小テストの翌日、4限の授業が終わったので学生証を手にドアへと向かう。そんな僕を見て綾小路君が意外そうに声をかけてくる。
「片桐、今日は弁当を作ってこなかったのか?」
「うん、Bクラスの友達に誘われててね」
そう、何を隠そう神崎君からのお誘いがあったのだ。変なところで節約癖がある僕は一度も学食で昼食をとったことがなかったので楽しみだ。あの神崎君のことだ、そんな事情を知った上で誘ってくれたとしてもおかしくはない。ってさすがにないか。ないよね?
「そうか。その、なんだ、楽しんできてくれ」
綾小路君がそう言ってくるが、明らかに落ち込んでいる。そんな捨てられた小動物のような目で見ないでくれ。心が痛む。
「何なら一緒に行く?落ち着いた人だから多分綾小路君が苦手なタイプじゃないし」
「いや、遠慮しておく。いきなり加わったら迷惑かもしれないしな。ただ、片桐の料理が食べられないのは残念だ」
いやそっちかよ。完全に餌付けされてんじゃん。まあ僕のせいなんだけども。とはいえあれだ、入学当初は感情表現が乏しかった綾小路君がこうやって自分の思いを表に出し始めたのは感慨深いものがある。お母さん嬉しいよ。いや誰だよ。僕だけども。
「わかった。今度好きなものを作ってくるよ」
一人漫才を切り上げて言う。するとわずかに声のトーンを上げて綾小路君が応える。
「卵焼き、甘めの」
「了解、じゃあ行ってくる」
「ああ」
こうして教室を出た僕だが
「哀れね」
「アイツの料理が美味いのが悪い」
「...そんなに美味しいの?」
「ああ」
「勝ち誇った表情をしないで。不愉快だわ」
教室に残された綾小路君と堀北さんの間で起こった会話は知る由もなかった。
◇ ◇ ◇
「ごめんね、待った?」
「気にするな。それよりも急に誘って悪かった」
「いやいや嬉しかったよ?誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして。俺も片桐と昼食を食べられるのは嬉しい」
うーん、紳士だ。これはBクラスではさぞかし「あのー、そろそろ紹介してもらっていいかな?」神崎君の隣に座る女子が遠慮がちに言った。ストロベリーブロンドというのだろうか、長く綺麗な髪の美少女だった。イケメンと美少女の並びは大変絵になっている。
「残念だけど、そう簡単にウチの神崎はやれないな」
「え⁉どういうこと⁉」
「あ、間違えた。今のなしで」
「いや気になるよ⁉急に神崎くんとイチャイチャしだすし、変なこと言ってくるし!」
「神崎君、このうるさいの、知り合い?」
「残念ながらな」
「神崎くんまで酷いよ!うぅ...私、一之瀬、帆波...よろしくね」
「息も絶え絶えって感じだね」
「そうだな、大丈夫か一之瀬」
「君たちのせいだよ⁉」
「まあまあ落ち着いて。あ、僕は片桐徹。よろしく~」
「そこで自己紹介しちゃうんだ⁉ああ、もう、よろしく!」
「それで、なんで一之瀬さんが一緒なの?」
半ばやけくそ気味な一之瀬さんを尻目に、神崎君に問う。
「それは...」
そう言って困ったように一之瀬さんを見る。
「にゃはは、私がお願いしたんだ。神崎くんがよく話してくれるから気になってね。もしかして迷惑だった?」
「いや?新しいおもちゃ...じゃなくて知り合いが増えるのは嬉しいよ」
「おもちゃって言った!ねえこの人おもちゃって言った!」
「落ち着け一之瀬。片桐、一応理由がないわけではないんだ。これでも一之瀬はBクラスのリーダー的な存在でな。これでも」
「え、私何か悪いことでもした?」
「なるほどね、つまり今日は考察会、ということ?」
「ああ、いよいよ学校の異質性が見えてきたからな。いきなりだが、小テストについてどう思う?」
Bクラスの中心人物二人と僕ではとても釣り合わないような気がするけどね。心の中でつぶやきつつ、口を開く。
「まあ最後の3問だね。難易度が飛びぬけてた。英語は多分間違ってると思うけど、他は何とかって感じ。二人は?」
「数学だけだな、他は全く歯が立たなかった」
「化学と英語は専門性高かったしね。スネ之瀬さんは?」
いじり倒されて若干拗ねている一之瀬さんに話を振る。ツッコむ気も失せたのか、ため息をついてから応える。
「私も数学だけかな、あんまり自信はないけど」
そこから話は発展し、それぞれのクラスの出来栄えなどの確認を行った。
「なるほど、この感じだと平均は70前後かな、あと気になるのは先生が言った、成績表には関係ないって言い回しだね」
「それはこっちの担任も言っていたな。となると、やはり生徒の評価とは...」
「うん、監視カメラの件の裏付けになるね。で、今まで何も発表がなかったことからわかるのは」
「生徒の評価は月単位ってことだね!」
長い議論を一之瀬さんがそう締めくくる。神崎君が認めているからわかっていたけど、話していると察しがいいことを実感する。
「なんにせよわかるのは五月になってからだな」
「そうだね、昼休みも残り少ないし教室に戻る?」
「ああ、有意義な時間だった」
「ありがとね、片桐くん。神崎くんの言う通り、凄い人だったよ!また話そうね!」
「こちらこそありがとう二人とも。ぜひまた話そうね。僕も楽しかった」
そう言って僕達は教室に戻る。だが、この時の僕は楽観的過ぎた。学校の仕組みを解き明かしているつもりでいた。
後日―――
「──お前らは本当に愚かだな」
僕の予想は、最悪の形で実現することとなる。
更新遅れたのに全く物語進んでない...
夏休みまでは駆け足になるかもしれないです