回復チートでニセコイに転生   作:交響

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17話

 

 

「蓮くん。この夏休みの間にやらなければいけないものがあります。それがなにか、分かりますか?」

 

 

 夏休みも早いもので残り3日。

 3連休と言い換えると、まだ休みがあるように感じるから不思議だ。

 残りの少ない休日を惜しんでいるが、今回の夏休みは今まで過ごしてきた休みの中で1番充実感を得ており、俺の中ではやらなければいけないことは特に思い浮かばない。 

 が、万里花は違うようで、真剣な表情で問いかける様子から見るに、かなり深刻そうだ。

 

 

「なんだろう……」

 

 

 部屋の中でリラックスしていた格好から姿勢をただし、万里花に向かい合いながら考えを進める。

 ……といっても、先ほど言ったように俺自身は今回の夏休みは満足しているので、特にヒントもない今の状況で答えを当てるのは難しいだろう。

 

 

「……全然わからないな。万里花の言ってるそれは、俺も関係しているのか?」

 

「勿論ですわ。全学生が関係する、といっても差し支えませんわ」

 

「全学生……?」

 

 

 全学生に関係がある夏休みのものといえば、勉強に関するアレしか思いつかない。

 が、果たして本当にこんなものが万里花に真剣な表情を強いているのだろうか?

 

 

「……夏休みの宿題のことを言ってるのか?」

 

 

 訝しげに尋ねると、万里花は正解。と言った感じに指で丸を作った。

 

 

「当たりですわ! 夏休みの間、遊びに遊んで宿題(げんじつ)から逃げた結果! ……あと3日しか休みがありませんの」

 

「……万里花といたおかげで今回の夏休みは今までと比べほどにならないくらい充実してたからな。俺も休みが過ぎるのが早かったよ」

 

 

 熱心に語っていた口調から、いきなり冷静になった口調に怯えつつ、冷静に答えを返す。

 

 

「蓮くん……! ……こほん。……で、ですので、あと3日で宿題を片付けなければいけません!」

 

「そうか。まぁ、大した量じゃないから3日もあれば終わるな」

 

 

 万里花が真剣な様子だったので身構えていたが、宿題の話だとわかってほっと一息。

 正していた姿勢を崩しリラックスする。 

 万里花さえ良ければ、宿題をやっている間は彼女の隣で過ごしていることにしよう。

 ……と、のんびりし始めた俺の方を万里花は白い目で見ている。

 

 

「な、なんだ?」

 

「……蓮くん。休みは3日しかないんですよ? のんびりしてたらお休み終わってしまいますよ?」

 

「うん? 俺は宿題終わってるよ?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

 

 …………。

 

 

「宿題、終わってるんだけど……」

 

「…………?」

 

 

 呆然とした表情の万里花と見つめ合い、一瞬の静寂。

 そして、

 

 

「のわっ!?」

 

 

 万里花が素早い動きで襲い掛かってきた!

 その勢いのまま床に押し倒され、馬乗りの体勢で拘束されてしまう。

 

 

「ま、万里花さん……?」

 

「なしてと!? 一緒におる間は一緒にゴロゴロしたり、てれんぱれんしとったやなかと! もしかして、夜にこっそり起きてやっとったんやなかろうね!」

 

 

 許しませんよ! と表情でも怒られているように感じる。

 実際は違うのでさっさと弁解するべきなのだが、珍しい万里花の怒り顔をしばらく見ていたくなってしまう。

 

 

「…………」

 

「……なんです? 正直に言わないと怒りますよ?」

 

 

 もう怒ってるじゃないか。とは言えなかった。

 

 

「あー……。言うから。ちゃんと言うからどけてくれないか?」

 

「めっ」

 

 

 今更ながらおかしな体勢であることに気が付いてしまった。

 先ほどと逆な事を言っているが、ここはさっさと事情を話してどけてもらうことにする。

 

 

「えーと、宿題はマンション(ここ)に来る前にほとんど終わらせてたんだ。残りは万里花が稽古で居ない時とかにやってたんだが……」

 

「う、うう……」

 

 

 若干涙目になっている。

 

 

「その、万里花が稽古とかで頑張ってる間は俺もなんかやっておこうかな、って思ってだな……」

 

「わーー! 蓮くんのうらぎりものー!」

 

 

 馬乗り状態からそのまま伸し掛かり、万里花はおんおん泣き始めてしまった。

 ……悪いことをしたわけではないはずだが、なんだか罪悪感を抱いてしまう。

 ……どうやって(なだ)めようか。

 今の状態だと何を言っても聞いてくれそうにないので、手を背に回し軽く抱きしめ、反対の手で頭をよしよしする。

 

 

「う~。うー!」

 

「まだ3日あるから。全然間に合うって」

 

「……」

 

「ちょっ! 無言で噛み付くな! 八つ当たりならもうちょっと優しいやつにして……!?」

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

「……諦めて始めます」

 

「おー……」

 

 

 なんとか万里花を宥めることに成功した俺は、万里花の隣に座りながら宿題が終わるのを見守ることになった。

 ただ見守っているだけでは退屈なので、俺自身も次のテストに向けて勉強することにする。

 

 

「はぁ……。どうして宿題なんてあるのでしょう……」

 

「昔に決めた奴のせいだな」

 

 

 文句を言いつつも万里花の手は動いているので、この調子で進めれば余裕を持って終わるだろう。

 宿題の邪魔をしないように俺からはなるべく話を振らず、万里花から何か聞かれた時だけ答える。という風にしながら順調に勉強は進んでいった。

 

 

「ん~。一段落しましたわ。蓮くんは何をしていられますの?」

 

 

 のびーと手を伸ばしながら万里花が尋ねてきた。

 

 

「漢字の練習」

 

 

 書くことに集中していたためか、若干そっけない感じに答えてしまったか。と心の中で反省していると、隣からノートを覗き込まれた。

 万里花との距離が近付いたことに心を躍らせると同時に、あまり綺麗ではない文字をじっくりと見ないで欲しい気持ちがせめぎ合う。

 

 

「……? 教科書に橘の字はないですけれど、なんでそんなに書いてますの?」

 

「そのうち書くようになるだろうから…………あっ」

 

 

 ………………。

 

 

「用事を思い出した。俺は家に帰ることにするっ……!」

 

 

 己の失言(?)に気付き、その場を離れようと俺は俊敏な動きで行動を始めた。

 のだが、そこは万里花の方が1も2も上手で、即座に飛びつかれ床に押し倒されてしまった……。

 

 

「蓮くんのおうちはここですよ。ふふ……」

 

 

 仰向けの状態で万里花に圧し掛かられ、両手で顔を固定され視線を逸らすことができない。

 にやにや、というよりにまにま。という表現の方が合ってそうな表情で見つめられ羞恥がこみ上げてくる。

 

 

「ぬぬぬ……」

 

「あざとい蓮くんですね……。どうしてあげましょうか」

 

「どうもしなくていいぞ」

 

「つれないこと言わないでくださいまし」

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「残り2日になってしまいましたわ……」

 

「……そうだな」

 

 

 昨日はあのまま宿題をやる雰囲気にもならず、外食に行ったりとデートをして過ごしてしまったのであった。

 1日を無駄にしたとは言いたくないが、宿題を終わらせるという目的を考えると、無駄にしてしまったのだろう。

 とはいえ、昨日1日なにもしていないというわけではないので、そこまで追い詰められているというわけでは――。

 

 

「お嬢様。お稽古の時間が迫っています。出掛ける準備をお願いします」

 

 

 ない。と思っていたのだが、その考えは部屋を訪ねてきた本田さんによって覆されることになった。

 

 

「え? 今日はそんな予定はないはずでは?」

 

「はい。予定通りに事が進んでいればそうでした。ですが、先日行った海水浴の日にあった予定を移しましたので」

 

「…………」

 

 

 万里花がそういえばそんなこと言ったな。と心当たりがあるような顔をしている。

 そんな顔もかわい……くはなくとも面白い表情ではあるなと関心する。

 

 

「蓮くん!」

 

「ああ。俺も万里花に負けないように勉強してるよ」

 

「そうではありません! 本田の説得を……!」

 

「……また予定を変えることはできないんですか?」

 

万里花レベルの稽古を担当する教師が、そんな簡単に予定を変更できるとは思えないが念のために尋ねてみる。

 

 

「当日キャンセルは厳しいかと」

 

「万里花」

 

「いやですわー!」

 

 

 と、若干抵抗はしたものの、万里花は稽古に連れて行かれてしまったのであった。

 この日。稽古終わりに宿題をする元気が出るわけもなく、2日目は何も進むことがなかったのであった。

 

 

--------------------

 

 

 夏休み最終日。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 隣で万里花が死んだような目をしながら宿題を淡々と消化していく

 ……気まずい。

 が、どうしてあげることもできないのがなんとも歯痒い。

 一度手伝おうかと申し出たのだが、字の違いでバレてしまうだろうから。と断られていた。

 

 

「なぁ、何かして欲しいことはないか?」

 

 

 宿題を手伝うことはできないが、他に何か――例えば飲み物が欲しいだとか何か買って来て欲しいだとか。要望がないか聞いてみる。

 

 

「……。して欲しいこと」

 

 

 机から視線をこちらに向け、鸚鵡(おうむ)返しに答える万里花。

 宿題に集中していた為か、どことなくぼんやりしている風に見える。

 

 

「……それって、なんでも良いんですか……?」

 

「なんでも? まぁ、俺に出来ることならなんでもいいぞ」

 

「わかりましたわ!!」

 

「うおっ!? ……え?」

 

 

 先ほどまでの細々とした感じとは一転し、気迫に満ちた様子で宿題を進め始めた万里花。

 やる気が出たのは良いのだが……、

 

 

「万里花? 俺は今すぐなにかするつもりだったんだが……」

 

「ご褒美が欲しいです!」

 

「ご褒美」

 

 

 今度は俺が鸚鵡返しする番だった。

 

 

「……万里花がそれで良いならいいが」

 

「言いましたね! もう取り消すのは駄目ですからね!」

 

「なに求める気なんだ……?」

 

 

 その後、万里花はこの3日の中で1番じゃないかと思えるくらいの集中力で宿題を終わらせたのであった。

 

 

 

----------------

 

 

「終わりました!!」

 

 

 万里花が宿題を始めたのは昼からだったが、途中からとてつもない集中力を発揮したおかげで夕方になった今、全ての宿題を終わらせたようだ。

 宿題を始めた当初は絶望的な表情をしていた万里花だったが、今はとても晴れやかな顔をしている。

 

 

「お疲れ様」 

 

 

 (ねぎら)いの言葉を投げかけると、万里花がこちらに身体を預けて来た。

 少し驚きつつも腕を伸ばし抱きとめ、受け入れの態勢になる。

 しばらくするとすーはー。と、寝ている時のような呼吸を始めたので、このまま寝るつもり――寝たのか?

 と疑問を思い、顔を覗き込もうとした瞬間、万里花がいきなり立ち上がった。

 

 

「おぅ?」

 

「っと、申し訳ありません。元気になりましたので、お夕飯にしましょう」

 

「そうか。手伝うぞ」

 

「いえ、蓮くんは座って待っていてください」

 

「……はい」

 

 

 素直に万里花の言うことを聞く。

 俺が手伝うのと万里花1人で料理をするの、どちらが早く終わるかといえば万里花1人の方が断然早いので、今日は足手まといを連れて行く余裕がないということなのだろう。

 ……夏休みの間――正確に言えば万里花の隣に引っ越して来てからだが、まるで料理の腕が成長した気がしないのは、俺に才能がないということなのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後。

 ご褒美を万里花から要求されることもなく自室に戻り、今は入浴を済ませ明日の準備をしているところだった。

 明日は教科書などは必要ないが、終わらせた宿題を忘れるという残念な結果を迎えない為にも今のうちにやっておいた方が良いだろう。

 

 

「お邪魔します♪」

 

「っ!!?」

 

 

 突如耳元で囁かれた声に反応し、身体がビクりと震えた。

 後ろから抱きしめられ、ふわりと風呂上りの良い匂いと柔らかな感触が伝わってくる。

 

 

「……万里花。びっくりしたぞ」

 

「ふふ。でも鍵を開けたままの蓮くんも悪いと思いませんか?」

 

「いや、来るのは良いんだけど、脅かさないで欲しいって意味で……。あれ、玄関開けた音聞いた覚えないぞ……」

 

 

 明日の準備に集中しすぎていたのだろうか? それにしても見事な気配隠しだ。

 

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「どうした。とは酷いですね。ご褒美くださいな♪ ご・褒・美!」

 

 

 ぎゅっ、ぎゅっ、と抱きしめる力が強くなり、それと同時に俺の理性も削られていく……!

 どちらかというと今俺がご褒美を貰っている状態になっている!?

 

 

「そ、そうか。ご褒美ってなにをするんだ?」

 

「えー? わからないんですか? 今の状況で」

 

 

 全くわからない。むしろご褒美を貰っている最中ですらある。

 

 

「一緒に寝ましょ? 久しぶりに」

 

 

 …………やっぱり俺に対するご褒美ではなかろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯を磨いたり、髪の毛の乾かし方が甘いと怒られたりしながらついに就寝時間になった。

 部屋のベッドは2人で横に並んで寝るとしても問題ないくらいの大きさはある。が、だからといって何も気にせず添い寝できるかと言えば別問題だ。

 前回とは違い精神状態も普通で、万里花と一緒に寝ることを考えると心臓がドクドクする。……今日が命日になるかもしれない。

 

 

「緊張しとー……?」

 

 

 ベッドに腰掛けた万里花が、こちらを見上げながらそんな問いを投げかけてくる。

 

 

「……そりゃあ、まぁな」

 

 

 緊張で視線を逸らしながら答える。

 ……そう言う万里花もそれなりに緊張しているように見える。

 

 

「そ、それやったら……」

 

 

 んー! と目を閉じ顔を突き出してくる万里花。

 心なしか頬が赤くなっているようにも見えるが、どういう意図なのかが…………。

 

 

「……緊張ばほぐそうと思うて……」

 

「いや……えぇ……?」

 

 

 緊張ほぐれるか……?

 万里花の意図はわかった。だがそれが効果的かと言われると否と言わざるを得ない。

 むしろ緊張度が高まる気がする。……緊張度ってなんだ。

 しかし心の中であーだこーだ、うじうじむしむし考えていても意味はないので、万里花の心遣いを無駄にしないためにも行動に移す。

 そっと万里花の頬に手を添えると、ピクリと身体を揺らした。

 

 

「……」

 

 

 万里花の求めている行為はわかっているのだが、手を添えた後の行動に移し辛い。

 行動を止めてしまったせいで、じろじろと顔を観察する不審な男と化してしまっている……。

 ……こうしてじっと見つめると、改めて彼女の美しさを思い知る。

 こんな子が近くにいるというのも奇跡的なのに、両思いな今の状態はどれだけ幸運なのだろう。

 

 

「……?」

 

 

 万里花の片目が開き、こちらの様子を確認してきているが、俺は美しさに囚われているいるため気にしていなかった。

 美人は3日で飽きると聞くが、万里花は100年あっても飽きないだろう……なんてことを考えていたら、何時の間にか後頭部に腕を回され、そのまま引き寄せられて……。

 

 

「……っ!」

 

 

 唇と唇が触れ、そしてそのまま身体を捻られ俺と万里花はベッドの中に転がった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 回されている腕の力が弱まったのでゆっくりと離れたのだが、じとっとした目で見つめられる。

 

 

「遅か」

 

「……すまん」

 

 

 お詫びのつもりで、今度は俺から唇を奪う。

 一度(おこな)ったからか、最初の時よりかは緊張せず、自然な形でできたのではなかろうか……?

 

 

「……もう1度してとは、言っとらん……」

 

 

 ごにょごにょと何か言いながら、万里花は片手で口をガードしつつ視線を逸らしてしまった。

 恥ずかしいだけであって欲しい。と願いながら、以前万里花がしてくれたように彼女を優しく抱きしめる。

 

 

「……蓮くん?」

 

「今日は万里花のご褒美だから。……嫌か?」

 

「い、いえ! びっくりしただけで……嬉か」

 

 

 万里花の方からも距離を詰められ、ベッドの中で密着状態になった。

 ……ちょっと暑いな。

 

 

「……蓮くんの心臓ドキドキしとーね」

 

「……ならない方がどうかしてるだろ」

 

「ふふふ」

 

 

 そっけなく答えてしまったが、万里花としては満足な答えだったようだ。

 ご機嫌そうに鼻歌まで歌い始めた。

 

 

「明日から学校だな。……短い夏休みだったな」

 

「もう。今からそんなこと言ってると、すぐに高校生活終わっちゃいますよ?」

 

 

 なんて、ベッドの中でしばらく話をしていたせいで、次の日寝坊した。

 

 

 






お久しぶりです。久しぶりに書いたせいか書き方が変わっているかもしれませんが、楽しんで頂けたら幸いです。

……ハーメルンの原作:ニセコイで検索しても全然更新動いてない!? 
書いたらぁ!のノリで頑張りました。
更新速度には期待せず、お待ちください!

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