本人まで自覚してないので加速する勘違い
キルア=ゾルディックは暗殺者であった。現在は殺しを辞めている。殺しを辞めた今、キルアは戦闘力の高いただの少年になった。彼がそれを求めたからだ。
ゾルディックと言う姓は聞くだけで震撼されるほど有名な暗殺一家。世界にも名を列ねる伝説と名のつく程有名な殺し屋一家で、一族全員が殺し屋を生業にしている。ゾルディック家の血を濃く受け継いだ銀髪に碧眼、誰もがキルアを当主にと期待を高めた。長男や次男より厳しく教育され、僅か12歳にしてその腕はプロ並み、そこらのプロにも引けを取らない技術はまさに天才に相応しいと言える。
ゾルディック家は殺しを仕事としているが快楽殺人集団ではない。命を奪う事がどれほど傲慢かを、殺しと言う罪を背負う事を忘れないよう教えられる。
それをもってして、キルアは自宅を飛び出した。ヒステリックかつ過保護な母の顔面を切り刻み、自堕落で引きこもりな暗殺一家と呼ぶのが恥ずかしい次男の腹を刺し、数人の執事を撒き家から飛び出した。壮大かつ大胆な家出劇かと思いきや、これは何日も前から計画し、綿密な計算の故の家出である。
まず厄介なのは長男と父。2人が揃って出掛けていなければ勝機はない、逆にこの2人さえいなければ全ての計画が上手くいく。家族を傷付けるのも覚悟のうえなのでそこは割愛。計画は見事成功!着の身着のまま出て行ったので暫く近くの街に隠れ潜み、そして数日後にハンター試験なるものが行われるのを知った。ライセンスカード1枚で公共料金は殆どタダ、売れば一家三代まで遊んで暮らせるほどの価値がある。この機会を逃す訳にはいかない。会場に着くまで試験され殆どの参加者が落とされるハードな試験だがあらゆるゲームをマスターしクリアしてきたキルアにかかれば楽勝。あっという間に会場に着いた。
渡された番号は99、いるのはむさ苦しい男でいっぱい。ジロジロ値踏みされ鼻で笑われる始末。キルアから見た参加者達はどいつもこいつもクズばかり、おおよそ大半が削られ合格者は10人も満たないだろうと推測する。拍子抜けだと辺りを見回すと、(新人潰しのおっさんはネコ被りで丁重に翻した)大人たちの傍に小さな影を見た。
小さな少女の後ろ姿だ。
亜麻色の髪は首元でふわふわと揺れ、白いシャツに膝上のスカート、ニーハイソックスにショートブーツ、小さなリュックを背負った少女がいるのだ。普通に驚く、生死を伴うイカれた試験にあんな小さな少女が参加するなんて。キルアはふらふらと少女に近寄った。
「ねえ君」
驚かせないように、肩にちょんちょんと軽く触れ、柔らかい声で少女に話しかける。ピクリと身体が震え、ゆっくりと振り返った。
キラキラと輝く黄金の瞳に紅く色付いた唇、全体的にとろんと、眠そうな顔はキルアと目を合わせ少しだけ見開いた。声を掛けたのはコチラなのに上手く言葉が出ない。困った様子の少女に対して出た言葉は、
「俺は、キルア。俺と・・・友達に、なってよ」
逃がさない様に腕を掴み、真っ赤に染まった顔で頼りなさげに発せられた言葉に少女は、
「!?・・・いいよ、ボクはロッティ。友達になろう!」
ふわりと笑顔がこぼれ落ちた。
キルア=ゾルディック、12歳。初恋であった・・・。
加速する勘違いと絶望的な勘違い