで魅力を感じないというのに。

 やはり好意を抱いている女性の胸は特別なのかもしれない。

 それに胸だけではなく腰周りも――。

 

 

「……蓮くん。えっちばい……」

 

「ぶっ!? あ、いや、その違くて!」

 

 

 頬を赤く染めながら、両手で胸を隠すようにして、こちらをジト目で睨み付けてくる万里花の様子を見て、俺はようやく正気に戻った。

 や、やばい……。

 魅力的だったとはいえ見過ぎた!?

 

 

「……何が違うと?」

 

「え? えーと、そのやましい目で見ていたわけでは、……見てたな。じゃなくてっ」

 

 

 ああっ!

 どうしよう! まともに言い訳が思いつかない!

 

 

「…………もう。良いですよ、蓮様が魅力的に感じてくれたのはわかりましたから」

 

「…………ごめんなさい」

 

 

 赤い顔のまま許してくれる万里花に頭を下げる。

 こんなに見つめて許してくれるのは万里花くらいだろう……。後で辱めてしまったお詫びを何か……、何か……。

 

 

「はい。着替えて来ますので、()()()()()下さいね」

 

「わかっ……。逃げないで……?」

 

 

 ……あれ?

 逃げないでって、どういう……? 

 水着ショーは終わりじゃないのか?

 

 

「万里花? もしかして、まだ水着に着替えるのか?」

 

「…………」

 

「ま、万里花さーん!?」

 

 

 この後しばらくの間、俺は万里花の水着姿に()()され続けることになった。

 この時、他に客が居なくて本当に良かったと心から思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
本気で着ようとは万里花も思って居ない。流石に恥ずかしい。


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